アレルギー性鼻炎|疾患情報【おうち病院】
記事要約
アレルギー性鼻炎とは発作的に繰り返すくしゃみ、水様性鼻汁、鼻閉の3つを主な症状とするアレルギー性疾患です。アレルギー性鼻炎の原因・治療方法・診断のコツなどを、医師監修の基解説します。
アレルギー性鼻炎とは
アレルギー性鼻炎とは、発作的に繰り返すくしゃみ、水様性鼻汁、鼻閉の3つを主な症状とするアレルギー性疾患です。アレルギー性疾患(食物アレルギー、気管支喘息、アトピー性皮膚炎等)の既往歴や合併症、家族歴といったアレルギー素因をもつことが多いです。アレルギー性鼻炎は季節に関係なく年間を通して起こる通年性アレルギー性鼻炎と毎年同じ季節に起こる季節性アレルギー性鼻炎(いわゆる花粉症)に分類されます。
アレルギー性鼻炎の原因、発症のメカニズム
通年性アレルギー性鼻炎の原因としては、ハウスダストやダニ、カビ、ペットなどがあります。季節性アレルギー性鼻炎の原因としては、主に春の花粉であるスギ、ヒノキが多く、ついで秋の花粉であるイネ科植物、ブタクサがつづきます。
アレルギー性鼻炎の発症メカニズムは抗原抗体反応によるものです。空気中のダニや花粉、カビなどの抗原(アレルゲン)が鼻粘膜に付着すると、体内で抗体が作られ、マスト細胞という細胞に結合します。再びアレルゲンが侵入しマスト細胞上の抗体と結合すると、マスト細胞からヒスタミンなどのアレルギー誘発物質が放出され、くしゃみ、鼻汁、鼻閉といったアレルギー反応を起こします。
アレルギー性鼻炎の疫学的整理
2019年のアレルギー性鼻炎全体の有病率は49.2%で、10年ごとに約10%ずつ増加しています。通年性アレルギー性鼻炎の有病率は24.5%、季節性アレルギー性鼻炎は42.5%(うちスギ花粉症は38.8%)となっています。20年前の有病率と比較すると通年性アレルギー性鼻炎は約6%の増加にとどまるのに対し、季節性アレルギー性鼻炎は19.6%から42.5%と2倍以上に達しており、季節性アレルギー性鼻炎の増加が著しいことがわかります。またスギ花粉症の5-9歳の有病率は30.1%、10歳代は49.5%と顕著に増加しており、低年齢化が進んでいることがわかります。
アレルギー性鼻炎の症状
ⅰ)通年性アレルギー性鼻炎
アレルギー性鼻炎の3つの主な症状は、発作的に繰り返すくしゃみ、水様性鼻汁、鼻閉です。これらの症状が徐々にあらわれる場合も突然始まる場合もあります。立て続けにでるくしゃみに、透明でさらっとした多量の鼻水、鼻の粘膜が腫れることによる鼻づまりを伴います。一日の中では朝方に症状が激しく、モーニングアタックと呼ばれています。これらの症状が、通年性アレルギー性鼻炎では季節に関係なく年間を通して起こります。常に症状があるため、慣れてしまい、症状に気づきにくいこともあります。
ⅱ)季節性アレルギー性鼻炎
季節性アレルギー性鼻炎では上記の症状が、決まった季節に起こります。最も患者数の多いスギ花粉は2月~4月、ヒノキ花粉はスギにやや遅れて3月~5月半ば、秋の花粉であるブタクサ花粉は8月~10月に飛散のピークがあります。季節性アレルギー性鼻炎では、目のかゆみや充血、異物感といった症状を伴うアレルギー性結膜炎を合併することが多いです。
次に急性鼻炎(いわゆる鼻かぜ)、急性・慢性副鼻腔炎との違いについてです。急性鼻炎の初期症状としても、くしゃみや水様性鼻汁を認めますが、数日で鼻汁は粘膿性となり、1〜2週間で改善します。アレルギー性鼻炎では水様性鼻汁が2週間以上続きます。急性・慢性副鼻腔炎ではくしゃみがなく、粘性の鼻汁を伴います。
アレルギー性鼻炎の検査・診断
まずは問診にて、現在の症状がアレルギー性か否かを確認します。問診では年齢、職業、症状の程度、発症年齢、症状の起こる時期、合併症の有無、他のアレルギー性疾患の既往歴や家族歴の有無などを確認します。これらからアレルギー性が疑わしい場合は、原因抗原を同定する検査に進みます。主に行われている検査は、皮膚テストと血清特異的IgE抗体検査です。
皮膚テストは短時間で結果がでるというメリットがある一方で、デメリットとして痛みがあり検査前1週間は薬の使用を中止する必要があること、皮膚に痒みや腫脹が出ることが挙げられます。また稀ではありますが、アナフィラキシー等の全身反応のリスクもゼロではありません。皮膚テストには大きく分けて、プリックテストと皮内テストの2つがあります。
プリックテスト
手首と肘の間の皮膚に試薬(アレルゲン液)を1摘たらし、専用の細い針を押し当てることで皮膚に小さな傷をつけ、試薬との反応をみる検査です。反応すると発赤や膨疹(ぷっくらした皮疹)が出現します。15〜20分後に発赤・膨疹の大きさを測定し、陰性・陽性の判定をします。
皮内テスト
手首と肘の間の皮膚に極少量の試薬(アレルゲン液)を皮内注射します。プリックテストと同様に15〜20分後に発赤・膨疹の大きさを測定し、陰性・陽性の判定をします。
両者の違いとしてはプリックテストの方が痛みは弱いですが、時に偽陰性(原因抗原であるにも関わらず反応が弱く陰性と誤って判定してしまう)となることがあります。皮内テストの方が鋭敏ですが、体内に入るアレルゲン量が多く、アナフィラキシー等の全身反応が起こる可能性がプリックテストよりも高いため、まずはプリックテストを行うことが多いです。
血清特異的IgE抗体検査は血液検査のため、結果には数日〜数週間を要します。しかし皮膚テストと違い、事前に薬の使用を中止する必要はなく、副反応がないという点がメリットです。検査項目は問診内容から決定しますが、主にハウスダスト、ダニ、ペット、昆虫、カビ、花粉等です。
アレルギー性鼻炎の3つの症状があり、皮膚テストや血清特異的IgE抗体検査が中等度以上陽性であれば、診断となります。
アレルギー性鼻炎の治療
治療の目標は次のような状態です。
- 症状がない、もしくはあっても軽度で日常生活に支障がない状態
- 症状が長期的に安定していて、急性増悪があっても頻度は低く、長引かない状態
主な治療法には、①抗原の除去・回避、②薬物療法、③手術療法、④アレルゲン免疫療法があります。以下順に説明します。
①抗原の除去・回避
ハウスダストやダニによる通年性アレルギー性鼻炎は掃除や寝具の洗濯が重要です。除湿器による室内の湿度管理もダニの減量に有効です。具体的には下記になりますが、これら全部をやろうとすると大変ですので、できるところから少しずつでも取り入れてみてください。
〈室内ダニの除去〉
- 掃除機がけは、吸引部をゆっくり動かし、1畳当たり30秒以上の時間をかけ、週2回以上行う。
- 布張りのソファー、カーペット、畳はできるだけやめる。
- ベッドのマット、ふとん、枕にダニを通さないカバーをかける。
- ふとんは週2回以上干す。困難な時は室内干しやふとん乾燥機で、ふとんの湿気を減らす。週1回以上、掃除機をかける。
- 部屋の湿度を50%、室内を20~25℃に保つよう努力する。
- フローリングなどのホコリのたちやすい場所は、拭き掃除の後に掃除機をかける。
- シーツ、ふとんカバーは週に1回以上洗濯する。
スギなどの季節性アレルギー性鼻炎では室内に持ち込まない対策が重要です。外出時はつばのついた帽子も上から落ちてくる花粉を避けるのに有効です。
〈スギ花粉の回避〉
- 花粉情報に注意する。
- 飛散の多い時の外出を避ける。外出時にマスク、メガネを使う。
- 表面がけばだった毛繊物などのコートの使用は避ける。
- 帰宅時、衣服や髪をよく払ってから入室する。洗顔、うがいをし、鼻をかむ。
- 飛散の多い時は窓、戸を閉めておく。換気時の窓は小さく開け、短時間にとどめる。
- 飛散の多い時のふとんや洗濯物の外干しは避ける。
- 掃除を励行する。特に窓際を念入りに掃除する。
②薬物療法
薬物療法で主に用いられるものは、内服薬と点鼻薬です。内服薬の中心は抗ヒスタミン薬ですが、症状によっては抗ロイコトリエン受容体拮抗薬が使われることもあります。点鼻薬の中心は鼻噴霧用ステロイド薬です。以下順に説明します。
ⅰ)抗ヒスタミン薬
抗ヒスタミン薬には第一世代と第二世代がありますが、現在主に用いられているのは第二世代です。第一世代の抗ヒスタミン薬は眠気、胃腸障害、便秘、口の渇き、めまい、頭痛、尿が出にくいなどの副作用が強く、特に緑内障、前立腺肥大、気管支喘息の人には注意が必要です。
小児では痙攣や不穏、不眠などの興奮作用が出やすいため、より注意が必要です。またくしゃみ、水様性鼻汁には有効ですが、鼻閉には効果が劣ります。第二世代の抗ヒスタミン薬は上記のような副作用が少なく、症状全般に対する改善度や鼻閉への効果も優れています。
しかし第二世代の抗ヒスタミン薬であっても、眠気の自覚症状がなくても、集中力、判断力、作業効率の低下が認められる場合があり(インペアード・パフォーマンス)、特に車の運転に関しては注意が必要です。現在添付文書上に「自動車の運転」についての注意記載がなく運転可能な抗ヒスタミン薬は、ビラノア、テザレックス、クラリチン、アレグラの4つのみです。
ⅱ)抗ロイコトリエン受容体拮抗薬
鼻閉に対する効果が第二世代抗ヒスタミン薬よりも優れており、主な症状が鼻閉の人に処方されることが多いです。くしゃみ、水様性鼻汁にも有効です。第二世代抗ヒスタミン薬と併用することもあります。効果は内服開始後約1週間ほどで認められ、続けて内服することで改善率が上昇します。
ⅲ)鼻噴霧用ステロイド薬
鼻粘膜の炎症を抑えることで効果を発揮します。使用開始から1〜2日と効果がでるまでの期間が早く、長期に連用することで改善率が上昇します。また投与部位のみに効果が発現し、吸収されにくく吸収後すぐに分解されるため、長期に連用しても全身性の副作用が少ない点も大きなメリットです。局所の副作用としては軽度の鼻内刺激感、乾燥感、鼻出血などがあります。
これらを単独、もしくは組み合わせて治療を進めていきます。
また季節性アレルギー性鼻炎(花粉症)では初期療法が重要です。初期療法とは、花粉が飛び始める前や症状がひどくなる前に上記の薬物療法を開始することをいいます。初期療法を開始するタイミングとしては、①花粉飛散予測日、②飛散予測日の1週間前、③少しでも症状がでた時、のいずれかです。初期療法には症状を軽くしたり、症状が出るのを遅らせる効果があるため、早めの対策が肝心です。
③手術療法
薬物療法で十分な効果が得られない人や、鼻閉が主な症状で鼻腔の形態異常を伴う人に行われることが多いです。手術方法には、下鼻甲介粘膜変性手術、鼻腔形態改善手術、鼻汁抑制手術の3つがあります。
ⅰ)下鼻甲介粘膜変性手術
レーザー手術や超音波凝固があり、鼻粘膜を浅く焼き、鼻粘膜での反応を起こしにくくする方法です。出血や痛みはほとんどなく、日帰り手術が可能で、小児から行うことができる手術です。残念ながら治療効果は永続的ではありませんが、初回手術が有効であった人の再手術は効果が高いとされています。
ⅱ)鼻腔形態改善手術
鼻粘膜の下の方の粘膜や骨を切除することで、鼻腔を拡大し、鼻閉を起こりにくくする方法です。
ⅲ)鼻汁抑制手術
鼻の奥にある、アレルギー反応を伝達する役割をもつ神経を切断する手術で、鼻閉の改善に効果があります。
④アレルゲン免疫療法
身体の中にアレルギーの原因物質(アレルゲン)を少しずつ吸収させていくことで、アレルギーへの過剰な反応を弱めていく治療法です。症状を抑えることを目的とする他の治療法と異なり、根本的な体質改善(長期寛解・治癒)が期待できる唯一の治療法です。現在保険適応となっているものは、スギ花粉症とダニによる通年性アレルギー性鼻炎の2つです。アレルゲン免疫療法には、皮下免疫療法と舌下免疫療法があります。
ⅰ)皮下免疫療法
アレルゲン液の注射をごく少量から開始し、少しずつ量を増やしていきます。はじめは週1回、次に2週に1回、最終的には月1回にして継続していきます。約8割の人に有効性が認められています。デメリットとして、注射による痛みがあること、通院回数が多いことが挙げられます。副作用としては注射部位の腫れが最も多く、アナフィラキシー等の全身反応は稀ではありますがゼロではありません。
ⅱ)舌下免疫療法
1日1回薬を舌の下に投与します。1分間舌の下で保持し飲み込みます。初回は医療機関で行い、30分の経過観察が必要ですが、翌日以降は自宅で内服します。皮下免疫療法と比べ、痛みがない点、通院回数が少なくすむ点がメリットです。効果はほぼ同等で約8割の人に有効性が認められています。副作用としては投与部位である口腔内の腫れ、かゆみが最も多いですが、治療開始1か月以降は徐々に落ち着いてきます。アナフィラキシー等の全身反応は1%以下と皮下免疫療法よりも少なく、安全性が高いと言えます。
アレルゲン免疫療法は根本治療が期待でき、薬物療法を減らし、QOL改善が見込め、軽症~重症の方全てに勧められる治療法ですが、治療期間が長いという特徴があります。治療期間は最低2年、3〜5年が推奨されています
アレルギー性鼻炎の予防
アレルギー性鼻炎の予防の基本は、アレルギーの原因となる物質(アレルゲン)を極力避けることです。具体的な方法は、前述の治療の抗原の除去・回避を参考にしてください。また治療の項で述べた初期療法も症状を軽くしたり、症状が出るのを遅らせる効果があるため、有効です。
<リファレンス>
鼻アレルギーの全国疫学調査2019 (1998年, 2008年との比較) : 速報―耳鼻咽喉科医およびその家族を対象として (jst.go.jp)
アレルギー総合ガイドライン2016
松原 篤,鼻アレルギーの全国疫学調査2019(1998年、2008年との比較):速報ー耳鼻咽喉科医およびその家族を対象としてー日本耳鼻咽喉科学会会報 123巻 6号 2020;p485-490