過換気症候群|疾患情報【おうち病院】
記事要約
過換気症候群とは、精神的不安や極度の緊張などにより過呼吸の状態となり、血液が正常よりもアルカリ性となることで様々な症状を出す状態のことです。過換気症候群の原因・症状と治療方法・改善対策を解説
過換気症候群とは
精神的不安や極度の緊張などにより過呼吸の状態となり、血液が正常よりもアルカリ性となることで様々な症状を出す状態です。
原因
生体にはホメオスターシスを保つため、換気調節系によりO2、CO2、pHを維持する機能が備わっています。生体の換気調節系は化学的調節、神経性調節、行動計調整によって行われています。
呼吸は化学的調節、神経性調節で自律的に調節されますが、覚醒時には上位中枢からの調節(行動的調節)も受けているため、意識的に換気量を変化させることもできますが、心理的影響も受けやすいとされます。過換気症候群患者の心理的背景には転換性障害、不安神経症、情緒不安定、社会的不適応などが基盤にあるとされています。誘因として不安や悩み、死の恐怖、怒り、敵意などの心理的要素が強く、激しい運動、発熱、嘔吐、入浴など身体的要因も少なくありません。一方、誘因が明らかでない場合も多く存在します。
疫学的整理
女性が男性の2~4倍とされています。女性では10歳代、男性では20歳代にピークが認められます。発症年齢は5~85歳と幅広いとの報告があります。中年以上の患者にも少なからずみられる疾患であることに注意が必要です。
病態
何らかの原因、たとえばパニック障害や極度の不安、緊張などで過呼吸状態になると、血液中のCO2濃度が低くなり、呼吸中枢により呼吸が抑制され、患者は呼吸困難を自覚します。このため余計何度も呼吸しようとし、血液がアルカリに傾くことで血管の収縮が起き、手足のしびれや筋肉のけいれんや収縮も起きます。患者はこのような症状のためさらに不安を感じて過呼吸状態が悪化し、その結果症状が悪化する悪循環が形成されます。
症状(潜伏期間・感染経路等)
自覚症状としては、空気飢餓感、呼吸困難、頻呼吸、胸部絞扼感、前胸部痛、めまい、動悸などがあります。テタニーと呼ばれる手足のしびれや筋肉がけいれんしたり、収縮して固まる(硬直)症状がでます。手をすぼめたような形になり「助産師の手」と呼ばれます。この所見は、血圧計のマンシェットを腕に巻いて手の血流を止めるとより出やすくなります(トル―ソー徴候)。耳の前や顎の関節をたたくと顔面神経が刺激され、唇が上方にあがります(クボステック徴候)。
診断
確立された過換気症候群の診断基準はありませんが、中山らは以下の3項目すべてを満たすものとしています。
- 過換気を伴う呼吸困難、四肢のしびれ、動悸などの症状の存在
- 自然に軽快または何らかの処置による症状の急速な改善
- 過換気を生じる器質的疾患の除外
通常の過換気症候群は急性型の発作を呈するものを指しますが、慢性型の存在も指摘されています。慢性過呼吸症候群は完解期にため息やあくび、上胸部を主体とした呼吸パターンの異常を特徴とし、臨床的な過換気発作の反復、血液ガスで慢性呼吸性アルカローシス、多くの不定愁訴を示すなどが挙げられます。広く認められた診断基準がないために頻度などは報告によって異なります。
検査所見
過換気症候群は除外診断により診断することになります。より重篤な疾患と鑑別するために、適切な検査および方法を用いることが必要です。基本的な検査としてはパルスオキシメトリー、胸部レントゲン写真、心電図が挙げられます。
過換気症候群においてパルスオキシメトリーは,100%またはそれに近い値の酸素飽和度を示します。また血液ガス検査でPaCO2の低下とpHの上昇、Pao2の増加を認めますが、A-aDO2の開大は認めません。低リン血症となりますが血清カルシウム、カリウム、ナトリウム、クロール値は変化しません。時にカリウムは低下傾向を示すこともあります。
胸部レントゲン写真は正常です。心筋虚血を検出するために心電図検査を行いますが、過換気症候群自体がST低下、T波逆転、およびQT延長を引き起こし得ます。洞性頻脈や上室性不整脈がみられることもあります。
ときに、急性の過換気症候群は急性肺塞栓症と鑑別不能であり、肺塞栓症に対する検査(Dダイマー、換気・血流比シンチグラフィー、CT血管造影など)が必要な場合があります。
過換気症候群の原因疾患
過換気の原因疾患は複数存在し、中には致命的な疾患もあるため、これらの疾患との鑑別が必要です。
(1)低酸素血症
高地、肺疾患、心内シャント
(2)呼吸器系の異常
肺炎、間質性肺炎、肺線維症、非心原生肺水腫、肺血栓塞栓症、気管支喘息、気胸、胸
郭の異常、胸膜炎
(3)心血管系の異常
うっ血性心不全、低血圧、急性心筋梗塞、不整脈
(4)代謝性疾患
アシドーシス(糖尿病性、腎性、代謝性)、肝不全、甲状腺機能亢進症
(5)精神神経系の異常
心因性または不安による過換気、中枢神経系の感染、腫瘍
(6)薬物誘発性
サリチル酸、メチルキサンチン製剤、β刺激薬、プロゲステロン、アルコール、カフェイン、ニコチン、コカイン
(7)その他
発熱、敗血症、疼痛、妊娠
治療
過換気症候群の治療としては、ペーパーバッグ方が簡便であることから、かつてはプレホスピタルケアの段階から過換気症候群に対する緊急処置として盛んにおこなわれていました。しかしながら、近年では本法の有効性に疑問があることや過換気の原因が心疾患や肺疾患であった場合には病状を増悪させる恐れがあることから、その施行には否定的な意見が多くなっています。本法の実施は少なくとも初発例や高齢者に対しては避けるべきであり、心因性の過換気発作を繰り返す身体的基礎疾患のない若年者にとどめるべきと考えられます。
薬物治療に関しては、ジアゼパムなどの抗不安薬を筋注またはゆっくり静注することがあります。しかし、不安が誘因となった過換気症候群の患者では注射による投与が不安をより増大させたり、注射なしでは発作が治まらないという誤解を与えたりする危険があります。従って安易な投与は避けて、自然に軽快しない場合にのみ行うべきです。
非発作時の治療として、過換気症候群の病態を患者・家族に十分説明し、重篤な疾患ではないことを理解させることが重要です。
<リファレンス>
日本呼吸器学会 ホームページ
大倉 隆介 他 救急外来における過換気症候群の臨床的検討
日救急医会誌. 2013; 24: 837-46
山口 陽子 他 救急車で当院へ搬送された過換気症候群653例の臨床的検討
日臨救医誌 2015;18:708-14
工藤 翔二 他 南江堂 呼吸器専門医テキスト