エーラスダンロス症候群|疾患情報【おうち病院】

記事要約

エーラスダンロス症候群とは、皮膚、関節の過伸展性、各種組織の脆弱性(もろさ)を特徴とする遺伝性疾患です。エーラスダンロス症候群の原因・治療方法・診断のコツなどを、医師監修の基解説します。

エーラスダンロス症候群(Ehlers-Danlos Syndrome;EDS)とは​​​​​​

皮膚、関節の過伸展性、各種組織の脆弱性(もろさ)を特徴とする遺伝性疾患です。皮膚や組織を形成するコラーゲンなど、結合組織成分の先天性代謝異常により、皮膚の異常な伸展性・脆弱性、血管脆弱性に伴う易出血性、靱帯や関節の異常な可動性亢進等が見られる、多様な症状を呈します。

組織脆弱性による大血管破裂、臓器破裂、その他の合併症などで命に関わる急変が生じえます。
1901年にエーラス先生が、1908年にダンロス先生が報告したのが始まりです。1998年に発表された国際分類では、6つの大病型(古典型、関節型、血管型、後側彎型、多発関節弛緩型、皮膚弛緩型)とその他の病型に整理されました。

その後、D4ST1欠損に基づく病型(DDEDS;古庄型)など新たな病型が見つかっています。 生化学的検査や遺伝子検査によって確認を行うことができる病型もあります。また、同じ型であっても症状や、その程度が異なるなど、非常に個人差の大きい疾患です。

エーラスダンロス症候群の原因

特定のコラーゲン分子をコードする遺伝子またはコラーゲン分子の成熟に必要な酵素の遺伝子の変異 が見つかっています。

古典型の原因遺伝子はⅤ型プロコラーゲン遺伝子(COL5A1、COL5A2)、血管型の原因遺伝子はⅢ型プロコラーゲン遺伝子(COL3A1)です。D4ST1欠損に基づく病型(DDEDS;古庄型)の原因遺伝子はCHST14です。関節型の原因遺伝子は見つかっていません(ごく一部の患者さんでテネイシン遺伝子[TNXB]の変異 が見つかっています)。

古典型、関節型、血管型、多発関節弛緩型は常染色体優性遺伝(患者さんの次世代は1/2の確率で疾患を受け継ぎます)です。後側彎型、皮膚弛緩型、DDEDSは常染色体劣性遺伝は(患者さんの次子は1/4の確率で発症します)です。

エーラスダンロス症候群の疫学的整理

すべての病型を合わせると1/5,000人はいると考えられています。地域差、人種差はないとされています。

エーラスダンロス症候群の症状

皮膚は一見正常ですが、古典型では皮膚の過伸展性(伸びやすい)・脆弱性(容易に裂ける、薄い瘢痕、内出血しやすい)、関節の過伸展性(柔軟、脱臼しやすい)などの症状が見られます。皮膚過伸展や萎縮性瘢痕の有無、関節可動域の測定により判定されます。病型により症状は異なり、関節型では関節の過伸展性が中心(脱臼・亜脱臼)です。慢性難治性疼痛、機能性腸疾患(便秘や下痢を繰り返す)、自律神経異常(立ちくらみ、動悸など)など多彩な症状が見られることもあります。

血管型においては、動脈病変(動脈解離・瘤・破裂、頸動脈海綿静脈洞ろう)、臓器破裂(腸管、子宮破裂)、気胸 といった重篤な合併症を生じます。また、内出血しやすい、皮膚が薄い(皮下静脈のが透けて見える)などの特徴があります。血管型は重症型であり、心疾患の日常生活に影響する程度、患者の手掌大以上の皮下血腫が年間5回以上出現する、動脈合併症や消化管を含む臓器破裂を1回以上発症した場合などが重症度を判断する際の基準となります。

D4ST1欠損に基づく病型(DDEDS;古庄型)においては、出生直後にわかる多発関節拘縮や顔の特徴に加えて、進行性の結合組織脆弱性に伴う症状(皮膚の過伸展性・脆弱性、関節過伸展性・脱臼のしやすさ、足や脊椎の変形、巨大皮下血腫)を示します。 

病型と症状

1.古典型(Classical type)

原因:5型コラーゲン遺伝子(COL5A1、COL5A2)または1型コラーゲン遺伝子(COL1A1)の変化
遺伝形式:常染色体優性遺伝。
EDSの病型の中で二番目に多い。

  1. 皮膚:皮膚の感触はビロード状で、ぶつけたり擦れたり等の衝撃で簡単に裂けやすく、また裂けた後の傷も治りにくい(脆弱性)という特徴があります。治癒後でも、シガレットペーパー様と呼ばれる瘢痕(細かい皺の集まった傷痕)を形成しやすくなります。皮膚をつまむと数cmも伸び、離すと元に戻る、過伸展がみられます。
  2. 関節:大・小関節の可動域が広い、過可動がみられます。
  3. その他

 出血しやすい(皮膚の下の青黒い出血斑や歯肉出血など)。胎盤の早期剥離、前期破水による早産になりやすいなどがあります。心臓では僧帽弁逸脱がみられることがあります。稀だが、報告例があるものとして憩室(膀胱や消化管、器官壁の一部が内圧等により小さな袋状に突起する)、体が疲れやすい(易疲労性)などもあります。

2.関節可動亢進型(Hypermobility type)

原因:3型コラーゲン遺伝子(COL3A1)またはTenascin-X(TNXB) の変化。
遺伝形式:常染色体優性遺伝あるいは劣性遺伝とされる。
EDSの病型の中で一番患者数が多い。

  1. 関節:全身の関節(肩、膝蓋骨、顎など)が緩く(過可動)、脱臼しやすく、慢性的な関節・四肢痛を伴います。
  2. 皮膚:古典型と同様の症状だが、過伸展は軽度で、また裂傷や瘢痕も稀です。
  3. その他:僧帽弁逸脱、大動脈基部の拡張がみられることがあります。自律神経症状(体温調節機能低下、立ちくらみなど)や消化器症状(過敏性大腸など)などがみられることもあります。

3.血管型(Vascular type)

原因:Ⅲ型コラーゲン(COL3A1)遺伝子の変化。
遺伝形式:常染色体優性遺伝症状
特に症状が重篤になりやすい病型です。20歳までに1/4の患者が,40歳までに80%の患者が何らかの明らかな問題となる症状を呈します。平均死亡時年齢は48歳です。

  1. 動脈破裂:胸腹部・頭・足などの動脈が脆弱であり、動脈瘤、動脈解離が先行して破裂をきたすこともあります。頚動脈海綿状動静脈瘻が生じることもあります。
  2. 内臓破裂:消化管(S状結腸が多い)破裂を起こしやすく、妊娠中子宮破裂を起こすこともあります。
  3. 皮膚:薄く、静脈が透けて見えます。過伸展性はごく軽度ですが、皮下出血を反復しやすい特徴があります。
  4. 関節:過可動性は軽度(指などの小さい関節が主)。先天性内反足や先天性股関節脱臼、慢性的な関節亜脱臼または脱臼が見られることもあります。
  5. その他:特徴的顔貌(薄い口唇や人中,小さい顎,細い鼻,大きな眼)、末端早老症(四肢末端,特に手が老人様の外観を呈する)、気胸、腱や筋肉の断裂、歯肉後退を生じることもあります。

4. 後側彎型(Kyphoscoliosis type)

原因:コラーゲン修飾酵素であるLysyl hydroxylase (procollagen-lysine 1, 2-oxoglutarate 5-dioxygenase1;PLOD1)の変化。
遺伝形式:常染色体劣性遺伝。極めて稀。
症状:

a) 皮膚:Ⅰ型と同様で、症状は中程度。
b) 関節:過可動があり、新生児期または生後一年以内に進行性脊椎後側彎がみられます。
c) その他:
眼症状:角膜異常、強度の近視、網膜はく離、稀に眼球破裂。眼球の強膜はもろい。
動脈:破裂することがある。重度の筋緊張低下。骨粗鬆症。

5.多発性関節弛緩型(Arthrochalasis type)

原因:Ⅰ型コラーゲン遺伝子(COL1A1、COL1A2)の変化。
遺伝形式:常染色体優性遺伝。極めて稀。
症状:

a) 皮膚:過伸展性があり皮下出血ができやすいという特徴があります。
b) 関節:全身性の関節過可動性が強く、脱臼を繰り返します。先天性股関節脱臼。脊椎後側彎。軽度の骨粗鬆症などもみられます。

6.皮膚弛緩型(Dermatosparaxis type)

原因:コラーゲン修飾酵素である ADAM metallopeptidase with thrombospondin type 1 motif, 2 (ADMTS2) の変化。
遺伝形式:常染色体劣性遺伝。極めて稀。
症状:

a) 皮膚:柔らかく緩い。余剰皮膚が 弛んだようになり皮下出血しやすいです。
b) 関節:過可動性。骨粗鬆症。
c) その他:胎児にこの病気があると、胎盤の早期剥離、前期破水による早産になりやすく、鼠径・臍ヘルニアが見られることもあります。

エーラスダンロス症候群の診断

病型によって異なりますが、臨床所見と遺伝子学的検索で確定します。Marfan症候群、先天性弛緩性皮膚、Menkes病との鑑別が必要になることがあります。

<診断基準>
以下のいずれかの病型として確定診断された場合と古典型エーラス・ダンロス症候群については臨床診断され た場合を対象とする。

1)古典型エーラス・ダンロス症候群の診断基準

 A.症状の大基準を全て認める場合、古典型エーラス・ダンロス症候群と臨床診断する。A.症状の大基準のうち 2項目を有することより古典型エーラス・ダンロス症候群を疑い、B に該当する場合も、古典型エーラス・ダンロス 症候群と診断が確定する。 

A.症状 
<大基準>皮膚過伸展性、萎縮性瘢痕、関節過動性
 <参考所見:小基準>スムーズでベルベット様の皮膚、軟属腫様偽腫瘍、皮下球状物、関節過動性による合併 症(捻挫、脱臼、亜脱臼、扁平足)、筋緊張低下・運動発達遅滞、内出血しやすい、組織過伸展・脆弱性による合 併症(裂孔ヘルニア、脱肛、頸椎不安定性)、外科的合併症(術後ヘルニア)、家族歴 

B.遺伝学的検査 COL5A1、COL5A2 遺伝子等の変異(古典型 EDS) 

2)関節型エーラス・ダンロス症候群の診断基準

A.症状を複数認めることにより関節型エーラス・ダンロス症候群を疑い、Bに該当する場合、関節型エーラス・ ダンロス症候群と確定診断される。 

A.症状 
<大基準>全身性関節過動性、柔らかい皮膚、皮膚・関節・血管・内臓脆弱性なし <小基準>家族歴、反復性関節(亜)脱臼、慢性疼痛(関節、四肢、背部)、内出血しやすい、機能性腸疾患(機 能性胃炎、過敏性腸炎)、神経因性低血圧・起立性頻脈、高く狭い口蓋、歯芽密生 
B.遺伝学的検査 TNXB 遺伝子等の変異(関節型 EDS の少数例) 

3)血管型エーラス・ダンロス症候群の診断基準

A.症状を複数認めることにより血管型エーラス・ダンロス症候群を疑い、BもしくはCに該当する場合、血管型エ ーラス・ダンロス症候群と確定診断される。

 A.症状 
<大基準>動脈破裂、腸管破裂、妊娠中の子宮破裂、家族歴 
<小基準>薄く透けた皮膚、内出血しやすい、顔貌上の特徴、小関節過動性、腱・筋肉破裂、若年発症静脈瘤、 内頚動脈海綿静脈洞ろう、(血)気胸、慢性関節(亜)脱臼、先天性内反足、歯肉後退 3 
B.検査所見 
生化学所見:培養皮膚線維芽細胞中のⅢ型プロコラーゲン産生異常 
C.遺伝学的検査 COL3A1 遺伝子等の変異 

4)後側彎型エーラス・ダンロス症候群の診断基準

A.症状を複数認めることにより後側弯型エーラス・ダンロス症候群を疑い、BもしくはCに該当する場合、後側弯 型エーラス・ダンロス症候群と確定診断される。

A.症状 後側彎型 EDS:
 <大基準>皮膚脆弱性・皮膚過伸展性、全身関節弛緩、筋緊張低下、進行性側彎、眼球破裂 (強膜脆弱性) 
<小基準>萎縮性瘢痕、マルファン症候群様の体型、中等度サイズ動脈の破裂、運動発達遅 滞 
B.検査所見 生化学所見:①尿中リジルピリジノリン/ヒドロキシリジルピリジノリン比上昇 C.遺伝学的検査 PLOD 遺伝子等の変異 

5)多発関節弛緩型エーラス・ダンロス症候群の診断基準

A.症状を複数認めることにより多発関節弛緩型エーラス・ダンロス症候群を疑い、BもしくはCに該当する場合、 多発関節弛緩型エーラス・ダンロス症候群と確定診断される。 

A.症状
<大基準>反復性亜脱臼を伴う重度全身性関節過動性、先天性両側股関節脱臼 
<小基準>皮膚過伸展性、組織脆弱性(萎縮性瘢痕を含む)、内出血しやすい、 筋緊張低下、後側彎、骨密度低下 
B.検査所見 生化学所見:Ⅰ型プロコラーゲンプロセッシングの異常 
C.遺伝学的検査 COL1A1、COL1A2 遺伝子等の変異 

6)皮膚脆弱型エーラス・ダンロス症候群の診断基準

A.症状を複数認めることにより皮膚脆弱型エーラス・ダンロス症候群を疑い、BもしくはCに該当する場合、皮膚 脆弱型エーラス・ダンロス症候群と確定診断される。 

A.症状 
<大基準>重度の皮膚脆弱性、垂れ下がりゆるんだ皮膚
 <小基準>内出血しやすい、前期破水、大きいヘルニア(臍、そけい) 
B.検査所見 
生化学所見:Ⅰ型プロコラーゲンプロセッシングの異常 
C.遺伝学的検査 ADAMTS2 遺伝子等の変異 

鑑別診断
Marfan症候群、先天性弛緩性皮膚、Menkes病との鑑別が必要になることがあります。

エーラスダンロス症候群の治療

現在のところ、根本的な治療法は無く、対症療法を行います。症状によって、整形外科、循環器科、皮膚科、小児科などに複数の診療科で連携を取りながら、総合的な健診と治療を行うことが大切です。特に病型によっては生命を脅かす重篤な合併症状を生じることがあるので、救急時対策の計画を立てておくことも重要です。

血管型においては、初診時および定期的な動脈病変のスクリーニング、β遮断薬(セリプロロール)による予防、そして、トラブル発症時には慎重な治療(できる限り保存的に、進行性の場合には血管内治療、外科的治療が考慮されます)を行います。腸管破裂を発症した時には、緊急手術を行います。

D4ST1欠損に基づく病型(DDEDS;古庄型)においては、定期的な骨格系(足・脊椎の変形、脱臼)の評価・予防・治療・リハビリテーション、眼科・耳鼻科・循環器科・泌尿器科の定期検診、便秘対策(整腸剤・緩下剤内服)、巨大皮下血腫に対する止血剤投与などが考慮されます。

また、避けることの出来ない手術をする場合は、創傷治癒を阻害しないように止血と縫合を注意深く行うよう配慮します。妊娠および分娩中の産科的管理は必須です。
家族計画に関する相談は、個別に遺伝カウンセリングで対応してもらう必要があります。また、本症に罹患している小児も、本疾患に関して十分理解させて症状悪化の予防に努める指導が必要です。

エーラスダンロス症候群の予後

病型により予後が異なり、同じ型であっても症状やその程度が異なることもあり、さらに合併症の頻度も個人差があるため、正常人と同じ程度の寿命から血管破裂などによる合併症で短命なものまで、幅広いです。

エーラスダンロス症候群の生活上の注意

本人、家族がどのような疾患であるかをよく理解し、医療関係者(主治医、リハビリ担当者など)、教育関係者(保育園や幼稚園、学校)と共有することが大切です。

古典型における皮膚、関節のトラブルに対しては、激しい運動を控えることやサポーターを装着するなどの予防が有用です。皮膚裂傷に対しては、慎重な縫合を必要とします。関節型においては、関節を保護するリハビリテーションや補装具を使用します。

安定したよい靴を履くなどして外傷に気をつけること、緊急時の受診体制をあらかじめ相談しておくこと(救急病院、かかりつけ医の利用、健康状態を記したカードの携帯など)も大事です。

<リファレンス>

日本エーラスダンロス症候群協会(友の会)
エーラスダンロス症候群 診断の手引き
エーラスダンロス症候群 指定難病168 (難病情報センター)
遺伝性疾患プラス

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