胃・十二指腸潰瘍(消化性潰瘍)|疾患情報【おうち病院】

記事要約

胃・十二指腸潰瘍(消化性潰瘍)とは胃潰瘍と十二指腸潰瘍を合わせて消化性潰瘍と呼びます。胃・十二指腸潰瘍(消化性潰瘍)の原因・治療方法・診断のコツなどを、医師監修の基解説します。

胃・十二指腸潰瘍(消化性潰瘍)とは

胃潰瘍と十二指腸潰瘍を合わせて消化性潰瘍と呼びます。消化性潰瘍は食物を分解するはたらきをもつ胃酸や消化酵素が胃や十二指腸の表面を守る粘膜を深く傷つけてしまうことによって起こる病気です。厚生労働省の調査によると、胃潰瘍は約30万人、十二指腸潰瘍は約4.5万人と推定されていますが、いずれも減少傾向にあります。その理由には消化性潰瘍の主な原因であるピロリ菌感染者が減少したこと、ピロリ菌の除菌療法が普及したこと等により消化性潰瘍の発症や再発が抑制されるようになったことが考えられます。一方、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)や抗血栓薬による薬剤性潰瘍の割合は増加傾向にあります。 

胃・十二指腸潰瘍(消化性潰瘍)の原因

正常の胃は胃酸やペプシンなど攻撃因子と呼ばれるものと、胃酸から胃壁を守る粘液や胃酸を中和する重炭酸、粘膜を健全に保つ血流といった防御因子とのバランスが保たれていますが、防御因子の働きが弱くなると胃潰瘍ができやすくなります。十二指腸は内容物が胃から送られてくると、膵臓や胆嚢からアルカリ性の消化液が分泌されることにより強い酸性状態が中和され、攻撃因子と防御因子のバランスが保たれています。十二指腸で潰瘍が発生する際は十二指腸の中の酸性が強くなった場合が多いと考えられています。胃から流れてくる胃酸にさらされやすいため、十二指腸の胃に近い部位である十二指腸球部に十二指腸潰瘍は生じやすくなります。胃や十二指腸の粘膜における攻撃因子と防御因子のバランスが崩れる原因は様々で、過労、睡眠不足、不規則な生活、精神的ストレス、手術、体質、栄養不良、解熱鎮痛薬(NSAIDs)や副腎皮質ホルモン製剤(ステロイド)等の薬剤、刺激物、飲酒、喫煙、ヘリコバクター・ピロリ菌感染等が挙げられます。
消化性潰瘍の主な原因は胃の粘膜に感染したヘリコバクター・ピロリ菌であることがわかっています。ピロリ菌は胃の粘膜に生息しているグラム陰性桿菌という細菌です。胃には胃酸があるため胃の中では細菌は生きられないと考えられていました。しかし、ピロリ菌はウレアーゼという特殊な酵素によってアンモニアを生成し胃酸から身を守っているのです。一度感染すると多くの場合、除菌しない限り胃の中に生息し続けます。ピロリ菌は井戸水に多く含まれており、幼年期にはまだ上下水道が整備されていなかった年代の人に感染している人が多く高齢者ほど感染率が高いと言われています。現代では感染している人の数が低下していますが、ピロリ菌に汚染された飲食物が口から入ることで感染すると言われており、ピロリ菌に感染している大人が幼児に口移しで食べ物を与えることで感染している場合があります。ピロリ菌に感染すると胃や十二指腸の粘膜の粘膜が胃酸によって傷つきやすい状態になり、潰瘍が生じやすくなります。また、ピロリ菌により生じた慢性胃炎(萎縮性胃炎)は胃癌の原因にもなります。

胃・十二指腸潰瘍(消化性潰瘍)の症状

最も多い症状は心窩部痛ですが、食欲不振、腹部膨満感、悪心・嘔吐、胸やけなど様々な症状が生じます。消化性潰瘍では空腹時に痛みが増強し、食事をとることで軽快することが特徴です。潰瘍が増悪し、深くなると血管を傷つけ出血を伴います。潰瘍から出血すると吐物や便に血液が混じり、吐血やタール便と呼ばれる黒色便、貧血が認められることがあります。また、潰瘍がなり胃や十二指腸の壁に穴があく(穿孔)ことがあります。胃や腸の中の消化液などがお腹にもれるため強い腹痛と共に腹膜炎を発症し、緊急手術を必要とすることもあります。胃潰瘍の穿孔は稀ですが、十二指腸の組織は胃壁よりも薄いため、胃酸による障害を受けやすく穿孔や出血が起こりやすくなります。 

胃・十二指腸潰瘍(消化性潰瘍)の治療

消化性潰瘍の基本的な治療は内服薬による治療です。攻撃因子である胃酸の分泌を抑える胃酸分泌抑制薬の内服が消化性潰瘍に極めて効果的です。以前はH2ブロッカーという胃酸分泌抑制薬が主に使用されていましたが、最近、プロトンポンプ阻害薬という強力に胃酸の分泌を抑える薬が用いられるようになり、消化性潰瘍の治療の中心となっています。通常、薬を飲み始めてから6~8週間で潰瘍は治癒します。また、粘膜の防御因子を増強する薬や胃の運動を活性化して胃酸や食事を長く胃に貯めないようにする薬を併用することもあります。ピロリ菌に感染している場合は除菌治療により消化性潰瘍の再発を予防をすることができるため除菌療法を行います。

潰瘍から出血している場合は緊急上部内視鏡検査(胃カメラ)を行い、出血部位を特定し内視鏡的止血術を行います。内視鏡的止血術が困難な場合や穿孔が生じ腹膜炎を起こしている場合は手術が必要になることがあります。 

胃・十二指腸潰瘍(消化性潰瘍)の予防

消化性潰瘍の多くはヘリコバクター・ピロリ菌感染が原因であるため、再発予防のためにはピロリ菌の除菌治療が有効です。ピロリ菌の除菌療法とは胃酸の分泌を抑える薬とペニシリンとクラリスロマイシンという2種類の抗生剤を合わせた3剤を同時に1日2回、7日間服用する治療法です(一次除菌療法)。1回目の除菌が不成功の場合はクラリスロマイシンをメトロニダゾールという薬に変更した3剤で2回目の除菌治療をします(二次除菌療法)。正しく内服すれば一次除菌療法の成功率は80%前後といわれています。

持病により非ステロイド性抗炎症薬の服用を継続する必要がある際は、プロトンポンプ阻害薬を予め内服することで潰瘍の予防をします。また、非ステロイド性抗炎症薬の種類をCOX-2選択的阻害薬というものに変更することも予防に有効といわれています。脳卒中や心筋梗塞の再発予防のために少量のアスピリンを長期間処方されている場合、以前に消化性潰瘍を発症したことのある方はアスピリンによる潰瘍再発のリスクが高いと報告されています。アスピリンは非ステロイド性抗炎症薬の一種であり、その場合にもプロトンポンプ阻害薬を併用することが有効とされています。 

 <リファレンス>

日本消化器病学会 消化性潰瘍診療ガイドライン2020改訂第3版
日本消化器病学会 消化性潰瘍ガイドブック2010

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