ペルテス病|疾患情報【おうち病院】

記事要約

ペルテス病は子どもの股関節に発症する疾患で、股関節を形成する大腿骨頭が血行不良のために壊死し、潰れることで痛みや跛行などの症状が現れます。本症の明らかな原因はまだわかっていません。

ペルテス病とは

ペルテス病は子どもの股関節に発症する疾患で、股関節を形成する大腿骨頭が血行不良のために壊死し、潰れることで痛みや跛行などの症状が現れます。

本症の明らかな原因はまだわかっていません。適切に治療されなければ大腿骨頭の変形による二次的な変形性股関節症が後遺症として残ります。本症は、治療期間が長いことや治療法が経過観察、装具療法、手術など病院の方針によってさまざまで統一されていないといった問題もあります。

好発年齢は4〜7歳で、男児に多くみられます。初発症状で多いのが、跛行と痛みです。痛みは股関節が痛いと訴えることもあれば、膝や大腿部を痛がる場合も約20%にみられる1)ため注意が必要です。

画像診断はレントゲン、MRIによって行われ、病態と発症年齢によって治療法が決定することがほとんどです。治療法は、装具療法や手術、慎重な経過観察などがあります。装具療法は通院で行う施設もあれば入院で行う施設もあります。治療手段はさまざまですが、いずれの治療法も最終的な目的は、「成長後に股関節の変形を残さない」ことです。

※似たような病態を示す特発性大腿骨頭壊死症は難病指定されていますが(指定難病71)、ペルテス病は難病指定されていません。

ペルテス病の原因

ペルテス病の明らかな原因はまだわかっていません。しかし、本症が小柄で活動性の高い男児に有意に多いことから血管の外傷が一つの原因と考えられています。もともと解剖学的に大腿骨頭への血行はそれほど豊富ではありません。

そこに繰り返される活動による衝撃などで血管が損傷し、血行不良が起こり骨頭が壊死するということが推測されています。その他に、内分泌異常、血液凝固系異常も考えられています2)。また受動喫煙が危険因子になるという報告3)4)も複数あります。本症は発症率が高くないため、単一の原因ではなく複合的な要因が重なることで生じると推測されます。

ペルテス病の疫学的整理

ペルテス病の発症頻度は一定しておらず、10万人に0.4人から29人とさまざまであると報告5)されています。日本でのまとまった報告は少なく、1990年代に実施された他施設調査では10万人に約1人と欧米の報告より少なかった1)というものがありますが、実際にはもう少し多いであろうと推測されています。

好発年齢は4〜7歳とされますがいずれの小児年齢でも起こりえます。また男児では女児の4〜6倍多くみられるといった特徴もあります。左右両側の発症は本症の約10%に見られますが、同時に発症することは少なく時期をずらして発症(多くは2年以内)することが多いと考えられています。

ペルテス病の症状

  • 股関節、膝周囲の痛み
  • 跛行
  • 股関節の可動域制限

ペルテス病の症状でよく見られるのが痛みと跛行です。これらは股関節が炎症を起こすことによって生じる症状です。

痛みの訴えは股関節部とは限らず、太ももや膝周囲であることも多くあります。そのため整形外科を受診しても膝の診察、レントゲンのみで股関節の異常に気付かないことも少なくありません。また痛みは緩やかに増していくことが多く、初めから強い痛みを訴えることは比較的少ないと言えます。
跛行は足を引きずるなどいつもとは異なる歩き方をすることをいいます。跛行はペルテス病の多くに見られる症状の一つです。股関節が炎症を起こしているため十分に体重をかけて歩くことができないため跛行を呈します。

また診察ではほとんどの症例で股関節の可動域制限を認めますので、自宅でも注意深く観察するとあぐらをかけない、深くしゃがめないなど股関節の動きが悪くなっていることに気付ける可能性があります。
症状が軽く受診につながらなかった場合や放置した場合は、壊死した大腿骨頭が脆弱になり圧潰を起こし痛みが増強します。約8%が痛みを自覚していなかったとの報告1)もありますので注意が必要です。

ペルテス病の診断

ペルテス病の診断は、実際の診察、レントゲン、MRIで行われることが一般的です。

  • 診察
    股関節の動きを確認することが重要です。深く屈曲させた時に誘発される痛みや可動域の制限を認めます。小児の場合は太ももや膝を痛がる場合にも股関節の診察を必ず行うことでペルテス病などの股関節疾患を早期に発見できる可能性があります。
  • レントゲン
    発症初期にはレントゲンでも明らかな異常を認めない場合もありますが、有用な検査の一つです。小児では原則的に両側の股関節を撮影し左右を比べることで小さな変化にも気づきやすくなります。また正面からの一方向だけでなく、側面像も撮影することも大切です。
    初期には明らかな骨変化はわかりにくいものの、左右の軟部組織の陰影の違いから関節水腫の存在がわかることがあります。病期が進むにつれ、骨頭の病変部が白く写ったり、潰れてきていることなどがわかります。
    レントゲンは治療過程においても壊死部の修復を確認するため定期的に撮影していくことになります。
  • MRI
    ペルテス病においてMRIは非常に有用な検査です。レントゲンで変化が見られない早期であっても異常を認めます。血行不良で壊死した骨頭部分は低信号輝度で黒く描出されます。壊死範囲を正確に把握できるため治療方針の決定にも有用な検査です。また他の股関節疾患を鑑別するのにも役立ちます。

ペルテス病の鑑別疾患

ペルテス病との鑑別が必要な疾患としては以下が挙げられます。

  • 単純性股関節炎
    好発年齢が5〜7歳で男児に多く、痛みと跛行を呈するなどペルテス病との共通点があります。ペルテス病に比べると痛みは急で強いことが多いですが、安静にしていれば自然治癒し後遺症を残さない股関節炎です。風邪などのウイルス感染後に起こることが多いとされています。初期のペルテス病は単純性股関節炎との鑑別が難しい場合があります。
  • 化膿性股関節炎
    股関節内で細菌が増殖し膿が貯留し、関節炎を起こしている状態です。股関節痛だけでなく発熱などの全身症状を認めることが多いですが、症状が乏しいことも稀にあります。放置すると関節軟骨が破壊され関節変形を起こし、成長後の変形性股関節症の原因になります。そのため、緊急治療(抗生剤投与や排膿するための手術)を時期を逸することなく行う必要があります。
  • 下肢の骨折
    ペルテス病では足を引きずって歩く跛行が診断のきっかけになる症状の一つですが、跛行の原因はペルテス病だけではありません。小児の骨折は成人とは異なり分厚い骨膜のおかげで完全にポキッと折れることが少ないと言われています。またレントゲンでも確認できない微小な骨折もあります。これらの場合、跛行ではあるものの歩くことができる子どもは意外に多くいます。「歩ける」イコール「骨折していない」が成立しないのも小児の特徴です。特に転倒などの外傷エピソードがあった時には注意が必要です。

ペルテス病の治療

ペルテス病の治療法は発症年齢と骨頭の壊死範囲によって決まることが多いですが、医療機関によって方針の違いがあり統一されていないのが現状です。治療方針の違いはありますが、治療の最終目的は「成長後に股関節の変形を残さない、痛みのない関節」にすることです。
治療は通常1〜3年を要します。

一般的には、以下の2本柱が治療のコンセプトになります。※施設により異なる場合があります

  1. 体重をかけないようにする(免荷)
    脆弱な骨頭部分を潰さないようにするため
  2. 大腿骨頭を骨盤側の臼蓋という部分で包み込むようにする(コンテイメント)
    脆弱な骨頭部分を臼蓋の中に包み込むことで、骨頭が球形に修復していくのを助ける

どの治療法を選択するにしてもまず股関節の動きを良好にする必要があります。多くの症例で股関節の動きが制限されています。そのため入院し、介達牽引やリハビリを行い関節の動きを改善させるための治療をまず行います。その後、病態に合わせて各治療が行われていきます。

  • 経過観察
    発症年齢が4−5歳未満の小さい子どもで骨頭の壊死範囲が小さい場合には経過観察が検討されることがあります。ただし、定期的に病態を慎重に診ていく必要があります。
  • 装具治療
    患側の股関節を軽度屈曲、外転させ骨頭が臼蓋に包み込まれる位置を維持するために装着します。装具の中には歩行ができないタイプの他に、坐骨に体重がかかるように支柱を設置することで股関節には荷重をかけずに歩行できるタイプのものもあります。
    装具の種類や治療方針によって、自宅から通院・通学したり、肢体不自由児施設へ入所(院内学級)したりします。
    装具は自身で着脱ができるため、装具を外す時間が長い、装具をつけてくれないといった場合には良い治療結果が期待できず次に述べる手術治療を検討することがあります。
  • 手術治療
    装具では十分に骨頭を包み込むことができない症例や発症年齢が9歳以上の場合には手術によって大腿骨頭を臼蓋が包み込めるようにする場合があります。大腿骨を骨切りして包み込みを行う方法と骨盤側を骨切りして包み込む方法、あるいは両方の骨切りを行う方法があります。

ペルテス病相談の目安

日本国内で実施されたペルテス病の多施設調査報告1)によると、症状として痛みがあった症例は91.7%で歩行時痛は83.3%に見られています。

また跛行は96.0%の症例に見られたと報告されていますので、活動性の高い子どもが足を痛がったり、歩き方がおかしい、いつもと違う場合は整形外科を受診することをおすすめします。注意点としては、子どもの場合、股関節に病変があっても膝や足首、大腿部が痛いと感じる・訴えることが多くあります。膝や太ももが痛いという場合にも、股関節に起こるペルテス病のような疾患を念頭に入れて置くことが早期発見には重要です。

<リファレンス>

  1. 金 郁喆、日本小児整形外科学会MCS委員 日本におけるペルテス病の他施設調査報告日小整会誌 (J Jpn Ped Orthop Ass) 18 (1):163-172. 2009. 

  2. 日本整形外科学会 ペルテス病

  3. Influence of passive smoking on the onset of Legg-Calvè-Perthes disease: a systematic review and meta-analysis. Gao H, Huang Z, Jia Z, Ye H, Fu F, Song M, Zhao Y, Chen W. J Pediatr Orthop B. 2020 Nov;29(6):556-566.

  4. Cigarette smoking and its orthopedic consequences. Kwiatkowski TC, et al. Am J Orthop (Belle Mead NJ). 1996. PMID: 8886197 Review.

  5. Legg–Calvé–Perthes disease overview. Armando O. Rodríguez-Olivas, Edgar Hernández-Zamora, Elba Reyes-Maldonado
    Orphanet J Rare Dis. 2022; 17: 125.

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