腋臭症(えきしゅうしょう)|疾患情報【おうち病院】

記事要約

腋臭症(えきしゅうしょう)とは、腋(ワキ)から特徴的な臭いがする病気で、「わきが」と呼ばれることもあります。腋臭症の原因・治療方法・診断のコツなどを、医師監修のもと解説します。

腋臭症とは

腋臭症(えきしゅうしょう)とは、腋(ワキ)から特徴的な臭いがする病気で、「わきが」と呼ばれることもあります。
ワキから汗が出て多少の臭いが気になること自体は異常ではなく生理的な現象といえますが、日本人は消費者連盟「香害110番」があるほど臭いに敏感です。
歴史的にみても「かおり」「にほひ」に特別な思いがある人種のようです。特に夏場で汗をかきやすい時期に、ワキの臭いにお悩みの方もいらっしゃるかもしれません。
原因になるアポクリン汗腺は思春期以降に特に発達するため、思春期での臭いの悩みは深刻です。ぜひ記事を読んでいただき、正しい知識を手に入れてくださいね。今回は腋臭症について、詳しく解説していきます。

腋臭症の原因

腋臭症の原因は、汗腺の分泌が過剰になって細菌が繁殖することにあります。
汗腺とは文字通り、汗を分泌する器官です。汗腺には2種類あり、全身に分布するエクリン汗腺とワキ、外耳道、鼻翼、乳輪、外陰部に主に存在するアポクリン汗腺があります。腋臭症を起こすのは主にアポクリン汗腺でアポクリン汗腺からでる汗はドロドロしていますが汗自体は無臭です。汗が皮膚の常在菌で分解されて3メチル2ヘキセノイン酸という脂肪酸の一種になると、臭いが発生するといわれています。アポクリン汗腺は遺伝や性ホルモンの影響で発達しますが、腋臭症ではアポクリン汗腺が通常より大きく量も多くなるという特徴があります。アポクリン汗腺からの汗と皮膚で作られる臭い物質以外にも、脇毛の量や精神的なストレス、エクリン汗腺からの汗も、臭いの原因になります。

腋臭症の疫学的生理

腋臭症は遺伝的素因があることがわかっています。西洋やアフリカなどでは90%以上の方が多少なりの腋臭症があるといわれていますが、日本人を含む黄色人種はそれに比較すると少なく、人口の10%程度になります。男女差はありません。ただし、病院の受診自体は臭いを気にする若い女性に多い傾向があります。腋臭症があっても受診せずにセフルケアや市販のデオドラントなどで対処されている方も含まれるため、正確な比率や人数は不明です。

欧米諸国では日本のように腋臭症が病気としてではなく体質として扱われることもあるため、世界規模での研究は行われず、科学的根拠・エビデンスも非常に限られています。日本人ほど「臭い」に敏感ではないことと、そもそも「臭い」自体には客観的な指標がなく主観的な問題であることも関連しているのでしょう。

腋臭症の症状

腋臭症の主な症状はワキの臭いです。アポクリン汗腺は交感神経が亢進すると分泌されるアドレナリンに反応し発汗するので、緊張したり興奮したりする時に特に臭いが濃くなる傾向にあります。女性の場合には月経前から月経時に臭いが強くなることがあります。脇毛が多く、アポクリン汗腺の分泌で服のワキあたりが黄ばみやすいというのも特徴的な症状です。腋窩多汗症を合併することも多く、アポクリン汗腺が分布する耳周りや乳輪、陰部の臭いを伴うこともあります。

最近の研究で、腋臭症と耳垢のタイプを決める遺伝子との間に関連があることがわかりました。耳垢がwetタイプの場合、80%に腋臭があるということです。

腋臭症の診断

問診でチェックすべき項目として、以下があげられます。

  • いつから症状があるか
  • 耳垢がwetタイプかdryタイプか
  • 家族歴があるか(遺伝素因)

腋臭症は思春期から発症し、ピークは20歳前後、その後年齢と共に症状は改善していきます。いつから症状に悩んでいるのかは重要です。原発性腋窩多汗症と同じく、20代後半から悪化した......などの典型的な発症年齢ではない場合には、感染症やその他の原因(続発性)を考える必要があります。高齢の場合には、皮膚の悪性腫瘍があって臭いがでているケースもあります。
また、耳垢のタイプや遺伝素因の確認も行います。耳垢がwetタイプだと80%が腋臭症になるので、耳垢がdryタイプの場合には、違う病気が隠れていないか考える必要がありますね。
腋臭症だと思って受診する方の中に、臭い自体はあまり強くなく正常範囲であるのに強く悩まれている方がいます。その場合には神経症的に臭いが異常に気になってしまう自己臭恐怖症(osmidrophobia)を考えます。こちらは腋臭症の治療を行うよりも認知行動療法などが有効な治療法になるケースがあるため、自己臭恐怖症は鑑別する必要があります。家族や自分以外の他人から臭いを指摘されたことがあるか、というのも重要な指標になります。指摘されたことがある場合には、自己臭恐怖症よりも腋臭症の可能性が高まります。
腋臭症の検査には、

  • ガーゼテスト法
  • 試験切開法

があります。

ガーゼテスト法は5分間ワキにはさみ、医療者が臭いを確認します。ガーゼをはさんでいる間に運動をしてもらったり、薬剤を用いて腋臭を誘発させたりすることもあります。試験切開法は診断のためにワキに切開を加える必要があることと、アポクリン汗腺の量をどう判断するのか、というのが医師の経験に基づくという状態のため、全員が必要な検査というものではありません。
臭いという主観的な指標で診断しなくてはいけませんが、第三者的に医師に判断してもらうというのが大切ですね。今後の研究が進んで、遺伝子研究や臭いを定量的に評価できる検査法ができることに期待しましょう。

腋臭症の治療

ご自宅でできるケアと病院での治療に分けて解説していきます。

生活習慣の見直しやワキのケア 
腋臭症は不規則な生活習慣や喫煙によって悪化することがあります。糖質や動物性脂肪(特に赤身肉)を大量に食べると皮脂分泌が増加し、臭いが強くなるといわれています。バランスの良い食事や睡眠習慣を整え、喫煙している場合は禁煙を目指しましょう。香辛料は口臭を悪化させるという発想から、香辛料でワキの臭いも悪化するのではという指摘もありますが、こちらは科学的な根拠はありません。
ストレスも腋臭の悪化因子です。ストレスにより交感神経が優位になり、アポクリン汗腺の分泌量が増えることが原因です。ストレスをうまく発散できる方法があるとよいですね。ストレス発散法はそれぞれ違うとは思いますが、いくつかおすすめをお伝えします。

  • 体を動かす
  • 今の気持ちをノートなどに書いてみる
  • 腹式呼吸をしてみる
  • 「なりたい自分」について考えてみる
  • 音楽を聞いたり、歌を歌う
  • 失敗しても笑ってみる

厚生労働省が若い方に向けて発信している情報サイトにあるものを、ご紹介しました。自分にあったものがあれば、取り入れてみるのはいかがでしょうか。

ワキのセルフケアとして、ワキに汗をかいたりした際にはこまめに拭き取ったりして、清潔を保つことも良いですね。臭いの原因になる汗自体が減ると臭いも改善します。拭き取りの際などに臭いの原因物質を作りだす細菌を減らすために消毒液を使う必要があるかどうかですが、消毒液としてはいくつか種類があります。主な消毒薬としてはエタノールやクロルヘキシジン、塩化ベンザルコニウム、トリクロサン、トリクロルカルバン、ヘキサクロロフェンなどが挙げられますが、通常は市販のワキ用石鹸やデオドラント製品に含まれて販売されています。

消毒薬を含む石鹸、デオドラント製品はワキの細菌を減らし臭いの改善に効果があることがわかっています。消毒薬の効果は洗浄後48時間ほど続きますが、その後は元の臭いに戻ってしまうため、継続的に使用する必要があります。細菌を減らすために抗生物質を使うべきかに関しては、耐性菌の発生などのリスクの方がベネフィットを上回るため、安易に使用すべきではないとされています。実際抗生物質を使っても臭いが減ったのは最初の10日のみで、効果としてもイマイチです。

少なくとも自己判断で市販の抗菌薬などは使う意義が低そうです。皮膚が感染して皮膚炎を起こしている際には、医師の判断で抗生物質が使われることはあります。
制汗剤も一定の効果があります。制汗剤に含まれている塩化アルミニウムの汗を抑える効果は実証済みで、原発性腋窩多汗症の治療ガイドラインでも使用が推奨されています。塩化アルミニウムは病院で処方できる製剤がないので、市販薬として取り入れるのがおすすめです(病院で購入自体は可能なこともあります)。ただし、制汗剤は汗を抑えるだけで臭いを抑えるわけではありませんので、臭いがゼロになるわけではありません。

デオドラント製品は臭いの発生を抑えたり吸着したり、芳香作用で臭いをマスクしたりして、腋臭症の症状を改善させます。デオドラントの中には、抗菌作用をもつ生薬エキスや鉱石などのさまざまな成分が含まれており、新たな商品がどんどん開発されています。制汗剤もデオドラント剤もクリーム、スプレー、ロールオンタイプなど、色々な商品がありますね。好みにあわせて使ってみましょう。

制汗剤やデオドラントの副作用としては、かぶれ(接触性皮膚炎)を起こしてしまうことがあります。かぶれが起こった際には製剤の使用を中止し、症状に応じて皮膚科で皮膚炎の治療を行いましょう。また、製品の成分で金属、鉱石を含むものを乳がん検診のためのマンモグラフィー前に塗ったまま撮影してしまうと、小さな石灰化として映って乳がんとの見分けが難しいということが起こりえます。使用上の注意点などは、よく読んで使いましょう。

病院での保存的な治療法

腋臭症が専門の診療科は皮膚科や形成外科になります。
原発性腋窩多汗症の治療であるA型ボツリヌス毒素の局所注射、イオントフォレーシスが選択されることあります。どちらも作用機序は腋臭症を起こす原因のアポクリン汗腺ではなくエクリン汗腺の働きを抑制することですが、汗が減ってワキが乾燥することで一定の効果があるとされています。
脇毛がワキの整容を保つのに邪魔な場合には、医療脱毛も選択肢の一つです。腋臭症はワキの多毛を合併することが多いため一定の効果はあるかもしれませんが、臭いを直接的に減らすことはできませんので、あくまでオプション的な扱いです。
近年「切らないワキ汗治療」として、マイクロ波でアポクリン汗腺とエクリン汗腺を破壊するmiraDry(ミラドライ)®が腋臭症に効果があることもあります。ミラドライ®は2018年に薬事承認を得たばかりの医療機器です。皮膚にマイクロ波を照射すると細胞内部の水分が振動して熱を発します。汗腺がある皮下で熱を発生させるように調節すると、汗腺にある水分が主に反応して汗腺が熱で破壊されるという仕組みです。エクリン汗腺、アポクリン汗腺は区別なく汗腺を同時に処理できるのが特徴です。局所麻酔のみで施術可能で、痛みも強くありません。新しい器械のため副作用の報告は今後も経過を見ていく必要がありますが、現時点ではやけど、上腕三頭筋の筋力低下を伴う橈骨神経の損傷の報告が重大な有害事象として報告されています。妊婦や小児へは安全性が確保されておらず、現時点では使用できません。
上記の治療が保険適応で行えるかどうかは、直接病院で相談してみましょう。

外科的な治療

外科的な治療はワキの清潔を保つなどのセルフケアや皮膚科的な治療を行っても強い臭いが改善しない場合に、選択されることがあります。外科的な手術となると、内科的な治療などとは違い、侵襲的で術後の合併症などの可能性が高まります。臭い自体は正常範囲ですが本人が異常に気にしてしまう自己臭恐怖症は、術前に再度鑑別する必要があります。腋臭症の明確な診断基準がなく、臭いの重症度判断も客観性がないことが問題点ではありますが、問診や検査を行って、最終的には医師と患者さん本人がリスクなどをよく理解して手術をすべきか決定される必要があります。
腋臭症の手術には保険適応となる方法があります。大きくわけて、皮弁法(皮下剪除法)、皮膚切除法、有毛部切除法がありますが、最近では多くが皮弁法が選択されます。皮弁法では、脇を切開して皮膚を裏返し、汗腺がある層を切除します。この方法で9割以上で臭いが減少するといわれていますが、全ての汗腺が除去されるわけではありません。また、術後の合併症として、皮下出血や汗腺、皮膚の壊死などがあります。術後はすぐに腕を動かせず、生活に支障が出ることもあります。ワキの皮膚がたるんでいる場合には皮膚切除法を行うこともあります。有毛部皮膚切除法は、脇毛が生えている皮膚と皮下組織を全体的に切除する方法ですが、傷口が大きく残ることや術後の合併症が強く残ることから、積極的に選択される術式ではありません。

相談の目安

腋臭症は臭いが出るので、実際の患者様は非常に悩まれていることが多いです。まずは生活習慣の見直しや自分でもできるワキのケアをしていただき、それでも改善されない臭いがある場合には皮膚科にご相談ください。臭いは数値化できるものではないので、診断は少し主観的なものになりますが、医師としてのアドバイスがもらえると思います。腋臭症と思われても、実際には臭いが強くない場合には、別の方法をご案内することもあります。1人で悩みすぎずに、ぜひ医師にご相談くださいね。

<リファレンス>

日本形成外科学会 腋臭症    

日本形成外科学会.形成外科診療ガイドラインシリーズ

清水宏 新しい皮膚科学第3版 中山出版

JMEC

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