特発性門脈圧亢進症|疾患情報【おうち病院】

記事要約

特発性門脈圧亢進症とは、肝臓や門脈(小腸からの栄養分を多く含む肝臓に入る血管)に病変がないにも関わらず、門脈圧が上昇し、それに伴う食道静脈瘤や脾臓の腫大等の症状を起こす疾患のことです。特発性門脈圧亢進症の原因・治療方法・診断のコツなどを、医師監修の基解説します。

特発性門脈圧亢進症とは

特発性門脈圧亢進症とは、肝臓や門脈(小腸からの栄養分を多く含む肝臓に入る血管)に病変がないにも関わらず、門脈圧が上昇し、それに伴う食道静脈瘤や脾臓の腫大等の症状を起こす疾患のことです。

男女比は約1:3、発症のピークは 40~50 歳代で、平均年齢は 49.4 歳(男性 41.7 歳、女性 51.9 歳) です。

特発性門脈圧亢進症の原因

本症の原因は不明であり、肝内末梢門脈血栓説、脾原説、自己免疫異常説など諸説あります。

本症と肝炎ウイルスとの関連については否定的です。中年女性に多発し、血清学的検査で自己免疫疾患と類似した特徴が認められ、自己免疫病を合併する頻度も高いことからその病因として自己免疫異常が考えられています。

特発性門脈圧亢進症の疫学的整理

年間有病者数は640~1,070人程度であり、このうち約18%が年間の新発生患者です。

本邦における有病率は100万人当たり7.3人と推定されています。欧米より日本にやや多い傾向があり、男女比では女性の方が約3倍多く、また発症年齢のピークは40~50歳代です。遺伝性については明らかな研究結果がなく不明です。

特発性門脈圧亢進症の症状

門脈とは栄養源を吸収する消化管とそれを代謝する肝臓を連絡する血管(腸間膜静脈)と、脾臓の血液を肝臓に運ぶ血管(脾静脈)が合流した太い静脈のことです。門脈圧が上昇すると以下のような症状が生じます。

1.食堂・胃静脈瘤

本来門脈を流れる血液は肝臓を通って心臓に帰りますが、門脈圧亢進症では門脈を迂回する血管(側副血行路と言います)を通して心臓に帰るようになります。側副血行路の代表的なものとして左胃静脈や食道静脈があり、門脈圧亢進症が進行するとこれらの静脈がこぶ状に膨れ上がリ静脈瘤という状態となります。食道や胃に生じた静脈瘤が破裂し出血をきたすと致命的になる危険があります。静脈瘤が破裂した場合は、鮮血又は暗赤色の血液を吐くこと(吐血)があります。

2.脾腫、脾機能亢進症

門脈圧が上昇すると、門脈に流れ込む脾静脈の血液もうっ滞し脾臓が腫れて脾腫となります。その結果、脾臓の機能が必要以上に亢進します。脾臓は古くなった血球を破壊する臓器であり、脾機能が亢進すると必要以上に血球が破壊され血小板減少や貧血が起こります。

3.腹水貯留

門脈圧の上昇は毛細管圧の上昇につながり、肝臓の表面や肝外門脈枝から水分が漏出しお腹の中にたまって腹水となります。腹水の量が増えると、お腹が張って苦しくなったり栄養分の喪失が起こります。

特発性門脈圧亢進症の診断基準

難病情報センター(指定難病92)より引用

本症は症候群として認識され、また病期により病態が異なることから、以下により総合的に診断する。Definite(確定診断)は肝臓の病理組織学的所見に裏付けされていること。

1.一般検査所見

1)血液検査:一つ以上の血球成分の減少を示す。特に血小板の減少は顕著である。
2)肝機能検査:軽度異常にとどまることが多い。
3)内視鏡検査:しばしば上部消化管の静脈瘤を認める。門脈圧亢進症性胃腸症や十二指腸、胆管周囲、下部消化管などにいわゆる異所性静脈瘤を認めることがある。

2.画像検査所見

1)超音波、CT、MRI、腹腔鏡検査

(a)しばしば巨脾を認める。
(b)肝臓は病期の進行とともに、辺縁萎縮と代償性中心性腫大を呈する。
(c)肝臓の表面は平滑なことが多いが、大きな隆起と陥凹を示し全体に波打ち状を呈する例もある。
(d)肝内結節(結節性再生性過形成や限局性結節性過形成など)を認めることがある。
(e)著明な脾動静脈の拡張を認める。
(f)超音波ドプラ検査で著しい門脈血流量、脾静脈血流量の増加を認める。
(g)二次的に肝内、肝外門脈に血栓を認めることがある。

2)上腸間膜動脈造影門脈相ないし経皮経肝門脈造影

肝内末梢門脈枝の走行異常、分岐異常を認め、その造影性は不良である。時に肝内大型門脈枝や肝外門脈に血栓形成を認めることがある。

3)肝静脈造影および圧測定

しばしば肝静脈枝相互間吻合と“しだれ柳様”所見を認める。閉塞肝静脈圧は正常または軽度上昇している。

4)超音波エラストグラフィによる肝と脾の弾性測定

肝の弾性の軽度増加と、脾の弾性の著しい増加を認めることが多い。

3.病理検査所見

1)肝臓の肉眼所見
肝萎縮のあるもの、ないものがある。肝表面では平滑なもの、波打ち状や凹凸不正を示すもの、さらには肝の変形を示すものがある。肝割面では、肝被膜下の肝実質の脱落をしばしば認める。肝内大型門脈枝あるいは門脈本幹は開存しているが、二次性の閉塞性血栓を認める例がある。また、過形成結節を呈する症例がある。肝硬変の所見はない。

2)肝臓の組織所見

肝内末梢門脈枝の潰れ・狭小化や肝内門脈枝の硬化症、および異常血行路を呈する例が多い。門脈域の緻密な線維化を認め、しばしば円形の線維性拡大を呈する。肝細胞の過形成像がみられ、時に結節状過形成を呈する。ただし、周囲に線維化はなく、肝硬変の再生結節とは異なる。

3)脾臓の肉眼所見

著しい腫大を認める。

4)脾臓の組織所見

赤脾髄における脾洞(静脈洞)増生、細網線維・膠原線維の増加や、脾柱におけるGamna-Gandy結節などを認める。

によって総合的に診断する。確定診断は肝臓の病理組織学的所見に裏付けされること。

4.診断に際して除外すべき疾患

  • 肝硬変症
  • 肝外門脈閉塞症
  • バッド・キアリ症候群
  • 血液疾患
  • 寄生虫疾患
  • 肉芽腫性肝疾患
  • 先天性肝線維症
  • 慢性ウイルス性肝炎
  • 非硬変期の原発性胆汁性肝硬変
    などである。

特発性門脈圧亢進症の治療

特発性門脈圧亢進症に対する根治的な治療法はなく、門脈圧亢進症に伴う食道胃静脈瘤による出血に対する治療と予防、脾機能亢進に伴う汎血球滅少症に対しての対症療法を行います。

1.食道・胃静脈瘤の治療

食道静脈瘤に対しては内視鏡を用いた治療が中心となります。拡張した血管を閉塞させる硬化療法や特殊なゴムを用いて静脈瘤を結紮する結紮術があります。また胃の静脈瘤に対しては血管造影の技術を用いた塞栓術治療が行われることがあります。

2.脾腫・脾機能亢進症の治療

巨脾に合併する症状(疼痛、圧迫)が著しい場合や脾腫が原因と考えられる高度の血球減少で出血傾向などの合併症があり内科的治療が難しい場合は部分的脾動脈塞栓術(partial splenicembolization: PSE)ないし脾摘術を考慮します。脾臓を摘出すると重症感染症の危険性があるため、可能な限り脾動脈の一部を閉塞させて血流を少なくする部分的脾動脈塞栓術が行われます。

特発性門脈圧亢進症の予後

長期観察例での肝実質の変化は少なく、肝機能異常も軽度であることが多く、予後は比較的良好です。静脈瘤による出血に対するコントロールが良好であれば肝癌の発生や肝不全による死亡のリスクは低く、5年及び10年の累積生存率は80~90%と良好です。

<リファレンス>

特発性門脈圧亢進症(指定難病92)
厚生省特定疾患門脈血行異常症調査研究班:特発性門脈圧亢進症診断の手引.厚生省特定疾患門脈血行異常症調査研究班 平成10年度研究報告書1999. p71
小児外科学会
特発性門脈圧亢進症の成因に関する研究―免疫学的機序の検討―.日外会誌79:538-553,1978 
特発性門脈圧亢進症 の概念の変遷と現況 肝臓 41巻1号 5-15 (2000)

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