シャルコー・マリー・トゥース病|疾患情報【おうち病院】

記事要約

シャルコー・マリー・トゥース病とは、遺伝性に運動と感覚の両方の末梢神経障害をきたす疾患の総称である。シャルコー・マリー・トゥース病の原因・治療方法・診断のコツなどを、医師監修の基解説します。

シャルコー・マリー・トゥース病とは

シャルコー・マリー・トゥース病(Charcot-Marie-Tooth disease 以下CMTと略します)は、最も頻度が高い遺伝性末梢神経障害です。1886年にCharcot、Marie、Toothの三人によって報告された疾患のためこの名前がついています。CMTは一般的に0歳から20歳ごろまでに発症し、緩やかに進行する疾患です。様々な原因遺伝子が特定されています。主な症状は四肢末梢、特に下肢遠位部の筋力低下と感覚障害ですが、近年の原因遺伝子の解明にともない中枢神経系の障害を含む多様な臨床症状が明らかになってきています。まれに、四肢近位部の近位筋優位の筋力低下・筋萎縮を示す例もあり、自律神経障害が前面に出るタイプもあります。根本的治療は開発されていませんが、一般的に致命的なものではなく寿命に影響を与える疾患でもありません。多くの症例で、杖などの補助具の使用、リハビリテーションによりADLの維持が可能であると考えられています。

CMTはその臨床症状、電気生理学的検査所見、神経病理所見に基づいて脱髄型と軸索型に大別され、脱髄型CMTでは、一般的に神経伝導速度は38m/秒以下、活動電位はほぼ正常または軽度低下を示し、腓腹神経※1所見では節性脱髄、onion bilbの形成を認めます。軸索型CMTでは、神経伝導速度は正常または軽度の低下を示すが活動電位は明らかに低下し、腓腹神経所見では有髄線維の著明な減少を示します。しかし、いずれとも分けられないintermediate CMTも存在します。

※1 腓腹神経は下肢の主要神経から分岐した下腿後面遠位に伸びる末梢神経です。感覚神経で運動神経成分を含まないため神経生検に利用されることがあります。

シャルコー・マリー・トゥース病の原因

遺伝子異常が原因となります。CMT関連の遺伝子異常は既に70種類以上が特定されていて、病態の解明が進んでいるものの、CMT発症メカニズムの詳細は不明なままです。最も多いのがPMP22というタンパク質をコードしている遺伝子の異常で、CMTの40%がこの遺伝子の異常であるとされます(CMT 1A型)。
またCMTは「遺伝的多様性」があるといわれています。「遺伝的多様性」とは、異なる遺伝子の異常であっても同じ症状が出現したり、逆に同じ遺伝子の異常であっても異なる症状が出現することがあるということです。

遺伝形式

常染色体優性遺伝、常染色体劣性遺伝、X染色体劣性遺伝などがあります。また突然変異により単発に発症するケースもあり、必ずしも親から子に必ず遺伝するものではありません。

疫学的整理

世界中に約260万人のCMT患者がいると推定されています。有病率は本邦では人口10万人に対し10.8人という報告があります。一方、欧米では人口10万人に対し9.7〜82.4人とされています。

発症年齢は、若年発症(0~20歳)と中年期発症の二相性分布を示します。

シャルコー・マリー・トゥース病の症状

多くは20歳頃までに「足が遅い」、「足がやせてきた」、「手足がしびれる」などの症状で気付かれます。手、足、下腿の筋肉がやせた体型は逆シャンパンボトル型(ちょうどシャンパンボトルを逆さまにした様に見えるため)と呼ばれます。

【典型的な症状】

足部変形(下肢末梢の筋力低下による筋肉のアンバランスの結果生じる)
凹足:足の甲が高く土踏まずのアーチも非常に高い足で、柔軟性を欠く足
ハンマー趾
足関節の変形

下垂足:足関節が背屈できず垂れ下がった状態の足。スリッパが脱げやすい、段差につまづきやすい

鶏歩(けいほ):下垂足のために足が引っかかりやすいので、鶏のように太腿を高く持ち上げ、つま先を垂れて歩く歩き方のことで、CMTの特徴の一つ。

歩行・走行困難
腱反射の消失
手指振戦、筋けいれん
下肢皮膚温の低下(cold feet)、先端チアノーゼ
手内在筋の萎縮(特に母指と示指の間の萎縮が気付きやすい)

【非典型的な症状】

脳神経障害、 声帯麻痺、緑内障、視神経乳頭萎縮、錐体路障害、上肢優位障害、感覚または運動神経優位障害、近位筋優位障害などを示す例もある

シャルコー・マリー・トゥース病の診断の方法

CMT の診断は、問診、神経学的診察、電気生理学的検査、 神経超音波検査、家系調査、遺伝子検査でおこなわれます。CMTが疑われた場合には、神経伝導検査をおこない、必要に応じて針筋電図検査、神経超音波検査、腓腹神経生検をおこないます。さらに、遺伝子検査をおこない確定診断となります。

以下は、難病情報センターより引用した診断基準です。

<診断基準>

 Definite、Probableを対象とする。

《1》以下の臨床症状(のうち2項目)を満たす。

(ア)筋力低下・筋萎縮 
下肢優位の四肢遠位部の障害(凹足、扁平足、逆シャンペンボトル様の筋萎縮、手内筋萎縮、足趾骨間筋萎縮など)が典型的だが、まれに四肢近位部が優位に障害される場合もある。症状は、基本的に左右対称性である。

(イ)感覚障害
下肢優位の手袋・靴下型の障害が典型的であるが、感覚障害が目立たない場合もある。
症状は基本的に左右対称性である。

(ウ)家族歴がある。

(エ)他の疾病によらない自律神経障害、声帯麻痺、視力障害、錐体路障害、錐体外路障害などの合併を認める場合もある。

《2》神経伝導検査の異常(のうち2項目)を満たす。

(ア)正中神経の運動神経伝導速度が38m/s以下
(イ)正中神経の運動神経複合活動電位の明らかな低下
(ウ)他の末梢神経の神経伝導検査で軸索障害または脱髄性障害を認める。

なお、脱髄が高度な場合、全被検神経で活動電位が導出できない場合もある。

《3》シャルコー・マリー・トゥース病に特有の遺伝子異常がある。

(参考:現在判明している主な遺伝子異常は下記の異常)

peripheral myelin protein 22(PMP22)、myelin protein zero(MPZ)、gap junction protein beta 1(GJB1)、early growth response 2(EGR2)、ARHGEF10、periaxin(PRX)、lipopolysaccharide-induced TNF-α factor(LITAF)、neurofilament light chain polypeptide(NEFL)、ganglioside-induced differentiation-associated protein 1(GDAP1)、myotubularin-related protein 2(MTMR2)、SH3 domain and tetratricopeptide repeats 2(SH3TC2)、SET-binding factor 2(SBF2)、N-myc downstream regulated 1(NDRG1)、mitofusin 2(MFN2)、Ras-related GTPase 7(RAB7)、glycyl-tRNA synthetase(GARS)、heat shock protein 1(HSPB1)、HSPB8、lamin A/C(LMNA)、dynamin 2(DNM2)、tyrosyl-ARS(YARS)、alanyl-ARS(AARS)、lysyl-ARS(KARS)、aprataxin(APTX)、senataxin(SETX)、tyrosyl-DNA phosphodiesterase 1(TDP1)、desert hedgehog(DHH)、gigaxonin 1(GAN1)、K-Cl cotransporter family 3(KCC3)など。 

診断のカテゴリー

《1》、《2》を満たすものをProbableとする。

Probableのうち《3》を満たすものをDefiniteとする。

また鑑別すべき疾患として、CIDP、抗MAG抗体をともなうニューロパチー、薬剤性ニューロパチー、虚血性ニューロパチー、POEMS 症候群、ビタミンB1欠乏ニューロパチー、アルコール性多発ニューロパチー、アミロイドーシス、脊髄小脳変性症にともなうニューロパチー、傍腫瘍症候群、Refsum 病、異染性白質ジストロフィー、Krabbe病、Tangie 病、遠位型ミオパチー、先天性ミオパチー、筋萎縮性側索硬化症、 係留脊髄症候群などがあります。

神経障害を悪化させる薬剤

CMT患者が他の内科疾患等に罹患した場合、使用される薬剤が末梢神経障害が悪化させる場合があります。
特に抗腫瘍薬であるビンクリスちんやシスプラチン、タキソール、サリドマイド、ベルケード、抗不整脈薬のアミオダロン、HIV治療薬のジダノシン、ザルシタビン、サニルブジン、ハンセン病治療薬のダプソンなどがCMTの症状を悪化させる可能性のある薬剤として挙げられます。

シャルコー・マリー・トゥース病の治療

【CMTの内科的治療】

現時点ではCMTに特異的に効果があると科学的に証明された治療はありません。治療薬の開発に関しては、1. 神経栄養因子、2. プロゲステロン阻害薬及び刺激薬、3. クルクミンなどの研究が進められています。また今後は遺伝子治療の開発も期待されます。

【CMTの整形外科的治療】

足の変形、関節変形のために痛みがある場合や、靴・装具などの装着が困難になり日常生活に支障が出る場合は手術的な治療を必要とすることがあります。術式としては、変形矯正骨切り術および腱延長術、腱移行術などがあり変形の状態によって併用されます。
CMTでは股関節の臼蓋形成不全※2を合併することがあり、これに対しては将来の変形性股関節症を予防する目的で骨盤骨切術、大腿骨骨切り術が行われることがあります。また高度な側弯・後弯変形では脊椎固定術が行われることもあります。

CMT患者が手術や出産などのために麻酔を受ける際にも注意が必要です。
一般的に脊髄くも膜下麻酔(脊椎麻酔)や硬膜外麻酔は避ける方がよいと言われています。また全身麻酔時の入眠剤、静脈麻酔薬、筋弛緩薬に対する感受性が高いCMT患者がいる場合があるので注意が必要です。嚥下反射の減弱、声帯麻痺、胸鎖乳突筋の筋力低下や自律神経障害による不整脈、低血圧、側弯症による拘束性換気障害、悪性高熱症、術後呼吸不全などにも注意が必要です。しかし、脊髄くも膜下麻酔、硬膜外麻酔、 吸入麻酔のみ、全静脈麻酔+神経ブロックなどで安全に手術が行われた例も報告されています。麻酔科による適切な管理ができる施設での手術が望ましいとされています。

※2 臼蓋形成不全とは股関節を形成する骨盤側の臼蓋が浅いため大腿骨頭との適合性が悪く、股関節に負担がかかりやすくなった状態のことを言います。将来的に変形性股関節症のリスクとなります。

【CMTのリハビリテーション】

CMTの筋力低下の特徴は大腿部下1/3以下の筋萎縮や筋力低下で、その結果生じる筋力の不均衡によって凹足・内反、下垂足となり運動能力が低下します。それに廃用症候群が加わりさらに運動能力が低下していきます。したがって、低負荷で高頻度な筋力訓練で筋力が低下するのを防ぐ必要があります。また足の変形に対して、状態に合わせた靴(ハイカットシューズや足底挿板の使用など)、杖や下肢装具の使用により関節に負担をかけないように運動することが大切です。
また下肢自立支援ロボットの開発などロボット工学の応用も進行しています。

日常生活での注意点としては「適正な体重の維持」が挙げられます。CMT患者では筋力の低下により運動量が限られてしまいます。そのため体重が増えやすく、また一度体重が増えると減量が難しくなります。体重が増加することは足・膝・股関節、脊椎に負担をかけることにつながります。関節を温存するためにも「適正な体重の維持」が必要です。

CMTの予後

CMTの経過は原因となっている遺伝子異常によって異なりますが、筋力低下や感覚障害は緩徐に進行していきます。多くの場合、自力歩行または杖歩行が可能ですが、車椅子を使用される方は約20%、寝たきりになる方は約1%とされています。

ADLを低下させないために、手足のケアでは、四肢遠位の冷感・浮腫、外傷、胼胝や潰瘍の形成に 注意が必要です。また運動量が低下しがちであるため、深部静脈血栓症※3とそれに関連する肺塞栓症にも注意が必要である。

※3 深部静脈血栓症とはエコノミークラス症候群とも呼ばれるもので、十分に下肢の筋肉を動かさない状態が続くことにより四肢や骨盤の深部静脈で血液が凝固し血栓ができる病態です。無症状なこともありますが、四肢の疼痛や腫脹が生じる場合もあります。また血栓が血流に乗り肺動脈に詰まってしまう肺塞栓症の原因となります。

<リファレンス>

難病情報センター シャルコー・マリー・トゥース病(指定難病10)

Kurihara S, Adachi Y, Wada K, et al. An epidemiological genetic study of Charcot-Marie-Tooth disease in Western Japan. Neuroepidemiology 2002;21:246-250.

第22回日本末梢神経学会学術集会 Charcot-Marie-Tooth病の診断と治療・ケア
Charcot-Marie-Tooth 病の診療ポイント
CMT研究班

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