てんかん

記事要約

てんかんでは、脳に異常な電気活動が生じることによって、手足の動きや意識に変化を起こすてんかん発作。発作が突然に起こり、何度か繰り返される場合に「てんかん」と診断されます。てんかんについて医師に詳しく聞いてみました。

てんかんとは

脳は神経細胞が集まってできています。神経細胞がお互いに電気的信号を送り、規則正しいリズムで調和を保つことで、考える、歩く、話すなどの活動が行われます。

しかし、てんかんでは、脳に異常な電気活動が生じることによって、手足の動きや意識に変化を起こします。これがてんかん発作です。発作が突然に起こり、何度か繰り返される場合に「てんかん」と診断されます。

てんかんの原因

てんかんの原因は以下のように分類されています1)

  • 構造的(Structural):過去の脳卒中や頭部外傷、認知症による脳の萎縮、生まれつきの脳の形成異常など、脳MRIで異常がわかるもの
  • 素因性(Genetic):遺伝子によるもの、体質によるもの
  • 感染性(Infectious):脳の感染症である髄膜脳炎などの後遺症によるもの
  • 代謝性(Metabolic):ミトコンドリア病などの代謝異常症に伴うもの
  • 免疫性(Immune):自己免疫性脳炎などによるもの
  • 病因不明(Unkown):上記に含まれないもの

てんかんの疫学的整理

厚生労働省によると、本邦における総患者数は42万人と推定されています2)。しかし、この厚生労働省の患者調査では、主病名を「てんかん」としている人のみを統計しているため、主病名が脳卒中や認知症である方はカウントされていない可能性があります。よって実際の総患者数はおよそ100万人であると推測されており、およそ125人に1人が発症する身近な疾患であるといえます3)
あらゆる年代で発症する疾患ですが、乳幼児と高齢者で多いことが知られています。乳幼児では生まれつきの疾患が原因となることが殆どですが、高齢者では認知症や脳卒中の後遺症に伴うてんかん患者が多く存在します。

てんかんの症状

てんかんの患者では、脳に異常な電気活動が生じ、神経細胞が過剰に興奮することで手足のけいれんなどが出現します。これをてんかん発作と呼び、発作の種類によって症状が異なります

【焦点起始発作】:脳の一部のみ興奮している状態

  症状の例:右手が勝手にバタバタと動く、顔が左側を向いたまま戻らない、等

【全般発作】:脳の全体が一気に興奮している状態

  症状の例:食事中に両手に持っているものをとばす(ミオクロニー発作)、突然表情がなくなり10秒程度ぼんやりとして反応がない(欠伸発作)、突然意識がなくなり手足に力を入れてつっぱり、その後ビクンビクンとけいれんし脱力する(強直間代発作)、等

てんかんの診断

てんかん診療ガイドライン2018より
てんかん診療ガイドライン2018より

 てんかんの診断には、発作の頻度や状況などの問診と、脳波検査やMRIなどの検査が行われます。
一般的には、1度の発作のみではてんかんと診断せずに経過観察となることが多いですが、検査結果によっては、1度の発作でもてんかんと診断がつくことがあります。

てんかんと紛らわしい疾患には以下のようなものがあり、これらを除外していくことが必要となります4)

  • 失神(神経調節性、心原性など)
  • 心因性非てんかん発作
  • 過呼吸やパニック障害
  • 脳卒中、一過性脳虚血発作
  • 睡眠時随伴症(レム睡眠行動異常など)
  • 急性中毒(薬物、アルコール)、薬物・アルコール離脱
  • 急性代謝障害(低血糖、テタニーなど)
  • 急性腎不全
  • 頭部外傷(1週間以内)
  • 不随意運動(チック、振戦、ミオクローヌスなど)
  • 発作性失調症

てんかんの治療

てんかんの治療には、内服薬を用います。てんかん発作をおこさないように抑えることが目的の薬であり、根治の治療法ではありません。

 てんかんと診断されると、抗てんかん薬を内服します。まずは1剤を内服し、効果を判定します。およそ半数の方は1剤で発作を抑えることができるといわれています5)。薬を内服していても、発作が出現してしまう場合には、薬の変更や追加を行い調整していきます。薬を調整しても発作が抑えられない場合には、脳の手術をすることもあります。

 また、てんかん発作を起こす引き金となる状況には以下のようなものがあり、これらを避けることで発作を予防することができます。

睡眠不足、飲酒、過呼吸、疲労、ストレス、月経・妊娠、抗てんかん薬の急激な変更や中断、血中濃度の低下、一部の向精神薬・抗うつ薬・抗ヒスタミン薬などの内服

てんかん相談の目安

薬の内服中にてんかん発作が起きても、意識がある場合や短時間で収まる場合には、緊急で受診をする必要はありません。発作が起きた状況を記録し、次回診察時に担当医へ詳しくお伝えください。可能であれば発作中は家族などに動画を撮ってもらうようお願いしておいてください。薬剤調整のための重要な情報となります。

<リファレンス>

  1. Scheffer IE, Berkovic S, Capovilla G, et al. ILAE classification of the epilepsies: Position paper of the ILAE Commission for Classification and Terminology. Epilepsia. 2017 Apr;58(4):512-521.(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28276062/)

  2. 厚生労働省「令和2年 患者調査」(https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/10syoubyo/

  3. 大槻泰介 てんかんの有病率等に関する疫学研究及び診療実態の分析と治療体制の整備に関する研究, 2013(https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/22749

  4. てんかん診療ガイドライン2018(https://www.neurology-jp.org/guidelinem/epgl/tenkan_2018_01.pdf

  5. Kwan P. et al: N Engl J Med. 342(5), 314-319, 2000(https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/nejm200002033420503