後縦靭帯骨化症|疾患情報【おうち病院】

記事要約

後縦靱帯骨化症とは、背骨の中を縦に走る後縦靭帯が骨に変化(骨化)することで、神経が通る脊柱管が狭くなり、圧迫されて感覚障害や運動障害などの神経症状が引き起こされる病気です。後縦靱帯骨化症の原因・治療方法・診断のコツなどを、医師監修の基解説します。

後縦靭帯骨化症とは

後縦靱帯骨化症は、脊椎椎体の後縁を連結し、脊柱のほぼ全長を縦走する後縦靱帯が通常の何倍もの厚さになり、さらに骨化することにより、脊髄又は神経根(脊髄から分岐した神経)の圧迫障害を来す疾患です。圧迫された脊髄の高位によって症状は異なります。部位としては頚椎に最も多く発症しますが、胸椎、腰椎に発生することもあります。本症は欧米人に比べ、明らかに日本人に多い疾患ですがそのはっきりとした理由はわかっていません。また靭帯が骨化する理由もまだわかっていません。しばしば家族性に発生することがあるため、遺伝的背景が関与している可能性が示唆されます。

後縦靭帯が骨化していても、脊髄や神経根が圧迫されていなければ症状は出現しません。骨化があっても無症状の方のうち、後に神経症状が新たに発現する頻度は、平均6年8ヶ月の間で14.7%とされています。

図 脊椎断面図(『患者さんのための後縦靭帯骨化症ガイドブック 診療ガイドラインに基づいて』より引用 

後縦靭帯骨化症の原因

現在のところ不明です。しかし家族内で本症が多発している家系(兄弟姉妹での発生率は約30%)があることから何らかの遺伝子の関連があると考えられています。2014年に日本の研究チームにより、本症の発症のしやすさ(疾患感受性)に関わる6つの遺伝情報の領域(ゲノム領域)が発見されています。さらに、本症の発症に関わる遺伝子、RSPO2が同定されています。

またその他に、性ホルモンの異常、カルシウム・ビタミンDの代謝異常、糖尿病、肥満傾向、老化現象、全身的な骨化傾向、機械的ストレスなども発生に関与していると推測されています。

相談の目安

手や指、腕のしびれ感や痛みは本症の始まりに多い症状です。早期診断の手掛かりとなる症状なのですぐに受診をした方が良いと考えられます。ただし、本症以外にもこれらの症状を示す疾患はありますので、特異的な症状ではありません。

疫学的整理

後縦靭帯骨化による脊髄症状の発症は、中年以降、特に50歳前後が多いとされています。男女比は、2:1で男性に多く、糖尿病や肥満の患者に発生頻度が高いことがわかっています。
日本国内の患者数は約30,000人と推定されています。また潜在的な患者も含めると国内で100万人以上と考えられています。

後縦靭帯骨化の各国の発生頻度※1は、日本では約3% (1.8〜4.1%)、アメリカ約0.12%、中国0.2〜1.8%、韓国0.95%、ドイツ0.10%と報告され、明らかに本邦での発生頻度が高い結果となっています。ただし、国際的な診断の基準が曖昧なため、正確な調査や比較はできていません。

※1 骨化の発生頻度であって、必ずしも神経症状が出ている状態ではありません。

後縦靭帯骨化症の症状

全く無症状で偶然に発見されることもありますが(例:追突事故のむちうちで偶然レントゲンを撮影した等)、症状を伴うと骨化の高位により以下のような症状が現れます。

1.頚椎後縦靭帯骨化症

首の痛み、上肢のしびれ、痛みが出現します。次第に、手・指を使った細かい動作がしずらくなったり(巧緻運動障害※2)、足先のしびれやつっぱり感(痙性)、歩きにくさなどが見られるようになります。特に階段を降りる際には手すりが必要になることがあります。

時には、道で転倒するなどの比較的軽い外傷にもかかわらず、外傷後に急激に四肢麻痺などの極めて重い症状が出現することもあります。これは本症では靭帯の肥厚、骨化のために脊髄の通り道である脊柱管が狭くなり、脊髄の可動性が少なくなった状態なので、外傷による衝撃が緩衝されず脊髄へダメージを与えてしまうために起こります。麻痺が高度になれば、直腸・膀胱機能障害※3の症状も出現します。

※2 「字が書きにくい」、「箸が使いにくい」、「ボタンの掛け外しが難しい」など、手・指の動きがぎこちなくなり、手や指先を使った動作が難しくなる障害
※3 神経の障害により、尿や便が出にくい、残尿感、失禁などを認めます

2.胸椎後縦靭帯骨化症

 体幹部から下肢にかけての神経症状を呈しますが、上肢には症状を認めません。

初発症状としては下肢の脱力やしびれ等が多く、重症になると歩行困難や排尿や排便の障害が出現することもあります。

3.腰椎後縦靭帯骨化症

腰椎での発生頻度は少なく、また腰椎レベルでは脊髄は馬尾神経となっているため圧迫症状を呈するにはかなりの狭窄率が必要となります。症状が出た場合、下肢のしびれ、痛み、片側性の間欠性跛行※4などを認めます。

※4 間欠性跛行では、一定の距離(数百メートル、数十メートル)を歩くと、下肢にしびれや痛み、疲労感などが出現し立ち止まって休息を要する状態になります。しばらく休息すると症状が緩和し、再び歩けるようになりますが、また一定距離歩くと同様の症状が出現し休息を要するという状態になります。原因として、神経性と血管性があります。神経性には馬尾性、脊髄性があり馬尾神経、脊髄神経の圧迫障害により症状を呈します。脊髄性のものは痛みのためではなく、下肢の脱力によって跛行を呈するという特徴があります。
血管性では閉塞性動脈硬化症によるもので、血流が悪くなることで筋肉への血液、酸素の供給が滞り症状が出現します。

後縦靭帯骨化症の診断方法

診断は、診察による神経学的所見(腱反射、知覚、筋力など)の確認、レントゲン、CT、MRIなどにより行われます。後縦靭帯骨化症はレントゲン所見で見つけることが可能ですが、困難な場合はCTでより確定的となります。CTでは骨化の範囲や大きさを判断し、 MRIは脊髄の圧迫の程度を把握するのに有用です。

<診断基準> 難病情報センターHPより引用

1.主要項目

(1)自覚症状及び身体所見

  1. 四肢・躯幹のしびれ、痛み、感覚障害
  2. 四肢・躯幹の運動障害
  3. 膀胱直腸障害
  4. 脊柱の可動域制限
  5. 四肢の腱反射異常
  6. 四肢の病的反射

(2)血液・生化学検査所見

一般に異常を認めない。

(3)画像所見

  1. 単純X線
    側面像で、椎体後縁に接する後縦靱帯の骨化像又は椎間孔後縁に嘴状・塊状に突出する黄色靱帯の骨化像がみられる。
  2. CT
    脊柱管内に後縦靱帯又は黄色靱帯の骨化がみられる。
  3. MRI
    靱帯骨化巣による脊髄圧迫がみられる。

2.鑑別診断

強直性脊椎炎、変形性脊椎症、強直性脊椎骨増殖症、脊柱管狭窄症、椎間板ヘルニア、脊柱奇形、脊椎・脊髄腫瘍、運動ニューロン疾患、痙性脊髄麻痺(家族性痙性対麻痺)、多発ニューロパチー、脊髄炎、末梢神経障害、筋疾患、脊髄小脳変性症、脳血管障害、その他。

3.診断のカテゴリー

画像所見に加え、1に示した自覚症状及び身体所見が認められ、それが靱帯骨化と因果関係があるとされる場合、本症と診断する。

後縦靭帯骨化症の治療

<保存的治療>

症状に合わせて、安静、薬物療法、理学療法などがあります。

首や首周囲の痛みに対する安静の方法として、頚椎装具の装着(頸椎カラー)があります。頸椎カラーにより安静を保ち効果がある場合にはしばらく続けてみますが、効果がないにもかかわらず漫然と使用することは推奨されていません。この頚椎装具を長期間使用していると頚部の筋肉が萎縮してしまい、かえって長期にわたる頚部痛が残ることがあるからです。使用にあたっては主治医とよく相談することが大切です。

薬物療法としては、痛みに対して消炎鎮痛剤、筋弛緩薬、しびれに対してビタミンB剤の内服があります。
理学療法としては、温熱療法、牽引療法などがありますが有効性は証明されておらず、場合によっては症状が悪化することもあります。適応については主治医とよく相談することが大切です。

<手術的治療>

保存的療法を行っても症状が進行し、日常生活に支障が生じる場合には手術的治療が必要となります。しかし手術は脊髄神経症状を劇的に改善させるものではなく、今後の症状の悪化を予防するためのものと考えられています。また、全く無症状で偶然に発見された場合や、症状が軽度であっても、脊柱管の狭窄が強い場合には、今後の悪化を予防する為に手術を行うこともあります。

頚椎では、前方到達法、後方到達法があります。

頚椎前方到達法:

頚椎前方からアプローチし頚椎の一部を削りながら脊髄の方へ進み、脊髄を圧迫している骨化巣を摘出します。脊髄の圧迫を解除したのち、頚椎にできた空間に自家骨(骨盤から採取した自分の骨)や人工物を移植、挿入し固定します。

合併症としては、硬膜損傷、髄膜炎、神経・血管損傷、食道損傷、移植骨の癒合不全、移植骨のズレ、移植骨の採骨部の痛み・しびれ、術後の喉の腫れ、血腫による呼吸困難などが可能性として挙げられます。

頚椎後方到達法:

首の後方からアプローチし、頚椎の後方に到達し、椎弓を縦割もしくは片側を掘削して椎弓を持ち上げることで脊柱管を拡大する方法です。持ち上げた椎弓の間には人工骨もしくは同じ術野にある棘突起という部分から採取、形成した骨を入れて固定します。この術式では骨化した靭帯そのものを除去することはできませんが、脊柱管を拡大することにより脊髄の圧迫を軽減させることができます。

合併症としては、硬膜損傷、髄膜炎、神経・血管損傷、術後血腫、頚部の頑固な痛みなどがあります。

手術そのものによって脊髄症状が悪化する頻度は約4%と報告されています。両術式とも、術後に片側の腕に力が入らず、特に肩を挙上することができなくなる麻痺が出現する危険性が5〜10%とされています。この麻痺の原因は不明ですが、多くは術後2年以内に回復するとされています。

胸椎では背骨が丸くなっている(後弯)ため、後方到達法で脊柱管を拡げるだけではなく、固定具などを用いて胸椎固定を加える手術が行われることが多くなっていますが、前方到達法が選択されることもあります。腰椎では後方到達法が一般的です。

後縦靭帯骨化症の経過、予後

骨化が見つかったからといってすぐに症状が出現するわけではありません。無症状であっても定期的にレントゲン検査を行い経過を見ていく必要があります。骨化は急激に大きくなることは少なく、脊髄神経症状も必ずしも進行性ではありませんが、症状が重度になると日常生活に支障が生じるため、症状の変化には早期に気づく必要があります。そのためには定期的な通院が大切です。

経過中に、不慮の軽微な外傷で神経障害が急速に進行し、四肢麻痺になることもあるため転倒や自転車・バイクなどの乗車、飲酒後の歩行などには十分に注意しなければなりません。また首を過度に反らす姿勢も避けるようにしなければなりません。

2016年に国内において、本症発症に関わる遺伝子であるRSPO2が同定されていますので、本症の病態がより解明され、新しいタイプの治療薬が開発されることが期待されています。

<リファレンス>

難病情報センター 後縦靭帯骨化症 (OPLL)(指定難病69)
日本脊髄外科学会 頸椎後縦靭帯骨化症
日本整形外科学会 後縦靭帯骨化症 黄色靭帯骨化症
患者さんのための後縦靭帯骨化症ガイドブック 診療ガイドラインに基づいて
Masahiro Nakajima, Ikuyo Kou, Hirofumi Ohashi, and Shiro Ikegawa., "Identification and Functional Characterization of RSPO2 as a Susceptibility Gene for Ossification of the Posterior Longitudinal Ligament of the Spine", American Journal of Human Genetics, doi:

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