性感染症(淋菌)|疾患情報【おうち病院】

記事要約

淋菌感染症とは、淋菌を病原体とする感染症です。性器クラミジア感染症、性器ヘルペス感染症、尖形コンジローマなどと同様に5類感染症に分類されています。

淋菌とは

淋菌感染症 ※1)とは、淋菌(Neisseria gonorrhoeae)を病原体とする感染症です。
性器クラミジア感染症、性器ヘルペス感染症、尖形コンジローマなどと同様に5類感染症に分類されています。
感染すると、女性では子宮頸管炎、男性では尿道炎を主に起こしますが、特に女性の場合は無症状の場合も多くあります。

淋菌の原因・感染経路

淋菌は主に性交渉でヒトからヒトへ感染します。
粘膜から離れると短時間で死滅するため、性交や性交類似行為(オーラルセックスや肛門性交など)以外で感染することはまれです。

また、分娩時に母体から児へ産道感染し新生児淋菌結膜炎などを発症することもあるため、妊娠中に感染が確認された場合は、すみやかに治療を行う必要があります2)。

淋菌の疫学的整理 ※1)

淋菌感染症は、5類感染症として地方自治体が定めた性感染症定点医療機関からの報告が義務付けられています。
定点当たり報告数は、2002-2003年をピークに減少しが横ばいにありましたが、2020年以降から男女ともに増加傾向に転じています。全ての年齢層で増加がみられますが、男女とも20代前半の若年層での増加が問題となっています。

WHOによると、2020年には、世界で8240万もの新規感染者(15-49歳)がいたと推定されています3)。このような状況を鑑みて、WHOは2030年までに淋菌の新規感染者を2020年と比較して90%減らすことを目的とし、対策を講じています。

 また、淋菌感染によりHIV感染が容易になるとの報告もあり、注意が必要な感染症です。

淋菌の症状 ※4)5)

 淋菌感染症は、男性では灼熱感をともなう排尿痛(尿道炎)の症状が典型的ですが、10%ほどは無症状といわれています。また女性では帯下が増える程度で、約50%は無症状感染だといわれています。

 女性では一般的に、性交渉の経験のある女性の帯下増加、性交時出血、下腹部痛、右上腹部痛などの症状があるときに淋菌感染症を疑います。

クラミジア感染症と同じように、症状が乏しい場合は早期の治療が行われず、子宮頸管炎から上行性に感染が進行し、子宮内膜炎、卵管炎、骨盤腹膜炎、肝周囲炎(Fitz-Hugh-Curtis 症候群)を起こすこともあります。
これらは卵管の通過障害を引き起こし、女性不妊症や異所性妊娠の原因にもなります。

また、直腸感染や咽頭感染もおこります。

 

淋菌の診断 ※4)

淋菌感染症の診断は、子宮頸管擦過検体を専用のスワブで採取し、PCR検査によってDNAを検出することで行います。感度は低くなりますが、分離培養法でも検出が可能です。

性器淋菌感染をもつ患者の10-30%程度で咽頭からも、淋菌が検出されるといわれています。咽頭炎の症状がある場合もありますが、ほとんどは無症状です。咽頭からは、スワブまたはうがい液を用いて検査を行います。

クラミジアと淋菌感染症は重複感染が多いため、同時検査が推奨されます。

淋菌の治療方法 ※4)5)

 セフトリアキソン(セフェム系)の静脈注射もしくはスぺクチノマイシン(アミノグリコシド系)の筋肉注射、と注射剤での治療が第一選択となっています。咽頭感染の場合の治療は、このうちのセフトリアキソン静注が推奨されています。
骨盤内腹膜炎などの重症例以外は、これらの注射剤の単回投与での治療となります。内服薬での治療は推奨されていません。

お互いに移しあってしまう”ピンポン感染”を防ぐため、パートナーの検査・治療も同時に行うことが重要です。治療後に期間をあけて治癒判定を行いますが、それまでは避妊をすることが必要となります。

また、淋菌の多剤耐性化が世界で問題となっており、初回治療で陰性とならない場合は、培養検査によって薬剤感受性試験を行うことが望ましいといわれています。

淋菌の相談の目安

淋菌の症状を感じたとき、パートナーが淋菌と診断されたとき、複数のパートナーと性交渉があるときなどは速やかに検査が必要です。

淋菌の感染の予防法

淋菌感染症に予防接種はありません。

予防法としては、性交渉の際にコンドームを使用することが第1となります。また感染の恐れがある相手との性的行為(口腔性交や肛門性交を含む)などは避けることなどが挙げられるでしょう。

また新生児淋菌性結膜炎の予防としては、日本では全新生児に対し出生直後(1時間以内)に両眼に0.5% エリスロマイシン眼軟膏の塗布が行われています2)。

<リファレンス>

(1)NIID 国立感染症研究所 

(2)産婦人科診療ガイドライン 産科外来編2023

(3)WHO Chlamydia

(4) 産婦人科診療ガイドライン 婦人科外来編2023

(5)Up To Date :Clinical manifestations and diagnosis of Neisseria gonorrhoeae infection in adults and adolescents