大腿骨頚部/転子部骨折|疾患情報【おうち病院】

記事要約

大腿骨頚部/転子部骨折とは、疾大腿骨近位部、つまり下肢の付け根付近の骨折です。大腿骨頚部/転子部骨折の原因・治療方法・診断のコツなどを、医師監修の基解説します。

大腿骨頚部/転子部骨折とは

大腿骨頚部/転子部骨折は、大腿骨近位部、つまり下肢の付け根付近の骨折である。主に転倒などによって生じ、高齢者では、交通事故や労働災害などのような強い外力が加わっていない状況でも生じる骨折である。

頚部骨折は関節包(関節を取り囲む袋のような組織)の内部、大腿骨の首のようにくびれた部分の骨折である。転子部骨折は関節包の外部で、頚部骨折より遠位の骨折である。

大腿骨頚部/転子部骨折の疫学的整理

大腿骨頚部/転子部骨折は、70歳以降に発生しやすい。75歳未満では、頚部骨折が多く、75歳以上では、転子部骨折の患者が多い。

日本における大腿骨頚部/転子部骨折の年間発生数は、2012年では約17万例で、そのうち約13万例が女性であった。発生率は北欧諸国に比べると低いが、高齢化社会に伴い、年々患者数が増加しており、2040年には年間32万人に到達するのではないかと言われている。

大腿骨頚部/転子部骨折の危険因子

1)骨密度低下・骨代謝マーカー上昇

骨密度は様々な部位(大腿骨近位部、腰椎、橈骨遠位部など)で測定可能で、どの部分で測定された骨密度も大腿骨骨折の予測に使用可能だが、特に大腿骨近位部の骨密度が最も大腿骨頚部/転子部骨折の予測に有用である。

 骨代謝マーカーは、骨代謝の状態をあらわし、血液検査や尿検査で調べられる。骨は常に作られ(骨形成)、同時に壊されている(骨吸収)。そのバランスを示すのが、骨代謝マーカーである。これを調べることによって、骨密度の低下や骨折の発症リスクを予測できる。代表的な骨形成マーカーとしては、OC、BAP、P1NPがあり、代表的な骨吸収マーカーとしては、NTX、TRACP-5bなどがあげられる。

2)脆弱性骨折の既往

脆弱性骨折とは、脊椎椎体骨折、大腿骨頚部/転子部骨折、橈骨遠位端骨折をはじめとする、軽微な外力が原因で生じる骨折である。これらを過去に受傷している患者は、大腿骨頚部/転子部骨折を生じるリスクが高まる。

3)その他の併存症

アルツハイマー型認知症、脳卒中、甲状腺機能亢進症、性腺機能低下症、胃切除後、心疾患、慢性閉塞性肺疾患、糖尿病、腎機能低下、膝関節痛、視力障害なども、大腿骨頚部/転子部骨折のリスクファクターといわれている。また、親の大腿骨頚部/転子部骨折の既往、大腿骨の頚部長が長いことも、リスクファクターの1つである。

また生活習慣として、喫煙、多量のカフェイン摂取、果物・野菜摂取不足も注意が必要であり、向精神薬、プロトンポンプ阻害剤などの内服もリスクファクターと報告されている。

大腿骨頚部/転子部骨折の症状

高齢者が転倒後、股関節付近に痛みがある場合、大腿骨頚部/転子部骨折を疑う。痛みが強く、歩行困難な症例が多いものの、転位が少なければ歩行ができる例もあり、注意が必要である。

また認知症がある場合には転倒したことなどの痛みが生じたきっかけをはっきり覚えていない場合や、痛みの部位を正しく説明できない患者もいる。

大腿骨頚部/転子部骨折は高齢者の骨折として、頻度が高いものなので、股関節をかばっている、普段より動こうとしないなど、普段と少し違う様子が見られるようであれば、病院へ受診することも検討してほしい。

大腿骨頚部/転子部骨折の診断

基本的には、股関節の2方向のX線写真を撮像して診断する。大腿骨頚部や転子部の骨皮質に連続性のない部分があったり、転位があった場合には大腿骨頚部/転子部骨折と診断できる。ただ、転位が少ない場合には、X線写真のみで診断が難しいことがあるため、CT、MRIの検査を追加で行なう。

大腿骨頚部/転子部骨折の分類

X線写真にて、骨折線や転位の程度をもとに分類し、それぞれに適した治療法を選択する。

1)大腿骨頚部骨折の分類(Garden分類)

stage Ⅰからstage Ⅳの4つに分類される。stageが大きくなるほど、大きく骨折部が転位している。(stage Ⅰ・stage Ⅱ: 非転位型、stage Ⅲ・stage Ⅳ: 転位型)

2)大腿骨転子部骨折の分類(AO/OTA分類)

type A1からtape A3に分類され、数字が大きい程、不安定性が強い。type A1は、単純な2つの骨片からなる骨折である。type A2は、多骨片骨折である。type A3は、逆斜骨折である。

大腿骨頚部/転子部骨折の治療

大腿骨頚部/転子部骨折は基本的に手術が必要な骨折である。緊急で24時間以内に手術が必要というようなものではないものの、早期に手術を行なうことで、合併症が少なく、生存率が高く、入院期間が短くなると報告されている。

1)大腿骨頚部骨折

大腿骨頚部骨折は非転位型(Garden Ⅰ・Ⅱ)と転位型(Garden Ⅲ・Ⅳ)で治療方法が異なる。転位型は非転位型よりも骨癒合率が低く(転位型:59-97%、非転位型:84-100%)、骨頭壊死(転位型:44-57%、非転位型:0-21%)や遅発性骨頭圧壊の頻度が高く(転位型:25-41%、非転位型:0-7%)、再手術が必要になる可能性が高いため、人工物置換術が推奨される。

対して、非転位型には、手術侵襲の低い骨接合術が推奨される。骨折型に加え、患者の全身状態や年齢なども考慮しながら手術方法が決定される。

転位型に対する人工物置換術には、人工骨頭置換術、人工股関節全置換術(THA)の2種類の方法がある。

人工骨頭置換術は大腿骨の骨頭を人工物に変える手術で、骨盤側には何も行なわないのに対し、人工股関節全置換術は、大腿骨の骨頭に加え、骨盤の臼蓋(大腿骨の骨頭と関節を形成する部分)も人工物に変える手術である。

人工股関節全置換術は、人工骨頭置換術と比べ、疼痛が少なく、機能スコアはより良好で再手術率は低いが、手術侵襲が大きく、脱臼率が高く、より高度な手術手技が必要となる。

人工物を挿入する際に、骨が脆弱な場合や人工物と骨の形態の適合が良くない場合にはセメントを使用することがある。

セメントを使用には、血圧低下や術中突然死のリスクはあるものの、骨が脆弱な場合や人工物と骨の形態の適合が良くない場合には、セメント非使用では術中・術後骨折やインプラントのゆるみ(ルースニング)のリスクが上昇するため、それらを天秤にかけて決定される。

手術のアプローチは前方アプローチ、後方アプローチの2通りがある。前方アプローチであれば、股関節の前面(鼠径部付近)に、後方アプローチであれば後面(臀部付近)を切開する。脱臼自体、1.0-5.6%と比較的まれな合併症であるが、前方アプローチと比較し、後方アプローチの方が脱臼が発生しやすいと言われている。

非転位型骨折に対する内固定材(インプラント)は、様々な種類があるが、大きく成績は変わらず、早期に荷重(患側に体重をかけること)も可能である。

2)大腿骨転子部骨折

解剖学的整復(骨折前の骨の形態へ戻すこと)を目指し、内固定材(インプラント)を用いて、骨接合術を行なう。

内固定材には、大きく分けて、SHS(スライディング ヒップスクリュー)と髄内釘がある。不安定な骨折には、髄内釘の方がより推奨されている。

術後は一般的に早期荷重が可能である。

大腿骨頚部/転子部骨折の予後

一般に手術後、1-2週間、周術期のケアができる急性期病棟(急性期病院)へ入院する。その後、元の生活環境で生活が可能であれば退院となるが、難しければ回復期リハビリテーション病棟(回復期リハビリテーション病院)へ転棟(転院)し、日常生活レベルの向上を目指し、リハビリテーションが継続される。

受傷後適切な手術、リハビリテーションを行なっても、全ての症例が受傷前の日常生活レベルを取り戻せる訳ではない。

年齢、受傷前の歩行能力、認知症の程度などが影響する。退院時に杖歩行が可能であった症例は、退院後も歩行能力レベルを維持できることが多い。手術後、急性期病院を退院後にも術後3-6ヶ月程度は何らかの形でリハビリテーションを継続することで、歩行能力や生活レベルが改善するといわれている。

大腿骨頚部/転子部骨折は生命に直結する病態ではないものの、受傷後1年以内の死亡率は10%前後と言われている。大腿骨頚部/転子部骨折を受傷してしまう患者は、他の全身的な機能も低下してきていると言える。

大腿骨頚部/転子部骨折の予防法

骨粗しょう症の治療が大腿骨頚部/転子部骨折の予防に有効である。現時点では、経口薬として、ビスホスホネート薬であるアレンドロン酸、リセドロン酸の2つが有効であると報告されている。また注射薬としては、ビスホスホネート薬であるゾレドロン酸、テリパラチド、抗RANKL抗体であるデノスマブ、および、ヒト化抗スクレロスチンモノクローナル抗体であるロモソズマブが有効であると報告されている。

大腿骨頚部/転子部骨折を受傷した時点で、骨粗しょう症と診断できるため、受傷前に骨粗しょう症治療がなされていなかった場合には、二次骨折を予防するため、早期に骨粗しょう症治療を開始すべきである。

また、ビタミンD摂取は転倒数を減らすと報告されている。

1)運動療法

在宅高齢者は運動を行なうことで転倒を減少させることができるという報告があるが、骨折自体を予防するかどうかは証明されていない。

2)装具療法

ヒッププロテクターを装着することで、介護施設における大腿骨頚部/転子部骨折のリスクを減少させることができるという報告があるものの、コンプライアンスの低さが問題であり、骨盤骨折のリスクをわずかながら上昇させるという報告もある。

3)その他

住環境改善は転倒予防に効果的である。また、白内障手術、ペースメーカー挿入、向精神薬漸減も転倒を減らすと報告されている。

 <リファレンス>

日本整形外科学会診療ガイドライン 大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン2021 改訂第3版
日本整形外科学会/日本骨折治療学会(監)・南江堂

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