慢性肝炎・肝硬変|疾患情報【おうち病院】

記事要約

慢性肝炎とは、B型・C型肝炎ウイルス感染、多量・長期の飲酒、過栄養、自己免疫などが原因で肝臓が炎症を起こすことにより細胞が壊れてしまう肝炎の炎症が6ヵ月以上続いた状態のことを指し、肝硬変とは、炎症がさらに長期化し肝障害が徐々に進行して肝臓が硬くなった状態のことを指します。慢性肝炎・肝硬変の原因・治療方法・診断のコツなどを、医師監修の基解説します。

慢性肝炎・肝硬変とは

B型・C型肝炎ウイルス感染、多量・長期の飲酒、過栄養、自己免疫などが原因で肝臓が炎症を起こすことにより細胞が壊れてしまう病気を肝炎と言います。肝臓の細胞は壊れ続けるとその部分が硬くなり、肝臓の働きが徐々に悪化します。

肝臓の炎症が6ヵ月以上続いた状態を慢性肝炎といい、炎症がさらに長期化すると肝障害が徐々に進行して肝臓が硬くなった状態となり肝硬変になります。肝硬変は慢性肝疾患の終末像であり肝硬変のように肝線維化が進んだ状態ほど肝細胞癌の年間発生率が増加することも報告されています。

日本における肝硬変の原因として最も多いのはC型肝炎ですが、C型肝炎に対しては直接作用型抗ウイルス薬(Direct Acting Antivirals:DAA)の登場による抗ウイルス療法が大きく進歩しています。

慢性肝炎・肝硬変の原因

 慢性肝炎の原因はウイルス感染、アルコールの過剰摂取、肥満、薬の服用、自己免疫性など様々ですが、日本では約90%は肝炎ウイルスの感染によるものです。肝炎ウイルスにはA型、B型、C型、D型、E型などがあり、B型慢性肝炎が15~20%、C型慢性肝炎が約70%を占めています。

B型肝炎ウイルスは血液又は体液を介して感染します。感染経路は主に、ウイルスに感染している母親から生まれた子供への母子感染と、輸血や性行為による水平感染があります。急性肝炎を発症後、ウイルスが体から排除されず、6ヶ月以上、肝臓に炎症を起こす場合があります。適切な治療が行われない場合、慢性肝炎は肝硬変へ、さらには肝臓癌へと進行していきます。

C型肝炎ウイルスは血液を介して感染します。輸血や血液製剤の使用、感染者との性交渉、鍼灸や刺青等で十分な滅菌が行われていない注射針の使い回しが原因となります。C型肝炎のほとんどが慢性肝炎の経過を辿るため、急性肝炎のような強い自覚症状がなく、感染したことや病気の進行に気付かないまま徐々に慢性化し、高率に肝硬変や肝臓癌に進行します。肝硬変になると1年間に約5~8%の方が肝癌を発症します。主な感染経路である輸血は、現在の日本ではスクリーニングが強化され、感染リスクはかなり低減しています。

アルコールの過剰摂取や脂肪肝も慢性肝炎の原因となります。アルコール量として男性では日本酒を1日に3~5合を20年間続けると肝硬変になるとされ、女性ではその半量でも起こります。脂肪肝とは肝臓に中性脂肪が蓄積された状態のことです。最近、肥満や糖尿病の人に起こるアルコールが原因ではない脂肪肝から肝硬変、肝臓癌になる非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)という病態がある事が分かり注目されています。過食や運動不足による肥満が増えていますが、肥満者の約80%に脂肪肝がみられます。

慢性肝炎・肝硬変の検査と診断

まず飲酒歴や輸血歴、糖尿病や肥満などの生活習慣病の有無などを問診します。身体検査ではみぞおちに硬く大きくなった肝臓が触れる、左の肋骨の下に腫れた脾臓が触れる、腹水が溜まり膨満している、腹部の表面に血管が走って見える、クモのような斑点が胸元にある、眼球や全身に黄疸があるなど肝硬変に特徴的な所見の有無を診察します。

血液検査では肝機能及び肝機能障害の原因を調べます。AST(GOT)とALT(GPT)は肝細胞が破壊されると血液中に出てくる酵素でAST、ALT値が6ヶ月以上高値を認める場合を慢性肝炎と診断します。

慢性肝炎が進行して肝硬変になったかどうかは肝機能を反映する血中の物質を測定して調べます。肝臓には蛋白質や脂質を合成する働き(合成能)や、物質を処理して体外に排泄する働き(解毒能)などがあります。合成する機能が低下すると血中のアルブミンや総コレステロールの値が低下し、血液を凝固させる蛋白も少なくなり、血液が固まりにくくなります。解毒能が低下するとビリルビンという黄疸を表す項目が上昇したり、肝臓の硬さを示すヒアルロン酸値などが上昇します。腫れた脾臓は血小板を破壊するため、血小板は減少します。これらの検査項目を組み合わせて肝硬変を診断します。

腹部超音波検査で肝臓の形や不均一な内部構造の有無を確認したり、腹水や腫れた脾臓(脾腫)も確認できます。造影CT・MRIを行うと肝癌の診断にも役立ちます。肝臓の細胞を採取し、肝炎・肝硬変の程度の評価や原因を精査するために肝生検を行うこともあります。

また上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)では、食道や胃の静脈がコブ状に太くなる食道胃静脈瘤の有無を評価します。最近ではフィブロスキャンをはじめとして体の表面にセンサーをあてて肝臓の硬さを測定する新しい診断機器が次々と開発されています。これらの検査結果を総合して肝硬変の診断を行います。肝癌の合併がないか、定期的に超音波検査やCT・MRIを受ける必要があり、小さいうちに肝癌を見つけられれば治療が可能となります。

<非代償性肝硬変の診断基準>

《1》又は《2》をみたすもの

《1》Child-Pugh score にてグレード B(7 点)以上を認めるもの

《2》以下のいずれかの合併症を認めるもの

  ア 腹水

   利尿剤の使用等の医療行為を常時必要とするもの

  イ 食道・胃静脈瘤

  食道・胃静脈瘤の破裂による吐下血の現症・既往歴があるもの、又は上部消化管内視鏡検査で破裂の危険性がある所見を示すもの

  ウ 肝性脳症

   反復歴があり、分岐鎖アミノ酸製剤の使用等の医療行為を常時必要とするもの

慢性肝炎・肝硬変の症状

慢性肝炎になると食欲不振や全身倦怠感などの症状が現れる場合がありますが、多くの場合、無症状で経過します。肝硬変になっても初期のうちは肝機能の低下は軽度であり、無症状のことが多く見られます。しかし、炎症が持続し続けると、長い経過と共に肝予備能の低下をきたして非代償性肝硬変という段階に移行します。肝予備能の低下に伴い、まず倦怠感・疲労感・食欲不振などが現れます。徐々に浮腫、腹水、肝性脳症、黄疸、出血傾向が認められるようになり、最終的には肝臓と腎臓の機能が共に悪化する肝腎症候群などをきたして死に至ります。

慢性肝炎・肝硬変の治療

肝臓の線維化を改善する治療法はないため、肝障害と診断された時点でそれ以上、肝障害が進行しないように原因に応じた対応をすることが重要です。B型ウイルスやC型肝炎ウイルスによる慢性肝炎、肝硬変の治療には肝炎ウイルスに対する抗ウイルス療法が最も重要です。抗ウイルス剤によって肝炎ウイルスを排除したり増加を抑えたりすると肝臓の炎症は改善します。その結果、肝線維化の進行が抑えられ、肝癌のリスク低下に繋がります。

近年、C型肝炎に対する治療は大きく進歩し、インターフェロンを用いない治療法(IFNフリー治療法)が可能になりました。C型肝炎ウイルスを駆除する直接作用型抗ウイルス剤( direct acting antivirals:DAA)と呼ばれる経口薬が開発されC型慢性肝炎および代償性肝硬変症は飲み薬で治る時代になりました。DAA製剤を用いた治療は治療期間が短く、100%近い著効率を認め、非常に高いウイルス持続陰性化率を示します。C型肝炎は治る時代になりました。抗ウイルス薬が効かない場合や使用困難な場合には、肝細胞が壊れるのを抑える薬を内服又は注射を用いて肝庇護療法を行います。体内の鉄を減らす瀉血療法も肝細胞が壊れるのを抑えるのに有用です。これらの治療により血中AST、ALT値が低下すると肝硬変へ進行するスピードは遅くなり、肝癌の発生を遅らせることが出来ます。

アルコールが原因の場合は肝硬変になる前にお酒を控える以外に方法はありません。食べ過ぎや運動不足により脂肪肝から脂肪性肝炎、肝硬変へと変化します。まず、禁酒や食事療法、運動療法による体重コントロールが最も大切で、これらの治療で改善しない場合には薬物療法を行います。その他、自己免疫性肝炎や原発性硬化性胆管炎、原発性胆汁性胆管炎等の免疫異常が関与する疾患はそれぞれの疾患に応じた適切な治療を受けることにより肝硬変への進行を防いだり遅らせることが可能です。

<リファレンス>

肝硬変診療ガイドライン2015
日本肝臓学会 日本肝臓学会発行冊子「肝臓病の理解のために」2015
肝硬変診療のup to date 日本消化器病学会雑誌 114 (1), 8-19  2017
肝硬変の成因別実態 2014,医学図書出版 2014

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