カンジダ膣外陰炎|疾患情報【おうち病院】

記事要約

カンジダ膣外陰炎とは真菌であるカンジダ菌の膣内の増殖に伴う膣粘膜および外陰皮膚の炎症のこと。カンジダ膣外陰炎の原因・症状と治療方法・改善対策を解説

カンジダ膣外陰炎とは

カンジダ膣外陰炎とは、真菌であるカンジダ菌の膣内の増殖に伴う膣粘膜および外陰皮膚の炎症のことをさします。

原因

膣内の細菌叢において、カンジダが増殖することで発症すると考えられています。

原因菌として、Candida albicans(C.albicans)が大部分をしめ、他にはC. glabrata、C.parapsilosisなどが知られています。C. albicansに比較し、C. glabrata, C. parapsilosisは症状がやや穏やかなことが多いとされています。元々は腸内や皮膚に存在するそれらの菌が、膣内へ存在範囲を広げていくことによって、膣内に常在するようになると考えられています。そして、性成熟女性では、約25%の女性がカンジダ菌を膣内の正常細菌叢に保有していると考えられています。

カンジダの増殖が起こりやすい環境(リスク因子)として、以下のようなものが挙げられます。

(1)糖尿病

特に、血糖コントロールが不良のケースにおいて、カンジダ膣外陰炎が起こりやすいことが分かっています。

(2)抗生剤の使用

別の疾患のために抗生剤治療が行われた後、とりわけブロードスペクトルの抗菌薬が使用されたケースにおいて、カンジダ膣外陰炎が起こりやすいと考えられています。抗生剤の使用により、膣内の正常細菌叢のバランスが崩れ、カンジダ菌が増殖しやすくなるためです。

(3)女性ホルモンレベルの高さ

女性ホルモンレベルの低い、閉経後の女性や思春期前の女性にはあまり見られないことが分かっています。反対に、妊娠中の女性、閉経後ホルモン補充療法が行われている女性に、カンジダ膣外陰炎が比較的よく見られることが分かっており、女性ホルモンレベル高値との関連が示唆されています。

(4)免疫抑制状態

ステロイド薬や免疫抑制剤の使用、あるいはHIVの患者において、カンジダ膣外陰炎が起こりやすいことが分かっています。

(5)遺伝的要素

再発性カンジダ膣外陰炎の患者において、マクロファージと樹状細胞の細胞膜タンパクに関連する遺伝子多型がみられたという報告があります。今後さらに解析が進むことにより、関連する遺伝子情報が、将来の治療や予防に有用となりうる可能性があります。

相談の目安

帯下の増量や、膣・外陰部の掻痒感がある場合、医療機関では、掻痒部分の皮膚所見、膣分泌液の検査により、カンジダ膣外陰炎も含めた原因検索をすることができます。

また、一般医薬品の使用後、症状の改善が乏しい場合には、原因検索のための受診が推奨されます。

疫学的整理

カンジダ症は、膣炎の原因として2番目に多いものと考えられています(最多は細菌性膣炎)。実際の罹患率の算出は、以下の理由から困難と考えられています。

  • 性成熟期女性、閉経期女性、思春期前の女児それぞれのグループにおけるカンジダの膣内正常細菌そうに占める割合は10~20%, 6~7%, 3~6%と言われている。
  • 受診をせずに一般医療品を用い自己判断で治療をしている女性も多い。
  • 内診および自覚症状から培養、顕鏡検査を行わずに、経験的治療をされているケースが多い。
  • 培養検査の結果により、過剰治療をされていることもある。

一般的には、閉経期、思春期前の女児に起こることは少なく、性成熟期の女性に比べ、過剰診断や治療が行われている可能性が示唆されています。

海外動向

米国CDCは、外来診療において年間推定約1.4億人の患者がカンジダ膣外陰炎と診断されているが、実際の罹患数は定かではない、としています(1)。米国では、OTCと呼ばれる処方箋がなくとも個人で購入が可能な薬剤の種類が幅広く、自己判断でOTC薬を導入する例が多いからではないかと考えられています。

日本でも、カンジダ膣外陰炎に対する一般医療品は普及しつつあり、罹患率については米国と同じように分かりにくい状況かもしれません。

それぞれの国において、一般医療品の普及は、患者にとっては望ましい状況かもしれない一方で、誤った自己治療がなされる可能性も、懸念されています。

カンジダ膣外陰炎について啓蒙の済んだ600人の女性のうち、カンジダ膣外陰炎の経験のない女性が、症状が出現した後で正しく自己診断できた割合はわずか11%、カンジダ膣外陰炎を経験した女性の場合は35%だったという報告(5)もあり、症状のみによる医療者以外の診断が不正確になりがちである事がうかがえます。 

再発性カンジダ膣外陰炎(年に4回以上カンジダ膣外陰炎を繰り返す状態のことをさします)は、患者のQOLを低下させる状態として認識されていますが、治療レジメを比較するランダム化試験はこれまであまり行われておらず、日本のみならず海外においても、個別に経験的治療が施されている現状があります。

再発性カンジダ膣外陰炎の有病率については年々増加傾向にあり、1985年から2016年までの間は138億程であった罹患人口が、2030年には158億程に増加する可能性があるという報告もあります(6)。 

内服治療のフルコナゾールについて、米国のデータベースを元にまとめられた2020年5月の報告では、妊娠初期の同薬内服により、児の顔面、心臓、及び筋骨格系の先天異常の発現リスクが30%程上昇する可能性が明らかになり、注意喚起されました(7)。

妊娠はカンジダ膣外陰炎のリスクファクターでもあるため、特に一般医療品として同薬が普及している国においては、自己判断で漫然と使用することへの懸念や、妊娠への影響について、医療従事者以外に対しても啓蒙が急務と考えられます。 

症状(潜伏期間・感染経路)

特徴的な症状として、膣粘膜及び、外陰皮膚の掻痒感が挙げられます。帯下の量については、多いことも少ないこともありますが、多い場合には「白く濃厚な」「カッテージチーズのような」といった表現がよく用いられます。

掻痒が著しく、皮膚の発赤や痛みが出現しているような場合には、排尿障害(排尿時痛など)が発生することもあります。

診断の方法

症状と内診所見のみで典型的な状態の時には、それらの情報のみで経験的に投薬がされることもありますが、顕鏡法や培養法を併用することにより、より正確な診断が得られます。

【顕鏡法】

スライドグラスに生理食塩水もしくは10%KOH液を1滴落とした上に膣分泌物を混ぜ、カバーグラスをかけて、顕微鏡下に標本を観察する方法です。分芽胞子や仮性菌糸体を確認することができますが、C.glabrataの場合は、仮性菌糸体を形成しない特徴があるため、注意することが必要です。

顕鏡法は、カンジダ菌糸や芽胞の確認のみならず、細菌増量の程度、血球の有無、トリコモナス虫体などを同時に確認することができるという点で、有用な検査と言えます。

基本的には、複雑な症例でなければ、

  • 診察時の皮膚所見(発赤、皮膚の亀裂等浅い損傷など)
  • 典型的な帯下の増量
  • 顕鏡下に菌糸を認める

上記によって診断が可能で、培養検査は、全ての患者に必要な検査ではありません。ただし、下記のようなケースについては、培養検査を行い正しい診断を得るべきと考えられています。

  • 顕鏡下に菌糸を認めない:芽胞のみ認める
  • 再発あるいは治療抵抗性、遷延症例

【培養法】

膣分泌液を特殊培地に塗布培養し、菌の存在を確認します。培地には、サブローブドウ糖寒天培地(標準的分離培地)、クロモアガー(TM)カンジダが使用されます。その他簡易培地として、水野・高田培地(MT培地)、CAーTG培地、カンジダ培地Fなども用いられます。

顕鏡法、培養法どちらの方法も、結果を解釈する際には、一般用医薬品使用歴が検査結果に影響を与えることを考慮しておくべきです。

治療

初期治療としては、数種の膣剤・外用薬の選択肢があります。

膣剤は、大きく分けて

  • 連日投与法(クロトリマゾール(エンペシド®︎100mg)、硝酸ミコナゾール(フロリード®︎100mg)、硝酸オキシコナゾール(オキナゾール®︎100mg))
  • 週1回投与法(硝酸イコナゾール(アデスタン®︎600mg)、硝酸オキシコナゾール(オキナゾール®︎600mg)の2種類の治療の選択肢があります。連日投与法の製剤は、1日1回、1回1錠、6日間連続使用が標準的な使用方法です。週1回投与法は、上記製剤の場合、アデスタン®︎は1回2錠、1週1回投与、オキナゾール®︎は1回1錠、1週1回の使用が標準的な使用方法となります。

連日投与法の方が治療効果がやや高いとされていますが、膣剤の自己挿入が難しい場合、抵抗がある場合、患者の通院困難など、状況や患者の希望に合わせて選択されます。膣剤は適正な位置(膣円蓋部)に挿入する必要があるため、自己挿入を行う場合には、挿入方法について十分な指導がある事が望ましいとされています。

膣円蓋部に正しく挿入された後も、膣剤が膣外へ落下し、治療効果が乏しくなることも時にあるため、注意が必要です。

外陰部の症状については、クリーム製剤を用います。日本で広く使用されている主な薬剤は以下の通りです。

  • クロトリマゾール(エンペシドクリーム®︎1%)
  • ミコナゾール(フロリードD®︎クリーム1%)
  • 硝酸イソコナゾール(アデスタン®︎クリーム1%)
  • 硝酸オキシコナゾール(オキナゾール®︎クリーム1%)

標準的な使用方法は、1日2〜3回、5〜7日間とされています。炎症症状が大陰唇より外側に存在している場合には、軟膏やローションが必要になることもあります。

再発例や治療抵抗性のケースにおいては、C. albicans以外の種の可能性を考慮し、

  • 初回投与と異なる薬剤の使用
  • 薬剤使用期間の延長
  • 内服治療(フルコナゾール(ジフルカンカプセル®︎(50mg))(4)

を検討します。抗菌薬の中には、C. glabrataに対してMICが比較的高くなっているという報告もあり、薬剤の変更により治療効果が得られる可能性があります。

内服薬フルコナゾールは妊娠、授乳中の女性へは禁忌薬であり、処方時には注意が必要です。

鑑別疾患

掻痒感が特徴的な疾患であるにも関わらず、同主訴からカンジダ外陰膣炎と診断される症例は半数未満程度であるとされています。

感染症以外の原因としては、接触物に対するアレルギー反応よる掻痒感、接触性皮膚炎、扁平苔癬など可能性があります。

感染症では、トリコモナス膣炎、あるいはカンジダ症と細菌性膣症との合併といった状態についても考えられます。

膣内phが鑑別診断の助けになる事が知られています。カンジダ外陰膣炎では、phが上の感染症以外の原因と同じく正常(4~4.5)くらいであるのに対し、カンジダ以外の感染症においては、phが4.5を上回る事が多いのですが、日本の外来診療においては膣炎診断のための膣内のphを測定する医療器具は普及していません。

症状及び診察所見がカンジダ膣外陰炎の典型的なものではない場合、あるいは初期治療導入後治療導入後効果が乏しい場合には、鑑別疾患の可能性を考慮し、顕鏡検査、培養検査を加えることが肝要です。

発症・再販の予防

 以下の方法は、確実な方法とは言えませんが、予防につながる可能性があると考えられています(1)。

  • 外陰部に当たるものはなるべく綿製品を心がける。
  • 必要以上に抗生剤を使用しない 

<リファレンス>

(1)CDC, fungal disease

(2)産婦人科診療ガイドラインー婦人科外来編2020

(3)UpToDate Candida vulvovaginitis: Clinical manifestations and diagnosis

(4)ファイザー

(5)Ferris DG, Nyirjesy P, Sobel JD, et al. Over-the-counter antifungal drug misuse associated with patient-diagnosed vulvovaginal candidiasis. Obstet Gynecol 2002; 99:419.

(6)The Lancet Infectious Diseases

(7)Oral fluconazole use in the first trimester and risk of congenital malformations: population based cohort study. Zhu Y, Bateman BT, Gray KJ, Hernandez-Diaz S, Mogun H, Straub L, Huybrechts KF 

BMJ. 2020;369:m1494. Epub 2020 May 20. 

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