Dravet症候群|疾患情報【おうち病院】

記事要約

Dravet(ドラベ)症候群とは何度もけいれんを繰り返す指定難病の一つで「乳児重症ミオクロニーてんかん」と呼ばれることもあります。きっかけがなく起こることや重積発作となることも多く、薬でのコントロールに難渋することもあります。Dravet症候群の原因、症状や相談の目安などについて医師監修の基解説します。

Dravet症候群とは

Dravet症候群は多くの場合は1歳までに全身あるいは半身のけいれんで発症し、その後も何度もけいれんを繰り返す指定難病の一つです。「乳児重症ミオクロニーてんかん」と呼ばれることもある、てんかん性脳症の一つです。
けいれんは入浴や発熱といった体温の上昇に伴って起こることが特徴ですが、特にきっかけがなく起こることもあります。5分以上けいれんが持続する重積発作となることも多く、薬でのけいれんコントロールに難渋することもあります。また徐々に発達の遅れが現れるようになりますが、その程度には個人差があります。

Dravet症候群の原因

Dravet症候群の約80%の患者さんは、ナトリウムチャネル遺伝子SCN1Aの遺伝子異常を有していることが知られています。この遺伝子の機能低下により神経細胞の過剰な電気発射が生じるために難治性てんかんを発症するとともに、発達の遅れや運動失調が出現すると考えられています。
残り約20%の患者さんは、他の遺伝子変異もまれに報告されていますが、現在のところ原因は解明されていません。遺伝子異常というと病気が遺伝すると思われるかもしれませんが、Dravet症候群が親子間で遺伝することはないと考えられています。

Dravet症候群の疫学的整理

Dravet症候群の発症頻度は約4万人に1人と言われ、非常にまれな難病です。
日本全国で約3000人と見積もられていますが、十分に診断されていない人もいると考えられ、実際はもう少し多いと考えられています。男女差はなく、男女同等に発症すると考えられています。

Dravet症候群の症状

Dravet症候群の多くは1歳までに発症しますが、特に生後5~6か月での発症が多いと言われています。Dravet症候群の主な症状は、てんかん発作、精神運動発達遅滞(発達の遅れ)、運動失調です。

てんかん発作

てんかん発作では全身あるいは半身にけいれんが繰り返し起こります。年齢とともに発作様式に違いがあります。

乳児期

乳児期は全身あるいは半身の強直間代発作もしくは間代発作で発症します。

強直間代発作はいわゆる大発作でもっともよく知られるけいれん発作です。数秒から数十秒の強直期の後に間代期に移行します。強直期は前兆がなく突然意識を失い、呼吸がとまり、口を固く食いしばり、手足を伸ばしたまま全身が固くなります。

間代期は膝などを折り曲げる格好をとり、手足をガクガクと一定のリズムで曲げたり伸ばしたりするけいれんが起こります。発作は通常は1分程度で収束しますが、Dravet症候群では発作が5分以上持続する重積発作となり、入院加療が必要になることが多いです。

また体温上昇により発作が頻回に誘発されることが特徴的であり、発熱や入浴により発作が誘発されます。

半身の片側性けいれん発作は乳児期に多く、左右独立して生じる、もしくは1回の発作のなかで左右交代性の片側性けいれん発作を起こすことも特徴的です。

幼児期

年齢があがるとともに、発熱に伴う発作は減少しますが、無熱時の全身けいれん発作は続きます。

幼児期(1~3歳頃)に特徴的な発作型としてミオクロニー発作を呈することが多いです。ミオクロニー発作とは、突然身体の一部もしくは全身がビクッとけいれんする発作です。程度は手足や肩など一部分のみの軽いものから全身性のものまであり、その頻度も様々です。

同時期に多くの患者に非定型欠神発作が出現します。

欠神発作とは数十秒にわたり突然意識がなくなり、急に話が途切れたり動作がとまったりする発作です。手足が硬直したりガクガクしたりといった動きはほとんどなく、なんとなくぼんやりしている、目が虚ろになっている、呼んでも返事をしないといった症状であるため、発作と気づかれにくいことがしばしばあります。

欠神発作は定型欠神発作と非定型欠神発作に分類されますが、非定型欠神発作は定型欠神発作と比較し、始まりと終わりが不明瞭でなんとなく始まり、なんとなく終わるということが多いです。

非定型欠神発作が頻発し、非けいれん性てんかん重積状態を起こすこともあります。これは数時間から数日間、非定型欠神発作が頻回に出現する状態です。

上記のようなミオクロニー発作や欠神発作は、縞模様や点滅する光を見ることで誘発されやすく、またミオクロニー発作や欠神発作から全身けいれんへ移行することもあります。

また部分発作を認めることがあり、これは動作停止や眼球偏位、頭部回旋などを伴う複雑部分発作が多くみられます。

学童期

学童期(6歳以降)ではミオクロニー発作、非定型欠神発作は次第に減少し消失します。

しかし全身けいれん発作や部分発作は持続します。これらは多種類の抗てんかん薬を用いてもコントロールに難渋することが多く、難治に経過します。

また急性脳症や突然死で思春期前に約10%が死亡するという報告がありますが、死亡原因の約半数は原因不明の突然死であることが知られています。

精神運動発達遅滞(発達の遅れ)

発症前の発達は正常であり、多くは1歳を過ぎてから発達の遅れが現れます。

1歳以降で発達が伸び悩み、境界域から重度まで程度は様々ですが、非常に高い確率で知的障害が認められます。自閉傾向や多動など広汎性発達障害の症状を伴う場合もあります。急性脳症を起こした場合を除き、できたことができなくなる退行は一般にありません。

運動失調

歩行獲得が遅れることがあり、歩行可能になってもふらつきや転びやすいといった症状が続くことが多いです。成人期以降に歩行障害が悪化することも知られています。思春期以降にみられる歩行の特徴として、歩くときにふらついてしまうため、膝を曲げ内股で重心を低くして歩く、しゃがみ歩行があります。 

Dravet症候群の診断

Dravet症候群は早期診断が難しく、治療が遅れてしまうことがしばしばありますが、診断および治療を早期に開始することが重要です。

Dravet症候群の診断は画一的ではなく、臨床経過、発作型、脳波・頭部MRI所見から総合的に判断すること、類似した症状を呈する他の疾患を鑑別することで診断をつけます。遺伝子解析は有用ですが、上記のナトリウムチャネル遺伝子SCN1Aの遺伝子異常を伴わない症状が約20~30%あることに注意が必要です。以下、厚生労働省の研究班が作成した診断基準をもとに解説していきます。

A.症状

1.全身または半身けいれん発作
→1歳未満に前兆なく、突然の発作で発症します。

2.焦点性発作(部分発作)、ミオクロニー発作、非定型欠神発作、意識混濁発作
→幼児期に特徴的な発作型です。意識混濁発作とは、不規則な一瞬の筋肉の収縮(ミオクローヌス)を伴い、時間経過とともに変動する意識障害が長時間持続する発作であり、Dravet症候群に特徴的とされています。

3.発熱や入浴による誘発
→体温上昇に伴い、けいれん発作をくり返すことが特徴的です。特に初期の発作は発熱で誘発されやすく、熱性けいれんで発症する例が多いです。

4.光や図形に対する過敏性の存在
→縞模様や点滅する光を見ることで発作が誘発されやすくなります。

5.けいれん重積ないしはけいれん発作の群発を起こしやすい
→けいれんが5分以上続くけいれん重積や、短いけいれんを短時間でくり返すけいれん群発を起こしやすく、発作は長時間におよぶ傾向があります。

B.検査所見

1.血液・生化学的検査
→血液検査では特徴的な所見はありません。

2.病理検査
→特徴的な所見はありません。

3.画像検査
→主に脳のMRI検査を行います。乳児期(1歳未満)は正常であり診断が困難ですが、幼児期以降は大脳萎縮や海馬萎縮がみられます。しかしこれらはDravet症候群の特徴的な所見ではありません。

4.生理学的検査
→主に脳波検査を行います。乳児期(1歳未満)は正常ですが、幼児期以降は全般性異常や局所性異常がみられます。反復する光刺激や図形をみることで異常所見が誘発されることがあります。

5.運動・高次脳機能障害
→幼児期以降は知的障害を伴うことが多く、運動失調や下肢のつっぱりを伴うこともあります。自閉症や多動症などの発達障害を伴うこともあります。

診断としては、1歳未満でA1を発症し、A2~5の特徴を1つ以上を有する場合はDravet症候群を疑います。遺伝子解析が陽性の場合は確定診断となります。遺伝子解析が陰性であっても、A2~5の特徴を2つ以上、かつB3~5のうち1つ以上を有する場合は確定診断となります。

Dravet症候群は1歳までは検査で異常所見がなく早期診断が難しい疾患ですが、1歳までの経過によるスクリーニングテストが開発され、診断に有用とされています。このスクリーニングテストは臨床スコアと遺伝子スコアで構成されており、臨床スコアが6点以上の場合はDravet症候群が疑わしく、遺伝子解析が推奨されます。臨床スコアは下記の通りです。

  • 発症年齢が7か月以下     2点
  • 発作の回数が5回以上     3点
  • 半身けいれん発作        3点
  • 焦点性発作(部分発作)     1点
  • ミオクロニー発作        1点
  • 10分以上遷延する発作      3点
  • 入浴により誘発された発作    2点

Dravet症候群の治療

現在Dravet症候群を根本的に治療する方法はなく、けいれん発作を予防するための治療を行います。主にはけいれん発作を止める効果のある抗てんかん薬による治療を行いますが、ケトン食療法が行われる場合もあります。

抗てんかん薬による治療

Dravet症候群のけいれん発作は難治であり、1つの薬で発作をコントロールすることが困難であり、複数の薬を用いることが多くなります。

Dravet症候群で主に使用されることが多い薬剤は、バルプロ酸やクロバザムです。これらで効果不十分な場合は新規の抗てんかん薬である、スチリペントールが使用されることもあります。逆にカルバマゼピン、フェニトイン、ラモトリギンはDravet症候群の発作を悪化させる可能性があり推奨されません。

Dravet症候群の発作は発熱で誘発されやすいため、発熱時は熱性けいれんの予防薬としても使用されている、ジアゼパム座薬を使用することが多いです。

ケトン食療法

ケトン食療法とは食事療法の1つで、けいれん発作を減少させることが期待できます。

脳のエネルギー源として糖分ではなく、ケトン体を活用できる状態にする治療法です。具体的には、脂質はケトン体を作りやすく、炭水化物や糖質はケトン体を消す方向に働くため、脂質が多く、炭水化物や糖質が少ない食事を摂取するようにします。

脂質対炭水化物、糖質、タンパク質から割り出したケトン比が一定になるように毎食計算して献立を調整します。ケトン食療法には、低血糖、嘔気・嘔吐、便秘・下痢、体重減少、活動性低下などの副作用があり、必ず医師の指導のもとに行われるべき治療法です。

日常生活での注意点

入浴によりけいれん発作が誘発される可能性が高いため、湯温を下げる、湯舟につかる時間を短くする、シャワー浴にするなどの工夫が発作予防につながります。

光の点滅や図形・模様の凝視で発作が誘発される場合もありますので、視野を遮ったり顔を背けさせることも予防につながります。

Dravet症候群の予後

残念ながら現時点で完治は見込めず、発作予後、知的予後ともに不良です。

学童期(6歳以降)になると、けいれん発作や重積の減少、覚醒中のけいれんから睡眠中のけいれんへの変化など、けいれん発作は改善傾向を示します。

しかし成人になっても完全に発作がなくなることは稀であり、発熱による発作誘発は続くことが多いです。

また程度の差はありますが合併する知的障害、発達障害、運動失調により、成人期に自立した社会生活を送ることは困難であり、何らかの援助を必要とすることが多いです。

思春期までの死亡率は約10%と高く、突然死や急性脳症による死亡率が高いと報告されています。溺水や不慮の事故が原因となる場合もあります。平均寿命に関するデータは現時点では報告がありません。

Dravet症候群の相談の目安

Dravet症候群の初期症状は熱性けいれんとの判別が困難です。

Dravet症候群の初回発作の時期と熱性けいれんの好発年齢が同時期であるためです。さらにDravet症候群は発熱で誘発されやすいという特徴があり、1歳未満では検査での異常所見が乏しいためです。

しかし、けいれん発作を頻回にくり返す、けいれん発作の時間が長い、半身のけいれん発作がある、場合は医療機関を受診した方がよいでしょう。

<リファレンス>

 難病情報センター ドラベ症候群(指定難病140)
小児慢性特定疾病情報センター
Hattori J, et al. Epilepsia 2008 Apr;49(4):626-33
てんかん情報センター

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