特発性大腿骨頭壊死症|疾患情報【おうち病院】

記事要約

特発性大腿骨頭壊死症とは、大腿骨頭が阻血性壊死に陥って圧潰し、股関節機能が失われる難治性疾患である。特発性骨頭壊死症の原因・治療方法・診断のコツなどを、医師監修の基解説します。

特発性大腿骨頭壊死症とは

特発性大腿骨頭壊死症は、股関節を形成する骨の一つである大腿骨頭が血流低下により壊死してしまう疾患です。骨の壊死とは、骨への血流がなくなることにより骨組織が死んでしまい脆弱になることを指します。骨頭壊死だけでは痛みはありません。骨頭壊死が生じると、その範囲や骨頭への負担のかかり具合などによりますが壊死部分が徐々に潰れていきます(圧潰)。骨が圧潰することによって痛みが出現します。したがって、壊死部分が小さい場合や荷重がかかりにくい部位であれば骨頭が圧潰しないので痛みを感じずに経過することもあります。

大腿骨頭の圧潰が進行し関節が変形するにつれ、痛みも増大し徐々に歩行が困難になり日常生活に支障をきたします。本症の好発年齢は30〜50歳代であるため、痛みや歩行困難といった症状は就労への影響も大きくなります。

特発性大腿骨頭壊死症は危険因子により、ステロイド関連、アルコール関連、明らかな危険因子のない狭義の特発性に分類されています。股関節脱臼、骨折などの外傷によっても大腿骨頭壊死を起こすことがありますが、これは特発性には含まれません。

本症に対する治療法は保存治療と手術治療があります。その適応は骨頭壊死の範囲、部位により異なります。保存治療は壊死範囲の狭い症例や壊死部分が荷重に影響しにくい症例に対し行われ、杖などを用いての免荷が基本となります。壊死範囲の大きい症例や骨の圧潰が進行すると予測される症例では手術治療を行います。若年者であれば関節温存手術を第一選択としますが、壊死範囲が大きい場合や圧潰が進行している場合は人工関節置換術を選択することがあります。人工関節置換術を行った場合は、多くの症例で術後10〜20年で人工関節の緩みや破損などにより再置換術が必要になります。

特発性大腿骨頭壊死症の原因

特発性大腿骨頭壊死症の発症に関する危険因子は、ステロイド全身投与、飲酒、喫煙があります。特に「ステロイド薬を1日平均15mg以上程度、服用したことがある」、「お酒を日本酒で2合以上、毎日飲んでいる」ことは強い危険因子であるとされています。わが国では新規に発生する本症の約50%がステロイド関連であると報告されています。

また若年、男性、cytochrome P450 3A※活性低値、全身性エリテマトーデス(SLE)を有していることも危険因子として報告されています。

危険因子等による酸化ストレスや血管内皮機能障害、血液凝固能亢進、脂質代謝異常、脂肪塞栓、骨細胞のアポトーシスなどの関与が病因として指摘されていますが、詳細はまだわかっていません。

遺伝との関連は今のところはっきりとしていません。しかし、本症は多因子遺伝病である可能性があり、その発生には遺伝因子(疾患感受性遺伝子)が関与していると推測されています。

※cytochrome P450 3Aは、薬物の代謝に関わる酵素です。

疫学

日本国内での新規患者発生数は1年間に約2000人〜3000人といわれています。好発年齢は30〜50歳代で、ステロイド関連に限ると30歳代となります。男女比は全体で1.8:1、ステロイド関連で0.8:1とされています。

特発性大腿骨頭壊死症の症状

骨頭壊死は発生しただけの時期には自覚症状は特に認めません。骨壊死の部分が潰れた時に症状が出現します。大腿骨頭壊死症の発生と発症の間には数か月から数年の時間差があるといわれています。

自覚症状としては、比較的急に始まる股関節痛とそれによる跛行です。中には腰痛や膝痛、臀部痛、坐骨神経痛に似た痛みで始まる症例もあります。股関節痛以外の症状を認める場合、腰部疾患や捻挫などと診断されることがあるため注意が必要です。また「靴下が履きにくい」、「爪が切りにくい」などの日常動作がしづらくなります。

初期の痛みは2、3週で消退することがありますが、骨頭の圧潰の進行により再燃します。圧潰が進行すると股関節の変形を生じ痛みのために歩行が困難になっていきます。

また本症では、他の部分の骨壊死を発生することもあります(多発性骨壊死)。発生頻度は膝関節、肩関節、足関節の順に高く、ステロイド投与歴のある症例が習慣性飲酒歴のある症例よりも頻度が 高く、両側発生例に多発性骨壊死が多い傾向があると報告されています。

特発性大腿骨頭壊死症の診断方法

まずはX線撮影をしますが発症早期にはX線で骨の変化がわからないことが多いため、疑わしい場合にはMRI撮影を行います。また他の部位に壊死がないかを調べるには骨シンチグラフィー検査を行います。

<診断基準>

下記の診断基準5項目中2項目以上を満たし、除外項目にあてはまらない疾患を特発性大腿骨頭壊死症と診断します。

X線所見(股関節単純 X 線像の正面像及び側面像で判断)

1. 骨頭圧潰あるいは crescent sign(骨頭軟骨下骨折線像) 
2. 骨頭内の帯状硬化像の形成 

1.2 については Stage 4を除いて(1)関節裂隙が狭小化していないこと、(2)寛骨臼には異常所見がないことを要する。

検査所見

3. 骨シンチグラム:骨頭のcold in hot像 
4. MRI: 骨頭内帯状低信号域(T1強調画像でのいずれかの断面で骨髄組織の正常信号域を分界する像) 
5. 骨生検標本での骨壊死像(連続した切片標本内に骨及び骨髄組織の壊死が存在し、健常域との界面に線維性組織や添加骨形成などの修復反応を認める像)

 除外診断: 腫瘍及び腫瘍類似疾患、骨端異形成症は診断基準を満たすことがあるが除外を要する。 なお、外傷(大腿骨頚部骨折,、外傷性股関節脱臼)、大腿骨頭すべり症、骨盤部放射線照射、減圧症などに合併する大腿骨頭壊死及び小児に発生するペルテス病は除外する。

特発性大腿骨頭壊死症の診断の難しさ

初発症状が股関節痛以外の場合、上記したように腰部疾患などと誤った診断をされてしまうことがあります。したがって、アルコール愛飲歴やステロイド大量投与歴といった危険因子を持つ患者が症状を訴えた場合は、まず本症を念頭に置き、X線で骨壊死所見が明らかでなくてもMRIを撮像することが望ましいとされています。

病型・病期分類

<病型分類>

Type A:壊死域が臼蓋荷重面の内側1/3未満にとどまる又は壊死域が非荷重部のみに存在するもの
Type B:壊死域が臼蓋荷重面の内側1/3以上2/3未満の範囲に存在するもの
Type C:壊死域が臼蓋荷重面の内側2/3以上に及ぶもの
Type C-1:壊死域の外側端が臼蓋縁内にあるもの
Type C-2:壊死域の外側端が臼蓋縁をこえるもの 

注1) X線/MRIの両方又はいずれかで判定する。
注2) X線は股関節正画像で判定する。
注3) MRIはT1強調像の冠状断骨頭中央撮像面で判定する。
注4) 臼蓋荷重面の算定方法

臼蓋縁と涙痕下縁を結ぶ線の垂直2等分線が臼蓋と交差した点から外側を臼蓋荷重面とする。

<病期(stage)分類>

Stage1:X線像の特異的異常所見はないが、MRI、骨シンチグラム又は病理組織像で特異的異常所見がある時期
Stage2:X線像で帯状硬化像があるが、骨頭の圧潰(collapse)がない時期
Stage3:骨頭の圧潰があるが、関節裂隙は保たれている時期(骨頭及び臼蓋の軽度な骨棘形成はあってもよい)
Stage3A:圧潰が3mm未満の時期
Stage3B:圧潰が3mm以上の時期
Stage4:明らかな関節症性変化が出現する時期 

注1)骨頭の正面と側面の2方向X線像で評価する(正面像では骨頭圧潰が明らかでなくても側面像で圧潰が明らかであれば側面像所見を採用して病期を判定すること)。
注2)側面像は股関節屈曲90度・外転45度・内外旋中間位で正面から撮影する(杉岡法)。

特発性大腿骨頭壊死症の治療

治療法の選択には、患者背景(年齢、内科的合併症、職業、活動性、片側性か両側性か)、病型分類や病期分類が考慮されます。

<保存的治療>

痛みの緩和目的に松葉杖、ロフストランドなどの装具を用いた免荷療法や消炎鎮痛剤の投与が行われます。これは病型分類で予後が良いと予測できる症例では適応となりますが、病状の進行悪化を予防することは期待できないため、骨頭圧潰の進行が予想される病型では十分な治療にはなりません。

体外衝撃波、電磁場刺激、高圧酸素療法が疼痛の緩和に有効であったとする海外からの報告がありますが、その機序や壊死範囲との関連について明確な報告はなく、長期的な骨圧潰の進行予防効果は不明です。またこれらに治療は保険適応になっていません。

<手術治療>

ステロイド関連が約半数をしめる本症は、内科的合併症を有している患者が多いので、 手術にあたり全身状態の評価には注意が必要です。

若年者では関節温存手術が第一選択となりますが、壊死範囲が大きい場合や骨頭圧潰が進行した症例では人工関節置換術が必要になることがあります。

大腿骨内反骨切り術、大腿骨頭回転骨切り術

骨切りによって大腿骨の形状を変化させることにより、荷重面(体重のかかる部位)に健常な関節面を移動させ、骨頭圧潰の進行を抑える術式です。術後、変形性股関節症へ進展する可能性があるため継続的な受診が必要です。

人工関節置換術

圧潰した大腿骨頭を人工骨頭で置き換えたり、股関節全体を人工股関節で置換する術式です。骨切り術に比べると術後早期から荷重が可能になります。しかし人工関節は耐久性の問題があるため将来、再置換術が必要になることがあります。そのため若年者に対する人工関節置換術の適応は慎重になる必要があります。

Core decompression

骨壊死領域に向けて、大腿骨外側より骨穿孔を行い壊死領域の減圧を図る低侵襲治療法で、保険適応がありますが術後成績は一定していないとされています。

血管柄付き骨移植術

骨壊死部を搔爬後、健常な腓骨あるいは腸骨を血管柄付き(血流を保った状態)で採取し、搔爬

部に移植する術式です。術後成績は報告により様々ですが、関節症性変化に至っていない病期であ れば良好な臨床成績が60~94%の症例では期待できるとされます。しかし骨採取部の合併症や感染などの報告も多くあり、適応は慎重に決める必要があります。

特発性大腿骨頭壊死症の経過、予後

特発性大腿骨頭壊死症は、壊死領域の大きさと位置により大腿骨頭の圧潰が将来発生するかどうかはほぼ予測できるとされます。ごく小範囲の壊死であれば自然修復することがあると報告されています。したがって、壊死領域が小さく、非荷重部に存在する場合は無症状で経過する可能性が高いと考えられます。一方、荷重部2/3を超える大きな壊死領域は圧潰しやすく病期が進行しやすいとされます。

合併疾患に対するステロイドの投与を継続しても壊死の範囲は大きくならないため、必要に応じてステロイドを継続投与することは可能です。

治療として、関節温存手術が選択された場合は、変形性股関節症へと進展する可能性もあるため定期的な受診による観察が必要です。人工関節置換術が行われた場合は、人工関節の耐久性の問題により一般的には10〜20年で人工関節再置換術が必要になります。

<リファレンス>

難病情報センター 大腿骨頭壊死症(指定難病71)
日本整形外科学会
重篤副作用疾患別対応マニュアル 大腿骨頭壊死症
高岡邦夫, 主任研究者. 厚生労働症科学研究費補助金難治性疾患克服事業特発性大腿骨頭壊死症調査研究班. 診断基準・治療指針策定ワーキンググループ. 特発性大腿骨頭壊死症の定義.平成13年度研究報告書. 2002; 132.

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