子宮頸がん|疾患情報【おうち病院】
記事要約
子宮頸がんとは、子宮頸部に発生するがんのことです。子宮頸がんの原因・治療方法・診断のコツなどを、医師監修の基解説します。
子宮頸がんとは
子宮頸がんとは、子宮頸部に発生するがんです。
成人女性の約50~80%が、生涯に一度はHPVに感染する、といわれています。男性の感染率も同様で、それだけ生活の中においてありふれたウィルスであると言えます。
性的接触によりHPVに感染した約9割においては、通常その免疫によって自然にウィルスが排除されます。しかし、約1〜3割の人にHPVの持続感染が起こり、一部に子宮頸がんの前がん病変や子宮頸がんが発生すると考えられています。子宮頸癌への進行が見られる人の割合は1割以下、と考えられています。
(注:性交渉を契機としてHPVの感染は起こりますが、大部分の人が実際の病気にはならないため、性病(=性行為に伴う感染症によって早期に発症する病気)とは考えられていません。)
早期発見後速やかに治療を行うことで、予後は良くなりますが、進行している場合には治療が難しい病気です。そのため、予防及び早期発見の目的で、HPVワクチン、子宮がん検診の広い普及が望まれています。
比較的病状の進行が緩徐であり、子宮がん検診において子宮がんが発見される例はむしろ少ないのが現状です。がん検診において細胞の異型が発見されても、その程度が軽いほど、経過観察により消失したり、円錐切除術などの治療によって前がん病変の内に進行を食い止め、治癒を期待することできます。
原因
通常は性交渉時の刺激によって、子宮頸部上皮に微細な傷が生じ、そこから上皮深層にヒトパピローマウィルス(Human Papilloma Virus: HPV)が入り込み慢性感染が生じた場合、その結果としてがんが発症すると考えられています。子宮頸癌の95%以上は、HPVが原因であることが分かっています。
疫学、日本と海外の動向
日本では、子宮頸がんに年間約11,000人が罹患、約2800人が死亡、患者数・死亡者数とも近年漸増傾向にあります。亡くなる方は年代別にみると30代前半から増えていく傾向にあります。特に、他の年齢層に比較して20~40歳台の若い世代での罹患の増加が著しいものとなっています。
その主な理由として、以下のような点が指摘されています。
- 性交渉の低年齢化によるHPVの感染機会の増加
- 子宮がん検診の低受診率
子宮頸癌は、全世界では発症数は年間57万人を超え、死亡者数は31万人に上っています。発展途上国で罹患率は高く、先進国ではHPVワクチン、子宮がん検診の普及により低くなりつつある傾向が見られています。
一方、日本は欧米に比べて検診の受診率が著しく低い状況に加え、HPVワクチン接種の普及が他の先進諸国に比べあまり進んでいないことが、問題視されています。
リスク因子
以下のようなリスク因子が分かっています。
- 初交年齢が若い
- セックスパートナーが多い
- 多産
1〜3については、性交渉の機会が多い、つまりそれだけパピローマウィルスに曝露される機会が多いことがリスクである、と考えられています。 - 喫煙者
喫煙は子宮頸癌の発症リスクを高め、また禁煙によって発症リスクを抑えることができることが分かっています。 - 経口避妊薬(ピル)の長期服用者
原因は明らかではありませんが、経口避妊薬の使用が、パピローマウィルスの感染予防法として期待できるコンドームの使用を心理的に妨げているのではないかという意見もあります。 - 免疫系の低下
免疫力を低下させる疾患(例:AIDSなど)において、子宮頸癌発症のリスクが上昇することが分かっています。
症状
HPVは感染が成立しても感染部位に炎症を生じることが少なく、無症状であることが殆どです。病状の進行は比較的緩徐ですが、病変の進行により不正出血が見られることがあります。さらに進行すると、出血の程度や頻度が増したり、おりものの異常、骨盤痛、他臓器症状(尿路、消化管の症状)が出現することもあります。
診断
初期スクリーニングとして、子宮頸部擦過細胞診(通常の子宮がん検診で行う検査)を行い、細胞異型が見られた場合には、以下の検査を組み合わせて、現在の病状と進行度の把握に努めます。
- HPV検査
- コルポスコピー下の組織検査(子宮頸部の拡大鏡による観察で、疑わしい場所の組織を一部検体として採取し行う病理検査)
異型の程度が軽いほど、自然な病変の消失が期待できたり、比較的簡単な治療で治癒が期待できると考えられています。
例えば、米国オンタリオ州の研究では、軽度異形成(異形成:組織検査結果で、異型細胞の範囲が少ないという結果)、中度異形成(異型細胞の範囲が中等度であるということ)、高度異形成(異型細胞の範囲が広いこと)が10年間で上皮内癌になる可能性は、それぞれ2.8%,10.3%,20.7%、また浸潤癌になる可能性はそれぞれ、0.4%,1.2%,3.9%と報告されています(これらは途中で治療を受けた場合も含んだデータなので、全く治療を行わなければ、上皮ないがんや浸潤がんになる可能性はもっと高くなると見積もられます。)
上記のようなデータを参考に、進行度を確認した上で、管理方針(経過観察か、あるいは治療を進めていくか、等)を決定します。
治療
異形が軽度である場合には、子宮擦過細胞診を定期的に行う経過観察のみで様子を見ることが殆どです。しかし、自然消失の期待できない中〜高度異形成や、ごく初期の早期がん(上皮内がん)の例においては、子宮頸部円錐切除術による病変の切除を行います。
子宮頸部円錐切除術では、子宮頸部を病変及び周囲の正常組織を含めて円錐状に切除します。子宮全摘出術と異なり、子宮頸部の一部と子宮体部は温存されます。よってその後の妊娠が可能です(日本では年間14000人がこの手術を受けており、そのうち約1300人が手術後に妊娠しています)。しかし、この術式はその後の妊娠における早産、子宮口の癒着に伴う難産、月経困難症といったリスクを伴い、その後の生活に支障を来す可能性があり、注意が必要です。
一方、進行した浸潤がんに対しては、根治手術(子宮や卵巣を摘出・リンパ節を広く郭清)や放射線治療、抗がん剤による化学療法などが選択されます。
子宮頸がんの治療成績はかなり向上してきていますが、依然として進行症例の予後は不良でです。救命できたとしても、妊娠が不可能になったり、排尿障害、下肢のリンパ浮腫、ホルモン欠落症状など様々な症状が慢性的に続くようなこともあります。
予防
WHOの提唱する「子宮頸がん排除のための生涯にわたる対策」(2019年1月)を元に、各国において一次予防、二次予防の社会政策などが実施されています。この提言の重要なところは、「子宮頸癌は撲滅が可能である疾患」と捉え、さらに撲滅に向けての具体的な戦略を提示している部分です。予防医学の2つの鍵として、一次予防のHPVワクチンと二次予防の子宮頸がん検診が特に強調されています。
【一次予防】
子宮頸癌の一次予防とは、9-14歳の少女に対してHPVワクチン接種を行うことです。
また、以下のような健康教育を共に行うことで、予防の相乗効果が得られ有用であると考えられています。
- 健康に関する情報とたばこの使用についての注意
- 年齢と文化に合わせた性教育
- 性的に活発になる時期にはコンドームの啓発/支給
*コンドームは、ある程度HPV感染の確率を減らすことが期待できますが、HPVは外陰部や肛門など、コンドームではカバーしきれない皮膚にも存在するため、コンドームだけで子宮頸癌を予防することは完全にはできませんが、HPVワクチンとの併用で、予防への相乗効果は期待できると考えられています。また、他の性感染症予防にも役立つという有用性を強調することで、より啓蒙効果が強くなることが期待できます。 - 男子への包皮環状切除
疫学調査で、包皮環状手術を宗教上の理由で男児に行うグループにおいて、パピローマウィルス感染との関連があるとされる陰茎癌の発症が少ないことが分かっています。
【二次予防】
子宮頸癌の二次予防とは、子宮がん検診で早期発見し、早期治療を行うことです。
具体的には、30歳以上の女性に対する検診と、可能であれば検診と同時に治療を行うことが、以下のように推奨されています。
- (その場で手軽に実施可能な)迅速HPVテスト
- 続けてすぐに治療を行う
- 検診のその場で治療をする
*日本では、以下のような理由により、検診→HPVテスト→治療の流れは、同じ日に行っていません。
- 細胞診の結果を得るには早くても数時間はかかる
- 一般的に普及しているHPV検査では通常迅速結果が得られない
<リファレンス>
MSD 子宮頸がんの疫学
日本産婦人科学会 周産期の立場から