慢性便秘症|疾患情報【おうち病院】

記事要約

慢性便秘症とは、本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態が持続し、日常生活に支障が生じている状態です。慢性便秘症の原因・治療方法・診断のコツなどを、医師監修の基解説します。

慢性便秘症とは

本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態が持続し、日常生活に支障が生じている状態を慢性便秘症と言います。日本では便秘に悩んでいる人は全体の29.6%で、男性は5人に1人が便秘症であるのに対し、女性は男性の約2倍が便秘症とされています。20~60歳では圧倒的に女性が多く60歳以降は男女とも加齢に伴って増加し80歳以上の高齢者ではともに10.8%と男女差が無くなります。 

慢性便秘症の原因

便秘症を分類すると大きく、器質性と機能性に分けられます。器質性とは大腸癌、クローン病、虚血性大腸炎等が原因となり大腸内が狭くなり排便がうまく進まないものです。便秘症の多くはそれ以外の機能性に分類されます。機能性はさらに大腸の動きに原因がある排便回数減少型と、直腸と肛門の動きに原因がある排便困難型に分類されます。

排便回数減少型の便秘は、便を送る大腸の動きが悪い「大腸通過遅延型」と、大腸の動きは正常であっても便の量が足りない「大腸通過正常型」の2つに分かれます。

排便困難型は便が直腸まで来ているのに直腸や肛門から先にスムーズに排便できない状態のものです。便が硬いために排出できなかったり残便感がある「硬便による排便困難」と、排便に関与する筋肉の機能低下による「機能性便排出障害」の2つに分かれます。

排便回数減少型

・大腸通過遅延型の原因

特発性便秘…原因不明で、特に高齢者に多いタイプです。

症候性便秘…便秘型過敏性腸症候群が代表的ですが、糖尿病や甲状腺機能異常等の代謝・内分泌疾患や神経・筋肉の病気、膠原病など、何らかの病気が背景にあるタイプです。便秘型過敏性腸症候群とはストレスなどによって大腸が痙攣し便の排出が滞り、コロコロとした便になったり、便秘と下痢を繰り返したりする病気です。

薬剤性便秘…薬の副作用により起こるタイプです。

・大腸通過正常型の原因

便のもととなる食事、特に食物繊維の摂取量が足りていないことが原因で、若い女性に多く、無理なダイエットや偏食、不規則な食生活など悪い生活習慣が原因となります。

排便困難型

・硬便による排便困難

・機能性便排出障害

骨盤底筋協調運動障害(肛門周囲の筋肉がうまく緩まないため、いきむ時に肛門が開かない状態)や直腸瘤や直腸重積といった病気によって起こる場合もあります。また、便意を我慢することを繰り返すことで直腸が鈍感になり便意を感じる力が弱まってしまい排出障害になることもあります。

慢性便秘症の診断

慢性便秘症の診療は、診断が確定してから治療を開始するのではなく症状や検査結果に応じて、または、治療に対する反応を見ながら診断や治療を進めることもよくあります。便秘症の診断では問診はとても重要で、以下の診断基準を元に診断します。それに加えて腹部診察や直腸肛門診の身体診察を行います。50歳以上で過去3年以内に大腸内視鏡検査を受けていない場合やの問診や診察で大腸癌や炎症性腸疾患、虚血性腸炎といった大腸に狭窄を伴う器質的疾患が疑われる場合には大腸内視鏡検査を受けることを勧めます。高齢者の方や自力で動くことが難しい方に対しては体に負担となる検査を行うことは困難な場合があり、その場合は腹部CT検査で大きな病変の有無を確認します。

診断基準(慢性便秘症診療ガイドライン2017より)

慢性便秘症の診断基準

 1.「便秘症」の診断基準

 以下の 6 項目のうち,2 項目以上を満たす

 a.排便の 4 分の 1 超の頻度で,強くいきむ必要がある.

 b.排便の 4 分の 1 超の頻度で,兎糞状便または硬便(BSFS でタイプ 1 か 2 )である.

 c.排便の 4 分の 1 超の頻度で,残便感を感じる.

 d.排便の 4 分の 1 超の頻度で,直腸肛門の閉塞感や排便困難感がある.

 e.排便の 4 分の 1 超の頻度で,用手的な排便介助が必要である(摘便・会陰部圧迫など).

 f.自発的な排便回数が,週に3 回未満である.

 2.「慢性」の診断基準

 6ヵ月以上前から症状があり最近3ヵ月間は上記の基準を満たしていること 

慢性便秘症の治療

便秘症の治療においては薬物治療の前に生活習慣の改善が重要です。規則正しい食事や睡眠などの生活習慣の改善・確立が規則正しい排便のための基本であり、また、便意を感じたら我慢することなく排便を行なう排便習慣も重要です。

食物繊維は多くの方で不足しがちで、1日20g以上を目安に摂取することが推奨されます。排便姿勢は前傾姿勢が適した姿勢と言われています。定期的なウォーキングやランニング、筋トレは便秘症に効果的です。これらの生活習慣の見直しで改善しない場合は便秘治療薬を用います。代表的なものとして便中の水分量を増加させ便を柔らかくして大腸通過時間を短くし排便を容易にすることを目的とした「緩下薬」と、大腸を刺激し腸管の蠕動運動を引き起こし、排便を促進させることを目的とした「大腸刺激性下剤」があります。その他、漢方薬や消化管機能改善薬、整腸剤などを用いることもあります。薬物治療の基本は便形状の正常化のために緩下薬を毎日内服して、必要に応じて大腸刺激性下剤を頓服で使用していくことが良いと思います。 

慢性便秘症の予防

便秘を予防するためには腸内細菌のバランスを整える必要があります。腸内細菌叢には約1000種類の細菌がいると言われており、偏った食生活により特定の腸内細菌が増殖し、腸内細菌のバランスが崩れます。それに伴い、蠕動運動の低下が起こりやすくなると便秘となります。まずは1日3食、食事量もしっかり摂取することが大切です。食物繊維には水溶性食物繊維と不溶性食物繊維の2種類があります。水溶性食物繊維は果物や海藻、こんにゃくなどに多く含まれ、水分保持力が高く便を粘りのある状態にします。また、悪玉菌の増殖を抑え、腸内細菌叢を改善する働きもあります。不溶性食物繊維は、豆類、根菜類、野菜類、きのこ類などに多く含まれ、胃や腸に入ると水分を含み大きく膨らむため、大腸まで運ばれると蠕動運動を促し排便につながります。水分は便を軟らかくするため、1日2リットル程度の十分な水分摂取も必要であり、起床時にコップ一杯の水を飲む習慣を付けると腸を刺激して排便が促されます。

また、決まった時間に排便習慣を付けることも重要です。便意が生じた際には我慢せずにトイレへ行き、毎日、同じ時間帯に排便することが理想的です。 

<リファレンス>

慢性便秘症診療ガイドライン2017
日本大腸肛門病会誌 72:583-599,2019
厚生労働省:平成28年国民生活基礎調査

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