ライソゾーム病|疾患情報【おうち病院】
記事要約
ライソゾーム病とは、細胞内に過剰に物質がたまる病気です。ライソゾーム病の原因・治療方法・診断のコツなどを、医師監修の基解説します。
ライソゾーム病とは
人の体を構成する細胞は常に新しい物質を作り、体の成分としたりエネルギーとし、古くなったものは分解して捨てたり再利用したりして正常な新陳代謝を営んでいます。ライソゾームとは、体の中で不要になった脂質や糖質を分解する働きを持った細胞内の器官のひとつです。
古いもの分解するためには「酵素」と呼ばれるたんぱく質が必要で、ライソゾームの中には数多くの分解酵素が存在しています。この分解酵素の一つが生まれつき欠損しているために起こる病気をライソゾーム病と呼びます。欠損する酵素の種類によっていろいろな病気があり、症状も異なっています。
現在、約60種類以上のライソゾーム病が知られていて、症状はそれぞれの病気で異なるため多彩ですが、いずれの病気もライソゾームの中に分解されない老廃物(特定のタンパク質や脂質、糖質など)が次第に蓄積していくため、ライソゾーム病は年齢とともに次第に病気が進行して悪化していく病気となります。
ライソゾーム病の原因
細胞内のライソゾームという器官の中の分解酵素が一つ欠ける遺伝子異常
相談の目安
乳児では、運動発達の遅れ、哺乳困難(ミルクをあまり飲まない)、発育不全、言葉の遅れなどを認めたときが相談の目安となります。小児~成人では、体の関節が固く動きが悪い、骨の変形がある、お腹がふくらんできた、手足に痛みがある、風邪をひきやすい、動悸・息切れがする、呼吸が苦しい、血液・尿検査や心電図検査で異常を指摘された、今まで出来ていたことができない、階段が登れなくなった等の症状の出現が相談の目安になります。
疫学的整理(ライソゾーム病の種類)
ライソゾーム病は指定難病の一つで、現在日本では約 1400名の方が難病指定を受け治療を受けています。ゴーシェ病、ニーマンピック病A、B型などは東欧のユダヤ人に多い疾患です。その他の疾患において基本的に人種差はありません。主なライソゾーム病について世界で報告されている発生頻度を以下に記します。
ゴーシェ病
発症頻度には民族間に大きな差があります。日本人における発症頻度は4~6万人に一人と推定されており、現在まで約150名の患者が同定されています。 病型別にみると3型が最も多いです。これに対し、世界的にはアシュケナージ系ユダヤ人では900~1000人に1人、非ユダヤ人では6~10万人に1人が発症するとされていて、欧米人においては1型が大多数を占めます。
ファブリー病
現在までの報告としてはオーストラリアで1/117,000、オランダで1/476,000があります。発症率に人種差はないとされています。最近、イタリアで新生児期にマススクリーニングを行い、それによると1/3,100出生に酵素欠損があったと報告されています。ファブリー病は両性に発症しますが男性の方が重症な場合が多いです。
ポンペ病
日本で報告されているのは現在29例で、他国ではアフリカ系アメリカ人、中国人の発生頻度が高く、成人型はオランダ人に多いことが報告されています。ポンペ病全体の発生頻度は1/40万です。
ムコ多糖症
欧米ではI型が多いですが、日本、韓国などの東アジアではⅡ型が過半数を占め、次いでⅢ型、I型の順になっています。発症頻度は欧米では24,000人に1名、本邦では5~6万人に1名と推定されています。Ⅱ型(Hunter病)は基本的に男性に発症します。
ニーマンピックA・B型
ユダヤ人では頻度が高くA型の頻度が高いのが特徴です。
日本人を含む非ユダヤ人では、B型が多くを占めます。
ライソゾーム病の症状
ライソゾーム病の症状は多彩ですが、体の関節が固く動きが悪い、骨の変形がある、運動機能や言葉の発達が遅い、哺乳困難(ミルクをあまり飲まない)、身体がぐにゃっとやわらかい、手足の痛み、お腹のふくらみ、けいれん、血液・尿検査や心電図検査で異常を指摘されます。老廃物の蓄積が進み、息切れ・動悸がする、呼吸が苦しい、尿が出にくいなどの症状が出てくる場合もあります。以下、主なライソゾーム病の症状について、特徴的なものを列挙します。
ゴーシェ病
ライソゾーム中のグルコセレブロシダーゼという酵素の働きが悪くなり、全身のあらゆる細胞に糖脂質が蓄積する病気です。けいれんなどの神経症状の有無、発症時期、病気の進行の違う3つのタイプがあります。1~3型のうち、乳児期までに発症する2型が重症型となります。
主な症状
- お腹のふくらみ(肝臓・脾臓の腫れ)
- 骨の痛み、骨の変形、骨折しやすい
- 斜視、口をあけにくい
- けいれんを起こしやすい
- 成長の遅れ
- 異常な眼の動き、ふらつき、筋肉がぴくっと動く
- 出血したときに血が止まりにくい
- 血液異常(貧血、血小板減少)
- 黒目が白く濁る
- 水頭症(歩きづらい、認知機能低下、尿が頻回に出る)
新生児の場合は、胎児水腫(赤ちゃんの全身がむくんでしまっている状態)、魚鱗癬(魚の鱗のように皮膚の表面が硬くなり、剥がれ落ちる)がみられることもあります。
ファブリー病
ライソゾーム中のアルファガラクトシターゼという酵素の働きが悪くなり、糖脂質が血管や内臓の筋肉、神経などに蓄積する病気です。男性に発症すると言われていましたが、現在は女性でも発症することがわかっています。女児では新生児マススクリーニング検査が正常でも、思春期~成人期以降に発症することがあります。
主な症状
- 手足の先がよく痛くなる
- 熱いお風呂が苦手
- 皮膚に赤いぶつぶつがある
- 汗をかきにくい
- 発熱
- 腹痛、下痢、嘔吐
- タンパク尿を指摘された
- 頭痛、めまい、うつ、片麻痺、難聴
- 脳梗塞、繰り返す脳卒中
- 胸の痛み、動悸、息切れ
ポンペ病
ライソゾーム中のアルファグルコシダーゼという酵素の働きが悪くなり、筋細胞のライソゾーム内にグリコーゲンという物質が蓄積する病気です。筋肉の細胞に蓄積するため、主に骨格筋と心筋の症状が現れます。病型によって発症時期が違い、生後すぐに症状が現れる乳児型が最重症のタイプで、その他、小児型、成人型の3つのタイプがあります。
主な症状
乳児
- 筋力低下のため、身体がぐにゃっとしている
- 哺乳困難で、ミルクをあまり飲まない
- 成長の遅れ
- 心機能障害(心肥大、弁膜症、不整脈、心筋梗塞、心不全など)
小児~成人
- 筋力がなく歩きにくい
- 発達の遅れ(歩く、走る、飛ぶなどの動作)
- 栄養不足
- 呼吸がしにくく、息苦しい
- 風邪をこじらせやすい
- 早朝の頭痛
ムコ多糖症
体内のムコ多糖を分解するライソゾーム酵素が欠損することにより、全身にムコ多糖が蓄積し、全身性の多様な症状が出現し、7つの病型に分類されます。その中でもⅠ型はα-L-イズロニダーゼ、Ⅱ型はイズロネートスルファターゼという酵素の異常により、どちらもムコ多糖という物質が蓄積することで発生する病気です。出生直後に症状は見られず徐々に症状がはっきりして、1~2歳頃に症状に気づき診断に至る場合もあります。Ⅰ型、Ⅱ型の一部に重症型が存在します。
- 関節が固まって動かしにくい
- 骨の変形(環軸椎亜脱臼、X脚、関節の過伸展、脊椎後彎側弯など)
- 低い身長
- 言葉、発達の遅れ
- 風邪をひきやすい
- 中耳炎を繰り返す
- 難聴、大きないびき
- 心臓の病気(弁膜症、心筋症、不整脈など)
- お腹のふくらみ(肝臓・脾臓の腫れ)
- 黒目が白く濁る
- 広範囲にわたる蒙古斑
- 足の付け根や臍あたりに痛みを伴うふくらみができる(鼠径ヘルニア、臍ヘルニア)
- 頭が大きい
- 特徴的な顔つき(まゆげが太く濃い、指がごつごつしている、大きな舌、厚い皮膚、毛が多い)
- 行動異常(睡眠障害、他動、粗暴)
ニーマンピック病A・B型
ライソゾーム中の酸性スフィンゴミエリナーゼという酵素の働きがわるくなり、スフィンゴミエリンやコレステロールが肝臓、脾臓、肺、中枢神経などへ蓄積する疾患です。
- お腹のふくらみ(肝臓・脾臓の腫れ)
- 哺乳困難で、ミルクをあまり飲まない
- 筋力の低下
- 嘔吐
- けいれん
- 精神発達の遅れ
- 運動発達の遅れ
- 異常な眼の動き
- 関節が固まって動かしにくい
- 風邪をひきやすい
ライソゾーム病の検査方法
ライソゾーム病は、出生直後のスクリーニング検査で判明する場合もありますが、症状などから本疾患が疑われた場合、一般的に血液検体、尿検体、皮膚の一部を採取して検査を行い、不足している酵素タンパク活性の測定や異常物質の蓄積の程度を調べ診断に至ります。また原因特定のために遺伝子検査を行う場合もあります。また全身の各所に異常がみられることがあるので、臓器障害の程度を評価するために、血液検査やレントゲン検査、心電図検査、超音波検査、呼吸機能検査、頭部MRI検査、眼底検査、骨髄検査などが行われることもあります。
早期診断の大切さ
ライソゾーム病はその病型も多く、症状も多岐に渡るため診断が難しいこともありますが、早期治療を開始することで病状の悪化を防げる場合も多くあります。ライソゾーム病を疑うような症状や検診での異常を指摘された場合は専門的医療機関の小児科、内分泌代謝科、循環器内科、腎臓内科などで精査を受けることが重要となります。
<リファレンス>
国立研究開発法人 国立成育医療研究センター ライソゾーム病センター