乳幼児肝巨大血管腫|疾患情報【おうち病院】

記事要約

乳幼児肝巨大血管腫とは、生まれた直後〜1歳頃に見られる巨大な肝臓の良性腫瘍のことです。乳幼児肝巨大血管腫の原因・治療方法・診断のコツなどを、医師監修の基解説します。

乳幼児肝巨大血管腫とは

生まれた直後〜1歳頃に見られる巨大な肝臓の良性腫瘍のことです。血管腫とは血管が絡まった様な病変で、偶然発見されることも多く、小さくて無症状の場合は治療の必要はありません。しかし巨大もしくは多発性の場合は、心不全や血液凝固異常を引き起こしたり、腫瘍内出血などにより死亡に至ることがあり、緊急の治療や慎重な経過観察が必要となります。

この病気の多くは乳児期早期までに診断され、まれに出生前に診断されることもあります。治療は呼吸障害に対する人工呼吸器によるサポートなど、それぞれの症状への治療と、腫瘍そのものに対する薬物療法、放射線照射、血管塞栓、外科手術などがあります。ただし、低年齢時の難治性血管腫に対しては治療は危急的であり、今のところ未確立です。血管腫そのものを消失させることは困難ですが、それによる症状をきたさない状態を目指し、薬物治療などでのりきると1歳をすぎる頃から、症状が安定して病気のないお子さんと同じように生活することができます。しかし、成長過程で肝機能低下が進行し肝不全や肝硬変に至ることがあるため、その後も定期検査が必要となります。本症は指定難病であり、医療費助成の対象となります。

乳幼児肝巨大血管腫の原因

この腫瘍は血管の細胞が増殖する場合と、そもそもの血管奇形によるもの、もしくはその両方の機序によりできていると考えられています。今のところ原因はわかっていませんが、遺伝や妊娠時のお母さんの生活習慣には関係していないと言われています。

乳幼児肝巨大血管腫の疫学的整理

平成22年度からの調査では、日本では新規発症が年間に5〜10 人程度と推定されておりとても珍しい病気です。明らかな男女差はありません。

乳幼児肝巨大血管腫の症状

代表的な症状は肝腫大、腹部膨満、呼吸障害、心不全、凝固障害などがあります。

  • 肝腫大・腹部膨満:腫瘍の存在そのものにより、肝臓自体が大きくなり、お腹の表面が膨れます。
  • 呼吸障害:肝臓が腫大することによって、呼吸に必要な横隔膜の動きが圧迫・制御されたり肺や心臓を循環する血流の流れが悪くなることで起きます。
  • 心不全:血管腫は長い血管が絡み合ってできており、そこへの血流を保つポンプの役割をする心臓に負担がかかります。その負荷が続くことにより、心臓が疲れ、高拍出性心不全という病態が起きます。
  • 凝固障害:血管腫の中に存在する細長い血管内に小さな血栓が作られ、凝固因子や血小板と呼ばれる血を固める成分が使われてしまい、それらが減少します。その結果腹腔内や頭蓋内で出血が起きやすくなり、出血性ショックという状態になることもあります。

その他に​​甲状腺機能低下症、発育不全、腎不全、貧血、高ガラクトース血症、高アンモニア血症、皮膚血管腫が見られることがあります。乳幼児以降には​​肝内門脈肝静脈シャントと呼ばれる肝臓内でバイパスの様な血管が発達することによって進行性肝不全や肝硬変、門脈異常の症状が出てきます。

また、ほとんどが生後の症状が出現した後に治療が開始されますが、生まれる前にこの病気が原因でお母さんのお腹の中で胎児水腫や深刻な出血を起こす場合がごくまれにあり、その場合には緊急帝王切開が行われることがあります。

乳幼児肝巨大血管腫の診断

生後一歳未満の画像検査(腹部エコーやCT検査等)で肝内に単発60mm以上、もしくは肝臓の4区域のうち2区域にまたがる血管腫が存在していて、呼吸異常・凝固異常・血小板減少・腎不全・肝腫大・甲状腺機能低下症、体重増加不良いずれかの症状がある場合に本症の診断となります。

60mm未満の単発血管腫や症状のない多発血管性病変、肝芽腫や肝臓原発の悪性腫瘍は本症に含まれません。

乳幼児肝巨大血管腫の治療

ステロイドやプロプラノール(βブロッカー)、抗がん剤などによる薬物療法があります。ステロイドは腫瘍そのものを縮小したり、心不全の改善などの効果があり、まずはじめに選択される治療です。しかし、約20%の症例では効果が見られず、単独で使用した場合は半数以上が病勢の制御ができなかったというデータもあります。また、近年ではプロプラノロールの効果が報告されており使用頻度が増えています。これらの治療に反応しない場合は、インターフェロンと呼ばれる免疫を調整する薬や抗がん剤を使用することもあります。そして、これらの薬物療法で効果が乏しい場合は血管腫につながる血管を塞ぐ血管腫塞栓療法や、肝臓の一部切除や、動脈をしばる外科手術がまれに行われることもあります。慢性期に起こる肝不全・肝硬変に対しては肝移植が唯一の根治的治療です。

乳幼児肝巨大血管腫 相談の目安

皮膚表面に血管腫があるお子さんの場合は肝臓にも血管腫がある場合が多いと言われています。気になる場合は一度大きな血管腫がないか、超音波検査など、相談してみてもいいかもしれません。また、他の検査をして偶然小さな血管腫が発見されることがありますが、その場合は本症とは分けて考え、特に心配する必要はありません。

<リファレンス>

難病情報センター
乳幼児肝巨大血管腫(指定難病295)
乳幼児巨大肝血管腫診療ガイドライン総説 
血管腫・血管奇形・ リンパ管奇形 診療ガイドライン 2017

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