巨細胞性動脈炎(GCA)|疾患情報【おうち病院】

記事要約

巨細胞性動脈炎(GCA)とは、血管炎と呼ばれる病気のグループに含まれ、高齢の方に起こり、主に頭部の動脈がつまって症状を起こす、珍しい病気です。巨細胞性動脈炎(GCA)の原因・治療方法・診断のコツなどを、医師監修の基解説します。

巨細胞性動脈炎(GCA)とは

巨細胞性動脈炎(GCA)は60歳以上の高齢者に好発する、浅側頭動脈を中心とした大型から中型の血管を侵す肉芽腫性血管炎です。側頭動脈炎とも呼ばれます。

側頭部の頭痛、圧痛、硬結などを生じ、視力障害など眼の症状、下顎痛、咀嚼ができないなどの症状も起こります。側頭部痛,側頭動脈の症状は側頭動脈が侵されるためで、両側性、片側性いずれも生じます。病変は大動脈や頸動脈とその分枝にみられ、浅側頭動脈に次いで椎骨動脈、眼動脈に多く発症します。内頸動脈の分枝(眼動脈とその枝)の閉塞を招くと失明することもある疾患です。
病理組織学的には、これらの動脈に巨細胞を伴う動脈炎や肉芽腫性変化が起こっています。

本症では、大動脈などの大血管が侵される高安動脈炎との異同が問題となります。巨細胞などの病理学的に共通した部分はありますが、高安動脈炎は発症年代も異なり、比較的若い女性に好発します。日本人症例の検討では、高安動脈炎は本症よりも総頚動脈や鎖骨下動脈病変の割合が有意に多いと報告されています。現状では本症と巨細胞性動脈炎とは、共通した発症基盤をもつ異なっ た疾患単位と考えるのが妥当とされています。 

巨細胞性動脈炎(GCA)の原因

原因は不明ですが、ウイルスなど微生物感染などの環境因子の存在が疑われています。遺伝的素因について、HLA-DR4との関連が報告されています。 

相談の目安

まれですが比較的特徴的な症状がみられますので、詳細に症状を伝え、疑って精査することが必要になります。

頭痛、側頭部の索状の硬結、眼の異常、発熱などが主な症状です。頭痛は、頭皮痛として髪をとかすときなどに気になることがあります。起床時に気づく突然の視力低下も多いとされます。食事時の咀嚼が顎の痛みによってできない、中断しながらでないと食べられないといった顎跛行を生じることもあります。そのために食事摂取が少なくなり、炎症とも合わさって体重減少や倦怠感が強くなる場合もあります。

疫学的整理

地理的な偏りおよび遺伝的素因がみられます。欧米白人に多く、日本を含めたアジア人には少ない疾患です。男女比1 : 1.7、好発年齢は60歳以上です。厚生労働省研究班の全国疫学調査(1997年)では、患者数690人、人口10万対0.65人と推計されましたが、近年発症率は増加傾向とされています。

約30%にリウマチ性多発筋痛症( Polymyalgia Rheumatica ; PMR )を合併し、逆にPMRの約10%に巨細胞性動脈炎(GCA)を合併します。PMRは、突然発症する頚部から両肩、上肢の疼痛、腰部から大腿部の疼痛、特に起床時の疼痛とこわばりを゙特徴とする疾患です。欧米では巨細胞性動脈炎(GCA)の40〜60%にPMRの合併がみられるとされます。 

巨細胞性動脈炎(GCA)の症状

主な症状は血管炎による局所の症状と全身の炎症です。本邦における初発症状は頭部の疼痛(71 %)、発熱などの全身症状(41 %)、視力障害(31 %)であり、筋肉痛(19.7 %)、関節痛(13.1 %)なども認められています。経過を通じての症状は、側頭部 の頭痛(80.3%),頭皮痛(63.3%),側頭動脈の圧痛(52.6%), 顎跛行(50%)、側頭動脈の拍動低下(40.0%)、視力障害(43.9%)、虚血性視神経症( 2 1 . 2 % )などがあります。症状の中で、複視と顎跛行は比較的本症に特異性が高い症状です。

主な症状を示します。

(1)頭痛

強い頭痛が側頭部から後頭部にかけてみられますが、部位がはっきりしないこともあります。頭皮の疼痛や圧痛としてみられることもあります。頭痛は拍動性で片側性のことが多く、夜間に悪化する傾向もあります。疼痛の部位に圧痛のある索条の動脈を触れたり、拍動の減少や消失を認める場合もあります。

(2)眼症状

視力障害は40 %以上に認められます。
眼動脈は内頚動脈より分岐し、視神経管を通って眼窩に 入り、後毛様体動脈、網膜中心動脈、涙腺動脈、眼窩上 動脈などに分岐しています。眼動脈が侵されると視力低下、視力 消失、霧視、複視などが゙生じます。発症初期に視力・視野異常を呈し、約23~44%が視力低下、4.4~6.5%が視力完全消失をきたすので注意が必要です。突然の視力消失は朝の起床時に気づくことが多いとされます。初期には増悪・寛解を繰り返しますが、一度症状が固定してしまうと非可逆性となり回復が難しくなります。

(3)顎症状

顎跛行とは、短時間の咀嚼後のみに、顎関節周囲に痛みが生じ、咀嚼・会話などを間欠的に止めなければならないような状態です。外上顎動脈の虚血によって生じます。一方、顎関節症では咀嚼直後に痛みが始まることから鑑別されます。

(4)全身症状

発熱、体重減少、倦怠感、関節痛、頸部および肩甲部の疼痛と硬直などのリウマチ性多発筋痛症の症状がみられることがあります。大動脈が障害されると、鎖骨下動脈盗血症候群、解離性大動脈瘤などをみることがあります。解離性大動脈瘤は他の症状が落ち着いた後期にみられ、破裂は死因になります。虚血性疾患(脳梗塞・心筋梗塞)がみられることもあります。
大動脈主体の本症は側頭動脈が侵されるものと比較して、発症年齢が若い(66歳vs 72歳)、頭痛が少ない(14 % vs 57 %)、初発時に上腕跛行が多い(51 % vs 0 %)が多いとされます。

脳血管障害を合併することは比 較的まれですが、脳動脈病で゙は一過性脳虚血発作、脳梗塞、片麻痺などをきたし、聴力・前庭障害など゙耳鼻咽喉科領域の症状が 認められることもあります。

(5)リウマチ性多発筋痛症(PMR)

巨細胞性動脈炎(GCA)患者の 30 ~ 60%にリウマチ性多発性筋 痛症(PMR)を認め、PMR の 16 ~ 21%に巨細胞性動脈炎(GCA) を合併します。

PMRは高齢者に多く、突然発症する頚部から両肩、上肢の疼痛、腰部から大腿部の疼痛、とくに 起床時の疼痛とこわばりを゙特徴とします。PMRではFDG- PET で大動脈や鎖骨下動脈へも集積が゙認められ、 PMRと巨細胞性動脈炎(GCA)は本質的には同一な疾患で、 臨床像の少し異なった 2 つの病態と捉える考えもあります。

検査所見

(1)血液検査所見

特徴的な血液検査所見はなく、血沈亢進、CRP陽性といった炎症反応は70%以上でみられます。その他、白血球増多、貧血、血小板増加、肝障害などがみられることもあります。血沈亢進、CRPは病気の活動性の評価の目安になります。

(2)画像検査

高齢者に多いことから、動脈硬化病変との鑑別が必要となります。一般に血管炎では全周性、動脈硬化は偏った壁肥厚を認めますが、例外もあります。

  • 造影CT: 動脈壁の全周性の肥厚、狭窄、閉塞など。大動脈瘤。
  • ドップラーエコー:側頭動脈のハロー所見は動脈壁の炎症と浮腫を反映。
  • MRI / MRA:側頭動脈および大動脈・その分枝の動脈炎や動脈炎の広がりを非侵襲的に評価するのに有用。単独で活動性や治療効果判定には用いない。
  • 18F-FDG PET:大動脈病変主体の本症診断に有用である。
  • 血管造影:内腔がsmoothな狭窄や閉塞

(3)病理組織検査

側頭動脈生検により巨細胞性動脈炎(GCA)が確認されると診断が確定されるので行うことが望ましいとされます。組織学的には巨細胞の出現を伴う動脈炎で、動脈の全層に浸潤するT細胞とマクロファージ主体の単核球浸潤が特徴です。内弾性板を中心とする肉芽腫性炎症と著しい内膜肥厚、中膜の萎縮がみられ、動脈硬化性病変を伴うこともあります。炎症がおさまると必ずしも多核巨細胞は認められなくななります。

これらの病変は分節状に分布しているため、病変採取には2cm以上が望ましいとされます。側頭動脈は生検により途絶しても障害をきたしません。ステロイド開始前の検査が望ましいですが、ステロイド開始後14-28日でも陽性所見を得たという報告があるので、視力障害などがあれば治療を優先します。 

巨細胞性動脈炎(GCA)の診断基準

1990年のアメリカリウマチ学会による診断基準が一般的で広く用いられています。

<診断基準>

巨細胞性動脈炎(GCA)の分類基準(1990年、アメリカリウマチ学会による)


  1. 発症年齢が50歳以上:臨床症状や検査所見の発現が50歳以上
  2. 新たに起こった頭痛:新たに出現した、または新たな様相の頭部に限局した頭痛
  3. 3 側頭動脈の異常:側頭動脈の圧痛または動脈硬化に起因しない側頭動脈の拍動の低下
  4. 赤沈の亢進:赤沈が50mm/時間以上
  5. 動脈生検組織の異常:単核球細胞の浸潤または肉芽腫を伴う炎症があり、多核巨細胞を伴う

分類目的には5項目中3項目を満たす必要がある。

巨細胞性動脈炎(GCA)の治療

第一選択は副腎皮質ステロイド全身投与です。眼症状が強い場合などは治療を急ぎます。

(1)副腎皮質ステロイド

標準的なステロイド使用量はプレドニゾロン(PSL)換算で1mg/kgです。失明の可能性がある場合や中枢神経症状、脳神経症状のある場合はステロイドパルスも検討します。視力障害は非可逆性で、一方の視力障害が起きると1〜2週でもう一方の眼も侵されるとされるので、視力障害がある場合、側頭動脈生検による組織学的診断を待たず、早急に治療を開始します。発症時にステロイド大量点滴を行った群は、非点滴群に比べ、経過中のステロイド投与総量が有意に少ないとの報告があります。

初期投与量を 2 ~ 4 週間継続後、臨床症状が軽快し、検査上、炎症反応の上昇が正常化すればPSLを減量できます。PSL投与量20 mg/日までは2週ごとに 10 mgずつ、10 mg/日までは 2~4週ごとに 2.5 mgずつ、 それ以降は1ヵ月ごとに1 mgのペースで減量が標準的です。状況 に応じては減量のペースを増減でき、1 ~ 2 年間で多くの方は 投与の中止が可能になります。

(2)その他(免疫抑制剤、生物学的製剤)

メトトレキサート 10〜15 mg / 週の間欠投与は効果があると考えられています。生物学的製剤では、近年、抗IL-6受容体抗体(トシリズマブ)の有効性が報告されており、治療として選択されることが増えています。2017年にトシリズマブの皮下注製剤が巨細胞性動脈炎(GCA)に対して保険収載されています。抗血小板薬として。少量アスピリンは脳梗塞などの合併症の予防に有効として全例に推奨されています。 

巨細胞性動脈炎(GCA)の予後

予後に影響するものとして以下の 3 つが重要です。

  1. 各血管の虚血による後遺症: 失明、脳梗塞、心筋梗塞など
  2. 大動脈瘤、その他の動脈瘤: 解離・破裂 
  3. 治療関連合併症: 長期 GC などの免疫抑制療法による感染症、病的骨折など

1998年の厚生省全国疫学調査では、短期予後として、治癒・軽快例 81.8%、脳梗塞 12.1%、失明 6.5%、死亡 4.5% と報告されています。 再燃を繰り返すことが多く、長期予後に関する疫学調査はまだありません。スウェーデンの報告では、GC 治療期間は 平均5.8年(範囲:0~12.8年)で、治療後5年に 43%、9 年に 25%の症例が GC 治療を継続しています。国ミネソタ州オルムステッド郡の一般人口を対象とし たコホート研究では、巨細胞性動脈炎(GCA)患者では一般人口に 比べ、胸部大動脈瘤の発症リスクが 17.3 倍、腹部大動脈瘤の発症が 2.4 倍と多かったとされます。

まとめ

「血管炎」は様々な種類の動脈に多様な原因によって炎症が起こり、血管炎症候群とも呼ばれます。巨細胞性動脈炎(GCA)は比較的大型の動脈に炎症が起こる疾患です。時に重篤な生命予後に関わる症状を合併したり、視力障害が残ってしまうこともあります。頭痛、眼症状、顎症状など、まれですが特徴的な症状を生じます。早期の診断と治療、定期的な観察が必要です。

<リファレンス>

難病情報センター 巨細胞性動脈炎(GCA) (指定難病41)
血管炎症候群の診療ガイドライン
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2017年改定版  
血管炎・血管炎症候群の診療ガイドライン 2016年改定版 日本皮膚学会

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