多系統萎縮症|疾患情報【おうち病院】

記事要約

多系統萎縮症とは、大脳、小脳、脳幹、脊髄といった脳のさまざまな部位が障害を受けることで発症する病気です。多系統萎縮症の原因・治療方法・診断のコツなどを、医師監修の基解説します。

多系統萎縮症とは

多系統萎縮症とは、大脳、小脳、脳幹、脊髄といった脳のさまざまな部位が障害を受けることで発症する病気です。脊髄小脳変性症の70%が孤発性(非遺伝性)ですが、孤発性脊髄小脳変性症の大部分を多系統萎縮症が占めています。初発から病初期の症状の特徴によって、オリーブ橋小脳萎縮症、条体黒質変性症、Shy-Drager症候群の3つに分類されると考えられていましたが、いずれも進行すると3つの疾患の症状や画像所見が重複し、病理所見も共通していることから多系統萎縮症と総称されるようになりました。英語ではmultiple system atrophyといい、MSAの略語で表されます。

多系統萎縮症の原因

多系統萎縮症では、リン酸化されたαシヌクレインを含むグリア細胞質内封入体(glial cytoplasmic inclusion:GCI)を特徴とし、これらの物質が、小脳や脳幹、脊髄に蓄積し、進行性の変性が起こることで病気が発症すると考えられています。神経細胞が障害を受けると細胞は変性し、最終的には神経細胞がなくなり脳が萎縮していきます。ほとんどは孤発例であるが、ごくまれに家族内発症が見られ、その一部では遺伝子変異が同定されています。発症機序について封入体や遺伝要因を手がかりに研究が進められていますが、まだ十分には解明されていません。

多系統萎縮症の相談目安

歩行時にふらつく、呂律がまわらない、手指が思うように動かせない、動作がおそい、歩きにくい、起立性低血圧、汗がでにくい、EDなどの症状を認めたときが相談の目安です。

多系統萎縮症の疫学的整理

多系統萎縮症は国の指定難病の一つで、令和元年の特定疾患医療受給者数によると、現在日本では11387名の方が難病指定を受け治療を受けています。欧米の調査では、10万人あたり2~5人とされ、パーキンソン症状を呈する患者の約10%が多系統萎縮症と報告されています。発症年齢は平均55歳前後で男性にわずかに多い傾向にあります。

多系統萎縮症の3大症状

多系統萎縮症には障害が出る部位によって、自律神経症状、小脳症状、パーキンソニズムの3大症状があります。オリーブ橋小脳萎縮症、黒条体黒質変性症にはいずれも自律神経症状がみられることから、小脳症状・自律神経症状が主体のMSA-C(オリーブ橋小脳萎縮症)、パーキンソニズム・自律神経症状が主体のMSA-P(線条体黒質変性症)、自律神経症状が主体のShy-Drager症候群という呼び方をします。病状が進行するにつれ、いずれの症状も認めるようになります。


《1》自律神経障害

自律神経症状には、排尿障害、起立性低血圧、発汗低下、体温調節障害、陰萎があり、排尿障害は最も頻度が高く、頻尿、尿失禁から始まります。進行期には、残尿や、突然の尿閉が起こります。感染を伴うと尿路を上行して腎盂腎炎の原因となります。起立性低血圧は、重症になると、起立直後に失神したり、長く椅子に腰かけているだけでも血圧が下がって意識が遠のいたりすることがあります。入浴後、食後、排泄前後には、症状が出やすくなります。体温調節に障害があると、うつ熱といって、暑い部屋にいるだけで高体温をきたすことがあります。

《2》パーキンソン症状(錐体外路症状)

パーキンソン症状には、振戦、動作緩慢、四肢や体幹の固縮、発声異常、姿勢反射障害などがあります。振戦の特徴も異なり、本症では手指にミオクローヌス様振戦(myoclonic tremor)と呼ばれる、手指の不規則で小さなふるえが特徴的で、振戦、固縮、動作緩慢などの症状で左右差がでにくいです。パーキンソン病でみられる安静時の規則的な丸薬丸め振戦を認めることは稀で、首下がりなどの極端な姿勢異常を初期から合併することもあります。

《3》小脳性運動失調

小脳性運動失調には、呂律が回らないなどの構語障害や歩行不安定があります。また、歩行時に腰部の位置が定まらずゆらゆらと揺れる体幹動揺や足を左右に広げて歩く失調性歩行がみられます。上肢には、動作に伴うふるえや手指が思うように動かせなくなるなどの症状が出現します。

多系統萎縮症の診断方法

診察上、自律神経症状、パーキンソン症状、小脳性運動失調の3つが存在すれば、本症の可能性を強く疑い、鑑別のための検査を行います。
小脳性運動失調が目立つ病型の場合は、遺伝性脊髄小脳変性症や脳梗塞、脳出血、炎症性疾患、アルコールや薬剤による副作用との鑑別を要します。脳MRI検査では、被殻の萎縮を反映した所見や小脳半球の萎縮や「十字サイン」と呼ばれる橋の横走線維の変性像を認めることがあります。
パーキンソン症状ある病型の場合では、パーキンソン病との鑑別のため、レボドパを十分量投与してその反応性を確かめることも参考となります。治療への反応性がパーキンソン病より乏しく、発語障害や嚥下障害の進行がやや早い場合、多系統萎縮症と診断にいたるケースがあります。
自律神経症状は、初期には症状に気付きにくいこともあり、起立テストや残尿測定、膀胱内圧測定にて判定することがあります。
ラジオアイソトープを用いたドパミントランスポーターシンチグラフィという検査では、パーキンソン病と同じく低下がみられますが、MIBG心筋シンチグラフィーでは、パーキンソン病で低下を認めるのに対して、本症では正常所見となります。

多系統萎縮症の重症度分類

modified Rankin Scale(mRS)、食事・栄養、呼吸のそれぞれの評価スケールを用いて、いずれかが3以上が難病指定の対象となります。

日本版modified Rankin Scale(mRS)判定基準書

modified Rankin Scale

参考にすべき点

全く症候がない

自覚症状及び他覚徴候が共にない状態である

症候はあっても明らかな障害はない:日常の勤めや活動は行える

自覚症状及び他覚徴候はあるが、発症以前から行っていた仕事や活動に制限はない状態である

軽度の障害:

発症以前の活動が全て行えるわけではないが、自分の身の回りのことは介助なしに行える

発症以前から行っていた仕事や活動に制限はあるが、日常生活は自立している状態である

中等度の障害:

何らかの介助を必要とするが、歩行は介助なしに行える

買い物や公共交通機関を利用した外出などには介助を必要とするが、通常歩行、食事、身だしなみの維持、トイレなどには介助を必要としない状態である

中等度から重度の障害:

歩行や身体的要求には介助が必要である

通常歩行、食事、身だしなみの維持、トイレなどには介助を必要とするが、持続的な介護は必要としない状態である

重度の障害:

寝たきり、失禁状態、常に介護と見守りを必要とする

常に誰かの介助を必要とする状態である

死亡

 日本脳卒中学会版
食事・栄養(N)
0.症候なし。
1.時にむせる、食事動作がぎこちないなどの症候があるが、社会生活・日常生活に支障ない。
2.食物形態の工夫や、食事時の道具の工夫を必要とする。
3.食事・栄養摂取に何らかの介助を要する。
4.補助的な非経口的栄養摂取(経管栄養、中心静脈栄養など)を必要とする。
5.全面的に非経口的栄養摂取に依存している。

呼吸(R)
0.症候なし。
1.肺活量の低下などの所見はあるが、社会生活・日常生活に支障ない。
2.呼吸障害のために軽度の息切れなどの症状がある。
3.呼吸症状が睡眠の妨げになる、あるいは着替えなどの日常生活動作で息切れが生じる。
4.喀痰の吸引あるいは間欠的な換気補助装置使用が必要。
5.気管切開あるいは継続的な換気補助装置使用が必要。

<リファレンス>

難病情報センター 多系統萎縮症
宇多野病院関西脳神経筋センター

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