完全大血管転位症|疾患情報【おうち病院】
記事要約
完全大血管転位症とは、大動脈と肺動脈の位置が入れ替わり、右心室から出るべき肺動脈が左心室から出て、左心室から出るべき大動脈が右心室から出ている状態です。完全大血管転位症の原因・治療方法・診断のコツなどを、医師監修の基解説します。
完全大血管天意症の概要・病態生理
通常であれば、血液は体→右心房→右心室→肺動脈→肺→肺静脈→左心房→左心室→大動脈→体と循環していきます。
完全大血管転位症の患者では、右心房と右心室、左心房と左心室は正常につながっていますが、右心室から大動脈が、左心室から肺動脈が出ています。
つまり、大動脈と肺動脈の位置が入れ替わり、右心室から出るべき肺動脈が左心室から出て、左心室から出るべき大動脈が右心室から出ている状態です。そのため、血液の循環は、体→右心房→右心室→大動脈→体・肺→左心房→左心室→肺動脈→肺となり、体循環と肺循環が連続しません。生存するためには、左右の心房、心室、大血管の間での動脈血と静脈血の血流の交通が必要となります。
完全大血管転位症の分類
完全大血管転位症の患者では様々な合併症を認めますが、比較的多い心室中隔欠損と肺動脈狭窄の有無によって以下のように分類されます。
心室中隔欠損も肺動脈狭窄もないI型(43%)、心室中隔欠損を合併するII型(41%)、心室中隔欠損と肺動脈狭窄を合併するIII型(15%)、(および心室中隔欠損のない肺動脈弁ないし弁下狭窄合併のIV型)に分類されます。
難病情報センターより引用
完全大血管転位症の疫学的整理
発生頻度は、0.05%(生まれた子供2000人に1人)と稀ですが、新生児期早期のチアノーゼ疾患の中では最も多いと言われており、先天性心疾患の8%を占めます。約 2: 1で男性に多くみられます。
完全大血管転位症の原因
正常の心臓が発生する過程では、大動脈と肺動脈の付け根は、螺旋状に発生する円錐動脈幹中隔で分かれて行き、大動脈が左室へ、肺動脈が右室へつながります。
完全大血管転位症の患者では、この中隔が直線的に発生し、大動脈が右室へ、肺動脈が左室へつながったと考えられています。最初の子供がこの病気で、次の子供にも再発する確率は2.2%と言われており、体左右軸の決定に関与する複数の遺伝子の変異が原因となっている可能性も示唆されています。
完全大血管転位症の症状
典型的な症状は出生直後からの全身チアノーゼと呼吸障害、哺乳障害など(いわゆる心不全症状)です。心室中隔欠損のないI 型,IV型の患者は生直後からチアノーゼを認め以後進行していきます。Ⅱ型の患者ではチアノーゼは軽いものの心不全症状を強く認めます。Ⅲ型の患者は肺動脈狭窄が軽度であればチアノーゼも心不全症状も軽度ですが、肺動脈狭窄が強いものは、チアノーゼも強く認めます。
完全大血管転位症の胎児診断
患者の出生前(胎児期)に胎児心エコーで診断することは出生後の治療を迅速に行うために重要です。胎児心エコー法の普及により、完全大血管転位症の胎児診断が可能となってきています。診断されれば手術可能な施設に母体搬送し、あらかじめ準備した状態で小児循環器科医の立ち合いのもと分娩に臨むことが望ましいです。
完全大血管転位症の診断方法
〈胸部X線〉
大動脈と肺動脈が前後に並ぶので上部縦郭陰影の幅が狭くなり、心陰影は横にした卵型“egg shape”となります。
〈心電図〉
通常、右軸偏位、右室肥大となる。左軸偏位は流入部の心室中隔欠損、左室肥大は左室流出路狭窄の合併を疑います。
〈心臓超音波検査(エコー)〉
胸部X線や心電図は診断の参考にはなりますが特徴的な所見はなく、多くの場合で最も情報が多いのは心臓超音波検査となります。エコーでの診断のポイントは、心房―心室の関係は正常につながり、かつ右心室から起始している血管がarch を形成する大動脈であること、左心室から起始する血管がすぐに分岐する肺動脈であることを確認します。次に同じく心エコーで、大きな心室中隔欠損の有無、左室流出路狭窄を含む肺動脈弁狭窄の有無を確認して病型診断をします。
〈心臓カテーテル検査〉
右心房と右心室、左心房と左心室が正常につながり、右心室から大動脈が、左心室から肺動脈が起始している所見を確認します。心房中隔欠損の程度を調べ、場合によっては、風船カテーテルを用いて欠損孔を大きくする心房中隔裂開術BAS(balloon atrioseptostomy)を行います。冠動脈の走行は重要で、Shaher分類がよく用いられており、大血管転換術の際には必要な情報となります。
8.完全大血管転位症の治療
【内科的治療】
I型、II型の患者では、手術までの間の全身状態を保つために、プロスタグランジンE製剤により動脈管を開存させます。また、心不全をコントロールするために、利尿薬や強心薬などを使用します。風船カテーテルを用いた心房中隔裂開術BAS(baloon atrioseptostomy)は、卵円孔が狭く、チアノーゼが著しい場合に実施します。
【外科治療】
I型、II型の患者では冠動脈の移植を含む大血管スイッチ術(Jatene手術)を実施します。手術の時期は、I 型では、生後 2 週間以内、遅くとも 4 週間以内に大血管スイッチ手術を行います。 II 型では、心室中隔欠損の大きさにもよりますが、1~2 か月で大血管スイッチ手術を行います。
III型の患者では幼児期にRastelli手術(右室と肺動脈を心外導管でつなぐ手術)が選択されます。これらができない場合には、心房位転換術を施行します。
完全大血管転位に対する動脈側スイッチ手術(Jatene手術)
先天性心疾患並びに小児期心疾患の診断検査と薬物療法ガイドラインより引用
完全大血管転位症の予後
治療介入をしない場合では、1ヶ月で50%が、6ヶ月で85%が死亡します。自然歴ではI型の患者が最も予後が悪く1ヶ月で低酸素のため80%が死亡します。II型の患者では1ヶ月で10%が死亡し、III型の患者の自然歴が最もよいと言われています。低酸素血症が強く心不全を認める場合には、予後不良と言われています。
大血管スイッチ術を受けた患者の遠隔期の予後は比較的良好であり、多くのケースで成人に達するようになってきていますが、手術後に、肺動脈狭窄、大動脈弁逆流、冠動脈狭窄、不整脈などを来すことがあります。
心房位転換術後は右室が体心室であるため、成人期になって、右心機能の破綻、難治性不整脈や三尖弁閉鎖不全による難治性心不全を来すことがあります。Rastelli手術後の患者では、導管の狭窄 、それに関連して心機能低下、不整脈などが問題となることがあります。場合によってはなんらかの内科的治療、外科的治療を必要とすることがあるため、定期的なフォローアップが必要です。
<リファレンス>
難病情報センター(指定難病209)
難病情報センター(指定難病209)
小児慢性特定疾患情報センター
先天性心疾患並びに小児期心疾患の診断検査と薬物療法ガイドライン(2018年改訂版)
総崎直樹,完全大血管転位―診断と内科管理― 日本小児循環器学会雑誌 第21巻 第6号.2005;p628−39
久持 邦和,先天性心疾患,まずは解剖と病態を識る 大血管の異常(TGA and cc-TGA) 日本成人先天性心疾患学会雑誌 第 9 巻 第 2 号 2020;p17~26
小山耕太郎,修正大血管転位症の診断 日本小児循環器学会雑誌 第28巻 第2号.2012;p73−80