皮膚筋炎・多発性筋炎|疾患情報【おうち病院】
記事要約
皮膚筋炎・多発性筋炎とは、筋肉の炎症により、筋肉に力が入りにくくなったり、筋肉を動かしたときに痛みを感じる病気です。皮膚筋炎・多発性筋炎の原因・治療方法・診断のコツなどを、医師監修の基解説します。
皮膚筋炎・多発性筋炎とは
概要
皮膚筋炎/多発性筋炎は、多くは緩やかに進行する、筋力低下をきたす炎症性筋疾患です。膠原病のひとつであり、皮膚筋炎では特徴的な皮疹がみられるので診断に重要です。
炎症は主に、体幹や大腿・上腕などの四肢近位筋、頸部や咽頭の筋肉などに起こり、筋力の低下をきたします。皮膚症状は特徴的で、ヘリオトロープ疹と呼ばれる上眼瞼の腫脹、ゴットロン徴候と呼ばれる手背の皮疹がが最も有名です。このほか肘頭、膝頭、上背部などにも特徴的な皮疹がみられます。
検査所見上、筋組織の炎症を反映して、筋原性酵素(クレアチンキナーゼ、アルドラーゼ)高値を認めます。また、様々な自己抗体が検出され、他の膠原病とオーバーラップすることもあります。
ときに悪性腫瘍を合併することがあり、内蔵悪性腫瘍の検索は必須です。また、間質性肺炎を合併することもあり、時に皮膚筋炎でみられる急速に進行するタイプでは予後不良となる場合があります。
多発筋炎/皮膚筋炎は、筋炎を中心に、皮膚症状、関節炎、間質性肺炎などを併発し、多彩な症状を呈しますが、すべての症状が起こるわけではなく、患者さん一人一人によって、出てくる症状、障害される臓器の種類や程度が異なります。筋肉の症状がない、皮膚症状だけの場合もあり、無筋症性皮膚筋炎と呼びます。
なお、小児期ではほとんどが皮膚筋炎であり、症状も特徴的であることが多く、若年性皮膚筋炎は成人とは少し違った病因を伴って発症しているものと思われます。
皮膚筋炎・多発性筋炎の原因
遺伝的な素因、環境要因も推測されています。特異的な自己抗体が存在することから免疫異常の関与は考えられています。免疫は、病原微生物を退治して身を守るための防御システムですが、膠原病ではこれが自らの臓器を標的としてしまっています。自己免疫と呼ばれる状態です。多発性気炎・皮膚筋炎では、筋肉や皮膚などを、免疫力が攻撃しているのが原因です。しかしながら、なぜ、そのようなことがおきるのかは明らかではありません。生まれ持った体質に微生物感染などの外からの出来事が加わって発症するものと考えられています。
疫学的整理
本疾患は、厚生労働省の特定疾患、現在の指定難病として、臨床個人調査票による全国調査が行われています。2009年の臨床調査個人票の解析結果によれば,日本の推定患者総数は約 17,000 人ですが、現在では20,000人を超える患者が罹患していると考えられます。多発性筋炎・皮膚筋炎も他の膠原病と同様に、女性の患者さんが多いことがわかっています。我が国の統計では男女比は、1:3です。
発症年齢は、15歳以下が3%、60歳以上25%で、中年発症が最も多いようです。一般には、小児期(5-14歳)も小さなピークがあり2峰性分布を示すと言われます。しかし、小児期では皮膚筋炎が多発性筋炎よりも多く、症状も特徴的であることが多く、小児の多発性筋炎・皮膚筋炎は成人とは少し違った病因を伴って発症しているものと思われます。
皮膚筋炎・多発性筋炎の症状と診断
筋炎による筋力低下、皮膚筋炎では特異的な皮疹が大きな特徴です。
また、予後に関わる重大な合併症には間質性肺炎と内臓悪性腫瘍があります。
《1》筋症状及び全身症状
筋力低下が基本的な症状であり、好発部位は四肢近位筋群(下肢95%、上肢75%)、頸部屈筋群(70%)、および咽頭・喉頭筋群(70%)です。しゃがみ立ちができない、階段の上り降りや上肢挙上ができない、などの異常に気づきます。また、咽頭・喉頭筋群が障害されると、食べ物が飲み込みにくい、言葉がうまく出せないなどの症状を生じます。
血液検査で筋逸脱酵素である クレアチンキナーゼ、アルドラー ゼ、AST、ALT、LDH などの上昇がみられます。、筋炎の評価指標としては クレアチンキナーゼ、次いでアルドラ ーゼが一般に用いられ、特に血清 クレアチンキナーゼ値の上昇は病勢を比較的よく反映しますが、筋力低下とは必ずしも並行しないことがあります。 また、筋炎の評価にはMRIや筋電図、筋生検も行われます。
全身症状として、発熱、全身倦怠感、易疲労感、食欲不振、体重減少などがみられることもあります。検査上、CRP や赤血球沈降速度の亢進など の慢性炎症性疾患に伴う臨床症状が見られますが、これらの全身症状は、多発性筋炎・皮膚筋炎に特異的な症状ではありません。関節痛・関節炎を合併することもあります。
《2》皮膚症状
皮膚筋炎の診断価値の高い特徴的な症状として、ヘリオトロープ疹とゴットロン丘疹・徴候があります。ヘリオトロープ疹は上眼瞼の浮腫性かつ紫紅色の紅斑です。ゴットロン丘疹・徴候は手指の指節間節や中手指節関節の背側にみられる暗紫色の丘疹ないし紅斑で、両側性に丘疹が集族してみられます。
この他に、V徴候やショール徴候と呼ばれる胸部の紫紅色斑や、手指皮膚の角化、脂肪織炎、多形皮膚と呼ばれる一カ所の皮膚病変に多彩な皮膚病変が混在する症状などがみられることがあります。光線過敏症状がみられることもあります。
《3》肺病変
咳、呼吸困難などの症状が起こりえます。間質性肺炎を伴うことがあり、生命予後を左右します。特に急速に進行する場合があり、そのまま進行して呼吸不全となって死に至ることがあります。このような急速進行性肺炎は、筋原性酵素の上昇が少ないタイプに多いとされるほか、典型的な皮膚症状と難治性皮膚潰瘍を伴う場合には頻度が高いとされます。
《4》心病変
不整脈(心筋伝導障害、期外収縮)、心筋障害による心不全などを生じることがあります。
《5》悪性腫瘍の合併
約30%の成人皮膚筋炎で内蔵悪性腫瘍がみられ、発症前後1年以内に見つかることが多いため定期的な検索が必要です。悪性腫瘍の種類は胃、肺、大腸、前立腺、子宮、乳腺などで、特徴的なものはなく、一般の発症頻度と同様です。
悪性腫瘍の合併を予測できる特徴的な皮膚症状は明らかではありませんが、紅斑が難治であったり著明な場合には特に積極的な検索が必要とされます。
<皮膚筋炎/多発性筋炎 診断基準>
1.診断基準項目
(1)皮膚症状
(a)ヘリオトロープ疹:両側または片側の眼瞼部の紫紅色浮腫性紅斑
(b)ゴットロン丘疹:手指関節背面の丘疹
(c)ゴットロン徴候:手指関節背面および四肢関節背面の紅斑
(2)上肢又は下肢の近位筋の筋力低下
(3)筋肉の自発痛又は把握痛
(4)血清中筋原性酵素(クレアチンキナーゼ又はアルドラーゼ)の上昇
(5)筋炎を示す筋電図変化
(6)骨破壊を伴わない関節炎又は関節痛
(7)全身性炎症所見(発熱、CRP上昇、又は赤沈亢進)
(8)抗アミノアシルtRNA合成酵素抗体(抗Jo-1抗体を含む。)陽性
(9)筋生検で筋炎の病理所見:筋線維の変性及び細胞浸潤
2.診断のカテゴリー
皮膚筋炎 : (1)の皮膚症状の(a)~(c)の1項目以上を満たし、かつ経過中に(2)~(9)の項目中4項目以上を満たすもの。
なお、皮膚症状のみで皮膚病理学的所見が皮膚筋炎に合致するものは、無筋症性皮膚筋炎として皮膚筋炎に含む。
多発性筋炎 : (2)~(9)の項目中4項目以上を満たすもの。
3.鑑別診断を要する疾患
感染による筋炎、薬剤誘発性ミオパチー、内分泌異常に基づくミオパチー、筋ジストロフィーその他の先天性筋疾患、湿疹・皮膚炎群を含むその他の皮膚疾患
皮膚筋炎・多発性筋炎の検査所見
筋原性酵素(クレアチンキナーゼ、アルドラーゼ)高値は病勢を反映し、有用な検査ですが、前述のようにときに上昇を認めないタイプがあるので注意が必要です。
各種の抗アミノアシルtRNA合成酵素抗体ほか皮膚筋炎特異抗体があり、病型とも関連します。強皮症や全身性エリテマトーデスなど他の膠原病との合併がみられることもあるので、他の膠原病に特異的な自己抗体も検査を行います。
筋病変の評価には筋電図や筋生検が行われますが、MRIが早期あるいは潜在性の病変の検出に有効です。
肺病変の評価は胸部レントゲンや血液ガス分析、血清KL6値足底に加え、高分解能CTが有用です。経過中に間質性肺炎を合併してくることもあるので、注意深い定期的な観察が必要です。
皮膚筋炎・多発性筋炎の治療
治療は薬物療法が中心です。ただし、患者さん毎に最良の治療法は異なりますので、主治医の指示通りに規則正しく服薬することが大事です。
副腎皮質ステロイド薬が第一選択であり、一般に高用量ステロイド療法(体重1kgあたりプレドニゾロン換算で1mg/日)が2-4週間程度行われ、筋力や検査所見をみて有効な場合には減量し、数カ月かけて維持量にまで減量されるのが標準的な方針です。皮膚所見も同時に良くなります。重症例には、メチルプレドニゾロン0.5ないし1gの点滴静注を3日間行うステロイドパルス療法を行うこともあります。
嚥下障害、急速進行性間質性肺炎のある場合には、救命のため、強力かつ速やかに治療を開始する必要があります。特に急速進行性間質性肺炎に対しては、初期治療からステロイドに加えて免疫抑制薬が併用されます。副腎皮質ステロイド薬が、効果不十分、副作用により使えない、減量により再燃するなどの場合にも、免疫抑制薬の併用のほか免疫グロブリン大量静注療法が行われることがあります。
悪性腫瘍が合併する場合、悪性腫瘍が存在する限り筋や皮膚症状が改善しにくく、悪性腫瘍の治療だけで多発性筋炎・皮膚筋炎が良くなる場合もあります。そのため、積極的に悪性腫瘍の検索と治療をしなくてはなりません。
日常の注意として、症状が強い時期には安静を保ち、食事は高タンパク・高カロリー食とします。日光暴露(紫外線)が増悪のきっかけとなりうるので遮光の注意は必要です。
皮膚筋炎・多発性筋炎の予後
一般的には治療により筋力は数ヶ月で回復します。生命予後は5年生存率が約90%であり、小児例は特に良いとされます。しかし、小児では初期に皮下組織や筋肉、消化管などの血管病変が多く、後期には石灰沈着が高頻度に起こるため、中には治療抵抗性で慢性に皮膚潰瘍を繰り返し、重度の皮膚・皮下組織への石灰沈着や運動機能障害が問題となることもあります。
成人においては急速進行性間質性肺炎や悪性腫瘍を合併する症例は予後不良となります。筋炎はステロイド減量で再燃しやすく、また、筋力回復には長期必要する場合も多く、治療後も過半数の症例に筋力低下が残るとされます。