成人Still病|疾患情報【おうち病院】
記事要約
成人Still病とは、発熱・皮疹・関節症状を主な症状として、全身に炎症が起こる病気です。成人Still病の原因・治療方法・診断のコツなどを、医師監修の基解説します。
成人Still病とは
若年性関節リウマチの全身型と同様の症状が成人にも発症することが知られ、成人Still病としてその概念が広まりました。しかし、世界的にみても希少疾患で、エビデンスレベルの高い報告がありません。
3主徴として、発熱、皮疹、関節症状があり、このほかにリンパ節腫脹、漿膜炎、肝脾腫などがみられます。原因は不明であり、不明熱の鑑別疾患の一つでもあります。診断には他の発熱を来す疾患の除外が必要です。2017年、国内のガイドラインが提唱されました。
成人Still病の原因
原因は不明です。ウイルスをはじめとした何らかの感染の関与が推測されますが、確実なものではありません。特定のHLA(ヒト白血球抗原)との関連も研究されています。また血清サイトカインの増加と抗サイトカイン療法の有効性から、種々のサイトカインの異常産生が病態に関係していると考えられています。
疫学的整理
2010年の調査では本邦の患者数は4,760人、人口10万人あたり3.7人とされています。16歳〜30歳の若年発症が多いとされていましたが、近年は高齢者が増える傾向です。男女比は1:2.6で女性にやや多いとされます。
成人Still病の症状
《1》3つの大きな症状
3主徴とされるのは発熱、皮疹、関節症状であり、次のような特徴があります。
(1)発熱
90%以上にみられ、皮疹とともに初発症状となることが多いとされます。定型的な場合は、夕方から夜間にかけて急激に上昇し39度を超え、比較的早期に解熱して朝には平熱近くになるという弛張熱(スパイク熱)を呈します。
(2)皮疹
発熱とともに初発症状となることが多く、定型的な皮疹は診断的価値が高いとされます。定型的皮疹とは数mm程度の淡紅色の紅斑でこれが散在、ときに一部融合して地図状になります。発熱に伴って出現し解熱とともに消退する傾向がみられます。体幹や大腿、上腕などの四肢近位部に多くみられ、温熱や機械的刺激で誘発される傾向があります。
一方、非定型的皮疹といわれる皮疹も多く報告されています。色素沈着をのこす丘疹、持続する紅斑、皮膚筋炎に類似する紅斑などがあります。持続する皮疹では病理組織学的に表皮角化細胞の壊死という特徴的な所見が見られることがあり、診断に有用な所見です。
(3)関節症状
関節症状も80%以上に認められます。大きな関節の症状が多く、手・膝に好発しそのほか複数の関節に生じます。腫脹、熱感などの関節炎症状を示す場合と、関節痛のみの場合があります。関節症状が初発症状としてみられるのは40%ほどで、発症早期にはみられないことが多く遅れて出現することがしばしばあります。
関節炎は慢性再発性に経過することがしばしばありますが、一般には予後は良好です。ただし、長期に生じた場合には関節の変化が残ることもあります。
《2》その他の症状
咽頭痛が60%と高率です。初期や病勢が強いときにみられ、疼痛が強く食事摂取が困難になることもあります。リンパ節炎は頸部、腋窩などにみられますが、ときに深部リンパ節腫大がみられることもあります。肝脾腫、漿膜炎などのほか、まれですが髄膜炎や神経障害、心筋炎の報告もあります。
主な症状の頻度は2014年の全国調査によると以下の通りです。
臨床症状
発熱 91.6%
関節痛 83.1%
関節炎 50.7%
定型的皮疹 62.2%
咽頭痛 59.3%
リンパ節腫脹 44.7%
脾腫 32.3%
筋肉痛 25.9%
薬剤アレルギー 17.6%
胸膜炎 3.7%
心膜炎 3.1%
間質性肺炎 2.5%
検査所見
赤沈亢進 >40mm/h 68.9%
白血球増加>10000/mm3 79.4%
好中球増加>80% 71.5%
肝機能異常 73.9%
血清フェリチン増加 88.5%
貧血(Hb<10g/dl) 40.2%
抗核抗体陰性 25.8%
リウマトイド因子陽性 20.1%
(Asanuma YF et al. 2015)
成人Still病の診断法
《1》診断基準案
除外診断が重要であり、しばしば不明熱として診断が困難となります。
本邦で長らく使用されている診断基準案の項目を示します。
◆大項目
1.発熱(39℃以上、1週間以上持続)
2.関節症状(2週間以上持続)
3.定型的皮疹
4.白血球増加(10,000/μl以上、好中球80%以上)
◆小項目
1.咽頭痛
2.リンパ節腫脹または脾腫
3.肝機能異常
4.リウマトイド因子陰性および抗核抗体陰性
《診断》大項目2項目以上を含み、合計5項目以上で成人Still病と診断する
《参考項目》血清フェリチン著増(正常上限の5倍以上)は診断の参考とする
《除外項目》1.感染症(特に敗血症、伝染性単核症)
2. 悪性腫瘍(特に悪性リンパ腫)
3.膠原病(特に結節性多発動脈炎、悪性関節リウマチ)
《2》検査異常について
検査値の異常としては白血球増加(好中球増加を伴う)、肝機能異常、血清CRP上昇が高率です。
血清フェリチン(基準値の5倍以上)も特徴的です。非特異的な炎症反応ですが、他の疾患で2,000ng/ml以上になるのはまれなので、診断に有用な所見とされます。
リウマトイド因子や膠原病で陽性になることが多い抗核抗体は通常は陰性です。
《3》重症度診断
まれに重篤な病態を発生することがあります。
重症度については以下の項目によりスコア化されています。
漿膜炎 無0点 有1点
播種性血管内凝固症候群 無0点 有2点
血球貪食症候群 無0点 有2点
好中球比率増加(85%以上) 無0点 有1点
フェリチン高値(3000bg/ml以上) 無0点 有1点
著明なリンパ節腫脹 無0点 有1点
副腎皮質ステロイド治療抵抗性 無0点 有1点
0〜9点
重症度基準 重症:3点以上 中等症:2点以下 軽症:1点以下
成人Still病の治療
多くの場合、治療にはまず非ステロイド炎症薬が用いられますが十分ではないことも多くみられます。全身症状が強く、炎症所見が高度の場合は、副腎皮質ステロイドを使用します。症状の程度に応じて中等量から大量(プレドニゾロン換算で20mg〜60mg/日)、初期量で改善がみられれば3〜4週間継続したのちに漸減します。症状や血清フェリチン値、CRPなどが目安となります。
重篤な内臓病変を伴う場合にはステロイドパルス療法という大量のステロイドを3日間投与する方法、免疫抑制剤、γグロブリン大量療法、生物学的製剤なども用いられます。関節症状が強い場合には関節リウマチに準じた抗リウマチ薬も検討されます。
経過、予後
1回のエピソードのみで再発がない場合もありますが、半数以上は再発を繰り返し、その期間は10年以上に及ぶこともあります。関節症状が慢性に続くこともあり、関節の機能は通常問題ないことが多いですが、まれに関節の強直性変化も報告されています。
生命予後は一般には良好ですが、時に重篤な病態をきたし、死亡率は1〜4%とされます。
まとめ
まれな疾患ではありますが、その概念は広まり、診断基準やガイドラインが整備され、治療方針も明確になってきました。あくまで除外診断が必要なため、慎重に検査をしつつ診断治療にいたります。
<リファレンス>
太田明英ほか 成人Still byou 分類基準の見直しについて.厚労省特定疾患自己免疫疾患調査研究班.平成7年度調査報告書. 1996,160−162
Asanuma YF et al. Nationwide epidemioligical survey of 169 patients with adult Still’s disease in Japan. Mod
Rheumatol 2015:25:393-400