不眠症|疾患情報【おうち病院】
記事要約
不眠症とは、夜間の不眠症状が週に2回以上あり、その状態が少なくとも1か月以上持続し、その結果として社会生活または職業的機能が妨げられるといったQOL障害がある状態です。不眠症の原因・治療方法・診断のコツなどを、医師監修の基解説します。
不眠症とは
不眠症とは、夜間の不眠症状が週に2回以上あり、その状態が少なくとも1か月以上持続し、その結果として社会生活または職業的機能が妨げられるといったQOL障害がある場合、不眠症と定義されます。日中の倦怠感、意欲低下、集中力低下、食欲低下、抑うつなどの症状が続いて出現することがあります。
不眠症の原因
不眠症の原因は、大きく分けると以下の5つ挙げられます。
英語の頭文字をとって「5つのP」と称されます。
(1)生理的な要因(Physiological)
生活習慣や睡眠時の環境に原因があるケースです。例えば夜間勤務の仕事で昼に眠る必要がある、育児中でまとまった睡眠がとれない、周囲の騒音、明るすぎる、暑さや寒さ、枕や布団が体に合っていないなど
(2)心理的な要因(Psychological)
不安や心配事が気になって眠れない、楽しいイベントの前に気が高ぶり眠れないなど
(3)薬理学的な要因(Pharmacological)
飲食物の影響や薬の副作用が原因のケースです。カフェイン、たばこ、アルコールなどの摂取やステロイド薬やインターフェロン、パーキンソン病の薬の内服など
(4)身体的な要因(Physical)
痛みやかゆみ、せき・息苦しさなど、何かの病気による症状が続いている、頻尿のため夜間に何度も目覚めるなど
(5)精神医学的な要因(Psychiatric)
神経症やうつ病、統合失調症など精神的な持病がある
不眠症の疫学的整理
日本では20歳以上の約30%の方が不眠症状を有しています。なかでも50歳以上の中高齢で増加するため、高齢化が進んだ国でより頻度が高く、日本では65歳以上の50%以上の方が不眠の症状を訴えています。毎日のように不眠があって日中に問題を抱え、臨床的に治療が必要となる中等度以上の人は先進国では6~8%といわれていますが、日本でも7%が深刻な不眠症で悩んでいることが明らかとなっています。
不眠症の症状
寝付けない、睡眠中に何度も目が覚める、朝早くに起きてしまう、熟睡できた感じがしない、眠りが浅いなどの症状がつづき、日中の倦怠感、意欲低下、集中力低下、食欲低下などの心身の不調が出現する場合があります。
不眠症の診断
不眠症の診断においては、どのようなタイプの不眠症状があるのか、またそれによる日中の機能障害があるのかを適切に判断することが重要です。さらに睡眠時無呼吸症候群やむずむず脚症候群など、他の睡眠障害を除外できる場合に不眠症と診断することになります。
基本的には、不眠症状や日中の機能障害は問診による主観的な評価をもとに判断します。夜間睡眠の状態をより詳細に評価するために行う睡眠ポリグラフ検査(PSG)という検査や、腕時計型の加速度センサーを手首に取り付け、連続的に活動量を計測するアクチグラフィという検査を行うこともあります。
不眠症の治療
不眠症の治療には生活習慣の改善や睡眠の質を上げるための指導、薬物療法、認知行動療法、光による治療(高照度光療法)などがあり、専門の医療機関では受けらる治療の幅が広がります。
《1》薬物療法
不眠症には、入眠障害(寝付けない)、中途覚醒(睡眠中に何度も目が覚める)、早朝覚醒(朝早くに起きてしまう)、熟眠障害(熟睡できた感じがしない、眠りが浅い)の4つのタイプがあります。作用時間の異なる様々な睡眠薬があり、個人の状態に適したお薬が使用されます。
入眠障害に対しては、超短時間型、短時間作用型の睡眠薬など。中途覚醒に対しては、頓用で超短時間型、あるいは短時間型、中間型の睡眠薬など。早朝覚醒、熟眠障害に対しては、中間型、長時間型の睡眠薬など。時に、鎮静系抗うつ薬や抗精神病薬が使われる場合もあります。
その他、悪夢に対して、レム睡眠を抑制する作用のあるトリプタノールなどの三環系抗うつ薬、睡眠覚醒リズム障害に対しては体内時計のリズムを整える作用があるロゼレムが使われます。
《2》認知行動療法
眠りに対する思い込みや強迫観念を正し、一人一人にあった睡眠習慣を見つけていく方法です。
睡眠日誌をつけたり、就寝前後にリラックスする方法を実行したりして評価を行います。
行動変容によって不眠を改善できれば、内服中の睡眠薬の減量に取り組める可能性があります。
《3》光による治療(高照度光療法)
高照度光(2500ルクス〜)を一定時間照射し、睡眠時間帯を望ましい時間帯に矯正する治療法です。高照度光を照射すると生体リズムの周期をずらすことができるので、睡眠の時間帯がずれている不眠症患者さんの治療に適しています。
不眠への対処法
不眠の原因を見つけ出し、取り除くことがとても重要です。
まずはご自身で取り組める対処方法をご紹介します。
【参考】厚生労働省 睡眠障害を事前に防ぐための12の指針
(1)睡眠時間は人それぞれ、日中の眠気で困らなければ十分です
必要な睡眠の長さは人によって個人差があります
季節によっても変化するので、8時間にこだわらないようにしましょう
年齢を重ねることでも必要な睡眠の長さは短くなります
(2)カフェインやニコチンなどの刺激物を避け、眠る前には自分なりのリラックス法
就床前4時間~カフェイン摂取、就床前1時間~喫煙は避けましょう
軽い読書、音楽、ぬるめの風呂温度で入浴、アロマなど好きな香りを嗅ぐ、
筋肉をゆるめるストレッチなどしましょう
(3)眠たくなってから床に就く、就床時刻にこだわりすぎないようにしましょう
眠ろうとする意気込みが頭をさえさせ寝つきを悪くします
(4)同じ時刻に毎日起床しましょう
早寝早起きでなく、早起きが早寝に通じます
日曜に遅くまで床で過ごすと、月曜の朝がつらくなることがあります
(5)適切に光を浴びてよい睡眠を
目が覚めたら日光を取り入れ、体内時計をスイッチオンしましょう
夜は明るすぎない照明にしましょう
(6)規則正しい3度の食事、規則的な運動習慣しましょう
朝食は心と体の目覚めに重要、夜食はごく軽めまで
運動習慣は熟睡を促進します
(7)昼寝をするなら、15時前の20~30分程度にしましょう
昼寝を長くし過ぎるとかえって頭がぼんやりしてしまうことがあります
夕方以降の昼寝は夜の睡眠に影響しやすいのでしないようにしましょう
(8)眠りが浅いときは、むしろ積極的に遅寝・早起きをしましょう
寝床で長く過ごしすぎると熟睡感が減ります
(9)睡眠中の激しいイビキ・呼吸停止や足のぴくつき・むずむず感がある場合は要注意です
症状の原因として睡眠の病気の存在が疑われ、専門的な診療が必要となります
はやめに専門医を受診しましょう
(10)十分眠っても日中の眠気が強い時は専門医に
長時間眠っても日中の眠気で仕事・学業に支障がある場合は専門医に相談しましょう
車の運転にも注意が必要です
(11)睡眠薬代わりの寝酒は不眠のもと
睡眠薬代わりの寝酒は、深い睡眠を減らし、夜中に目覚める原因となってしまうので
やめましょう
(12)睡眠薬は医師の指示で正しく使えば安全です
睡眠薬は一定時刻に服用し就床しましょう。アルコールとの併用は禁物です
不眠症の相談目安
長時間眠っても日中の眠気で仕事・学業に支障がある場合、不眠に伴って睡眠中の激しいイビキ・呼吸停止や足のぴくつき・むずむず感がある場合、ご自身での対処で効果が出ないときは精神科や心療内科の専門医に相談しましょう。不眠外来、睡眠外来、睡眠障害外来などの専門外来を設けている病院もあります。睡眠薬による治療に抵抗がある方もいらっしゃるかもしれませんが、安全に使用できるお薬もたくさんあります。また生活・睡眠習慣の改善などを手助けする他の治療法もありますので、まずは専門病院を受診して相談してみましょう。