緊急避妊法について|疾患情報【おうち病院】
記事要約
緊急避妊法とは、妊娠を望まない女性が、妊娠の予防目的で緊急的に実施される避妊方法のことです。緊急避妊法の原因・治療方法・改善対策を解説
緊急避妊法とは
緊急避妊法とは、妊娠を望まない女性が、避妊をせずに行われた性交渉または避妊をしたものの避妊手段が適切かつ不十分であった性交の後に、妊娠の予防目的で緊急的に実施される避妊方法のことをいいます。
緊急避妊法の種類
現在日本国内で提供が可能な緊急避妊法は、以下の二つです1)2)。
(1)アフターピルの内服
- レボノルゲストレル単回内服:性交後72時間以内にレボノルゲストレル1.5mg内服
- Yuzpe法:性交後72時間以内に中用量ピル(EE50ug+NGR0.5mg含)を内服し、続いて12時間後に同薬剤を追加内服する方法。
一般的に、アフターピルという名称で知られている方法です。
内服方法による避妊効果発現の仕組みは十分には解明されていませんが、排卵の抑制および遅延効果によるものであろうと考えられています。
安全性、妊娠阻止率共に高い内服方法であり、現在では主流の方法です。医師の処方箋がいるため、医療機関の受診が必要です。医療保険は適応されません。
(2)銅付加IUD挿入
銅付加IUD(子宮内避妊具)を性交後120時間以内に挿入する方法です。精子の運動能力を低下させ、また既に受精卵ができている場合においては、着床を阻止する効果があるとされています。
内服薬に比べて妊娠予防効果は高いと考えられてはいますが(妊娠率0.09%3))
- 内服法の方が女性にとって簡便な方法であること
- 性感染症を有する、あるいは性感染症のリスクの高い人には、症状を増悪させる危険がある可能性があること
- 妊娠経験のない女性への挿入が容易ではない時もあること(子宮口、もしくは子宮頸管が狭いため)
などの理由から、あまり普及はしていないようです。
ただ、その高い妊娠予防効果を期待する場合、あるいはその避妊法継続を希望する女性には、良い適応だと考えられています。1)必要な時には、医療機関でトレーニングを受けた産婦人科医が挿入します。(1)と同じく、医療保険は適応されません。
(1)(2)の方法共に、より確実な効果を得るため、また明らかな妊娠の可能性を除外するため、最終月経(開始時期、持続日数)、月経周期、妊娠を回避したい性交渉が行われた日時を確認しておくことが大切です。万が一月経の記憶が不明瞭であり、緊急避妊法の使用を考える時点で妊娠の可能性があるような場合には、妊娠検査を考慮すべきです。
相談の目安
緊急避妊法の使用が望ましい状況は、以下の通りです1)。
- 普段継続している経口避妊薬を飲み忘れた時
- 胃腸障害(下痢)で普段の経口避妊薬の吸収障害が疑われる時
- 膣外射精をされた時(膣外射精は、避妊方法ではありません)
- コンドームの破損、脱落、不適切な使用時
- レイプ、性的暴行を受けた時
- 避妊用ペッサリーを性交渉後8時間以内に除去した時
前述したいずれの方法も、性交渉後なるべく早くに使用した方が避妊の効果が高まると考えられています。また、日本産科婦人科学会ガイドラインにも、適正使用の時期(使用によりある程度の避妊効果が得られる時期)(2.緊急避妊法の種類参照)が記載されており、相談を受けた医療者は、その情報を提供した上で、早々の受診を促すことが推奨されています。
疫学的整理
レボノルゲストレルの日本での認可は2011年で、それまではYuzpe法が主流の方法でした。しかしYuzpe法よりもレボノルゲストレル単回内服の方が有害事象の発生率が低く、かつ避妊効果が高いという最近のシステマティックレビューのデータにより、現在ではレボノルゲストレル単回内服法が、緊急避妊法の標準的方法として推奨されています2)4)5)。
複数の文献より、理想的な時期に施行された場合の避妊効果が高い順序は、以下の通りです。
(1)銅負荷IUD挿入
(2)レボノルゲストレル1.5mg単回服用
(3)Yuzpe法
5.海外動向
WHOは一般的な避妊方法および緊急避妊法の提供は、女性にとって命や生活を守るための基本的人権の一つと考えるべきだと主張しています。そして、避妊法を提供する医療者側および享受者双方が、「確実に避妊をできること」が女性の権利であると認識し、その上で適切な行動することで、緊急避妊法がより安全で確実なものになり得る可能性がある、としています6)。
2000年代、緊急避妊用内服薬の確実性および安全性が疫学的に徐々に明らかになるにつれ、「避妊は権利」という考えも後押しし、緊急避妊法へのアクセスがより容易になる地域が増えてきています。
一方で、アクセスが容易になると共に無防備な性交渉が増える危険についても懸念され、その社会的懸念が普及を妨げている地域もあるようです。
緊急避妊法の種類としては、現在レボノルゲストレルの使用が主流であり、19か国でOCTとして、76か国で医師の処方箋なしで薬剤師が提供しています9 )。
日本では認可されていないulipristal acetate(30mg単回内服法)は、他国では2010年より緊急避妊法として使用が開始、レボノルゲストレルを追って普及が進んでいます8)。性交後120時間まで投与可能であること、有効性はレボノルゲストレルより優れ、安全性は同等であることが知られ10)、日本でも今後認可導入されていく可能性があります。
銅付加IUDの使用は、2.緊急避妊法の種類(2)に記載されてある理由だけでなく、社会的な理由(費用が高額、保険が費用をカバーしない、医療機関のシステムの問題など)で、あまり普及が進んでいないようです9)10)。
最近はCovid-19の影響で、緊急避妊法も含めた避妊方法の受給の遅れが生じている場所もあり、望まない妊娠の発生率の上昇ならびに中絶手術数の増加が懸念されています。その流れで、権利としての避妊法の享受を再び強調する各国際機関の動きが見られています(WHO,FIGOなど)7)8)。
副作用、使用時に認識しておくと良いこと
《1》副作用
国内での使用成績(総症例578例)におけるレボノルゲストレル単回内服における主な副作用は、悪心・下腹部痛などの胃腸障害(3.98%)、頭痛(1.38%)、傾眠などの神経系障害(2.60%)、不正子宮出血(1.21%)、乳房障害(2.08%)。またレボノルゲストレル過敏症既往、重篤な肝障害、妊婦には使用は禁忌とされています1)。
Yuzpe法の副作用は、悪心・嘔吐・下痢・腹痛などの胃腸症状、頭痛、倦怠感などが報告されています1)。
日本で販売されている銅負荷IUD(ノバT)の添付文書によると、その副作用(総症例1047例内)は、月経異常(25.7%)、過多月経(13.0%)、月経中間期出血(11.5%)、腹痛(11.1%)、疼痛(10.6%)、帯下(10.3%)。また、重大な有害事象として骨盤内感染症・異所性妊娠・子宮穿孔のリスクはそれぞれ0.8%未満、0.2%未満、0.1%未満。11)
《2》妊娠の可能性が0%ではないこと
いずれの方法も、妊娠回避率は100%ではないため、月経予定日から1週間以上経過しても明らかな月経の発来が認められない場合には、妊娠検査を考慮すべきです。
《3》感染を予防するものではないこと
感染予防のためには、コンドームを併用する必要があることを、常に念頭に置いておくべきです。
また緊急避妊実施後のより確実な避妊のために、以下の内容が推奨されます。1)2)
・緊急避妊薬を内服した後の女性には、
(1)明らかな月経発来までは、性交渉を回避した方が良い。回避できない場合には、避妊が必要。
(2)妊娠の可能性が否定された後、継続的な経口避妊薬の内服
・銅負荷IUDを挿入した女性には、避妊を継続したい場合にはIUDをそのまま留置、あるいはIUDを抜去後、継続的な経口避妊薬内服への切り替え
<リファレンス>
1)日本産科婦人科学会 緊急避妊法の適正使用に関する指針(平成28年版)
2)日本産科婦人科学会診療ガイドラインー婦人科外来編2017
4)Cheng L, Gülmezoglu AM, Piaggio G, Ezcurra E, Van Look PF. Interventions for emergency contraception. Cochrane Database Syst Rev. 2008;(2):CD001324. Published 2008 Apr 16. doi:10.1002/14651858.CD001324.pub3
6)WHO Ensuring human rights in the provision of contraceptive information and services
7)WHO Coronavirus disease(Covid-19) and Sexual and Reproductive Health
8)FIGO “FIGO’s guidance on Essential Women’s Health Care during COVID-19 Pandemic”
9)International Consortium for Emergency Contraception
10)ACOG-Clinical Emergency Contraception
11)ノバT380添付文書