避妊だけではない 低用量ピルの適応と有効性|疾患情報【おうち病院】
記事要約
低用量ピルは避妊目的の薬というイメージをもたれる方が多いと思いますが、月経移動や月経痛の緩和、月経困難症や子宮内膜症にも使われます。また肌荒れやニキビを改善させる効果もあります。この記事では低用量ピルの効果や服用の注意点などについて医師監修の基解説します。
低用量ピルとは
低用量ピルとは女性ホルモンのエストロゲンと黄体ホルモンの合剤で、確実な避妊方法として知られています。
実は低用量ピルは避妊法としてだけではなく、月経移動(管理)や月経時の痛みや出血量が多い月経困難症や子宮内膜症に使われます。また保険適応外となりますが、ホルモンバランスの崩れによる月経前症候群(Premenstrual syndrome;PMS)や生理前の肌荒れ、ニキビを改善させる効果もあります。
日本の低用量ピルは大きく分けて、OC、LEPの2種類に分けられます[1]。
OCはoral conctraceptionの略で、経口の避妊薬です。OCは1950年ごろに初めて女性ができる避妊法として開発され、製剤の改良が進み1999年に日本で低用量ピルが承認されて使えるようになりました。その歴史の中で、避妊薬としてだけではなく、子宮内膜症や月経困難症に対する治療効果があることなどが判明してきたという経緯があります。
子宮内膜症や月経困難症に対してはlow dose estrogen -progestin、LEPが適応となります。
OC、LEPはそれぞれ適応となる疾患や製剤の差はありますが、基本的な薬の特徴は同じです。
月経困難症、子宮内膜症の治療として使われるLEPは保険が適応されますが、「生理痛では病院にかかれない」「婦人科に受診しにくい」などの理由で未受診率も高く、LEPの普及率も非常に低いことがわかっています。
排卵時の痛みの緩和やPMSも排卵や女性ホルモンバランスの変動が原因であるためピルで症状を抑えることができます。ただし、PMSや生理前の肌荒れやニキビ治療(主に通常のニキビ治療に反応しない重症ニキビ)にLEPが処方される場合や避妊目的のOCは保険が使えず自費診療です。そのような背景からも米国や欧州では一般的なピルは日本では未だに普及率も認知度も低い状況といえます。
OC/LEPと緊急避妊薬であるアフターピルの違いとしては、内服の目的もさることながら、ピルの用量がOC/LEPは超低用量〜低用量に対して、アフターピルの場合には中用量ピルや高容量の黄体ホルモン製剤になることです。アフターピルは避妊をしていない性行為後やコンドームの破損、脱落、不適切な使用、膣外射精などの不確実な避妊後、レイプや性的暴行を受けた後の緊急避難的な方法で妊娠を予防する方法です。
避妊目的でOCを飲んでいる場合にも、2錠以上の飲み忘れがあったり、シートの1週目で飲み忘れが発生した(7日連続で実薬を飲めていない)場合に性交があると、不確実な避妊法にあたるため、避妊のためにはアフターピルが必要になることがあります。
低用量ピルの種類
低用量という名前からわかる通り、ピルは含まれるエストロゲンの量により大きく以下の4つに分けることができます。
- 高用量:50μg以上
- 中用量:50μg
- 低用量:50μg未満
- 超低用量:20μg以下
ピルの初期には高用量のエストロゲンが含まれていましたが、エストロゲンが50μg以上だと血栓症のリスクが非常に高くなるため現在では使われていません。
中用量ピルは、受験やスポーツの試合の目的で月経を移動したい場合や月経困難症、過多月経の治療、緊急避妊として使われます。プラバノール®、ソフィアC®、ルテジオン®などがあります。プラバノールは避妊法の一つであるヤッペ法(プラバノールを処方後すぐ2錠内服、12時間後さらに追加で2錠飲む方法)としても使われます。
エストロゲンの量が少ないほど血栓症リスクは低くなるため、毎日、長期に服薬できるようにOCは現在ではすべて超低用量、LEPは低用量と超低用量の製剤になります。
製剤はさまざまな種類があり、OCはシンフェーズ®、トリキュラー®、アンジュ®、ラベルフィーユ®、ファボワール®、マーベロン®などがあります。LEPはヤーズ®、ヤーズフレックス®、ルナベル®LD/ULD、フリウェル®LD/ULD、ジェミーナ®、ドロエチ®などがあります。
ルナベル®LDとフリウェル®LD以外のLEPは超低用量のピルに分類されます。
製剤の種類の分類は低用量か超低用量以外にも、含まれている黄体ホルモンによる違いもあります。黄体ホルモンの種類によって以下の4つに分けることができます。
第1世代:ノルエチステロン
OC:シンフェーズ®
LEP:フリウェル®LD/ULD、ルナベル®LD/ULD
出血量が減りやすく、月経困難症のコントロールに優れている
第2世代:レボノルゲストレル
OC:トリキュラー®、ラベルフィーユ®、アンジュ®
LEP:ジェミーナ®
不正出血が起こりにくく、安定した周期を作りやすい
第3世代:デゾゲストレル
OC:マーベロン®、ファボワール®
アンドロゲン作用の抑制効果に優れるためニキビ治療や多毛症に有効
第4世代:ドロスピレノン
LEP:ヤーズ®、ヤーズフレックス®、ドロエチ®
超低用量のため副作用が起こりにくく、にきび・むくみが起こりにくい
低用量ピルは通常は1ヶ月あたり2000-3000円程度です。処方薬の費用に診察料や検査代などが追加される場合があります(クリニックによって多少価格差があります)。月経困難症などの診断でLEPが処方される場合には保険診療になり、3割の価格になります。
黄体ホルモンの世代による違いは、男性ホルモンに似たアンドロゲン作用の違いで、アンドロゲン作用が強いと食欲増進や体重増加、多毛、ニキビなどの副作用が出やすくなります。
若い世代だからといって必ずしも悪いというわけではなく、ピルの治療効果と副作用の兼ね合いでどの製剤が良いか医師とよく相談する必要があります。
また、OCにはピルのシートの中でホルモンの配合を変えている3相性のものと、配合が変わらない1相性のものがあります。3相性では自然の女性ホルモンの変化に似たように設計されているため、不正出血が出にくいというメリットがあります。
一方1相性はシートの中で実薬はどれも同じ錠剤のため飲み間違いが少ないことがメリットです。LEPはすべて一相性ピルになります。
低用量ピルはシート状の製剤になっており、21錠タイプと28錠タイプがあります。
21錠タイプはすべてピルの成分が含まれており、21日連続で服薬後に7日間の休薬期間があります。7日間の休薬期間中に生理のような出血があり、その後新しいシートを開始します。
28錠タイプは21錠のピルと7錠の偽薬(プラセボ)というピル成分を含まない錠剤が4週目に含まれており、偽薬を飲んでいる期間に生理のような出血が起こります。28錠タイプは休薬期間がないため、日数間違いなどを防ぐことができるのがメリットです。
低用量ピルの作用機序と効果
なぜ低用量ピルが避妊や月経困難症、子宮内膜症の治療として使えるのか解説します。
低用量ピルには「排卵を抑制する効果」、「子宮内膜を薄くしておく効果」、「子宮頸管に精子が侵入するのを防ぐ効果」があります。
1.排卵抑制
ピルに含まれている女性ホルモン(エストロゲンとプロゲステロン)の影響で、ホルモンの調節機構を抑制し、卵巣の中での卵胞発育や排卵が止まって、妊娠を防ぐことができます。
低用量ピルを飲み忘れなどがなく確実に飲めている時の避妊効果は99.7%と高い効果を得ることができます。
排卵を抑制することで、卵巣がんのリスクが低下することも知られています。
2.子宮内膜の非薄化
子宮内膜が厚くなることを防ぐため、妊娠しにくいとともに、月経困難症や子宮内膜症の治療・予防効果があります。生理の際の出血(消退出血)の量も減るため、月経量や月経痛にも効果があります。
子宮内膜の増殖を抑制するため、子宮体がんのリスクも低下することが知られています。
3.精子の侵入抑制
子宮の入口の頸管粘液の粘稠度を高めることで、精子の侵入を防ぎ避妊効果があります。
1〜3以外にもピルを服薬することで、本来の月経周期で分泌されるエストロゲンとプロゲステロンの値は抑制されます。特にプロゲステロンが抑制されることで、ニキビや多毛に対する効果もあることが知られています。
またはっきりした機序は不明ですが、OC/LEPを服薬することで大腸がんのリスクが低下することも知られています。
低用量ピルの適応と有効性
低用量ピルの適応疾患は以下になります。
- 避妊
- 月経痛
- 月経過多
- 月経前症候群、月経前不快気分障害
- 子宮内膜症、異所性子宮内膜症
また、副次的な効果として使用を検討してもよい疾患としては以下になります。
- ニキビ(特に通常の治療の効果がないもの)
- 多毛症
これらの病気では低用量ピルが治療の選択肢となります。特に月経痛、月経困難症、月経前症候群は強い症状にも関わらず市販の痛み止めだけで様子を見たりしてしまう方も多い状況です。痛みや不調のために、学業や仕事もままならず、社会的な問題にまで発展することもあります。
実は月経に伴うさまざまな不調による労働損失は、年間4911億円とも言われています[2]。そもそも月経痛や月経困難症に痛み止め以外の治療法を知らなかったり、生理痛では病院受診しにくい、婦人科に受診しにくいなどの多くの要因が考えられます。
低用量ピルの副作用
低容量ピルには多くの効果・メリットがありますが、もちろん副作用も起こりえます。
頻度の高いものとしては、ピル開始の不正出血、頭痛、吐き気、むくみ、胸が張る、体重増加などがあります。これらの症状はいわゆるマイナートラブルで、服薬を継続することで数ヶ月以内に自然によくなります。
強い症状がある場合には、ピルの種類、特にエストロゲンの量を減らすような製剤変更をすることで改善することもあります。
注意すべき副作用としては静脈血栓塞栓症、心筋梗塞などの心血管障害、脳梗塞などの脳血管障害、子宮頸がんのリスク、長期的な服薬で乳がんのリスクになることなどがあります。
特に血栓症は、低用量ピル服薬開始から3ヶ月以内に起こることが多いトラブルです。1万人あたり年間14-20人と言われており、頻度は高くないものの肺塞栓症などを起こして致命的な合併症となることもあるため、ピル服薬を開始後は定期的な診察や検査が必要になります。
低用量ピルを使えない方
低用量ピルの副作用のうち、特に血栓症が出やすいと考えられる方には基本的には低用量ピルを使うことはできません。
血栓症は年齢(40歳以上、50歳以上か閉経後は禁忌)、肥満の有無、喫煙、高血圧、糖尿病、過去の血栓症や心疾患の既往歴に関連することがわかっています。該当する項目がある方はピルは使用できません。
乳がん、子宮頸がんなどの治療中の場合にも、低用量ピルが多少なりとも症状進行のリスクとなることがわかっているため、使用することはできません。乳がんや子宮頸がんの家族歴がある場合で、どうしても低用量ピルを服薬したい場合には慎重投与という状態で定期的に健診などを受けていただくことで処方するケースもあります。
子宮筋腫も低用量ピルで増大する可能性があるため、開始にあたってはよく主治医から薬のメリットとデメリットについての説明を受けてからにしましょう。
低用量ピルを飲んでいる時の症状で注意すべきもの
低用量ピルを飲み始めた時に、注意すべき症状を紹介します。
特に飲み始め開始から3-4ヶ月以内の血栓症リスクには十分注意が必要です[3]。血栓症を疑う症状としては、急な足の痛み、腫れ、左右差があるなどの場合です。これらの症状が出た場合には、自己判断せずにすぐに病院を受診し、必ずピルを服薬していることを伝えましょう。
その他、腹痛、胸の痛み、呼吸が苦しい、頭痛、目の見え方が変わったなどの症状は血栓塞栓症を疑う症状です。これらを疑う症状がある場合は非常に緊急性が高いため、すぐに救急病院(循環器内科、内科、心臓血管外科などがある救急総合病院)を受診しましょう。
低用量ピルとその他のサプリ・薬との飲み合わせ
サプリのうち、うつや不安などの症状を緩和する効果が期待されるセントジョーンズワートというハーブは、低用量ピルと併用するとピルの作用を弱めてしまうため併用は控えるべきでしょう[4]。
その他、以下の薬との併用は注意が必要です[5]。
・ピルの作用を強めてしまう
副腎皮質ホルモン
イミプラミンなどの三環系抗うつ剤
セレギリン塩酸塩
シクロスポリン
オメプラゾール
・ピルの血中濃度が上がってしまう
フルコナゾール
ボリコナゾール
アセトアミノフェン
エトラビリン
アタザナビル
・薬の血中濃度が上がってしまう
テオフィリン
チザニジン塩酸塩
エトラビリン
ボリコナゾール
・薬の血中濃度が下がってしまう
アセトアミノフェン
ラモトリギン
モルヒネ
サリチル酸
・ピルの効果が低下し、不正出血の頻度が増えるおそれがある
リファンピシン
フェノバルビタールなどのバルビツール酸系製剤
フェニトインナトリウムなどのヒダントイン系製剤
カルバマゼピン
ボセンタン
モダフィニル
トピラマート
テトラサイクリン系抗生物質
ペニシリン系抗生物質
HIVプロテアーゼ阻害剤
非ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤
・LEPとの併用で月経異常が起こった報告があるもの
ブセレリン酢酸塩などのGn-RH誘導体
・血糖値を下げる効果が減弱させる可能性があるもの
インスリン製剤
スルフォニル尿素系製剤
スルフォンアミド系製剤
ビグアナイド系製剤
・高カリウム血症をきたす可能性があるもの
カリウム製剤
ACE阻害剤
アンジオテンシンII受容体拮抗剤
カリウム保持性利尿薬
非ステロイド性消炎鎮痛剤(インドメタシンなど)
上記のような薬を飲んでいる場合には、必ず医師に相談しましょう。
<リファレンス>
[1]日本産科婦人科学会 低用量経口避妊薬、低用量エストロゲン・プロゲストーゲン配合剤ガイドライン(案)
[2]経済産業省.健康経営における女性の健康の取り組みについて
[3]三好剛一.女性ホルモン剤と静脈血栓塞栓症.血栓止血誌2021;32(5):607-612.
[4]厚生労働省.e-JIM
[5]PMDA.ヤーズ配合剤