低用量ピルとうまく付き合い、快適な毎日を送ってほしい【医師にインタビュー】

記事要約

ピルにどんなイメージをお持ちでしょうか? 「避妊ができる以外にも、毎月の生理がなくなるのは楽で良さそう」と思う一方で、「副作用が怖い」「産婦人科へ行くことにハードルを感じる」「毎日飲み続けるのは大変そう」と感じている人も多いと思います。 今回、実際の医療現場で多くの女性を診察されている産婦人科医にインタビューをしました。お話を伺ったのは、田中ゆりあ先生です。ご自身も低用量ピルを愛用されています。

低用量ピルとは

ピルは、エストロゲンとプロゲステロンという2つの女性ホルモンが配合されている飲み薬です。ホルモンの含有量の違いにより、超低用量ピル・低容量ピル・中容量ピルにわけられます。今回は、ピルのなかでも低用量ピルに注目しました。低用量ピルは毎日決まった時間帯に服用し、継続することで効果が得られるようになります。

なお、アフターピルについてはこちらの記事をお読みください。
知っておいてほしい。女性医師が伝える「緊急避妊」について【医師にインタビュー】

低用量ピルを服用すると、体にどんな変化が起こるの?

女性の体は、2つのホルモンが変動することで生理周期を導いています。
通常は自分の脳からの女性ホルモン分泌の指令がでることで卵巣から女性ホルモンが分泌され、卵子が成熟すると排卵します。排卵後は妊娠した場合に備えて子宮内膜が厚くなりますが、低用量ピルを飲むと、体内のホルモン値が一定に保たれるので脳からの指令がなくなります。そのため、排卵がおこらず妊娠しなくなります。また、子宮内膜が厚くならないため生理が起こりません。

自然の生理周期はホルモンの急激な増減を伴いますが、低用量ピルを服用しているとホルモンの値が一定に保たれるようになります。生理前のイライラする、悲しくなるなどのメンタルの不調(いわゆるPMS)が起こりにくくなります。

低用量ピルの服用で得られる効果をまとめると

  • 避妊効果
  • 月経困難症(生理痛や頭痛など)、PMSの緩和
    その他にもニキビや肌荒れの改善効果も認められています。

服用にあたっての注意点

副作用

副作用については、命にかかわる副作用とマイナートラブルに分けて考えてみましょう。

命にかかわる副作用とは、血栓症です。
ただし、実際に(下肢静脈)血栓症を発症する確率はかなり低く、心配しすぎる必要はありません。低用量ピルによる下肢静脈血栓症発症は1/10,000、血栓症が原因となる死亡率は年間1/100,000以下で、転落事故や溺死など稀な原因による死亡率と同程度と言われています。
医師は血栓ができやすい病気や妊娠または授乳の有無、喫煙の有無などの事前問診を必ず行い、リスクを把握してから処方の判断をしますので、必ず正確な情報を伝えてください。
もちろんピルを内服開始できた=血栓のリスクが全くないという訳では決してありません。
血栓のリスクが少ないというだけで、ピルを内服していない人と比べて血栓ができるリスクは上がるので、脚の痛みや息苦しさなど血栓を疑う症状が出てきた時には速やかに受診する必要があります。

次に、マイナートラブルとしては、吐き気・不正出血・頭痛・めまい・胸が張るなどのいわゆる不定愁訴があります。これらが起こる理由は、それまで自分のホルモンで生理周期をまわしていた状態を、外からのリズム(低用量ピルの服用)に変えることで、ホルモンバランスが一時的に不安定になる為と考えられています。
服用を続けるうちに症状は改善され、1~3か月で落ち着くことがほとんどです。
正直、マイナートラブルは個人差が大きく、その受け止め方も人それぞれです。
例えば、少量の出血が続くケースでも、「我慢できない」と不快に感じられる方もいる一方で、寝込むほどの重い生理に悩まされていた人は「出血が減り楽になった!」と感じられます。飲んだら直ぐに効果がでるわけではないので、慣れるまで少し気長に考えてみてください。マイナートラブルが長引く場合は薬の種類や薬の飲み方を変えることも可能です。

禁忌や慎重投与となるケース

低用量ピルには、禁忌(患者さんが希望したとしても処方をしない)や、慎重投与(患者さんと相談・注意をしながら服用する)となるケースもあります。
生理が始まっていない人や、妊娠中または授乳直後、閉経後の人、乳がんの治療中の方、血栓ができやすい病気を持っている人、手術の前後は服用ができません。その他にも年齢・既往歴・血圧・体重・喫煙の有無・家族の病歴などによっては、慎重投与となります。

何歳から飲み始める人が多い?いつまで飲めるの?

服用を始めるきっかけは?
国内のガイドラインでは「月経がはじまっていれば服用可能」とされていますが、「産婦人科医とよく相談するように」ともあり曖昧な表現となっています。

医療現場での経験から、高校生が「生理がつらくて毎月寝込んでしまう」という症状により親御さんと来院されるケースは多いと感じます。
その後、大学生になると生理の煩わしさを感じたり避妊目的で服用する人が増えてきます。20代では仕事の忙しさもあり、「PMSを緩和したい」「生理が重くて仕事に支障がある」「生理が来てほしくない日がある」などの目的で服用している人が多い印象です。
生理に何らかの困難や煩わしさを感じている人は、20代までに低用量ピルの服用を始めているケースが多いと思います。

いつまで飲めるの?
ガイドラインでは「閉経までは服用できる」とされていますが、低用量ピルを服用していると生理がないので、閉経しているのかどうか分かりません。50歳以上では血栓リスクが高くなってくるため、50歳を目安に服用をやめることをおすすめしています。
なお、40歳を超えると血栓症などのリスクも少しづつあがってくるので、その方の体質や喫煙を含む生活習慣などを鑑みてやめる時期を判断します。低用量ピルを飲み続けることが高リスクと判断した場合は、漢方や子宮内に留置するホルモン剤をおすすめすることもあります。

ピルに関する気になること

長期間低用量ピルを服用していると、妊娠しにくくなる?
妊娠のしやすさに影響はありません。
低用量ピルを服用している間は排卵が起こらないので、将来妊娠できなくなってしまうのではないかと心配される方もいらっしゃいますが、影響はありません。
服用をやめると、ほとんどの方は1~3か月以内に生理も排卵も再開します。

低用量ピルを服用していると、がんのリスクが上がるのは本当?
実は、リスクが上がるものと下がるものがあります。
リスクを下げることが分かっているのは、卵巣がん、大腸がん、子宮体がんです。
飲まないケースに比べて0.7~0.8倍程度と多少の低下傾向があることが報告されています。ただし、低用量ピルの服用でがんの予防ができるレベルではありません。

一方、リスクを上げることが報告されているのが、乳がん、子宮頸がんです。
乳がんに関して言えば1.1倍程度(ほぼ増えない)、子宮頸癌は1.1倍程度、5年以上の長期投与で1.9倍と言われています。内服中止後はリスクは下がり、中止後10年で非服用者と変わらなくなります。
いづれにしても、定期的ながん検診の受診をすることをおすすめします。

頭痛もちでも服用できますか?
「片頭痛もちなので低用量ピルは飲めない」と思われている方も多いですが、不調や気圧の影響を受けて起こる頭痛が時々起こる方であれば服用は可能です。
服用ができないのは、頭痛になる前に目がキラキラ・チカチカするなどの前兆がある頭痛が起こる方です。そのような症状の場合は、服用はできません。

市販のサプリメント/市販薬との併用 
市販薬である、痛み止め・便秘薬・花粉症の時期などに服用するアレルギー薬や、サプリメントを飲みながら低用量ピルを服用することは問題ありません。
うつ病やてんかんの薬はその薬の作用を強めてしまったり弱めてしまう可能性があるので、併用は難しいです。

産婦人科医が考えるピルとの付き合い方

先生ご自身は、20代の研修医の頃から低用量ピルを服用。
忙しくてトイレに行けない時や、夜勤の際には生理を煩わしく感じていましたが、服用を始めたことで生理のない快適な日々を手に入れることができたそうです。
その後、妊娠を考えるタイミングで休薬し、妊娠・出産を経て現在に至ります。赤ちゃんが6か月になるのを目途に低用量ピルの服用を再開する予定だそうです。また女性の産婦人科医は低用量ピルを服用している人が多いそうです。

先生は「今現在、妊娠を考えていない、禁忌事項に該当しない全ての女性におすすめしたい」と感じています。
「生理は、妊娠するために必要なものですが、妊娠したくない時期に関していえば煩わしいことの方が多く、生理はない方が良いなと正直思います。飲み始めにマイナートラブルがしばらく続くかもしれませんが、慣れてしまえばその後、何年も生理に振り回されない快適な毎日が送れますよ」
「デメリットを頭の片隅におきながら上手く付き合っていけたらいい薬だと思います」
と産婦人科医として、また実際に低用量ピルを長年服用されたご経験から語ってくださいました。

まとめ

ここまで低用量ピルの作用やメリット、気を付けるべき点などについてご紹介をしました。
実際に低用量ピルを服用している医師からの「女性の見方になる薬」という言葉には説得力がありました。
産婦人科を受診するハードルや初期のマイナートラブルなど、億劫に感じる面もあると思いますが、毎月の生理をストレスに感じたり、今妊娠を考えていない方は、それを上回るメリットがあるということを冷静に考えて低用量ピルを取り入れることを考えても良いのかもしれません。
産婦人科は、かなり困っていない限り行かない場所と感じるかもしれませんが、様々な病院・クリニックがあるのでご自身に合う医師をみつけてみてください。
オンラインで医師に低用量ピルの処方相談ができるサービスもあるので、ライフスタイルに合わせて活用してみるのも一つの選択肢だと思います。

<リファレンス>

OC・LEPガイドライン2020年度版(発行:日本産科婦人科学会/日本女性医学学会)

おうち病院
おうち病院