手根管症候群|疾患情報【おうち病院】

記事要約

手根管症候群とは、末梢神経絞扼障害の一つで、手のしびれや痛み、重症化すると親指の筋肉が萎縮してしまい ”つまみ動作” が出来なくなることもある整形外科疾患です。手根管症候群の原因・治療方法・診断のコツなどを、医師監修の基解説します。

手根管症候群とは

手根管症候群をご存知ですか?

末梢神経絞扼障害の一つで、手のしびれや痛み、重症化すると親指の筋肉が萎縮してしまい ”つまみ動作” が出来なくなることもある整形外科疾患です。女性に非常に多く、家事や育児、日常生活に大きな支障を生じることがあるため、この疾患の予防法や治療法を知っておくことは有用です。

手根管は手首の部分の手のひら側に位置し、手根骨と横手根靭帯に囲まれたトンネル様の構造をしています。このトンネル内には、正中神経と指を曲げる9本の屈筋腱が通っています。この正中神経が何らかの理由により圧迫され、末梢神経障害症状を呈するのが手根管症候群です。 

手根管症候群の原因

手根管症候群の原因として最も頻度が高いのが特発性のものになります。

「特発性」とは外傷や腫瘍といった明らかな原因がないものを指します。特に中高年の女性によく見られます。また妊娠中、産後の女性に認めることも比較的多いため女性ホルモンの乱れが本症の発生に関与していると考えられています。女性ホルモンの乱れによるホルモンの減少は腱や関節にある滑膜のむくみを起こすことがわかっています。そのため、手根管内にある屈筋腱を包んでいる滑膜性の腱鞘がむくみ、手根管の内圧が上昇することで正中神経が圧迫され障害されると考えられています。

その他の原因としては、手関節の骨折、手首の使いすぎによる炎症、糖尿病や人工透析、手根管内の腫瘍などが挙げられます。

手根管症候群の症状

主な症状はしびれと痛みです。正中神経の支配領域である親指から中指、環指(親指側半分のみ)にかけて、様々な範囲でしびれや知覚低下を認めます。
本症の痛みの特徴としては以下が挙げられます。

  • 夜間・明け方に増強し、痛みのために目が覚める
  • 手を使うことで痛みが増強する
  • 手を振ったり、手の位置を変えることで痛みが軽快する

また症状が進行すると、親指の根本にある母指球筋が萎縮し、筋力低下を認めます。これにより、つまみ動作がしづらくなったり親指でつまむ力が低下します。母指球筋の萎縮は外観からもわかるようになっていきます。

手根管症候群の診断方法

手根管症候群は、問診の段階で疑うことが比較的容易にできる疾患です。本症の疑いがあれば、正中神経の障害を中心に診察していきます。

【身体所見】

1)しびれ、知覚低下の領域を確認

診察用の筆などを使い、指の知覚を一本ずつ検査していきます。細かく調べると、手根管症候群では、正中神経の支配する領域に一致して知覚異常が認められます。具体的には、正中神経の支配領域である親指から中指、及び環指の親指側半分の知覚低下が見られます。

2)Tinel(ティネル)様サイン

手根管部分を打腱器などで軽く叩き、指先にしびれや痛みが放散するかをみる検査です。しびれや痛みが指先に放散する場合を陽性とし、手根管症候群では多くが陽性となります。

3)Phalen(ファーレン)テスト

これは手根管を圧迫することで症状の再現を図る誘発テストです。具体的には、左右の手の甲と甲を合わせるように手関節を直角に曲げ1分間維持します。これによりしびれや痛みが出現すれば陽性となります。

4)母子球筋の萎縮の有無

症状が進行すると母指球筋が麻痺するために萎縮し、親指の付け根が凹んで見えます。母指球筋が麻痺すると対立運動が困難となり、親指と示指でOKサインを作ることができなくなります(パーフェクト O サイン陽性)。
※対立運動とは親指が他の指と向き合う動きのことで、物をつまむ際に重要な動きです。

【電気生理学的所見】

客観的に正中神経の障害の程度を表すために神経伝導速度検査が行われることがあります。手根管部での局所性の神経伝導速度遅延が診断の補助となります。
この検査の注意点として偽陽性があります。症状のない健常な方や手をよく使う労働者の中には、一定の割合で伝導速度の低下を認めることがあります。しかし、神経伝導速度の低下のみでは本症とは診断されません。

【超音波、MRI】

手根管内に神経を障害する腫瘍やガングリオンなどがないかを確認することができます。しかし、神経の障害の程度や予後を予測することまではできないとされています。

手根管症候群の鑑別診断

手根管症候群は非常に頻度の高い疾患です。そのため、似た様な症状を呈する他の疾患を持つ方が本症を合併していることもあります。特に頚椎症との合併が広く知られ、double crush症候群と呼ばれています。この場合、症状の主体が手根管症候群なのか頚椎症なのかを適切に判断し、治療法を決定する必要があります。

手根管症候群の治療方法

多くの場合、まず保存治療が選択されます。

保存て治療には、手首の安静や非ステロイド性消炎鎮痛剤 (NSAIDs) 、ビタミンB12製剤の内服があります(※妊娠中の場合は、痛み止めとしてアセトアミノフェンが使用されます)。またより効果的なものとして、ステロイド剤の手根管内注射があります。しかし長期的な効果については不明で、手根管内注射を数回しても改善しない場合には手術が考慮されます。また、腫瘍やガングリオンを原因とする場合も手術が考慮されます。

手術は手根管開放術が行われます。この手術は局所麻酔で行われ、手根管を構成している横手根靭帯を切開することにより手根管を広げ、正中神経の圧迫を解除します。比較的小さい傷で手術を行うことが可能です。

母指球筋の萎縮が強く、母指の対立運動が障害されている重症例では母指対立再建術も必要になることがあります。

手根管症候群の経過

一般的に、手根管症候群の30〜35%は自然軽快が認められると報告されています。自然軽快しやすい条件として、診断までの罹病期間が短いこと、若年発症、片側性、Phalenテスト陰性が挙げられています。

手根管症候群の受診の目安

手のしびれや痛みが持続する場合には放置せず、整形外科を受診することをお勧めします。
原因の項で説明したように、妊娠、出産に関連して本症を発症することがあります。この場合、使用できる痛み止めの内服薬や外用薬が限られることがあります。したがって、自己判断で家庭薬を使用することは避け、医療機関を受診することをお勧めします。

<リファレンス>

日本整形外科学会 手根管症候群
日本神経治療学会 標準的神経治療:手根管症候群
日本手外科学会 手根管症候群

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