麻しん(はしか)|疾患情報【おうち病院】
記事要約
麻しん(はしか)とは、麻しんウイルスによる感染症であり、感染力が非常に強いことが知られ、空気感染を起こします。麻しん(はしか)の原因・治療方法・診断のコツなどを、医師監修の基解説します。
麻しん(はしか)とは
麻しんは「ましん」と読んだり、「はしか」と呼んだりしますがどちらも同じ疾患です。麻しんウイルスによる感染症です。感染力が非常に強いことが知られており、空気感染を起こします。
典型的な初期症状としては、発熱、せき、鼻水があり一般的な風邪と区別がつきにくいですが、症状は増強していきます。
目の充血や腹痛、下痢を伴うこともあります。数日すると下がりかけた発熱が再び高熱となり、全身に発疹が出現します。発疹が数日続いた後、発熱が徐々に下がり始め少しずつ全身状態が改善していきます。麻しんに特異的な治療法はなく、症状に合わせた対症療法を行うことになります。合併症が起こらなければ7日から10日程度で回復していきます。
麻しんの合併症としては、中耳炎、肺炎、脳炎が挙げられます。特に肺炎、脳炎は麻しんによる死因となりうるため注意が必要です。先進国においても麻しん感染者の約1000人に1人が合併症で死亡するといわれているため感染そのものを予防することが重要です。麻しんの最も有効な予防法はワクチン接種です。免疫獲得率を上げるため2回接種が推奨されています。
麻しん(はしか)の原因
麻しんは麻しんウイルスの感染が原因です。感染経路は空気感染、飛沫感染、接触感染があります。感染力は非常に強く、麻しんウイルスに対する免疫がない方が感染すると100%発症するといわれています。
空気感染するため手洗いやうがいでは感染を防ぐことはできません。
麻しん(はしか)の疫学的整理、流行状況
麻しんは世界中で発生し、乳児の主要な死因の一つです。特にワクチン接種率の低い国では常にアウトブレイクのリスクがあるといわれています。WHOの報告によると、2021年は59,168例の発生が報告されています1)。COVID-19の流行で麻しんワクチン接種が実施できなかった国があるため、今後大きな流行が起こる可能性があります。
日本での過去の麻しんの流行2)についてですが、2000年以降では2000年、2006年〜2008年にかけて流行がありました。特に10〜20代の感染者が多かったと報告されています。2008年は1万人以上の麻しん患者の報告がありましたが、その後減少傾向となりました。
しかし近年、ワクチン接種率の低下や海外からの麻しん感染流入により増加傾向を示しています。2023年4月以降、麻疹の流行が報告されています。(2023年8月時点)
麻しん(はしか)の症状3)
麻しんウイルスの潜伏期間は約10日です。その後、咳や鼻水、発熱が症状として現れます。この時点では風邪と症状が似ているため、麻しんと診断するのは困難です。発熱は2、3日で高熱となりそれに伴って全身に発疹が出てくるのが特徴です。
また結膜の充血や口の中に白い斑点(コプリック斑) が出現します。全身倦怠感、高熱が3、4日続き、その後ゆっくりと解熱していきます。発疹は徐々に退色していきますがしばらくは色素沈着が残ります。
合併症を起こさなければ7〜10日で回復していきます。しかし、症状が回復しても約1ヶ月程度は体力や免疫力の低下が続くとされ、他の感染症にかかるリスクが高い時期と考えられます。
麻しんで問題となるのが合併症です。約30%に合併症を認めるとされます。肺炎、中耳炎の合併が多いですが、脳炎の合併も1000例に0.5〜1例の割合でみられます。死亡する例は先進国であっても1000例に1例といわれており注意が必要です。脳炎や肺炎の重症化は死亡例の多くを占めます。
遅発性の合併症としては亜急性硬化性全脳炎(SSPE)4)があります。麻しん感染後7〜10年で発症することがある中枢神経疾患で、発生頻度は10万例に1例と低いですが進行性の予後不良な疾患です。
麻しん(はしか)の診断
発熱、発疹、カタル症状(上気道炎症状(咳、鼻水、くしゃみなど)、結膜炎症状)の3つ全てを認める場合は臨床的に麻しんと診断されます。
また3つ全てを認めない場合でも、麻しん患者との接触が明らかであったり、検査で陽性判定であれば麻しんと診断されることになります。一般的な検査方法としては、血液検査による麻しんIgM抗体の測定があります。しかし、麻しん以外の発疹性ウイルス疾患でも麻しんIgM抗体が高値になることがあるため確定診断にはPCR検査(麻しんの遺伝子検査)が有効です。PCR検査の検体には咽頭ぬぐい液、血液、尿があります。
麻しん(はしか)の治療
麻しんには特別な治療法はありません。対症療法といって発熱などの症状を緩和する治療を行いながら、自然に回復するのを待つことになります。中耳炎や肺炎などの合併症を起こしたときはその治療を積極的に行います。
肺炎には麻しんウイルスによるウイルス性肺炎と、二次的な細菌感染による細菌性肺炎があります。細菌性肺炎では有効な抗生剤治療が可能ですが、ウイルス性肺炎では特異的な治療がありません。重篤な場合は人工呼吸器を使用するなどの集中治療が必要になります。
麻しん(はしか)かなと思ったときは
発熱や発疹の状況、あるいは周囲で麻しんが流行しているなどから麻しん感染を疑った場合は医療機関の受診が必要になります。
受診をする際は、必ず事前に医療機関に電話をするようにしてください。麻しんの可能性があることを伝え、どのように受診するのか指示を受けます(例えば、利用可能な入り口、受診時間など)。麻しんは非常に感染力が強い疾患ですので公共交通機関は利用せず自家用車で受診するなどの配慮が必要です。
麻しんの予防方法
麻しんは空気感染し非常に感染率が高いため、手洗いやうがいでは予防することはできません。
最も有効な予防方法はワクチン接種になります。1回のワクチン接種のみでは約5%の方は十分な免疫を得ることができないと考えられています。免疫獲得をより確実にするために2回接種が推奨されています。
免疫を持つ人口が増えるほど麻しん感染が起こりにくくなります。一般的には人口の95%以上が免疫を獲得すると麻しん感染が広がらないとされています。
麻しんワクチンを2回接種したことがない、または今までに麻しんに感染したことがない方は感染リスクが高いといえます。麻しんの罹患やワクチンの接種歴が明らかでない方は、ワクチン接種の検討をおすすめします。
<リファレンス>
- NID国立感染症研究所
- 駒瀬勝啓 日本の麻疹の状況と麻疹排除の進捗 モダンメディア61巻4号2015 81-90
- 厚生労働省 麻しんについて
- clila疾患情報 亜急性硬化性全脳炎