筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群 (ME/CFS)|疾患情報【おうち病院】

記事要約

筋痛性脳脊髄炎 (Myalgic Encephalomyelitis: ME)/慢性疲労症候群 (Chronic Fatigue Syndrome: CFS)は、日常生活が困難になるほどの強い倦怠感、活動後の強い疲労、睡眠障害、思考・集中力の低下などが少なくとも6ヶ月以上続いたり再発を繰り返す疾患です。筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群の原因・治療方法・診断のコツなどを、医師監修の基解説します。

筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)とは

筋痛性脳脊髄炎 (Myalgic Encephalomyelitis: ME)/慢性疲労症候群 (Chronic Fatigue Syndrome: CFS)は、日常生活が困難になるほどの強い倦怠感、活動後の強い疲労、睡眠障害、思考・集中力の低下などが少なくとも6ヶ月以上続いたり再発を繰り返す疾患で明らかな原因はわかっていません。ME/CFSの倦怠感や疲労は十分な休息や睡眠によっても回復しないという点が特徴です。その他、全身の強い痛み、体温調節の困難といった自律神経障害、音や光・匂い・化学物質への過敏症などを認めることもあります。重症例では筋力低下を認め、日常生活において介護を必要としたり、医療機関への通院そのものが困難になることもあり、適切な治療や社会的支援を受けられないことが問題となります。また本症を理解している医師も多くないため診断に時間を要したり、他の倦怠感や疲労を症状とする疾患と誤診されることが少なくありません。本症の認知度が低いことにより、患者の属している職場や学校、家庭内でさえも症状や病名が理解されず、”怠け” や一般的な慢性疲労と誤解されたり、偏見に悩むといったことも問題として挙げられます。

ME/CFSはいずれの年齢にも起こりえますが、特に30歳代〜50歳代に多く、患者の70%が女性だと推定されています。本症の原因としては、ウイルス感染や免疫異常などの関与が疑われ、それによる脳内炎症が疑われていますが明らかな発生機序はわかっていません。

本症は現在のところ根治的な治療法がなく、症状に応じた対症療法が行われています。 

筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)の原因

ME/CFSの明らかな原因はわかっていません。しかし多くの症例で、発熱・咽頭痛、下痢・嘔吐といった風邪症状をきっかけとして発症していることからウイルス感染や細菌感染が免疫系に影響することが、本症の発症に重要な要素であると認識されています。その他、有機リン系殺虫剤などの毒物への曝露、予防接種の後に発症することがあると報告されています。

最近の研究では、自律神経系の神経伝達物質の受容体に対する自己抗体の関与が示唆され、病態解明に向けた知見が集まりつつあります。また、一部の症例では家族内発症を認めること、患者の近親者は本症の発症リスクが高いことが知られており何らかの遺伝的素因があると考えられています。

厚生労働省の「慢性疲労症候群患者の日常生活困難度調査結果」(調査希望患者数251名)によると、本疾患を発症する契機として「急性上気道感染等の感染症」34.4%、「急激な発熱」30.0%、「過労・ストレス・環境変化・人間関係の変化」25.6%、、「思い当たらない・原因不明」22.5%となっています。 

筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)の疫学的整理

ME/CFSは、あらゆる年齢、人種に発生するとされています。30歳代〜50歳代での発症が多く見られ、女性に多いと推定されています。また成人よりは頻度は少ないものの、青年期、小児期にも発症することがあります。厚生労働省研究班の調査によると、日本国内での有病率は人口の約0.1〜0.3%(8〜24万人)と推定されていますが正確な患者数は不明です。

本症は歴史的に、重症急性呼吸器症候群 (SARS)などのウイルス疾患の流行後に集団発生を起こしていることが知られています。最近では新型コロナウイルス感染後の深刻な後遺症としてME/CFSが危惧されています。 

筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)の症状

ME/CFSの発症に際し、多くの症例でインフルエンザ様の症状(発熱、上気道感染症状、関節炎など) を突然認めます。この症状は徐々に改善しますが、その後より日常生活に支障が出るほどの疲労や睡眠障害、全身の筋肉痛、思考・集中力の低下など本症の特徴となる症状が出現し持続します。

その他、自律神経機能障害による起立困難、低血圧、循環器機能障害による動悸や頻拍、心電図異常を認めることもあります。

厚生労働省の「慢性疲労症候群患者の日常生活困難度調査結果」(調査希望患者数251名)によると6ヶ月以上続く主な症状としては、「肉体的精神的疲労」88.8%、「睡眠障害」88.0%、「体温調節障害」79.9%、「広範な筋肉痛」78.7%、「一時的に動けないほどの疲労」78.7%、「集中力低下」77.5%となっています。また重症度は軽症から重症まで様々ですが、国内の患者の約3割が寝たきりに近い重症患者であると報告されています。その他、音や光、匂いや化学物質に過敏になるといった症状が見られることもあります。

症状を増悪させる因子としては、仕事や家事、勉強といった活動や人間関係の問題など身体的・精神的負荷や認知的負荷が挙げられます。 

筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)の診断

ME/CFSの診断は、問診による病歴の確認、症状の確認を行い、同様に疲労をきたす他の疾患を鑑別除外することによって行われています。現在のところ、診断に有用な血液検査所見や画像所見がなく、客観的に診断することが難しい疾患です。また、医療従事者の間でも本症の認知が十分でなく、診断に至らず社会的支援を受けることができない患者が多いという問題があります。

身体所見では、明らかな異常所見を認めないことが多いとされていますが頚部や腋窩リンパ節の腫れや圧痛を認めることがあります。しかしこの所見は他の疾患でも見られるため診断を確定することはできません。血液・尿検査などの一般検査でも異常所見を示すことはないとされ診断を難しくする一因となっています。

最近の動向としては2021年4月、本症の診断に有用な血液診断マーカーとなりうる免疫異常の発見が発表されました。リンパ球の一つであるB細胞に発現しているB細胞受容体を解析したという研究で、患者群では特定のB細胞受容体の増加を認め、これが本症の診断マーカーとして有用であると報告しています。この成果により、本症の客観的診断法の確立や治療薬の開発が期待されています。

本邦におけるME/CFSの診断基準は確立されていないものの、日本医療研究開発機構(AMED)の「慢性疲労症候群に対する治療法の開発と治療ガイドラインの作成」研究班(旧厚生労働省 研究班)は以下の診断基準を紹介しています。

https://www.fuksi-kagk-u.ac.jp/guide/efforts/research/kuratsune/ より引用


【筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)臨床診断基準(案) (2016年3月改訂)】

Ⅰ. 6カ月以上持続ないし再発を繰り返す以下の所見を認める。

(医師が判断し、診断に用いた評価期間の50%以上で認めること)

1.強い倦怠感を伴う日常活動能力の低下* 

2.活動後の強い疲労・倦怠感**

3.睡眠障害、熟睡感のない睡眠

4.下記の(ア)または(イ)

 (ア)認知機能の障害

 (イ)起立性調節障害

Ⅱ.別表1-1に記載されている最低限の検査を実施し、別表1-2に記載された疾病を鑑別する

(別表1-3に記載された疾病・病態は共存として認める)

*:病前の職業、学業、社会生活、個人的活動と比較して判断する。体質的(例:小さいころから虚弱であった)というものではなく、明らかに新らたに発生した状態である。過労によるものではなく、休息によっても改善しない. 別表2に記載された「PS(performance status)による疲労・倦怠の程度」を医師が判断し、PS 3以上の状態であること。

**:活動とは、身体活動のみならず精神的、知的、体位変換などの様々なストレスを含む。

別表1-1. ME/CFS診断に必要な最低限の臨床検査


(1) 尿検査(試験紙法)

(2) 便潜血反応(ヒトヘモグロビン)

(3) 血液一般検査(WBC、Hb、Ht、RBC、血小板、末梢血液像)

(4) CRP、赤沈

(5) 血液生化学(TP、蛋白分画、TC、TG、AST、ALT、LD、γ-GT、BUN、Cr、尿酸、血清電解質、血糖)

(6) 甲状腺検査(TSH)、リウマトイド因子、抗核抗体【番号付きリスト】

(7) 心電図

(8) 胸部単純X線撮影


別表1-2. 鑑別すべき主な疾患・病態


(1) 臓器不全:(例;肺気腫、肝硬変、心不全、慢性腎不全など)

(2) 慢性感染症:(例;AIDS、B型肝炎、C型肝炎など)

(3) 膠原病・リウマチ性、および慢性炎症性疾患:

(例;SLE、RA、Sjögren症候群、炎症性腸疾患、慢性膵炎など)

(4) 神経系疾患:

(例;多発性硬化症、神経筋疾患、てんかん、あるいは疲労感を惹き起こすような薬剤を持続的に服用する疾患、後遺症をもつ 頭部外傷など)

(5) 系統的治療を必要とする疾患:(例;臓器・骨髄移植、がん化学療法、 脳・胸部・腹部・骨盤への放射線治療など)

(6) 内分泌・代謝疾患:(例;糖尿病、甲状腺疾患、下垂体機能低下症、副腎不全、など)

(7) 原発性睡眠障害:(例;睡眠時無呼吸症候群、ナルコレプシーなど)

(8) 精神疾患:(例;双極性障害、統合失調症、精神病性うつ病、薬物乱用・依存症など)


別表1-3. 共存を認める疾患・病態


(1)機能性身体症候群(Functional Somatic Syndrome: FSS)に含まれる病態線維筋痛症、過敏性腸症候群、顎関節症、化学物質過敏症、間質性膀胱炎、機能性胃腸症、月経前症候群、片頭痛など

(2)身体表現性障害 (DSP-IV)、身体症状症および関連症群(DSM-5)、気分障害(双極性障害、精神病性うつ病を除く)

(3)その他の疾患・病態

起立性調節障害 (OD):POTS(体位性頻脈症候;postural tachycardia syndrome)を含む若年者の不登校

(4)合併疾患・病態

脳脊髄液減少症、下肢静止不能症候群(RLS)


別表2. PS(performance status)による疲労・倦怠の程度(PSは医師が判断する)


0:倦怠感がなく平常の社会生活ができ、制限を受けることなく行動できる

1:通常の社会生活ができ、労働も可能であるが、疲労を感ずるときがしばしばある

2:通常の社会生活ができ、労働も可能であるが、全身倦怠感のため、しばしば休息が必要である

3:全身倦怠感のため、月に数日は社会生活や労働ができず、自宅にて休息が必要である*1

4:全身倦怠感のため、週に数日は社会生活や労働ができず、自宅にて休息が必要である*2

5:通常の社会生活や労働は困難である。軽労働は可能であるが、週のうち数日は自宅にて休息が必要である*3

6:調子の良い日には軽労働は可能であるが、週のうち50%以上は自宅にて休息している

7:身の回りのことはでき、介助も不要であるが、通常の社会生活や軽労働は不可能である*4

8:身の回りのある程度のことはできるが、しばしば介助がいり、日中の50%以上は就床している*5

9:身の回りのこともできず、常に介助がいり、終日就床を必要としている


疲労・倦怠感の具体例(PSの説明)

*1 社会生活や労働ができない「月に数日」には、土日や祭日などの休日は含まない。また、労働時間の短縮など明らかな勤務制限が必要な状態を含む。

*2 健康であれば週5日の勤務を希望しているのに対して、それ以下の日数しかフルタイムの勤務ができない状態。半日勤務などの場合は、週5日の勤務でも該当する。

*3 フルタイムの勤務は全くできない状態。

ここに書かれている「軽労働」とは、数時間程度の事務作業などの身体的負担の軽い労働を意味しており、身の回りの作業ではない。

*4 1日中、ほとんど自宅にて生活をしている状態。収益につながるような短時間のアルバイトなどは全くできない。ここでの介助とは、入浴、食事摂取、調理、排泄、移動、衣服の着脱などの基本的な生活に対するものをいう。

*5 外出は困難で、自宅にて生活をしている状態。日中の50%以上は就床していることが重要。


筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)の治療

現時点ではME/CFSに対する根治的な治療法はなく、各症状に対し、対症療法が行われています。

【薬物療法】

抗うつ薬、漢方薬が用いられています。うつ症状や全身消耗症状の緩和を認めたとする報告がありますが、長期的な効果などさらに質の高いエビデンスレベルの報告が必要であると考えられています。また海外では、リンパ球の一つであるB細胞に対する抗体療法や免疫吸着療法が有効であった症例が報告されています。本症の一部ではこれらの治療法が有効である可能性が示唆され今後の発展が期待されています。

【運動療法】

運動療法としてリハビリテーション専門医のもとで段階的に運動を行い、徐々に運動量を増やし自立した日常生活を取り戻すことを目的とした段階的運動療法があり、有効性を認めるとする報告があります。しかし一方で、有害事象や治療脱落例の報告、米国患者団体からの要請により段階的運動療法の有効性を再評価する動きがあり、現在は米国疾病対策予防センターのME/CFSに関するホームページから削除されています。同様に、以前行われていた本症に対する認知行動療法も削除されています。

【温熱療法】

「和温療法(遠赤外線乾式均等サウナ療法)」と呼ばれる治療法が本症に対する様々な症状の緩和に有効であるという報告があります。室内を60度に設定した遠赤外線乾式均等サウナ治療室で15分間体を温め、サウナ後30分間の安静保温を追加し、発汗に見合う水分を補給するという治療法です。体をリラックスさせることにより、様々な症状の緩和につながると考えられています。今後、更なる臨床試験や長期成績の検討などにより高いエビデンスレベルの報告がなされ、有効な治療法として評価されることが期待されています。

【日常生活における注意点】

本症では、労作業後の消耗、疲労だけでなく「日常の生活を送ること」自体も疲労の原因になる場合が多く見られます。したがって、日常生活における些細な作業も病状によっては加減し調整する必要があります。

1. 食事

本症に対しエビデンスに基づく食事療法はないものの、バランスの取れた食事により栄養所要量のビタミン、ミネラルを摂取するのが望ましいとされています。食事からの摂取が難しい場合には、サプリメントにより必要量を補うことも可能です。病状によっては過敏になっている食材、食品はストレスになる可能性があり避けることも考慮します。

コエンザイムQ10、ビタミンC:抗酸化作用による疲労感の軽減を目的。特に血漿中のコエンザイムQ10はME/CFS患者では有意に低下しているとされている。

ビタミンD:ME/CFS患者でしばしば欠乏症がしばしば見られる。

ビタミンB12、ビタミンB複合体:一部の患者で低い可能性がある。

必須脂肪酸

亜鉛など

2. 睡眠

本症では多様な睡眠障害のパターンがあり、睡眠の質の低下は消耗や疲労に大きく影響するため睡眠専門医の受診を要することがあります。日常生活で睡眠の質を改善するための工夫としては以下があり、自身に合ったものを取り入れることも有用であると考えられています。

  • 朝や日中に屋外または窓際で太陽光を浴びる
  • 午後3時以降の昼寝や仮眠をなるべく避ける
  • 就寝前は気持ちを落ち着ける、リラックスできる行動をする
  • カフェインを含む飲料、食品の摂取を減らす
  • 寝室は遮光カーテンなどを用い暗くする
  • 就寝前はパソコン、スマホの使用を避ける
  • 就寝-起床のリズムを作る
  • 眠れない時は無理に寝ようとしない
  • 眠れない時は、別の部屋へ移り、眠くなるまでゆっくり過ごす 

7.筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)の予後

本症の症状、予後は非常に多様であるとされます。多くの患者は徐々に症状の改善傾向を示し、発症から5年以内には横ばい状態になると考えられています。しかし、発症前の健康状態に回復する例は成人では稀とされ、働くことができるまでに回復する方から寝たきりの状態になる方まで様々です。 

8.筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)の相談目安

本症の特徴である、十分な休息や睡眠で回復しない疲労や体調不良、身体的・精神的活動後の疲労・倦怠感が続く場合には医療機関の受診をお勧めします。診療科としては、慢性疲労外来、総合内科、心療内科・精神科が挙げられます。 

<リファレンス>

NPO法人 筋痛性脳脊髄炎の会(ME/CFSの会)
CFS(慢性疲労症候群)支援ネットワーク
国際ME/CFS学会編「臨床医のための手引書 2014年版」
厚生労働省「慢性疲労症候群患者の日常生活困難度調査結果」報告概要
日本における筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(myalgic encephalomyelitis/chronic fatigue syndrome; ME/CFS)治療ガイドライン(案)

Wakiro Sato, Hirohiko Ono, Takaji Matsutani, Masakazu Nakamura, Isu Shin, Keiko Amano, Ryuji Suzuki and Takashi Yamamura
Skewing of the B cell receptor repertoire in myalgic encephalomyelitis/chronic fatigue syndrome. Brain Behavior and Immunity. 2021 Jul;95:245-255. 

おうち病院
おうち病院