多発性血管炎性肉芽腫症|疾患情報【おうち病院】
記事要約
多発性血管炎性肉芽腫症とは、血管に炎症が起こる「血管炎症候群」の中で、全身の細い血管に炎症がおこる代表的な病気の一つです。多発性血管炎性肉芽腫症の原因・治療方法・診断のコツなどを、医師監修の基解説します。
多発性血管炎性肉芽腫症とは
この病気は血管に炎症が起こる「血管炎症候群」の中で、全身の細い血管に炎症がおこる代表的な病気の一つです。以前はWegener肉芽腫症(ウエゲナー肉芽腫症)と呼ばれていましたが、2012年の新しい国際分類で病気の名前がかわりました。抗好中球細胞質抗体(ANCA)の中でPR3-ANCAという自己抗体が陽性となることが特徴的な疾患です。顕微鏡的多発血管炎、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症とともにANCA関連血管炎のひとつです。
この病気は「気道に起こる炎症性肉芽腫かつ小~中血管に起こる壊死性血管炎」と定義されています。眼、耳、鼻、喉などの上気道炎を初発として、気管、肺などの下気道および腎障害を生じます。
鼻から肺にいたる臓器の炎症(上気道・下気道病変)、腎臓の炎症(腎炎)、全身の血管の炎症の3つを特徴とし、上気道・肺・腎などの主要症状、壊死性肉芽腫性血管炎の主要組織所見、ANCA陽性などの検査所見から診断します。
40~60歳の中高年齢で多いですが、男女でのなりやすさの違いはほとんどありません。現在は病状に合わせて副腎皮質ステロイド薬に免疫抑制薬が併用され治療成績が向上しています。
多発性血管炎性肉芽腫症の原因
明らかな原因は不明です。多くの方が血液中に抗好中球細胞質抗体(ANCA)陽性であり、特に多発血管炎性肉芽腫症の患者さんでは、PR3-ANCAという自己抗体が見いだされ、病気の発症や進行に深く関わっていることが考えられています。
すなわち、PR3-ANCAが、風邪などの上気道感染の後に炎症によって産生されたサイトカインとともに好中球を活性化し、各種の障害因子を放出し血管炎や肉芽腫を起こすと考えられています。上気道の感染をきっかけにこの病気が発病したり、細菌感染により病気が再発したりすることがあり、感染症が病気の誘因として注意する必要があります。
欧米では特定の遺伝子(HLA抗原)をもつ人に発症しやすいとの報告がありますが、日本では特定の遺伝子(HLA抗原)との関連は見出されていません。ただ、この病気を含め自分自身の体の成分に対して免疫が起こる病気(自己免疫病)では、親族に同じ様な病気が多くみられる家系がありますが、はっきりした遺伝子によるものかどうかは不明です。
多発性血管炎性肉芽腫症の疫学的整理
難病の申請をされている方は、2,708人(平成28年度医療受給者証保持者数)ですが、申請をしていない方、医療機関に受診していない方を含めると、これ以上の人がこの病気をもっていると推定されています。男女比は1:1で明らかな性差は認められていません。推定発症年齢は男性30~60歳代、女性は50~60歳代が多いようです。
この病気は、北ヨーロッパの白色人種の人に多いといわれていますが、日本においては地域差などはみられていません。また、特別な環境が病気の発症に関係しているという証拠は見つかっていません。
多発性血管炎性肉芽腫症の症状
発熱、体重減少、易疲労感、筋痛、関節痛などの全身症状とともに、上気道の症状(膿性鼻漏、鼻出血、難聴、耳漏、耳痛、視力低下、眼充血、眼痛、眼球突出、咽喉頭痛、 嗄声 など)、肺症状(血痰、 咳嗽 、呼吸困難など)、腎症状(血尿、乏尿、浮腫など)、その他の血管炎を思わせる症状(紫斑、多発関節痛、多発神経炎など)が起こります。出現する症状や障害される臓器は人により異なります。
1)鼻から肺にいたる臓器の炎症(上気道・下気道病変)
初発症状としては鼻出血、鼻水、鼻のへこみ、眼の痛み、中耳炎に伴う難聴、ひどい口内炎、かすれ声などが多く、それに伴い咳や血の混じった痰が出ることもあります。重症例では鼻の奥の壁に穴が開いたり(鼻中隔穿孔)、口の中の上の硬い部分に穴が開いたり(口蓋穿孔)、気道が狭くなったり(気道狭窄)、肺の中に球状のおでき(肺結節)が多発したりします。場合によっては息苦しさがでることもあります。
2)腎臓の炎症(腎炎)
腎炎の症状は初発時には少なく、経過とともに頻度が増加してやがて6割ほどの患者さんに出現します。一般的にこの病気で出現する腎炎は、急速進行性糸球体腎炎と呼ばれ、進行が早く月単位から週単位で進行するのが特徴です。自覚症状は両足のむくみ、突然出現した高血圧、尿の泡立ち、血尿などです。
3)全身の血管の炎症
全身の血管に炎症がおこる結果、38度を越すような発熱や体重減少がみられることがあります。また、関節炎、皮膚の紫斑、手足のしびれ(多発性単神経炎)などがみられることもあります。
また様々な臓器の血管に炎症が起ると、その臓器特有な症状が出現します。例えば、心臓の血のめぐりが悪くなったり(心筋梗塞)、腸から出血したり(消化管出血)、肺に水がたまったり(胸膜炎)することがあり、症状は患者さんによって様々です。
多発性血管炎性肉芽腫症の診断方法
多発血管炎性肉芽腫症の診断はある検査所見の異常だけで行うものではなく、上記のような症状や、血液、尿、レントゲン検査などの結果を総合的に判断します。
この病気は他の病気がないことを確認することが診断に重要ですので、これらの検査に加えて、全身のCT検査、MRI検査、ガリウムシンチグラフィーなどのアイソトープを用いた検査などを入念に行う必要がある場合もあります。
また、病気の起こっている部分から組織を一部採取(生検)して病理組織検査を必要とする場合もあります。肺であれば気管支鏡という検査、腎臓であれば腎臓に針を刺す腎生検などを行うことがあります。
血液検査では、血管炎では共通して血沈やCRP値の上昇、白血球数の増加など炎症に伴う異常がみられます。腎臓に障害が起きた場合には、血尿・蛋白尿・腎機能低下などが見られます。
また、患者さんの血液中に抗好中球細胞質抗体(ANCA)が、血管炎症候群の一部の患者さんで検出されることが知られており、診断の助けになっています。ANCAには、PR3型とMPO型などの種類が知られています。多発血管炎性肉芽腫症ではPR3-ANCAが高率に検出されますが、国内ではMPO-ANCAが陽性のことも多く見られます。
また、指定難病のため重症度に照らした上で医療助成の対象となることがあります。早期発見・治療による予後の改善があるので、病初期の的確な診断・治療が望ましいです。しかし、感染症、悪性腫瘍、その他の膠原病などでも血管炎を疑うような症状や肉芽腫形成、ANCA陽性化があるので、充分な鑑別が必要です。
◆診断基準
国内では主として旧厚生省が1998年に作成した診断基準が使用されています。すべての症状がおこるわけでなく、一人一人にでてくる症状や臓器障害、また出てくる時期も異なるため、機械的に項目をあてはめて診断するものではなく、専門医による総合的な診断が重要です。
(1)主要症状
- 上気道(E)の症状
鼻(膿性鼻漏、出血、鞍鼻)、眼(眼痛、視力低下、眼球突出)、耳(中耳炎)、口腔・咽頭痛(潰瘍、嗄声、気道閉塞) - 肺(L)の症状
血痰、咳嗽、呼吸困難 - 腎(K)の症状
血尿、蛋白尿、急速に進行する腎不全、浮腫、高血圧 - 血管炎による症状
- 全身症状:発熱(38℃以上、2週間以上)、体重減少(6ヶ月以内に6kg以上
- 臓器症状:紫斑、多関節炎(痛)、上強膜炎、多発単神経炎、虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)、消化管出血(吐血・下 血)、胸膜炎など
(2)主要組織所見
- 上気道(E)、肺(L)、腎(K)の巨細胞を伴う壊死性肉芽腫性血管炎
- 免疫グロブリン沈着を伴わない壊死性半月体形成腎炎
- 小・細動脈の壊死性肉芽腫性血管炎
(3)主要検査所見
- Proteinase 3-ANCA(PR3-ANCA)(蛍光抗体法でcytoplasmic pattern,C-ANCA)が高率に陽性を示す。
(4)判定
- 確実(definite)
- 上気道(E)、肺(L)、腎(K)のそれぞれ1臓器を含め主要症状の3項目以上を示す例
- 上気道(E)、肺(L)、腎(K)、血管炎による主要症状の2項目以上および、主要組織所見1~3の1項目以上を示す例
- 上気道(E)、肺(L)、腎(K)、血管炎による主要症状の1項目以上および、主要組織所見1~3の1項目以上およびC(PR3)-ANCA陽性の例
- 疑い(probable)
- 上気道(E)、肺(L)、腎(K) 、血管炎による主要症状のうち2項目以上の症状を示す例
- 上気道(E)、肺(L)、腎(K) 、血管炎による主要症状のいずれか1項目および、主要組織所見1~3の1項目を示す例
- 上気道(E)、肺(L)、腎(K)、血管炎による主要症状のいずれか1項目とC(PR3)-ANCA陽性を示す例
(5)参考となる検査所見
- 白血球、C反応性蛋白(CRP)の上昇
- 尿素窒素(BUN)、血清クレアチニンの上昇
(6)識別疾患
- E, Lの他の原因による肉芽腫性疾患(サルコイドーシスなど)
- 他の血管炎症候群(顕微鏡的多発血管炎、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症、結節性多発動脈炎など)
多発性血管炎性肉芽腫症の治療
この病気は早期に診断し、3つの特徴的な臓器障害である上気道、肺、腎の壊死性肉芽腫性血管炎のなるべく初期に、副腎皮質ステロイド+免疫抑制薬を主体とする免疫抑制療法を施行することにより、病気を落ち着いた状態(寛解)へ導く治療を行います(寛解導入治療)。その際、重症度により使用する免疫抑制療法の強さを調整して投与します。症状が軽減・消失した後には、病気が再燃しないために行う治療(寛解維持治療)を行います。治療に用いる薬は、以下の通りです。
1)副腎皮質ステロイド
寛解導入治療では、重症度に応じてプレドニゾロン(プレドニン®)の経口投与を行います。重症例や治療に抵抗性の場合は、ステロイドパルス療法(大量点滴静注療法)を行う場合もあります。
通常は副腎皮質ステロイドと免疫抑制薬を併用し、以降病気の活動性および血液中のPR3-ANCAの値の推移をみながら、徐々に減量していきます。病気が落ち着いた状態(寛解)になったら、使用している免疫抑制療法を維持し、病気がぶり返すことのないように長期間慎重に経過を観察することが必要です(寛解維持治療)。
2)免疫抑制薬
副腎皮質ステロイドと併用します。寛解導入治療では、点滴による静注シクロホスファミド(エンドキサン®)パルス療法を行います。パルス療法の代わりにシクロホスファミドの内服薬を用いることもあります。寛解維持治療では、アザチオプリン(イムラン®)を使用します。
最近では、シクロホスファミド、アザチオプリンの代わりに、リツキシマブ(リツキサン®)が用いられることもあります。このほか、メトトレキサート、ミコフェノール酸モフェチル(ともに保険適用外)を使用する例もあります。
3) 血漿交換
重症な腎障害などでは、病気を悪化させていると考えられる物質を取り除くために、血液中の血漿成分を入れ替える、血漿交換を追加することがあります。また、この病気は上気道、肺に二次感染を起こしやすいので、必要によりST合剤(バクタ®)の内服、鼻腔、咽頭ネブライザーなどにより細菌感染症に対する対策を十分に行うことも大切です。
多発性血管炎性肉芽腫症の治療の予後
早期にこの病気を診断して、病気による臓器病変の拡がりの少ないうちに、免疫抑制療法による薬物療法を行うと、病気が完全に落ち着く(寛解)例も多くみられます。わが国の研究に登録された新規の患者さん33名の6か月後の寛解に導入される割合は97%でした。一般に、副腎皮質ステロイドの副作用を軽減するためには速やかな減量が必要である一方で、あまり早く治療を中止すると病気が再燃することもあります。この際、この病気の活動を知る目安として、血液中のPR3-ANCAの値などの推移が参考になります。
一方、進行した例では免疫抑制療法による治療効果が乏しく、腎不全のために血液透析・腹膜透析導入となったり、慢性呼吸不全に陥ったりする例もみられます。この病気自身で亡くなられる方は少ないですが、 敗血症や肺感染症、呼吸不全などが原因で亡くなられることがあります。また、全身症状の落ち着いた後に、鞍鼻や視力障害などの後遺症が残る方もいます。しかし、早期に診断して、早期に治療を開始する例が増えるに従い、患者さんの予後は改善してきています。
多発性血管炎性肉芽腫症の生活上の注意
ステロイド薬や免疫抑制薬を服用されている場合が多いため、感染症に弱い状態になることが多いです。手洗い・うがいなどを心がけ、ストレスのかからない生活を送り、風邪などひかぬようにしましょう。また、薬の飲み忘れや、自己判断で中断することは病気の再発につながる可能性もありますので必ず主治医の指示に従ってください。
まとめ
血管炎全般に、感冒などでみられる発熱、易疲労感、関節痛などの症状で始まり、診断がつきにくい場合があります。原因不明の発熱などの全身症状で血管炎が関与していることがあります。些細と思っても症状を丁寧に伝え、こういった疾患も念頭に、リウマチ・膠原病医や各症状を治療できる専門医のもとで診断・治療に当たることが必要です。
<リファレンス>
難病情報センター 多発性血管炎性肉芽腫症 指定難病44
ANCA関連関連結果年2017 日本内科学会雑誌
ANCA関連血管炎.com