妊娠高血圧症候群|疾患情報【おうち病院】

記事要約

妊娠高血圧症候群は以前は「妊娠中毒症」と呼ばれていた疾患で、妊娠時に高血圧を発症したものをいいます。重症になると、母体だけでなく胎児の発育にも影響を及ぼしますので、妊婦健診をきちんと受け周産期の管理を適切に行っていくことが大切です。妊娠高血圧症候群の原因・症状や合併症、治療法などを、医師監修の基解説します。

妊娠高血圧症候群とは

妊娠高血圧症候群 (Hypertensive Disorders of Pregnancy:HDP) は、以前は「妊娠中毒症」と呼ばれていた疾患で、妊娠時に高血圧を発症したものをいいます。妊娠高血圧、妊娠高血圧腎症、加重型妊娠高血圧腎症、高血圧合併妊娠の4つの病型に分類されます。

高血圧とは収縮期血圧≧140mmHg(重症では160mmHg)、かつ/または、拡張期血圧≧90mmHg (重症では110mmHg) をいいます。妊娠末期に出現しやすくなりますが、発症時期が妊娠34週未満のものは早発型と呼ばれ、より重症化しやすい傾向があります。重症になると、母体だけでなく胎児の発育にも影響を及ぼしますので、妊婦健診をきちんと受け周産期の管理を適切に行っていくことが大切です。

妊娠高血圧症候群の疫学的整理

妊娠高血圧症候群は、全妊婦の約20人に1人の割合(3〜7%)で認められると言われています。

妊娠高血圧症候群の原因

妊娠高血圧症候群の原因の詳細は不明ですが、一つの仮説として胎盤形成に原因があると考えられており、胎盤で様々な物質を異常に分泌し、全身の血管に作用して妊娠高血圧症候群を引き起こしているのではないかと考えられています。

妊娠高血圧症候群のリスク要因

妊娠高血圧症候群のリスク要因には、糖尿病・高血圧・腎機能障害・自己免疫疾患の既往歴、肥満、母体の年齢が40歳以上、高血圧の家族歴、多胎妊娠、初産婦、妊娠高血圧症候群の既往歴があります。

妊娠高血圧症候群の症状・合併症

妊娠高血圧症候群は自覚症状がないことが多く、妊婦健診の血圧測定や尿検査で指摘されることが多いです。収縮期血圧140mmHg以上、かつ/または、拡張期血圧90mmHg以上の高血圧や蛋白尿を認めます。
また、重症化すると頭痛や上腹部痛、嘔吐など合併症による症状を伴うこともあります。

<合併症について>

重症になると母体と胎児に以下のような合併症が現れます。
【母体への影響】
常位胎盤早期剥離、子癇(痙攣発作)、高血圧による脳出血、心不全、肺水腫、分娩時の大量出血、腎機能障害などの臓器障害、HELLP症候群など
【胎児への影響】
低出生体重児、胎児発育不全、胎盤機能不全、早産、死産など 

妊娠高血圧症候群の診断と分類

妊娠高血圧症候群の分類は以下のようになります。
産婦人科診療ガイドライン ―産科編 2020 より出典

 <病型分類>

妊娠高血圧腎症:preeclampsia(PE) 
1)妊娠 20 週以降に初めて高血圧を発症しかつ蛋白尿を伴うもので,分娩 12 週までに正常に復する場合
2)妊娠20週以降に初めて発症した高血圧に蛋白尿を認めなくても以下のいずれかを認める場合で,分娩12週までに正常に復する場合
 ⅰ)基礎疾患の無い肝機能障害(肝酵素上昇【ALT もしくは AST>40IU/L】,治療に反応せず他の診断がつかない重度の持続する 右季肋部もしくは心窩部痛)
 ⅱ)進行性の腎障害(Cr>1.0mg/dL,他の腎疾患は否定)
 ⅲ)脳卒中,神経障害(間代性痙攣・子癇・視野障害・一次性頭痛を除く頭痛など)
 ⅳ)血液凝固障害(HDP に伴う血小板減少【<15 万/μL】・DIC・溶血)
3)妊娠 20 週以降に初めて発症した高血圧に蛋白尿を認めなくても子宮胎盤機能不全(1 胎児発育不全【FGR】,2 臍帯動脈血流波形異常,3 死産)を伴う場合

妊娠高血圧:gestational hypertension(GH)  
妊娠 20 週以降に初めて高血圧を発症し分娩 12 週までに正常に復する場合で,かつ妊娠高血圧腎症の定義に当てはまらないもの

加重型妊娠高血圧腎症:superimposed preeclampsia(SPE) 
1)高血圧が妊娠前あるいは妊娠 20 週までに存在し,妊娠 20 週以降に蛋白尿もしくは基礎疾患の無い肝腎機能障害,脳卒中,神経障害,血液凝固障害のいずれかを伴う場合
2)高血圧と蛋白尿が妊娠前あるいは妊娠 20 週までに存在し,妊娠 20 週以降にいずれかまたは両症状が増悪する場合
3)蛋白尿のみを呈する腎疾患が妊娠前あるいは妊娠 20 週までに存在し,妊娠 20 週以降に高血圧が発症する場合
4)高血圧が妊娠前あるいは妊娠 20 週までに存在し,妊娠 20 週以降に子宮胎盤機能不全を伴う場合

高血圧合併妊娠:chronic hypertension(CH)
高血圧が妊娠前あるいは妊娠 20 週までに存在し,加重型妊娠高血圧腎症を発症していない場合

 <妊娠高血圧症候群における高血圧と蛋白尿の診断基準>

収縮期血圧 140mmHg 以上,または,拡張期血圧が 90mmHg 以上の場合を高血圧と診断する 
血圧測定法   
5 分以上の安静後,上腕に巻いたカフが心臓の高さにあることを確認し,座位で 1 ~ 2 分間隔にて 2 回血圧を測定し,その平均値をとる.2 回目の測定値が 5mmHg 以上変化する場合は,安定するまで数回測定する.測定の 30 分以内にはカフェイン摂取や喫煙を禁止する.初回の測定時には左右の上腕で測定し,10mmHg 以上異なる場合には高い方を採用する.測定機器は水銀血圧計と同程度の精度を有する自動血圧計とする

次のいずれかに該当する場合を蛋白尿と診断する.  
24 時間尿でエスバッハ法などによって 300mg/日以上の蛋白尿が検出された場合
随時尿で protein/creatinine(P/C)比が 0.3mg/mg・CRE 以上である場合
24 時間蓄尿や随時尿での P/C 比測定のいずれも実施できない場合には,2 回以上の随時尿を用いたペーパーテストで 2 回以上連続 して尿蛋白 1+以上陽性である場合を蛋白尿と診断する事を許容する

<症候による亜分類>

重症について
次のいずれかに該当するものを重症と規定する.なお,軽症という用語はハイリスクでない妊娠高血圧症候群と誤解されるため原則用いない

1)妊娠高血圧・妊娠高血圧腎症・加重型妊娠高血圧腎症・高血圧合併妊娠において,血圧が次のいずれかに該当する場合  
  収縮期血圧 160mmHg 以上の場合
  拡張期血圧 110mmHg 以上の場合
2)妊娠高血圧腎症・加重型妊娠高血圧腎症において,母体の臓器障害または子宮胎盤機能不全を認める場合

<発症時期による病型分類>

妊娠 34 週未満に発症するものは早発型(early onset type:EO)  
妊娠 34 週以降に発症するものは遅発型(late onset type:LO)

妊娠高血圧症候群の治療

妊娠高血圧症候群の治療は、安静、薬物療法、分娩(妊娠を終了させる)となります。
重症型ではない場合には、血圧が上がらないように十分な睡眠・休養をとり安静に過ごします。安静のみで血圧の改善が見られない場合は、降圧剤を使用して徐々に血圧を下げていきます。また、子癇発作の予防のために鎮痙薬(硫酸マグネシウム)を使うこともあります。
重症型や合併症を認める場合では入院して治療を行う必要があります。妊娠34週以降で重症型の場合や、妊娠34週未満でも妊娠を継続していくことが母子にとって危険と判断される場合には早産であっても分娩を行い、妊娠を終了させます。

妊娠高血圧症候群は分娩後に急速に改善することが多いですが、分娩後にも症状が持続したり合併症を発症したりすることもあるため、産後も回復するまでは引き続き血圧測定・血液検査・尿検査などの経過観察を行っていきます。

 <リファレンス>

産婦人科診療ガイドラインー産科編2020
日本産科婦人科学会
日本妊娠高血圧学会
Mayo clinic

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