ノロウイルス感染症|疾患情報【おうち病院】
記事要約
ノロウイルス感染症とは乳幼児から高齢者までの幅広い年齢層に急性胃腸炎を引き起こすウイルス性の感染症です。ノロウイルス感染症の原因・治療方法・診断のコツなどを、医師監修の基解説します。
1.ノロウイルス感染症とは
ノロウイルス感染症は乳幼児から高齢者までの幅広い年齢層に急性胃腸炎を引き起こすウイルス性の感染症です。一年を通して発生していますが、特に冬季に流行し11月頃から流行がはじまり12〜2月にピークを迎えます。ウイルスの感染力は非常に強く少量のウイルス量でも感染し、乾燥や熱にも強いうえに自然環境下でも長期間生存が可能です。ウイルスに汚染した水や食物(生牡蠣などの二枚貝や生野菜)からも感染しますが食物は十分に加熱すれば感染源にならないとされています。その他、病院内や施設内での感染者の吐物、排泄物を介した感染などが原因で急激に患者数が増加しています。
2.ノロウイルス感染症の疫学的整理
急性胃腸炎や流行性下痢症の原因ウイルスとして世界で最も頻度が高く、令和2年の食中毒発生状況によると、日本で発生したノロウイルスによる食中毒は、食中毒の総件数887件のうち99件(11.2%)、総患者数14,613名のうち3,660名(25.1%)となっています。
3.ノロウイルス感染症の原因、感染経路
ノロウイルスの感染力は非常に強く100個以下のウイルス量で感染が成立するため、わずかな接触で容易に感染してしまいます。そして様々な感染様式をとるため感染しやすく、また症状が顕在化し易い乳幼児施設や小学校、高齢者施設などの集団生活施設ではしばしば集団感染として爆発的に拡がる場合があります。
糞便中のノロウイルスが下水より汚水処理場に到達し、ウイルスの一部は浄化処理をかいくぐり河川を経て海に運ばれてしまいます。牡蠣などの二枚貝類がプランクトンを食べる時に同時にウイルスを取り込み、貝にウイルスが蓄積されます。汚染されたこれらの貝類を生のまま、あるいは加熱が不十分のまま食べるとウイルスは人に感染することがあります。汚染された貝類を調理した手や包丁・まな板等でサラダなど加熱調理しない食材が汚染された場合も感染することがあります。これを経口感染と言います。
ノロウイルスに感染した人の糞便や嘔吐物を処理した後、手指にウイルスが付いたり糞便や嘔吐物が乾燥して舞い上がり口から取り込まれて感染する場合があります。感染者より排泄された糞便および吐物は、感染性のあるものとして取扱いに十分注意が必要です。このようにノロウイルス感染者を看護や世話をする機会に患者の吐物、便などから直接感染することも明らかにされています。このような感染をを接触感染と言います。このため集団発症を予防するために便や吐物が付着した場所、物を塩素系消毒剤を用いて消毒することが重要です。
ノロウイルス感染症を発症している患者さんの吐物や下痢便が床などに飛び散り、その飛沫(ノロウイルスを含んだ小さな水滴、1~2 m程度飛散します)を吸い込むことによって感染する場合もあります。また感染者の便や嘔吐物がしっかり取り除かれないまま乾燥してしまうとウイルスは埃と共に空気中を漂います。これを吸いこんだり体に付着したりして最終的に口の中へウイルスが侵入することで感染します。これを飛沫感染と言います。
4.ノロウイルス感染症の症状
主な症状は吐き気、嘔吐、腹痛及び下痢です。通常は便に血液は混じりません。発熱が起こる頻度は低く、あまり高熱にならないことが一般的です。小児では嘔吐することが多く、下痢や嘔吐は一日数回からひどい時には10回以上の時もあり、吐物には胆汁(緑色の消化液)や腸液が混じることがあります。感染してから発病するまでの潜伏期間は数時間~数日(平均1~2日)であり、症状の持続する期間も十数時間~数日(平均1~2日)と短期間です。重症化して長期入院を要することはあまりありませんが、高齢者、1歳未満の小児、免疫抑制状態の方は脱水や基礎疾患の増悪から重症化することがあります。また高齢者では嘔吐物の誤嚥による窒息や誤嚥性肺炎が死亡の原因になり得ります。
5.ノロウイルス感染症の診断
ノロウイルスの検査方法には大きく分けて、電子顕微鏡検査、抗原検査、遺伝子検査があり、後者になる程、検出感度が高くなります。ノロウイルス抗原検査は病院で行われる基本的な検査です。検査キットを用いて糞便中のノロウイルスを検出し、検査結果は15~30分程度で出ます。しかし、ノロウイルスに感染していても陰性となってしまうこともあるため、ノロウイルスに感染していないという証明をすることは出来ません。電子顕微鏡検査や遺伝子検査は基本的にはノロウイルスの集団感染が発生した時などに行政機関や研究機関等が原因究明のために行うことが多い検査ですが、状況に応じて病院で検査を行うこともできます。RT-PCR法、リアルタイムPCR法などの遺伝子検査は遺伝子を増幅し、糞便や嘔吐物内のウイルスの検出を行います。検査に1~2日程要しますが抗原検査よりも感度が高く、少ないウイルス量でも検出できる可能性が高い検査です。
6.ノロウイルス感染症の治療
ノロウイルスに効果のある抗ウイルス剤はないため治療は吐き気止めや整腸剤などを用いた対症療法が一般的です。また、出来る限り水分摂取をすることが大切です。吐き気や下痢が強く口から水分が摂取できない場合には脱水症状を防ぐため点滴治療を受けるのも一つの手段です。下痢止めの薬を服用するとウイルスを含んだ糞便を体に留めてしまうことになり、自然治癒を遅らせてしまう可能性があるため止痢剤は通常、最初から使用することはありません。
7.ノロウイルス感染症の予防・対策
ノロウイルスは感染力が強いことで知られていますが、人によっては感染しても症状が現れることなくノロウイルスを便から排出し続けている場合があります。これを「不顕性感染」と言います。2-3人に1人は無症状のまま経過するとも言われています。無症状の場合、無自覚のまま感染源となることがあるため食品を取り扱う方などは特に注意が必要です。調理と配膳の際に気を付けることは調理・配膳の前後で流水・石鹸による手洗いをしっかり行うこと、貝類を調理する際には十分に加熱し、調理したまな板や包丁はすぐに熱湯消毒することが重要です。嘔吐物や下痢便にはノロウイルスが大量に含まれており、わずかな量のウイルスが体内に入っただけでも容易に感染するため嘔吐物や下痢の処理をする際の注意が必要です。ノロウイルスは塩素系の消毒剤や家庭用漂白剤でなければ効果的な消毒はできません。高い殺菌力を持つ次亜塩素酸ナトリウム消毒液を使用した消毒や熱消毒によってウイルスを失活化させることで感染拡大の予防に繋がります。アルコール消毒は効果が低いとされています。また、嘔吐物や下痢便の処理をする際にウイルスを吸い込むと感染してしまう恐れがあります。ウイルスの飛沫感染を防ぐため、処理をする人以外は少なくとも3mは離れることをお勧めします。また放置すると感染が広がるため出来るだけ早く処理する必要があります。その際、マスク・手袋・ゴーグルを着用し、まず、タオル等で吐物・下痢便をしっかりとふき取ってください。拭き取ったタオルはビニール袋に入れて密封し破棄します。その後、塩素系消毒剤で嘔吐物や下痢便のあった場所を中心に広めに消毒してください。汚れた衣類は大きな感染源となるため、そのまま洗濯機で他の衣類と一緒に洗うと洗濯槽内にノロウイルスが付着するだけではなく、他の衣類にもウイルスが付着してしまいます。そのため、まずバケツ等で水洗いし更に塩素系消毒剤(200ppm以上)で消毒することが推奨されます。
<リファレンス>
日本内科学会誌 2013 年 102 巻 6 号 p. 1492-1498
ノロウイルス食中毒と感染性胃腸炎.食品衛生誌 51 : 279―284, 2010.