肋骨異常を伴う先天性側弯症|疾患情報【おうち病院】

記事要約

肋骨異常を伴う先天性側弯症とは、生まれながらに脊椎の形態異常を認め、それによって脊椎の側弯が生じる疾患の総称です。肋骨異常を伴う先天性側弯症の原因・治療方法・診断のコツなどを医師監修の基解説します。

肋骨異常を伴う先天性側弯症とは

先天性側弯症は、生まれながらに脊椎の形態異常を認め、それによって脊椎の側弯が生じる疾患の総称です。先天性側弯症は様々な疾患に伴って生じます。また様々な先天性の異常を合併することがあります。先天性肋骨癒合や肋骨欠損を伴うものや脊椎肋骨異形成症などが一次性のものとして本症に含まれます。

側弯変形は成長に伴って悪化することが多く、悪化の程度は患者さんによって様々です。その中でも特に変形の悪化が強く、脊椎に隣接する肋骨にも変形が及び、胸郭形成不全となり肺の正常な発育が障害されるものが二次性として本症に含まれます。

本症の原因はよくわかっていません。遺伝性についてもわかっていませんが、家族性に本症を認めた報告や発症率の高い国があることから何らかの遺伝的要素が本症の発生に関与している可能性があります。

本症で最も問題になるのが呼吸障害です。これは、胸郭形成不全により肺の発育が障害されることが原因です。以前は酸素吸引、BIPAP、人工呼吸器などの呼吸管理が対症療法として行われていました。しかし手術手技の進歩によりVEPTR(本邦では2008年に医療機器として承認)と呼ばれる肋骨を利用した胸郭変形矯正システムが普及しつつあります。成長に合わせて肋骨間を広げながら胸郭を拡大し、間接的に側弯を矯正することで肺の発育を促す治療を行うことが可能になっています。

肋骨異常を伴う先天性側弯症の原因

本症の原因はわかっていません。

家族性に本症を認めた報告や発症率の高い国があることから、何らかの遺伝的要素が本症の発生に関与している可能性があります。
近年、東アジア人における先天性側弯症の約10%はTBX6遺伝子の変異が原因であることがわかりました。

疫学

先天性側弯症は比較的頻度の高く、全世界で500〜1000人に1人の割合で発症しますが、肋骨異常を伴うものの頻度はわかっていません。

肋骨異常を伴う先天性側弯症の症状

症状は無症状のものから高度な呼吸障害を認めるものまで様々です。脊椎の側弯や胸郭変形は成長とともに増悪することが多いので初めは無症状であっても、成長とともに症状の出現、悪化の可能性があり長期的な経過観察が必要です。

1)側弯の症状

外見上の異常として、肩の高さ、肩甲骨の突出、ウエストラインの左右非対称を認めます。前屈させ後方から見ると、肋骨隆起を認めます。また立位や座位バランスが悪くなります。

変形のある背部や腰部の痛みやコリが出現することもあります。
側弯が悪化すると消化器官へも影響し、食欲不振や腸閉塞を起こすこともあります。

2)胸郭の変形による症状

肺活量の減少や息切れ、睡眠時低呼吸/無呼吸、努力性呼吸などの呼吸障害を変形の重症度によって認めます。努力性呼吸が必要な状態になると、呼吸にエネルギーが消費されるため体重増加を認めなくなることも多いと言われています。また肺炎などの呼吸器感染症を繰り返すこともあります。

3)その他、先天性側弯症に伴う症状

先天性側弯症は、泌尿器系や心臓などの多臓器にわたって生まれつきの異常がある場合が少なくありません。

肋骨異常を伴う先天性側弯症の診断方法

先天性側弯症では脊椎のレントゲン撮影を行いますが、レントゲンでは異常形態がはっきりしないこともあります。その場合にはCT検査を行いさらに詳しく調べていきます。また3次元CTを利用することで脊椎、胸郭の状態を立体的に把握することができます。

先天性側弯症は、泌尿器系や心臓などの多臓器にわたって生まれつきの異常がある場合が少なくないため、これらも念頭に置き精査を行なっていきます。

<診断基準> 難病情報センターHPより引用

 年齢と変形の程度からみた基準—肋骨異常を伴う先天性(後)側弯症。
画像診断にて先天性脊椎奇形と肋骨異常を合併し、下記のいずれかの項目にあてはまるもの。
ここで言う肋骨異常とは、胸郭不全に関与すると判断される肋骨の形態、あるいは数的、又は量的な異常として定義する。

1.0~2歳未満

  • 立位(座位)X線写真で側弯が85度以上ある症例:(経過観察なしで唯一診断可能)
  • 側弯が45度~85度の症例:年間10度以上の進行が認められた症例(原則として比較は立位か座位で測定)
  • 側弯が45度以下の症例(下記の条件が必要、但し全てを含む必要はない)

《1》非侵襲的陽圧換気(Noninvasive Positive Pressure Ventilation:NPPV)が必要で、下記のうち少なくとも二項目の特徴を有する胸郭形態異常がある。

  • 胸郭形態異常で両側rib-vertebral angleが90度以上。
  • 第5胸椎での横径が第12胸椎での胸郭横径の50%以下の胸郭形態異常。
  • 胸郭変形の中でジューヌ(Jeune)症候群と呼ばれるもの、又はSALが70%以下の胸郭形態異常。

《2》年間20度以上の悪化が認められた症例。

2.2歳以上~6歳未満

  • 少なくとも立位(又は座位)X線写真で側弯が85度以上ある症例
    –   年間10度以上の側弯悪化が認められる症例。
  • 側弯が45度~85度の症例:
    –   立位(又は座位)X線写真で年間10度以上の進行が認められ、かつSALが70%以下の症例。
    –   上記以下の側弯でもNPPVが必要な症例。

3.6歳以上(10歳以下)

  • 少なくとも立位(座位)X線写真で側弯が85度以上ある症例
     –   年間10度以上の側弯悪化が認められる。
  • 立位(座位)X線写真で側弯が45~85度の症例
    –   少なくとも6か月以上の保存的治療(ギプスや装具治療)でも5度以上の悪化が認められる。

肋骨異常を伴う先天性側弯症の治療

1)経過観察

弯曲が軽度で変形が進行しないようであれば経過をみます。しかし、変形が進行してくる可能性は高いため、定期的に病状の評価を行うことが前提となります。

2)装具/ギプスによる治療

経過観察中に進行を認める場合には、装具またはギプスによる矯正を行います。低年齢では装具の装着が困難なことがあり、2、3歳以降で装着することが一般的です。

3)手術療法

装具やギプスによる治療をおこなっても側弯が進行する場合には手術が必要になります。

a) 脊椎矯正固定術

脊椎に脊椎内固定器具を設置し側弯の矯正を行います。また矯正した形態を維持するため、骨移植を行い脊椎を固定します。先天性側弯症では椎体の形態異常を認めるため、半椎や楔状椎といった側弯変形を来しやすい異常骨の切除を併用することがあります。

脊椎の固定によりその成長を止めてしまう手術であるため低年齢で行うことはほとんどありません。

b) グローイングロッド法

変形の矯正には伸長可能な脊椎内固定器具を使用します。器具を設置し変形を矯正する初回手術後は、脊椎が十分に成長するまで6ヶ月ごとに内固定器具を延長する手術を行なっていきます。脊椎が十分に成長した後は、内固定器具を取り替えて通常の脊椎固定術を行います。

脊椎の成長が期待できる手術ではありますが、複数回の手術が必要であること、感染症などの合併症が多いことから、患者さんにとっては長期的な負担のかかる手術です。

C) 拡張性胸郭形成術 (VEPTR)

上記の手術方法では側弯の矯正は可能ですが、変形した胸郭を矯正し成長に合わせて拡大していくことはできません。胸郭の変形により肺の発育が障害され、呼吸障害が起こっている状況を改善する目的で開発された術式がVEPTRになります。

VEPTRは肋骨を利用した胸郭変形矯正システムで、肋骨-肋骨、肋骨-脊椎、肋骨-骨盤を広げる器具を必要に応じて使い分けることで、胸郭の拡大と側弯の矯正を行うことができます。脊椎が十分に成長するまで、6ヶ月ごとの内固定器具の延長が必要になります。

肋骨異常を伴う先天性側弯症の経過、予後

本症の経過は患者さんによって大きく異なります。椎体の異常形態、部位によって側弯の進行度は変わり、それによって胸郭変形の程度も異なります。急速に進行する症例では適切な時期に適切な手術をしない場合、ADLの低下のみならず胸郭変形が高度になり肺活量が低下し、呼吸機能が大きく低下します。

統計的には乳幼児期に発生した側弯症において、その死亡率は40代には一般人口のそれよりも3倍高いとするスウェーデンの報告もあることから、生命予後は呼吸機能をどれだけ維持できるかによると考えられ、側弯だけでなく胸郭変形も同時に治療することが重要です。

<リファレンス>

難病情報センター 肋骨異常を伴う先天性側弯症(指定難病273)
難病情報センター 肋骨異常を伴う先天性側弯症(指定難病273)
小児慢性特定疾病情報センター 胸郭不全症候群
日本整形外科学会 小児の脊柱側弯症
東京都予防医学協会年報 2016年版 第45号 脊柱側弯症検診
Scoliosis Research Society
日本側彎症学会

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