胆道閉鎖症|疾患情報【おうち病院】
記事要約
胆道閉鎖症とは、肝外胆管が閉塞し、肝臓から十二指腸への胆汁排泄が出来ない病気です。手術なしでは多くが死亡にいたる難病で、現時点では病因についての一定の見解は得られていません。胆道閉鎖症の症状や治療などについて、医師監修の基解説します。
胆道閉鎖症とは
肝臓で作られた胆汁が十二指腸に流れるまでの通る道を胆管といいます。
胆道閉鎖症は新生児または乳児期早期に発症する原因不明の硬化性炎症により肝外胆管が閉塞し、肝臓から十二指腸への胆汁排泄が出来ない病気で、手術なしでは多くが2 歳までに胆汁うっ滞性の肝不全で死亡する難病です。
胆汁を排泄できないため肝臓に胆汁が溜まり、皮膚や白目が黄色くなる黄疸が現れ、さらに病気が進行すると肝臓の組織が破壊され肝硬変に至ります。
約1万人に1人と稀な病気で、女児の方が男児の約2倍多く発生するとされています。遺伝性は明らかではなく、合併奇形の頻度は全体では約10%程度です。特に頻度の高い合併奇形は、多脾症候群や無脾症候群など脾臓の奇形、心大血管奇形、十二指腸前門脈、内臓逆位症、腸回転異常症などが挙げられます。
胆道閉鎖症の原因
これまで様々な研究結果が報告されていますが、現時点では病因についての一定の見解は得られていませんが、先天的な発生異常というよりは、一度形成された胆管が何らかの原因で二次的または続発性に閉塞することが主体と考えられています。
胆道閉鎖症の病因として、胆管板形成異常(ductal plate malformation:DPM) を含む発生異常説、免疫異常説、ウイルス感染説、膵胆管合流異常説などの複数の仮説が提唱されています。
胆管板形成異常説:胆管板は胎生7〜8週頃から形成される肝前駆細胞で、これがリモデリングされて成熟した管状の肝内胆管になります。この過程で何らかの原因によって障害が起こり出生後にも残存するという説。胆道発生関連遺伝子の変異と胆道閉鎖症との因果関係は不明。
免疫異常説:ウイルス感染で生じた胆管障害がきっかけとなり、異常な自己免疫反応が惹起されるという説。病理組織学的検討などでは炎症性変化はTh1優位の炎症反応であることが示されていますが、詳細は不明
膵胆管合流異常説:膵管と胆管が十二指腸壁外で合流する先天性の奇形で膵液が胆管内に逆流して様々な障害を引き起こす。
胆汁の流れる管である胆管が閉塞する病気ですが、その閉塞部位と形態から型分類がなされています。
欧米では従来、肝門部胆管と腸管との吻合の可否により、吻合可能型と吻合不能型とに分類する方法が一般的でしたが、日本ではさらに詳細な分類を行うための病型分類が用いられています。この中では、肝外胆管の閉塞部位により、IおよびIcyst型(総胆管閉塞型)、II型(肝管閉塞型)、III型(肝門部閉塞型)の基本病型に分類されます。III型が約85%と最も多い病型で、次いでI及びIcyst型、II型となります。
胆道閉鎖症の症状
新生児から乳児期早期に発症し、その病態は進行性です。
胆道閉鎖症の主な症状は生後14日以降も持続する遷延性黄疸、淡黄色便、濃黄色尿、肝腫大ですが全ての症状が揃わないこともあります。便色異常は本疾患に最もよく見られる症状の一つであり、これを肉眼的に評価するツールとして母子健康手帳に便色カードが添付されるようになり活用されています。
黄疸は肉眼で認められる所見ですが発症初期には認めないこともあり、 便の色調も出生後しばらくは黄色であったものが生後2、3ヶ月程経過するに従い、徐々に薄くなり淡黄色になることがあります。
尿の黄色調が濃くなり褐色になるのはビリルビン尿であり、閉塞性黄疸の症状の一つです。肝腫大はほぼ全例に認められる所見ですがこれも初期には目立ちません。
このように、初期には全身状態が良いことが多く、生後3~4カ月を経過すると黄疸の強くなり、体重増加不良、肝脾腫、腹壁血管の怒張、腹水貯留、腹部膨満などが次第に顕著となります。
最も注意を要する徴候の1つとしてビタミンK吸収障害による病的出血が約1割に観察されます。胆汁うっ滞に伴い、脂溶性ビタミンの吸収障害を伴う場合にビタミンK欠乏性凝固障害を来たし出血を起こします。出血部位としては頭蓋内、消化管、皮下が多く、約半数は頭蓋内出血で、神経学的後遺症が残る可能性もあります。
胆道閉鎖症の診断
便色異常に関しては2012年度から胆道閉鎖症のスクリーニングを目的として母子健康手帳に便色カードが綴じ込まれており、母親への啓発と早期受診のきっかけとしての役割を果たしています。
また、ビタミンK吸収障害の結果生じる頭蓋内出血や吐下血、採血時の止血困難などを契機として発見される場合もあります。出生前診断にて肝門部に囊胞性病変が指摘され、胆道閉鎖症や先天性胆道拡張症が疑われ鑑別を要することもあります。
検査所見としては、血清総ビリルビン値の上昇、直接型ビリルビン値の上昇(1.5 mg/dl以上)、直接型対総ビリルビン比(D/T比)20%以上、AST、ALTおよびγGTP値など肝機能障害を示す検査値の上昇、リポプロテイン-X陽性等、検査値の異常が認められます。
また腹部超音波検査(エコー検査)では肝門部の高エコー像(triangular cord sign)や胆嚢萎縮像などが見られ、 確定診断には肝外胆管の直接造影所見と肉眼的所見の確認が必須です。
<診断基準>難病情報センター胆道閉鎖症(指定難病296)より参照
以下のフローに従って診断を行い、胆道閉鎖症病型分類のいずれかに当てはまる肝外胆道の閉塞を認めるものを本症と診断する。
胆道閉鎖症の診断基準
A.症状
黄疸、肝腫大、便色異常を呈することが多い。
新生児期から乳児期早期に症状を呈する。
B.検査所見
- 血液・生化学的検査所見:直接ビリルビン値の上昇を見ることが多い。
- 十二指腸液採取検査で、胆汁の混入を認めない。
- 画像検査所見
1)腹部超音波検査では以下に示す所見を呈することが多い。
《1》triangular cord:肝門部で門脈前方の三角形あるいは帯状高エコー。縦断像あるいは横断像で評価し、厚さが4mm以上を陽性と判定。
《2》胆嚢の異常:胆嚢は萎縮しているか、描出できないことが多い。また胆嚢が描出される場合でも授乳前後で胆嚢収縮が認められないことが多い。
2)肝胆道シンチグラフィでは肝臓への核種集積は正常であるが、肝外への核種排泄が認められない。
<診断のカテゴリー>上記A.の症状を呈し、B.1から3の検査で本症を疑う。 - 確定診断は手術時の肉眼的所見あるいは胆道造影像に基づいて行う。胆道閉鎖症病型分類における基本型分類の3つの形態のいずれかに当てはまるもの。
胆道閉鎖症の治療
胆道閉鎖症の疑いがある場合は、速やかに開腹又は腹腔鏡による胆道造影を行い、確定診断を行います。その後、肝外胆管を切除し、肝門部と空腸を吻合する肝門部空腸吻合術(葛西手術)を行います。
手術では肝臓の外の閉塞した胆管を切除し、その断面に存在する細い胆管から流出する胆汁が腸に流れ込むようにします。
葛西手術の実施は生後60日以内が望ましく、生後60日以内に肝門部腸吻合術を実施すると黄疸消失率は60%とされています。生後60日を過ぎると肝臓の線維化が進行し、術後の胆汁排泄効果が減弱します。また肝内胆管も肝外胆管と同様に炎症性閉塞性病変によって進行性に消失するため、葛西手術に根治性はありません。
そのため、早期に手術することが望ましいと考えられていますが、葛西手術によっても胆汁排泄が十分に行われない場合や、すでに肝障害が進行している場合、術後に肝障害が進行した場合には肝移植が有効とされています。
日本で行われている小児肝移植の約6割は胆道閉鎖症を原疾患とするもので実数として年間70〜80例です。日本の場合、小児肝移植手術は大多数が両親など近親者を臓器提供者とする生体部分肝移植です。
胆道閉鎖症の予後
術後も肝障害が進行する例や手術未症例は、肝移植を行わなければ肝不全や食道静脈瘤破裂などにより死亡します。胆道閉鎖症手術により黄疸消失が得られるのは全体の約6割程度であり、数年経ってから肝機能が悪化し肝移植に至る場合もあります。
全国登録の集計では10年自己肝生存率が53.1%、20年自己肝生存率が48.5%であり、定期的な検査や経過不良例での適切なタイミングでの肝移植が重要となります。また、術後の続発症としては胆管炎と門脈圧亢進症があります。
胆管炎は術後早期に発症すると予後に大きな影響を及ぼすとされていますが、全体の約4割に胆管炎の発症が認められます。門脈圧亢進症を起こすと胃食道静脈瘤と脾機能亢進症を伴います。静脈瘤が破裂すると大量の消化管出血を来し、脾機能亢進症は血小板をはじめとする血球減少を来します。
<リファレンス>
難病情報センター胆道閉鎖症(指定難病296)
胆道閉鎖症診療ガイドライン 日本胆道閉鎖症研究
胆道閉鎖症の病因に関する最近の知見Organ Biology VOL.18 NO.3 2011 259(5)