亜急性壊死性リンパ節炎|疾患情報【おうち病院】

記事要約

亜急性壊死性リンパ節炎とは?原因・症状と治療方法・改善対策を解説

亜急性壊死性リンパ節炎(菊池病)とは

この疾患は1972年に菊池昌広氏らが、九州大学での過去10年間に行われた生検リンパ節の検索で、特異な組織像を呈するリンパ節炎として報告したものです。同年、藤本吉秀氏らも同様の症例を報告し、頸部の亜急性壊死性リンパ節炎という名称を提唱しました。その後、本疾患の存在が世界的に知られるようになり、亜急性壊死性リンパ節炎、組織球性壊死性リンパ節炎や菊池-藤本病などの名称で呼ばれており、国際的にはKikuchi’s diseaseが使用されています。ここでの名称は菊池病を使用いたします。

菊池病は小児や比較的若い成人に好発する、病理学的にリンパ節の壊死を伴った特異な亜急性リンパ節炎で、発症頻度は稀な、良性疾患です。

原因

菊池病の病因については未だに解明されていませんが、ウイルス感染や自己免疫疾患がこの疾患発症のトリガーになっているのではないかという見方が強まっています。

Epstein-Barr virus, Human Herpesviraus-6, cytomegalovirus, parvovirus B19、HIV, HTLV-1, 風疹ウイルス、B型肝炎ウイルス、デングウイルスなどとの関連が示唆されていますが、確定的ではありません。

疫学的整理

罹患者の年齢としては6-80歳での報告があり、20-40歳の若い成人に多いとされています。男女比は女性に多いと報告されてきましたが、近年の報告では男女比はほぼ1:1となっています。興味深いことに、小児で診断される例はごくまれです。

海外動向

発表当時症例の多くは日本を含めた東アジアを中心に発症されていると報告されましたが、現在は若い世代を中心に世界的な分布の広がりをみせています、欧米よりも東南アジアに多く発症するとされます。

症状(潜伏期間・感染経路等)

菊池病は急性または2-3週間以上の亜急性の経過で発症します。最も一般的な臨床症状は頚部リンパ節腫脹で60-98%の症例でみられます。この疾患では通常、片側の頚部リンパ節が腫脹します。リンパ節は比較的サイズが小さく(<3cm)、圧痛があり、可動性があり、疼痛(60%の症例で)が見られます。稀にリンパ節は直径6㎝を超えることがあります。50%程度の症例で、リンパ節腫脹が多発することがあり、腋窩や鎖骨上のリンパ節腫脹を伴うことがあります。全身のリンパ節腫脹はまれ(1-22%)です。リンパ節腫脹は30-50%の症例で発熱と関連がありますが、体重減少、嘔吐、上気道症状、咽頭痛、疲労、頭痛、関節痛はそれよりは頻度が低い症状とされています。発熱は一般的に高熱で長期間続くことが特徴的です。長引く発熱とリンパ節腫脹から感染性リンパ節炎を疑われ、検査と治療を行われるのが一般的な対応と考えられます。

少数の患者では両側リンパ節腫脹や肝脾腫が初発症状として見られることがあります。244名の菊池病の症例のうち、肝腫大、脾腫大はそれぞれ3%、2%であったと報告されています。

リンパ節以外の皮膚や骨髄の症状は稀です。皮膚症状としては発疹、紅斑性丘疹、ざ瘡様または麻疹様病変、顔面紅斑などです。これらの皮膚病変はしばしば顔面、体幹、四肢に出現し、リンパ節腫脹と同時か、先行して出現することが多いです。

検査

血液検査所見は正常を示すことが多いですが、 比較的長期間の発熱を認めるにもかかわらずCRPが陰性であるという事実は菊池病の特徴の一つで、軽度のLDHの上昇と共に診断に役立つと思われます。CRPは組織の壊死などの障害に対し、生体が炎症として反応する検査項目です。一般には最近、真菌やウイルス等による感染症、心筋梗塞、肺梗塞等の組織の虚血性障害、悪性腫瘍等でCRPは急速に陽性化します。しかしウイルス感染症においてはCRPは陰性例が多く、陽性であってもその頻度は低く、陽性の程度も軽度と言われています。

菊池病では白血球減少(多くは顆粒球)は25-58%の症例で、白血球増多は2-5%で見られます。ほぼ全例に白血球減少の時期があり、病気のどの時期に検査したかによって値が変化するとされています。また、赤血球沈降速度の軽度上昇もみられます。

CTやMRIで菊池病に特徴的な所見はなく、これらの検査は他の疾患によるリンパ節腫脹との鑑別に有用ではありません。しかしながら、リンパ節の生検や切除部位を行う部位を特定することを目的とした画像検査は日常的に行われています。超音波検査では、腫脹したリンパ節は低エコーで、周囲に不整な高エコーのリングを伴うことがあります。組織学的に菊池病と確定診断された、96名のレトロスペクティブなCTスキャンを解析した研究では、リンパ節の大部分(94%)は2.5cmよりも小さかったと報告されています。この所見は、数は少ないがより大きいリンパ節、リンパ節周囲の浸潤、壊死を呈する、といったリンパ腫で典型的にみられる所見と区別するために有効かもしれません。

重症化しやすい場合

菊池病は通常は自然治癒し、経過良好な疾患ですが、肺出血、DIC、致命的な血球貪食症候群、心不全などにより、稀に致命的となることもあります。再発した菊池病の症例で、血小板減少に伴う頭蓋内出血によって亡くなった例も報告されています。244例の検討では、菊池病の全死亡率は、2.1%と報告されており、良性の致死的とならない疾患であると言い切ることはできません。肺出血により死亡した例や、妊娠24週の女性が菊池病が契機となった血球貪食症候群により多臓器不全となり死亡した例も報告されています。移植後に呼吸不全で死亡した3例の報告もあります。これらの症例では免疫抑制状態であったため、おそらく菊池病以外の要素があったと考えられます。

関連疾患

 菊池病は様々な全身疾患との関連が報告されています。主にWegener肉芽腫、シェーグレン症候群、甲状腺炎、多発筋炎、自己免疫肝炎、全身性エリテマトーデス(SLE)などの自己免疫疾患です。

診断の方法

診断においては、リンパ節の特徴的な病理像を証明することが必須です。

本疾患は、一般に若年女性の罹患が多いため、傷の目立つ頚部リンパ節生検は躊躇されます。傷が目立たない穿刺吸引細胞診や針生検の有効性も報告されており、まず試られることもありますが、残念ながら偽陽性、偽陰性がそれぞれ37.5%、50%で、正診率は約56%と報告されています。菊池病の診断は、基本的には今も手術的に切除された(切除生検)リンパ節の組織学的検査で行われます。

診断が難しい症例

198人の反応性リンパ節腫大の患者のうち1.6%が菊池病と診断されたとの報告があります。菊池病を認識し、他の良性または悪性疾患と鑑別することは、極めて重要です。菊池病の治療や予後は他の疾患と大きく異なるからです。菊池病の形態学的な特徴は、主にSLEに関連したリンパ節炎と非ホジキンリンパ腫との鑑別が必要です。特に前者の診断には注意が必要で、実際、SLEは菊池病に非常によく似た壊死性リンパ節炎を呈することは広く知られています。

治療

菊池病は大部分の患者(64%)では自然経過で1-4か月以内に治癒します。対症療法が治療の中心となります。発熱、中枢神経、皮膚、眼などのリンパ節以外の症状がある場合は、コルチコステロイド、非ステロイド性抗炎症薬、解熱剤、鎮痛薬や有効である可能性があります。大部分の菊池病の症例は、グルココルチコイド特にプレドニゾンによる治療によく反応し、回復を早めます。ステロイドは、リンパ球の数や形態を著しく変化され、悪性リンパ腫など他疾患との鑑別を困難にすることがあり、生検による確定診断後に投与すべきとされています。実際の投与量としてはプレドニゾロン換算量15-30mg/dayから始め、5日ごとに漸減していく方法がとられています。

免疫グロブリン、ヒドロキシクロロキン、ミノサイクリン、シプロフロキサシンでも良い結果が得られています。は菊池病の16%にコルチコステロイドによる治療が必要であったと報告されています。

再発

大部分の菊池病の症例では、自然治癒しますが、一部の症例で再発が報告されています。再発率は3-21%で、初発から2-14年の期間での再発が報告されています。65人の再発例の解析では、若年(平均年齢27歳)、アジア人(80%)、女性(76%)に多く、73%は病変が多発していました。

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