つらい咳の我慢は禁物!40代から増えてくる「大人の喘息」とは【医師にインタビュー】

記事要約

“気管支喘息は子供がかかる病気”と思われる方も多いと思いますが、大人になってはじめて喘息を発症する人は少なくありません。「大人の喘息」の治療法や病院を探すポイント、日常生活での注意点などについて医師にインタビューをしました。お話をお伺いしたのは山口先生です。

喘息について

喘息とはどのような病気なのでしょうか

喘息とは、気道(空気の通り道)が炎症によって狭くなる病気です。
息を吸い込みづらくなるイメージをお持ちの方が多いのですが、その逆で、息を吐き出すことが難しくなります。
主な症状は、咳や喘鳴(ぜんめい:聴診でヒューヒューやゼーゼーといった音がする)、呼吸困難などです。喘息発作は急に起こり、またそれが繰り返されることが特徴です。最悪の場合死に至る病気です。

気道の粘膜はとても敏感で、さまざまな刺激によって炎症がおこります。気道に炎症がある状態が慢性的に続くと、気道の壁が厚くなってしまい元の状態に戻すことが難しくなります。

喘息発作を起こす要因としては、アレルギー(ハウスダストや花粉、動物の毛)が多く、その他に風邪などの感染症、喫煙、ストレス、乾燥、寒暖差、気圧の変化、運動、肥満などきっかけは様々です。 
日中は比較的安定していても、夜や早朝に発作が起こりやすいことも喘息の特徴です。

風邪の咳だと思われていた方でも、詳細に問診をしてみると気管支喘息の症状と当てはまり、呼吸器機能検査で喘息と診断されるケースもあります。

「咳喘息」は喘息と同じですか

咳喘息の一部は、喘息の手前の状態と考えてよいと思います。
咳喘息は呼吸機能検査では異常はみられず、また喘息のような喘鳴はありませんが、喘息と同じく気道に炎症があるため長引く咳が特徴です。気道過敏性が軽度亢進し、気管支拡張薬が有効な疾患です。

日本では咳が長引いている方(慢性咳嗽)の半数以上が咳喘息との報告もあります。また、咳喘息の患者さんのうち30%程度が喘息に移行してしまうと考えられています。

大人の喘息の特徴について

小児喘息の多くは乳幼児期に発症し、思春期までには症状が落ち着きます。ただ小児喘息の患者のうち3割程度は大人の気管支喘息に移行すると言われています。

小児喘息はアトピー型が多く、喘息を起こす要因となるアレルゲン(ハウスダストや動物の毛、花粉など)を特定できることが多いのが特徴です。

一方、大人の喘息は非アトピー型であり喘息の原因が特定できないことが多くなります。
生活習慣(喫煙、飲酒、肥満)やストレス、ほこりや細かい粉を吸い込みやすい職場環境、アレルギー体質、気道の炎症がおこりやすい体質など要因が複雑になるため、大人の喘息の原因は個人差が大きくなります。

大人の喘息の患者さんは男性よりも女性が多く、40~60歳代が多い傾向にあります。喘息というと子供の病気というイメージを持たれる方が多いと思いますが、大人になってから初めてかかる人も少なくありません。6~8割は大人になってはじめて喘息を経験されています。

大人の喘息は、小児喘息にくらべると寛解(ほとんど症状がでない状態)できる人は少ない傾向にあります。薬の服用などでコントロールを続けていれば普通の生活を送ることは十分にできますが、風邪などの感染や、煙を吸ってしまったなど何らかのきっかけでまた発作が起きてしまう可能性はあります。

病院の受診について

病院へいく目安はありますか

市販の咳止め薬では喘息やせき喘息の症状はよくなりません。市販薬を数日飲んでも改善されない場合には早めに医師の診断を受けてほしいですね。

また、日常生活に支障が出ている場合(以下の様な症状)は医師からみると普通の状態とは言えませんので、早めの受診をおすすめします。

  • 息が苦しいほどの咳が出る
  • 夜、布団に横になると息苦しさを感じる
  • 咳で目が覚めてしまう

病院の探し方のポイント

喘息や咳喘息かなと思ったら、『呼吸器内科』の受診をおすすめします。
喘息治療は新しい薬が多く出てきており、ここ20年ほどで大きく変わりました。呼吸器内科専門の医師の方が最新の情報に触れており、より適切な診断・治療の提案ができる可能性が高いと思われます。

咳には、喘息のほかにも、喉の癌や肺のがんなど、他の大きな病気がかくれている可能性もあります。聴診やレントゲンなどの情報も必要となるためオンライン診療だけで病気を診断するのは難しいです。対面診療を受けるようにしてください。

診察時に医師にどんなことを伝えたらよいのでしょうか

症状を伝えるポイントは以下の項目を参考にしてください。

  • 咳の症状(痰がからむか、息苦しさはあるか、喘鳴の有無)
  • どんなときに咳がでるか(咳が出る時間帯、運動をした時、寒暖差など)
  • いつから(何日前、何週間前から)
  • 頻度(週に何回、毎日)
  • 思いつくきっかけ(ストレス、気候、運動、アレルゲン) 

大人の喘息をお持ちの方々は子育てやお仕事が忙しい世代のため、つらい咳が続いていてもやり過ごしている人が多いと思います。早めに治療を始めた方が気道へのダメージも軽くすみ、早くよくなります。薬も少なく、治療期間も短くすることができるので、しつこい咳やつらい咳がでたら我慢をせずに早めに医師の診断をうけるようにしましょう。

喘息の治療について

喘息の治療薬は「発作治療薬」と「長期管理薬」の2つに大きく分けられます

発作治療薬(リリーバー)

発作が起きているときは速やかに気道を拡張させ、炎症を抑えて呼吸を楽にする必要があります。
気管支拡張薬の吸入が使われることが多く、重症の場合はステロイド点滴も追加されます。ステロイドの内服や点滴は通常では発作が起きた時のみに使用する薬です。

日頃の予防を怠り発作治療薬に頼りすぎると、気道の壁が厚くなり長期的にみて発作が起こりやすくなり重症化しやすくなってしまいます。

長期管理薬(コントローラー)

気道の炎症を抑え、喘息発作を起こさないようにする治療薬で日常的に服用します。症状によりますが、長期的に服薬をする必要があります。

長期管理薬の基本は吸入ステロイド薬です。
吸入ステロイド薬が導入される以前の1995年の喘息の死亡者数は約7000人でしたが、近年は1000~2000人へ減少しています。
「ステロイド」というと副作用が怖いと思われるかもしれませんが、吸入をして気道へ直接作用するため全身への影響は軽微です。薬の量も少ない為、大きく心配をする必要はありません。

喘息は治療のガイドラインがステップ1~4で明確にされており、症状に合わせて治療方針が決められています。症状に応じて少しずつステップダウンし薬の量を減らしていきます。
例として「6か月間、喘息発作がなければお薬をひとつ減らしましょう。」など医師から説明があるはずです。医師側もきちんと治療の見通しを伝える必要がありますね。

治療の基本である吸入ステロイド薬の他には、症状などに合わせてアレルギーの薬、気管支拡張薬、重症の場合には抗体療法などを組み合わせます。現在は、気管支拡張薬のみを喘息治療に用いることは禁止されており、吸入ステロイド薬をメインに治療を行います。

喘息治療で大切なことは何ですか

他の多くの病気は、熱や痛みなど症状があるときに治療をしますが、喘息は症状が落ち着いている時にも長期管理薬(コントローラー)を服用し治療を継続する必要があります。

  • 喘息をいかに起こさせないか
  • 喘息が起こらない期間をどれだけ長く保てるか

がとても大切になります。

状態が安定していると通院や服薬を後回しにしてしまいたくなるかもしれませんが、自己判断で治療をやめてしまうのは避けたいですね。良い状態が続けば、薬を少しずつへらしゼロにすることもできますので、症状がなくても医師の指示通り治療を続けるようにしてください。

日常生活で気を付けるポイント

喘息治療の目標は、「普通の人と同じ生活を送れるようにする」ことです。発作が起こらない期間を出来る限り長くするようにします。

喘息の原因となるアレルゲン(ハウスダストやダニ、ペットの毛、花粉など)が特定されていれば、除去するようにしましょう。スギとダニであれば減感作療法(舌下免疫療法)という選択肢もあります。

コロナ禍になり加湿器を使いはじめた方も多いと思いますが、カビも喘息の原因となります。加湿器や水回りなど、カビの生えやすい所は特に注意して住環境は清潔に保つようにしましょう。

喘息の方は、禁煙を強くおすすめします。またアルコールの摂取を控えることや肥満の解消も喘息の改善に効果があります。気道を刺激しないために、風邪をひかないようにする、運動をする前には予防的に吸入をする、寒い時期に温度差がある屋外に出る時はマスクをするなど、工夫をするようにしましょう。

気道はとても繊細で回復しにくい器官です。
たかが咳と思わずに、ご自分のために病院にかかることを後回しにしないでほしいと思います。

<リファレンス>

日本アレルギー学会 喘息治療ステップ 

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