黄色靭帯骨化症|疾患情報【おうち病院】

記事要約

黄色靱帯骨化症とは、黄色靱帯骨化症とは脊髄(神経)の後ろにある黄色靱帯という靭帯が、骨になってだんだん大きくなってしまい神経を圧迫して、おもに足の麻痺を起こす病気です。黄色靱帯骨化症の原因・治療方法・診断のコツなどを、医師監修の基解説します。

 黄色靭帯骨化症とは

黄色靱帯骨化症は、脊髄の後ろにある椎弓と呼ばれる部分を上下につないでいる黄色靱帯が通常の何倍もの厚さになり、さらに骨化することにより、徐々に脊髄を圧迫し神経障害を来す疾患です。圧迫された脊髄の高位によって症状は異なりますが、部位としては胸椎に最も多く発症します。この場合、下肢のしびれ、筋力低下による歩行のしずらさ、直腸・膀胱機能障害を認めます。

頸椎後縦靱帯骨化症、あるいは胸椎後縦靱帯骨化症と合併することが多いことから、脊柱管内靱帯骨化の一連の疾患と考えられています。しかし、単独で発症することもあります。

本症は欧米人に比べ、明らかに日本人に多い疾患ですがそのはっきりとした理由はわかっていません。また靭帯が骨化する理由もまだわかっていません。しばしば家族性に発生することがあるため、遺伝的背景が関与している可能性が示唆されています。 

図 脊椎断面図(『患者さんのための後縦靭帯骨化症ガイドブック 診療ガイドラインに基づいて』より引用

黄色靭帯骨化症の原因

脊柱管内靱帯骨化症※1の一部分症と捉えられていますが、はっきりとした原因はわかっていません。何らかの遺伝的素因に加え、外力、加齢、代謝などが様々な要因が重なって発症するものと思われます。

※1 前縦靭帯、後縦靭帯、黄色靭帯など、背骨を支えている靭帯(脊柱靭帯)が骨に変わってしまう難病の総称で、最も頻度が高いのが後縦靭帯骨化症(指定難病69)になります。

疫学

黄色靭帯骨化症は40歳以上に多く、男女差はないとされていますが、実際にどれくらいの患者がいるのかはっきりとはわかっていません。参考資料として2019年の黄色靱帯骨化症の特定疾患医療受給者証の所持者数を見てみると約5500人となっています。発生部位としては、胸椎に起こるものが最も多く見られます。

黄色靭帯骨化症の症状

全く無症状で偶然発見されることもあります(例:追突事故のむちうちで偶然レントゲンを撮影した等)。骨化部分が脊髄神経を圧迫するようになると症状が出始めます。本症は胸椎での発生が最多であるため一般的には下記のような症状が見られます。

  • 下肢のしびれ、脱力
  • 歩きにくさ
  • 下肢の痛み
    (脊髄性)間欠性跛行※2
  • 腰背部痛
  • 直腸・膀胱機能障害

※2 間欠性跛行では、一定の距離(数百メートル、数十メートル)を歩くと、下肢にしびれや痛み、疲労感などが出現し立ち止まって休息を要する状態になります。しばらく休息すると症状が緩和し、再び歩けるようになりますが、また一定距離歩くと同様の症状が出現し休息を要するという状態になります。原因として、神経性と血管性があります。神経性には馬尾性、脊髄性があり馬尾神経、脊髄神経の圧迫障害により症状を呈します。脊髄性のものは痛みのためではなく、下肢の脱力によって跛行を呈するという特徴があります。
血管性では閉塞性動脈硬化症によるもので、血流が悪くなることで筋肉への血液、酸素の供給が滞り症状が出現します。

黄色靭帯骨化症の診断方法

診断は、診察による神経学的所見(腱反射、知覚、筋力など)の確認、レントゲン、CT、MRIなどにより行われます。黄色靭帯骨化症はレントゲン所見で見つけることが可能ですが不明瞭な場合もあり、困難な場合はCTでより確定的となります。CTでは骨化の範囲や大きさを判断し、 MRIは脊髄の圧迫の程度を把握するのに有用です。また神経と骨化部分を詳細に調べるために脊髄造影検査が行われることもあります。

<診断基準> 難病情報センターHPより 

1.主要項目

(1)自覚症状ならびに身体所見
  1. 四肢・躯幹のしびれ、痛み、感覚障害
  2. 四肢・躯幹の運動障害
  3. 膀胱直腸障害
  4. 脊柱の可動域制限
  5. 四肢の腱反射異常
  6. 四肢の病的反射
(2)血液・生化学検査所見

一般に異常を認めない。

(3)画像所見

《1》単純X線
側面像で、椎体後縁に接する後縦靱帯の骨化像又は椎間孔後縁に嘴状・塊状に突出する黄色靱帯の骨化像がみられる。

《2》CT
脊柱管内に後縦靱帯又は黄色靱帯の骨化がみられる。

《3》MRI
靱帯骨化巣による脊髄圧迫がみられる。

2.鑑別診断

強直性脊椎炎、変形性脊椎症、強直性脊椎骨増殖症、脊柱管狭窄症、椎間板ヘルニア、脊柱奇形、脊椎・脊髄腫瘍、運動ニューロン疾患、痙性脊髄麻痺(家族性痙性対麻痺)、多発ニューロパチー、脊髄炎、末梢神経障害、筋疾患、脊髄小脳変性症、脳血管障害、その他。

3.診断

画像所見に加え、1に示した自覚症状及び身体所見が認められ、それが靱帯骨化と因果関係があるとされる場合、本症と診断する。

黄色靭帯骨化症の治療

この病気は経過が様々であること、病気の進行が正確には予測できないことから、まずは慎重な経過観察を行います。

<保存的治療>

痛みに対して、安静、消炎鎮痛剤、筋弛緩剤の内服が一般的です。痛みが強い場合には硬膜外ブロックを行うこともあります。またしびれに対し、ビタミンB12製剤の内服があります。

<手術的治療>

神経症状の強い症例、神経症状が進行している症例では手術が検討されます。手術の目的は症状をこれ以上悪化させないことが主になります。症状を軽快できればいいのですが術前にはその予測は困難で、症状の軽快の程度は様々です。一般的には、症状出現から手術までの期間が長ければ長いほど、術後の症状の改善は不十分であると考えられています。

胸椎後方到達法

背中からアプローチを行い、胸椎後方に達します。脊髄の背側にある椎弓を切除あるいは形成し脊髄への圧迫を解除します。椎弓を切除した場合には後方の支持性が低下しますので、人工骨などのスペーサーを挿入し固定する必要があります。
またより低侵襲な方法として、椎弓の一部を開窓し骨化した靭帯を切除し除圧する方法がありますが、大きく視野が確保できないためより繊細な手術になります。

手術による合併症としては、硬膜損傷、髄膜炎、神経・血管損傷(損傷の程度により両下肢麻痺などが生じる)、術後の血腫形成及びそれによる神経圧迫症状、感染などがあります。

黄色靭帯骨化症の経過、予後

骨化が見つかったからといってすぐに症状が出現するわけではありません。無症状であっても定期的にレントゲン検査を行い経過を見ていく必要があります。骨化は急激に大きくなることは少なく、脊髄神経症状も必ずしも進行性ではありませんが、症状が重度になると日常生活に支障が生じるため、症状の変化には早期に気づく必要があります。そのためには定期的な通院が大切です。また、本症は脊柱靱帯骨化症の一部分の病気と考えられるので、症状がなくても頚椎、胸椎、腰椎のレントゲン検査がすすめられています。

後縦靭帯骨化症(指定難病69)と同様に、経過中に、不慮の軽微な外傷で神経障害が急速に進行し、四肢麻痺になることもあるため転倒や自転車・バイクなどの乗車、飲酒後の歩行などには十分に注意しなければなりません。

<リファレンス>

難病情報センター 黄色靭帯骨化症(指定難病68)
日本整形外科学会 後縦靭帯骨化症・黄色靭帯骨化症
日本脊髄外科学会 胸椎黄色靭帯骨化症
間欠性跛行を呈した胸椎黄色靭帯骨化症の2症例
赤 塚 啓 一 , 五 十 嵐 正 至, 小 山 素 麿 噛

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