アニサキス症|疾患情報【おうち病院】

記事要約

アニサキス症とは、魚介類の中に寄生したアニサキスが生きたまま体内に入ってくることにより、腹痛、嘔気・嘔吐などの食中毒の症状が出現することです。アニサキス症の原因・治療方法・診断のコツなどを、医師監修の基解説します。

アニサキス症とは

魚介類の中にはアニサキスが寄生していることがあり、これが生きたまま体内に入ってくると食中毒の原因になる可能性があります。アニサキスとは寄生虫の一種で約15mmの白い糸状の体をしています。刺身や寿司などの海産魚介類の生食を原因とする寄生虫症の中で日本で最も多いものがアニサキス症で、年間7000例以上にも及ぶと考えられています。サバやアジ、イワシ、イカなどを食べることで感染することが多く、もし魚介類を食べた数時間後に腹痛、嘔気・嘔吐などの症状が出現した方はアニサキス症を発症している可能性があります。

アニサキス症の感染経路

アニサキスの成虫はクジラやアザラシなどの海産哺乳類の胃に寄生し、寄生された生物の糞にアニサキスの卵が含まれ、排出時に海中へ拡散されます。海中でふ化したアニサキスの幼虫はオキアミなどの餌になり、さらに魚介類がオキアミを食べることでアニサキスは魚介類の体内に移動し寄生します。アニサキスの幼虫が寄生した海産魚介類の生食あるいは加熱不十分な状態での摂取により、幼虫がヒトの消化管の壁に刺入することで感染します。原因となる主な海産魚介類はサバ類が最も多く、カツオ、イカ、マグロ、イワシ、タラ、オヒョウ、カレイ、アイナメ、ホッケ、アジ、サンマ、サケ、マス、タコ、イカなど様々です。天然のものは寄生率、寄生数ともに多いとされています。

アニサキス症の症状

アニサキス症の症状は発症部位によって4つに分類されます。

胃アニサキス症

胃アニサキス症は加熱処理されていない魚介類を食べたことによりアニサキスが口から体内に入り、胃の壁に突き刺さることで発症します。食後数時間~十時間後に、激しい上腹部痛、嘔気・嘔吐などの症状が現れます。アニサキスが突き刺すことによる痛みではなくアニサキスが刺さったことで胃壁でアレルギー反応が生じ、症状が出現すると言われています。逆に胃にアニサキスがあっても無症状のまま経過する人もおられます。

腸アニサキス症

腸アニサキス症は加熱処理されていない魚介類を摂取後、半日から数日程度かけてアニサキスが腸に到達し症状が出現します。下痢や血便を伴わない激しい下腹部痛が特徴ですが胃アニサキス症と同様に嘔気・嘔吐を伴うことがあります。症状が悪化すると腸閉塞や腸穿孔、腹膜炎などの合併症を引き起こす場合があります。

腸管外アニサキス症

アニサキス症の感染部位の内訳は胃アニサキス症 95.5%、腸アニサキス症 4%、腸管外アニサキス症 0.47%であり、腸管外アニサキス症は非常に稀な病気です。アニサキスが消化管を穿通してしまい、消化管から腹腔内へ脱出したアニサキスは大網、腸間膜、腹壁皮下などに移行します。寄生した部位により症状は異なり肉芽腫を形成することもあり、寄生部位に応じて適切な処置を行う必要があります。

アニサキスアレルギー

アニサキスが体内に入ることによってアレルギー症状が誘発されることがあります。アニサキスに対するⅠ型アレルギーで生きたアニサキスの感染が感作に必要であると考えられています。アニサキスが消化管の粘膜に侵入する際に分泌物が放出され、その分泌物への感作が原因になると推測されています。主な症状は生魚を食べた後に起こる蕁麻疹です。重度の場合は血圧降下や呼吸不全、意識消失などのアナフィラキシー症状が出ることもあります。

アニサキス症の検査

問診の上、アニサキスが胃にいると思われる場合には上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)を行い、大腸にいると疑われる場合は下部消化管内視鏡検査(大腸カメラ)を行います。アニサキスを認めた場合は、その場で同時に除去する治療を行うことが出来ます。胃を越えて小腸にいると思われる場合には、腹部超音波検査(腹部エコー)、X線検査などを行いますが胃よりも奥にアニサキスがいることを証明するのは極めて困難です。内視鏡検査では発見しきれない部位に感染している場合、血清検査を行い、抗アニサキス抗体を検査することがあります。アニサキスアレルギーに対してはアニサキス特異的IgE抗体検査を行うことが多く、これは治療経過をみることも可能であり抗体価の数値が低下していくかどうかを調べます。抗体価が低くなればアレルゲンが体内に入った場合にアレルギー反応が出現する可能性が低くなっていることを表します。

アニサキス症の治療法

病歴より胃アニサキス症が疑われる場合は内視鏡検査を行います。胃内に約15mmのやや太めの糸状の白色の虫体が胃壁に刺入し周辺の胃粘膜は発赤し腫れているのが認められます。生検鉗子という内視鏡の器具を用いて虫体が千切れることがないように虫体を把持し、摘出すれば治療は完了です。

胃アニサキス症は内視鏡検査で虫体を認めれば9割以上は摘出できます。小腸のアニサキスは内視鏡によって除去することができません。腸アニサキス症は腸壁の浮腫により腸閉塞をきたしたり、腸に穴が開き(腸穿孔)により腹膜炎を生じた場合は開腹手術を行うことがあります。腸閉塞症状や腹膜炎症状がなければ、絶食や点滴、鎮痛剤などによる対症療法を行いながら幼虫が死亡することによって症状が軽快するのを待ちます。通常、感染から数週間以内には自然に消化管内から消失します。

アニサキスアレルギーの治療は現在、主に2つの方法が用いられています。1つ目はアニサキスアレルゲンの除去です。これはアニサキスに限ったことではなく食物アレルギーにおいて原則的な治療法であり原因を特定し、原因食物を除去することが大切です。そのためアニサキスのアレルゲンを含む可能性がある食材を完全除去します。つまり、一定期間、すべての海産物を食べないということです。アレルゲンの曝露を避けることで体内のアニサキス特異的IgE抗体の量を減らすことにつながり、体内に侵入してきたアレルゲンに対する体の過剰な免疫反応を避けられるようになります。

そして2つ目は少量ずつのアレルゲンに体を慣れさせる治療法です。小児科の領域では牛乳や鶏卵、ピーナッツなどの食物アレルギー患者を対象に経口減感作療法という治療が行われています。徐々に体内に取り込むアレルゲンの量を増やしていき、少しずつアレルゲンに体が慣れるようにします。こうした治療を続けることで、万が一、誤ってアレルゲンが体内に入っても生じても症状が軽くなったり、出なくなったりする可能性があります。治療段階で万が一アナフィラキシーを生じることもあるため、医師が緊急対処を出来る環境下で治療を進めることが望まれます。

アレルギー症状が生じた際は、症状が軽度の場合には抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬を投与し、重症の場合にはステロイドによる治療を行います。

アニサキス症の予防法

鮮魚を丸ごと一尾で購入したらよく冷やして鮮度を保ちながら持ち帰り、すぐに内臓を取り除くことが大切です。アニサキスは主に内臓の表面に寄生していますが、時間の経過や鮮度の低下とともに筋肉内へ移動することが多くなります。筋肉は可食部となるため、購入後は鮮度が落ちないように氷や保冷剤でよく冷やしましょう。また魚の内臓を生で食べることは避けた方が良いでしょう。-20℃以下で24時間以上経過した場合、アニサキスは死滅するためこの温度で冷凍されたものを解凍した場合には安全に食べることが可能です。また、十分に加熱処理することも大切です。中心温度が70℃以上になるように加熱するか、中心温度が60℃以上を1分間以上加熱をすることでアニサキスが死滅します。シメサバによるアニサキス症は多く報告されていますが、シメサバを作る場合、可能な限り早く内臓や内臓周りの筋肉を除去し冷凍をすることで、アニサキスに感染するリスクを下げることができます。アニサキスアレルギーがある場合には、アニサキスが死滅していたり、完全に除去されていても症状を起こすことがあるため、寄生している可能性のある魚介類は避けることが望まれます。

<リファレンス>

厚生労働省 アニサキス食中毒に関するQ&A
国立感染症研究所 アニサキス症とは
日本食品衛生協会 食中毒予防必携第3版
文光堂 寄生虫学テキスト
アニサキスアレルギーによる蕁麻疹・アナフィラキシー
IASR Vol. 38 p.72-74: 2017年4月号
食物アレルギー診療ガイドライン 2016

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