慢性再発性多発性骨髄炎|疾患情報【おうち病院】
記事要約
慢性再発性多発性骨髄炎とは、小児(特に10歳前後)に好発する無菌性(非感染性)、非腫瘍性の骨・骨髄の炎症疾患です。慢性再発性多発性骨髄炎の原因・治療方法・診断のコツなどを医師監修の基解説します。
慢性再発性多発性骨髄炎とは
慢性再発性多発性骨髄炎は、小児(特に10歳前後)に好発する無菌性(非感染性)、非腫瘍性の骨・骨髄の炎症疾患です。特に自己炎症性疾患※1に分類されると考えられています。病態の発症機序はわかっていませんが、遺伝的な要因が確認されています。世界中で200〜300人の症例報告が行われていますが、本邦での患者数は不明です。
本症では、局所の疼痛や腫脹を伴う無菌性骨髄炎が多発し、寛解と増悪を繰り返します。長期的には骨変形や病的骨折を起こす例も見られます。その他、発疹や腹痛、下痢といった症状を伴うこともあります。治療の第一選択は、非ステロイド性抗炎症剤で、本症の50〜80%に有効とされています。効果が不十分な場合には、ビスホスホネート(破骨細胞の活動を阻害し、骨吸収を防ぐ薬)の追加投与が行われ高い有効性を示しています。本症は数ヶ月から数年で自然寛解することが多く、予後は比較的良好であるとされています。
しかし、長期間にわたって炎症が続く場合には、骨の成長障害、骨折、関節拘縮などの問題が生じ、障害を残すことがあります。
※1 自己炎症性疾患は1999年にKastnerらによって提唱された疾患概念で、自己免疫疾患とは異なり、自己応答性T細胞や自己抗体の上昇を介さずに引き起こされる炎症反応が特徴とされています。
慢性再発性多発性骨髄炎の原因
本症の原因はまだわかっていません。以前から遺伝的要因があると考えられていましたが、2019年国際共同研究グループが本症の原因遺伝子としてFgr遺伝子を同定したと発表しました。これにより本症の病態解明が進むものと考えられます。
マジード(Majeed)症候群※2という慢性再発性多発性骨髄炎を一部分症状とする疾患ではLPIN2遺伝子の異常が原因である事が判明しています。
※2 マジード(Majeed)症候群:2歳以下で慢性再発性多発性骨髄炎を発症し、先天性の赤血球異形成貧血とスウィート(Sweet)症候群などの皮膚炎を合併する常染色体劣性遺伝疾患
疫学
本症は非常に稀な疾患であるため、正確な有病率はわかっていません。
参考として、1,000,000人に1〜2人の発症率でやや女性に多いという報告があります。
本症の好発年齢は10歳前後の小児と考えられていますが成人で発症することもあります。
慢性再発性多発性骨髄炎の症状
本症では疼痛を伴う無菌性の骨髄炎が多発し、寛解と増悪を繰り返します。
1)発生部位
長幹骨の骨幹端(大腿骨、脛骨)が多く、その他に鎖骨、下顎骨、脊椎、骨盤、肋骨など
2)症状
発熱や全身症状は伴わず、緩やかに発症する局所の疼痛、腫脹を認めます。症状が長期に及ぶ場合には、骨の変形、病的骨折、関節拘縮を認めることがあります。
その他、消化器症状として腹痛、下痢、血便などを認めることがあります。また成人発症例では、皮膚症状として発疹、掌蹠膿疱症、尋常性乾癬を伴うこともあります。この症状はSAPHO症候群でも見られることから両疾患は同一あるいは類似した疾患であると考えられています。
3)検査所見
採血:軽度炎症反応の上昇、細菌培養は陰性
単純レントゲン:骨融解と骨硬化の混合像
MRI:T1強調像で低信号、T2強調像及びSTIRで高信号
骨シンチグラフィー:炎症部分に集積 (+)
骨生検:非特異的炎症像を認める。組織培養は陰性
鑑別疾患
本症と鑑別を要する疾患として、化膿性骨髄炎、ランゲルハンス細胞組織球症、白血病などの腫瘍性疾患が挙げられます。血液検査や骨生検による組織像などから鑑別します。
慢性再発性多発性髄膜炎の診断方法
本症の診断は、症状、臨床検査、画像所見に基づいてなされます。しかし本症を診断する前に、より発症頻度の高い化膿性骨髄炎や白血病などの悪性腫瘍、他の自己免疫疾患、自己炎症疾患を除外する必要があります。
<診断基準> 難病情報センターHPより引用
慢性再発性多発性骨髄炎診断基準
- 画像検査所見:単純レントゲン検査で骨融解と骨硬化の混在像を呈し、かつMRI検査で骨・骨髄浮腫の所見を認める(T1 強調画像で低信号、T2強調及びSTIR画像で高信号)。FDG-PETや骨・ガリウムシンチで多発性病変を確認してもよい。
- 組織検査所見:病変部位の骨・骨髄生検で非特異的炎症像があり、生検組織の培養検査もしくはPCR法により細菌・真菌などの感染症が否定される。
- 他の自己免疫疾患・自己炎症性疾患、悪性腫瘍などの関節炎・骨髄炎の原因となる他疾患を除外する。
<診断のカテゴリー>
上記の1~3の全ての項目を満たす場合、慢性再発性多発性骨髄炎と診断する。
慢性再発性多発性髄膜炎の治療
本症の治療は、まず痛みに対し非ステロイド性抗炎症薬 (NSAIDs)が第一選択となります。50〜80%の症例に有効であるとされ、NSAIDsの投与で症状が消失する例も報告されています。
NSAIDsの効果が不十分な場合には、ビスホスホネートの追加治療が行われ高い有効性が示されています。NSAIDs、ビスホスホネートが無効な場合には、免疫抑制作用のある生物学的製剤TNFα阻害薬の有効例が報告されていますが、本邦では保険適応外です。
慢性再発性多発性髄膜炎の経過、予後
本症は、多くは数ヶ月から数年で自然寛解し予後は良好な疾患と考えられています。しかし一方で、10年以上も炎症が続く症例もあり、長期的な炎症によって骨の成長障害、病的骨折、変形、関節拘縮を来し障害を残すこともあります。また、脊椎に病変を認める場合には、圧迫骨折のリスクがあるため積極的な治療と定期的な受診が大切です。
<リファレンス>
難病情報センター 慢性再発性多発性骨髄炎(指定難病270)
難病情報センター 慢性再発性多発性骨髄炎(指定難病270)
難病情報センター 慢性再発性多発性骨髄炎(指定難病270)
小児慢性特定疾病情報センター 慢性再発性多発性骨髄炎
自己炎症性疾患サイト
Genetic and Rare Diseases Information Center