子宮外妊娠|疾患情報【おうち病院】

記事要約

子宮外妊娠とは、子宮の内腔以外の部位に受精卵が着床する異常妊娠のことです。子宮外妊娠の原因・症状と治療方法・改善対策を解説

子宮外妊娠(異所性妊娠)とは

子宮外妊娠(異所性妊娠)とは、子宮の内腔以外の部位に受精卵が着床する異常妊娠のことをいいます。子宮外妊娠の発生頻度は、全妊娠の1〜2%程度と言われています。一番発生しやすい場所は、卵管(90%以上)で、他には腹腔内、子宮頸管、卵巣、帝王切開創部の発生の可能性があります1)3)。

異所性妊娠が発生すると、胎児成分が着床部位の組織へ浸潤し始め、それにより組織損傷が起こります。その組織損傷が時に、激しい腹痛や、大量の腹腔内出血を引き起こし、致死的となる危険があります。その危険を避けるため、異所性妊娠は出来るだけ早期に診断し、早々に治療を開始することが望ましいと考えられています。

原因・リスク分子

異所性妊娠のリスク因子と考えられているものは以下の通りです。

  • 異所性妊娠の既往 

異所性妊娠を経験したことのある女性が、異所性妊娠を繰り返すリスクは10%、また2回以上経験したことのある人は反復のリスクが25%にも上昇すると言われています3)。

他には、

  • 卵管手術の既往
  • 骨盤内もしくは腹腔内手術の既往
  • 骨盤内炎症性疾患の既往
  • ART(Assisted Reproductive Technology)による妊娠
  • 子宮内避妊具の使用
  • 喫煙
  • 35歳以上

などもリスク因子として考えられています。

*クラミジア感染は、卵管の自発的収縮運動をコントロールするペースメーカー細胞の機能を阻害することが分かっています。現感染もしくは既往感染が、卵管の受精卵運搬機能を妨げ、異所性妊娠を起こりやすくしているのではないかと考えられています2)。

*子宮内避妊具の使用は、避妊効果そのものが高いため、他の避妊方法に比べて異所性妊娠の発生率は低い一方、万が一妊娠が発生した際には、その妊娠の約半数が異所性妊娠になる可能性があるという報告もあります3)。

*喫煙により、卵管さいの卵子の捕獲・卵管の蠕動運動・卵管内腔の絨毛運動全ての機能が低下し、卵管の受精卵運搬機能に悪影響を及ぼすことが分かっており、異所性妊娠のリスク因子の可能性があると考えられています2)。

*ART(Assisted Reproductive Technology)による妊娠は、元々卵管機能に問題のあるケースや、複数の受精卵を子宮内に戻す治療が、異所性妊娠の発生頻度に影響を与えていると考えられています3)。

疫学的整理・海外動向

異所性妊娠の罹患率は、世界のどこの地域においてもあまり大きな差はないようですが、その死亡率は、先進国と発展途上国で著しい差があると言われています。

社会的要因(産婦人科のアクセスが容易かどうか、確立した診断技術・方法が普及しているか、女性への産科疾患への啓蒙が行き届いているか、社会不安、医療保険制度など)により、初診時の状態(無症状、急性腹症のような状態、ショック状態など)や、治療内容(薬物治療か、腹腔鏡手術か、開腹手術か等)が異なる可能性を示している報告もあります6)。

多くの国で、メトトレキセートによる薬物治療が第一選択と考えられるようになりつつありますが、日本ではメトトレキセートによる治療は適応外使用であるため、異所性妊娠の治療の第一選択は手術治療とされています。

症状(潜伏期間・感染経路等)・相談の目安

初期には、正常妊娠のような体調の変化(月経の遅れ・乳房緊満感・嘔気等)が起こり得ます。他には以下のような症状が起こることもあり、その際には異所性妊娠も含めた異常妊娠の可能性についても懸念すべきです。

  • 出血 
  • 腰痛 
  • 下腹部痛、骨盤痛 
  • 片側に起こる急激な下腹部痛 

初期を経過し異所性妊娠が発育していくと、着床部の組織損傷(例:卵管破裂)による重篤な症状が現れる危険があります。具体的には、以下のような症状です。

  • 突然の腹部、骨盤の激痛 
  • 肩部痛 
  • 倦怠感、めまい感、意識消失 

特に卵管破裂は、時に大量の腹腔内出血の原因となることがあり、上記のような症状が現れます。その際には、輸血や緊急手術の必要性が起こり得ます。よって、妊娠反応が陽性となった人で、上記のような症状がある場合には、緊急事態と考えるべきです5)。

診断・治療の方法

妊娠反応が陽性、かつ以下のような状態であるときに異所性妊娠を疑い、診断のための精密検査を進めていきます1)。

  • 最終月経または排卵日から妊娠5週以降と推定されるにも関わらず、子宮内に胎嚢を認めない。
  • 子宮外に胎嚢のようなものを認める。
  • 流産手術後、摘出物に絨毛組織が確認されない。

具体的な精密検査は、以下の通りです。

[血中HCG定量検査] 

血中HCGのレベルから推定した妊娠週数と超音波検査での描出に大きな不一致があれば、正常単胎の可能性は低くなります。

[MRI検査] 

胎嚢がある程度発育している場合には、超音波検査と比較し、嚢胞(胎嚢)の位置や周辺の状態をより明確にすることができます。また、骨盤内の出血を描出することが出来るため、治療方法の選択に際し有用な検査と言えます。

上記検査等で子宮外妊娠の可能性が高いと判断された場合には、以下の治療へ進めていきます。

[手術]

メトトレキセートによる薬物治療が日本では保険適応外治療であるため、手術治療が原則第一選択として考えられています。

手術方法には、開腹手術、腹腔鏡手術のどちらかが選択されます。

強い痛み、腹腔内出血等で全身状態が悪化している場合には、開腹手術が選択されることが多いですが、比較的落ち着いているケースには腹腔鏡手術を試みることができます。

開腹手術と腹腔鏡手術に関するRCT等から得られたデータには、術後の卵管疎通性、挙児希望者の次回妊娠率に差は認めないが、腹腔鏡手術において異所性妊娠の反復率が低い1)とありますが、実際の手術方法の選択においては、設備や医師の腹腔鏡手術の習熟度には違いなども考慮し、施設ごとの基準も参考にしながら決定されます。

開腹または腹腔鏡によって子宮外妊娠と確定診断された場合には、胎嚢除去をそのまま行います。最も頻度の高い卵管妊娠においては、卵管切除術(卵管ごと胎嚢を除去する方法)、または卵管切開術(卵管内部の胎嚢のみを除去する保存的手術療法)のどちらかが選択されます。いずれの術式においても、将来の妊孕性や遺書性妊娠の反復率には変わりないとされてはいますが、手術時の安全や将来のリスクを熟慮した上で方法を選択すべきで、日本産科婦人科内視鏡学会はその選択に際し以下の6項目を考慮するよう提案しています1)。

  1. 挙児希望 
  2. 腫瘍径5cm未満 
  3. HCG:10000IU/L未満 
  4. 初回卵管妊娠 
  5. 胎児心拍陰性 
  6. 未破裂卵管 

[薬物治療]

日本では保険適応外ですが、HCGレベル・胎児心拍の有無・胎嚢サイズ・着床部位の破裂の有無などを参考に、効果を期待できる症例に対してメトトレキセートを用いることがあります。筋肉注射で投与します。投与回数は、HCGのレベルによって決定します。

メトトレキセートは葉酸代謝を阻害することで核酸合成を阻止し、細胞増殖を抑える機能を発揮する薬剤です。日本では抗癌剤、免疫抑制剤として用いられることが一般的です。異所性妊娠においては、胎児組織の増殖を抑え、流産を促す効果を期待して使用されます。

各種検査で異所性妊娠がおおよそ診断されるケースにおける、メトトレキセートの絶対的な使用条件は、以下の通りです。

  • 全身状態が落ち着いている 
  • 着床場所の組織が破裂していない
  • メトトレキセート使用禁忌でない

メトトレキセートを使用する上での注意事項は以下の通りです5)。

  • 授乳中は使用できない 

薬剤の授乳移行量は非常に少ないものの、薬剤が児の体内組織に蓄積する傾向があるため、授乳中の使用はしない方が良いとされています4)。

  • 激しい運動、性交渉は控える 

激しい運動や性交渉により、メトトレキセートの効果との相乗効果で、異所性流産発生時の出血など症状の悪化が懸念されます。

  • 飲酒は控える 

飲酒はメトトレキセートの肝臓副作用のリスクを上昇させると言われています。

  • 葉酸が多く含まれた食品を取りすぎないようにする 

葉酸の過剰摂取は、メトトレキセートの効果を弱める可能性があります。葉酸が多く含まれている食材は、葉酸添加食材(例:シリアル、パン、パスタ等)、ピーナッツバター、緑色野菜、オレンジジュース、豆類、等があります。

  • 鎮痛剤の使用には注意する 

鎮痛剤がメトトレキセートの代謝に影響を与えることがあります。

  • 腸内ガスを多く産生する食品の過剰摂取は控える 

腸内ガスの発生が、メトトレキセート使用中の組織破裂の症状(腹痛等)を分かりにくくさせてしまうことがあります。

  • 太陽光は浴びすぎない 

メトトレキセートの副作用である日光過敏が発生する危険があります。

[待機療法]

各種検査から異所性妊娠の可能性が高いにも関わらず、痛みや出血などの症状が乏しく、かつ血中または尿中HCGレベルの自然下降が観察される症例に対しては、待機療法を適応することがあります。その場合、初期の血中HCGレベルが200IU/ml以下の場合には、成功率が高いとされています3)。

診断の難しさ

症状が流産と非常に似ているため、特に初期の段階では診断に難儀することもあります。高感度の妊娠検査薬と解像度の高い超音波検査を使用しても診断に苦慮する場合には、試験的に子宮内膜除去術を行い、内膜組織の中に胎嚢組織の有無によって、判断する方法を取ることもあります。

各種検査でも信頼できる確証が得られないまま、腹痛や出血などが持続している場合には、まず腹腔内を観察する目的での手術(試験開腹術)に踏み切ることもあります。

手術時には、既に着床部組織が破裂している場合には、絨毛の肉眼的な確認が難しいこともある。

異所性妊娠からの回復・メンタルケア

待機療法・薬物治療・手術治療のいずれにおいても、異所性妊娠組織が縮小していく過程をより確実に確認するために、血中または尿中HCGが陰性になるまで経過を確認し、症状の消失、HCG陰性化を確認し、治療を終了します。

妊娠の希望の有無に関わらず、異所性妊娠の体験は、精神的にその女性に大きな苦痛をもたらすことが多いと言われています。時には治療中・治療後の身体の回復以上に、心の回復に時間を要することもあります。一般的な自然流産と同様に、児(妊娠)を失った悲しみが、その女性や関係者の間にもたらされることもあります。患者は、一般的な治療経過のみならず、適切な精神ケア(カウンセリングなど)に関する情報も合わせて提供されることが望ましいと考えられています8)。

<リファレンス>

1)日本産科婦人科学会 

2)日本産科婦人科学会第66回学術講演会(2014年) 専攻医プログラム「異所性妊娠」

3)アメリカ産婦人科学会 ACOG Practice Bulletin No.191: Tubal Ectopic Pregnancy

4)Drugs in Pregnancy and Lactation(11th Edition)

5)アメリカ産婦人科学会 ACOG Frequent Asked Questions: Pregnancy

6)African Journal of Primary Health Care & Family Medicine

7)National Library of Medicine

8)Ectopic Pregnancy Trust UK

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