家族性良性慢性天疱瘡|疾患情報【おうち病院】
記事要約
家族性良性慢性天疱瘡は、成人以降になって腋(わき)の下・首・足の付け根・肛門の周りなど皮膚の摩擦が起こりやすい部位に水ぶくれや赤い発疹を生じる病気です。家族性良性慢性天疱瘡の原因・治療方法・診断のコツなどを医師監修の基解説します。
家族性良性慢性天疱瘡とは
家族性良性慢性天疱瘡は、成人以降になって腋(わき)の下・首・足の付け根・肛門の周りなど皮膚の摩擦が起こりやすい部位に水ぶくれや赤い発疹を生じる病気です。別名“ヘイリー・ヘイリー病”とも呼ばれます。
特定の遺伝子の変異によって引き起こされ、親から遺伝する疾患です。中年以降に発症することが多く、治ったと思っても繰り返し同じ部位に再発を繰り返す難治性の病気です。腋の下や股間、肛門のまわりなど日頃から摩擦が多い部分にほとんどの患者さんで発症し、高温・多湿、摩擦、感染などで皮膚症状が悪化します。かゆみを伴い、ひっかくことで細菌感染を引き起こし、膿(うみ)がでて悪臭を生じることもあります。
この病気を完全に治す治療法はありませんが、症状の進行や悪化を抑える治療法はあるので、早期の適切な診断と治療開始が必要です。
家族性良性慢性天疱瘡の原因
ATP2C1という遺伝子にある変異が原因と考えられています。ATP2C1は皮膚の細胞のカルシウムポンプという箇所の遺伝子であることまでは解明されてきていますが、なぜ皮膚に水疱が出来て治りにくくなるのかということまではまだわかっていません。
また、この遺伝子の変異は遺伝することもわかっており、“常染色体優性(顕性)遺伝”という遺伝をします。つまり、両親のうち、どちらかからこの遺伝子の変異を引き継ぐと発症します。一方で、家族性良性慢性天疱瘡発症者の約30%は遺伝に関係なく発症しています
家族性良性慢性天疱瘡の疫学的整理
欧米では人口約5万人に1人の割合と推定されています。この病気の日本人の患者さんの数についての正確な統計はありませんが、日本ではいくつかの資料・文献を元に、現在通院中の方などを加えますと300名程度ですから、少なくとも数百名以上の患者さんが日本にいると推定されます。男女とも同程度で、青壮年期以降に発症することが多いとされています。
常染色体優性遺伝ばれる遺伝形式を示しますが、実際には、約3割の患者さんでは血縁者に発症者が見つかりません(孤発例と呼ばれます)。患者さん孤発例の場合は、まだ発病していないその患者さんの弟や妹が将来的にかかる確率は極めて低くなります。しかし、両親のいずれかが発症者である場合は、男女に関係なく50%の確率で子供に遺伝します。また、孤発例のかたでも次の世代には遺伝の法則に従い50%の確率で遺伝します。
家族性良性慢性天疱瘡の症状
わきの下や股、肛門の周囲、女性では乳房の下などの摩擦が起こりやすく皮膚の柔らかい部位に、水疱ができて、じくじくします。一度よくなっても、摩擦や高温多湿、多汗、紫外線や感染といった条件がそろうと、何度も再発をくりかえします。再発を繰り返して治りにくくなると、皮膚が水分を含んで肥厚した状態になりかゆくなり、さらに亀裂が入ってびらんになり、衣類などが少し触れただけでも痛みを伴うようになります。
また、高温多湿の夏期に悪化し、湿潤した皮膚の状態がつづくと二次感染を来します。その結果、水疱やびらんは、膿をともなったかさぶたへと変化していき“とびひ”と似ることがあり、強いかゆみや熱感などの自覚症状が出現します。色素沈着を残すこともあります。下着や衣類が膿や滲出液で汚れたり、悪臭を伴ったりすることもあります。
診断は臨床症状や病理組織によります。家族歴も重要です。遺伝子検査も可能です。
家族性良性慢性天疱瘡の相談目安
夏に悪化する皮膚がこすれる部位の皮疹のため、水疱は生じてもすぐに破れてしまうことが多首欄の状態になります。こすれる部位にできる湿疹として加療されていることもありますが、診断には本症を疑って、皮膚生検を行い、病理組織学的所見を確認することが必要になります。治りにくい上記のような場所の皮疹については専門医に相談してみましょう。
家族性良性慢性天疱瘡の検査
家族性良性慢性天疱瘡は、遺伝によって発症するケースが多いため、同じ家系内の病歴や症状、再発の有無などから容易に診断を下すことが可能です。しかし、確定診断のためには、病変部の皮膚組織を採取して顕微鏡で詳しく調べる“病理検査”や、発症原因とされる“ATP2C1”の遺伝子変異の有無を調べる遺伝子検査が必要となります。
病理組織は特徴的です。表皮の棘融解の結果、基底層直上に表皮内裂隙が 形成されその裂隙の空間に残された 1 層の基底細胞に覆われ た真皮乳頭が突出し絨毛のようにみえます。裂隙 中の棘融解細胞は少数のデスモソームで緩やかに結合しており、“壊れたがれき状”の外観を呈します。蛍光抗体 法で自己抗体は検出されません。
家族性良性慢性天疱瘡の治療
根本的治療法はありません。そのため、この病気の治療は、水疱の痛みや細菌感染を改善すること、進行を抑えることを目的とし、悪化時には出来るだけ早期に症状が軽くなるように、かつ日常生活に支障を来さない程度の健康な皮膚の状態を長期間保てるようにする治療を行います。
皮膚の症状に応じて、軽症から中等症では、副腎皮質ステロイド外用薬を主に使用します。重症例ではステロイド薬を内服します。皮膚の炎症を特異的に鎮める作用を持つジアフェニルスルホン(DDS)の内服を行うこともあります。また、そのほかにも免疫抑制剤の内服やビタミンD製剤の外用なども有効であるとの報告もありますが、確立された治療法はないのが現状です。そのほか、水疱が破れて細菌感染などを起こしているときには、抗菌薬の投与が行われます。
家族性良性慢性天疱瘡の経過、予後
冬に軽快を見せる一方で夏場に悪化する傾向にあります。経過は慢性で、急速に悪化と広がりを見せながら再発します。
家族性良性慢性天疱瘡で注意すべき点
湿った環境でじくじくと悪化するため、常に擦れあう部分の皮膚をさらさらに保つことが大変重要です。下高温・多湿を避け、患部を不潔にしないように気をつけ、出来るだけ乾燥させます。擦れない様に保護に努めます。具体的には、普段から低刺激性の石けんを十分に泡立てこすらずに洗い流すなどの工夫が、刺激を与えずに清潔に保つために必要となります。
下着や衣類は肌に優しく刺激が少なく通気性の良い生地がよいでしょう。夏場に悪化して治りにくい場合は、汗をかいたらすぐに拭き取って乾燥させ、乾いた洗濯済みの清潔な衣類に着替えができるようにすることも必要です。患部からの滲出液が多い場合は、水分吸収パッドなどを下着と併用します。
エアコンなどで室内や車内の湿度や温度調整をして、発汗を抑え出来るだけ乾いた状態に保ちます。車のシートはメッシュカバーなどを用いてお尻の蒸れを抑え、温水洗浄便座で肛門周囲を清潔に保つようにします。特に、夏場は冬よりも再発や悪化が生じやすいため、より徹底した対策と注意が必要です。