骨形成不全症|疾患情報【おうち病院】
記事要約
骨形成不全症とは、骨が非常にもろいという特徴を持つ先天性の病気です。骨形成不全症の原因・治療方法・診断のコツなどを、医師監修の基解説します。
骨形成不全症(Osteogenesis imperfecta)とは
Ⅰ型コラーゲンの遺伝子異常によって生じる先天性疾患の一つで、全身の骨脆弱性による易骨折性(骨が折れやすい)、それによる骨変形、その他の結合組織異常を様々な程度で認めます。発生頻度は約2万人に1人とされ、本邦では約6000人の患者がいると推定されています。
骨形成不全症の原因
Ⅰ型コラーゲン(骨、歯、皮膚、靭帯、腱などの主要な構成成分)の遺伝子異常を認めるものが90%とされています。さらに近年、いくつかの新しい遺伝子異常が発見され、より正確な骨形成不全症の診断が可能になっています。
遺伝子異常は突然変異で発生するもの、家族内で常染色体優性遺伝、劣性遺伝(Ⅱ、Ⅲ型の一部、Ⅶ型)するものがあります。
骨形成不全症の症状
症状には非常に幅があります。自覚症状がほとんどない軽症から出生後すぐに亡くなってしまう重症まで様々です。古典的にはSilence分類でⅠからⅣ型に分類されますが、近年は様々な原因遺伝子が同定されておりⅨ型まで分類されています。今後さらに分類が増える可能性があります。
Ⅰ型(非変形型):
- 比較的軽症が多い
- 易骨折性(他の型に比べ骨折回数は少ない場合が多い)あり
- 青色強膜(眼の白い部分が青色〜灰白色)あり
- 難聴あり
- 歯牙の形成不全がないものをⅠA型、あるものをⅠB型と細分化
Ⅱ型(周産期致死型):
- 最も重症で出生前後に亡くなることが多い
- 胎内で既に骨折を繰り返しており、四肢は短く弯曲、胸郭は狭く呼吸不全や頭蓋内出血で亡くなることが多い(※近年、医療技術の進歩により生存する症例も報告されている)
Ⅲ型(変形進行型):
- 重症で胎内で既に骨折していることが多く、出生時より骨変形を認める
- 長期生存が可能であるが頻回の骨折による骨変形の進行、歩行障害を認める
- 青色強膜あり(成長とともに白色強膜になる)
- 歯牙の形成不全を認めることが多い
Ⅳ型(中等症型):
- Ⅰ型についで軽症
- 難聴あり
- 歯牙の形成不全がないものをⅣA型、あるものをⅣB型と細分化
その他、結合組織の異常により心臓弁(大動脈弁、僧帽弁に多い)の異常を認める症例もあります。骨変形による骨痛、脊柱変形による呼吸機能障害、難聴、心臓弁異常による心不全などは年長期以降に生じることが多いとされています。また歯牙の形成不全がある症例では虫歯が生じやすいため日常生活におけるケア、歯科医による定期的な診察、治療が必要です。
さらに将来の妊娠・出産に際しては様々なトラブルが起こる可能性(妊娠中の母体の骨折、早期の帝王切開による出産など)があり専門医による的確な経過観察、治療が必要となります。
骨形成不全症の診断基準(難病情報センターより引用)
A. 骨脆弱性症状
- 易骨折性や進行性の骨変形など
B. その他の臨床症状
- 成長障害
- 青色強膜
- 歯牙(象牙質)形成不全
- 難聴
- 家族歴あり
- 小児期に骨折歴あり
C. 骨レントゲン所見
- 長管骨の骨折及び変形
- 細長い長幹骨及び変形
- 頭蓋骨のWormian bone
- 椎体圧迫骨折
- 骨密度の低下
<診断のための参考基準>
- 脆弱性骨折、易骨折性:軽微な外力での骨折、2回以上の骨折歴
- 成長障害:−2SD以下の低身長
- 歯牙形成不全:色調異常(光沢のない灰色の歯)、象牙質の損傷
- 難聴:30デシベル以上の低下(小さな声の会話が聞きとりにくい程度より重度)
- 骨密度低下:YAM値又は小児期の場合には同年齢の基準値の80%未満
鑑別診断
- 被虐待児症候群
- 低フォスファターゼ症
- 多発性線維性骨異形成症
- エーラス・ダンロス(Ehlers Danlos)症候群
- 原発性骨粗しょう症
遺伝子診断
COL1A1、 COL1A2、IFITM5、SERPINF1、CRTAP、LEPRE1、PPIB、SERPINH1、FKBP10、SP7、 BMP1、TMEN38B、 WNT1の変異を認めることがある。
<診断のカテゴリー>
Definite:Aのうち3項目以上+Bのうち3項目以上を満たし、Cの鑑別すべき疾患を除外し、Dを満たすもの。または、Aのうち4項目以上+Bのうち4項目以上を満たし、Cの鑑別すべき疾患を除外したもの。
Probable:Aのうち3項目以上+Bのうち2項目以上を満たし、Cの鑑別すべき疾患を除外したもの。
Possible:Aのうち3項目以上+Bのうち2項目以上を満たしたもの。
骨形成不全症の治療
内科的治療:
骨折頻度の減少を目的に骨吸収抑制剤であるビスフォスフォネート製剤が使用されています。これにより骨密度の増加、骨折頻度の減少、骨痛の減少が認められています。
小児ではビスフォスフォネート製剤としてパミドロネートの周期的静脈内投与が保険適応で行われています。特に骨痛の改善は劇的で投与後2,3週間以内に観察されると報告されています。これにより乳児例では食欲が改善し成長障害の改善が認められるとされています。
年長児や成人では経口ビスフォスフォネート製剤が使用されています。
投与期間については明確な基準はないものの、おおよそ骨密度が正常域に達するまでと考えられています。特に乳児例では独歩が確立するまでの治療は正常な発達を促す点からも必須であるとされています。
注意点として、ビスフォスフォネート製剤は骨吸収を強力に抑制することで骨折の治癒を遷延させる可能性があります。したがって急性期の骨折がある場合には投与を延期すべきであると考えられます。
外科的治療:
1. 骨折に対しては骨折の形態、本疾患の重症度により経皮的骨接合術または観血的骨接合術が行われます。骨脆弱性のため手術に使用される固定具としてプレートは使用されず、髄内釘を使用することが一般的です。
※髄内釘とは、骨の中心部である骨髄の中に打ち込み骨折部を固定する金属の太く長い釘(ネイル)のこと
2. 骨の変形に対しては変形矯正骨切り術が行われます。変形部分を骨切りし骨がまっすぐなるよう矯正した状態で髄内釘を挿入し固定します。骨の成長が見込まれる小児では、骨の成長とともに伸長する特殊な髄内釘が選択されることがあります。
3. 呼吸機能を低下させる、あるいは座位が取れず日常生活に支障を生じる脊柱の変形に対しては変形矯正固定術があります。難易度、侵襲とも高い手術であるため専門医による治療が必要です。
その他、歯牙(象牙質)形成不全及びこれに伴う咬合異常に対する歯科的管理、難聴に対する内科的・外科的治療、心臓弁の異常による心機能低下に対する内科的・外科的治療などが行われます。
まとめ
指定難病の骨形成不全症は自覚症状がほとんどない軽症から周産期に死亡してしまう重症まで病状は様々でその分類は複雑です。遺伝子の異常を伴う先天性疾患であるため根本的な治療はありません。
治療のターゲットは、共通する症状である易骨折性になります。骨吸収抑制剤の進歩により多くの症例で骨折頻度は減少しています。また骨変形の矯正手術の技術も向上し患者のQOLは向上しています。今後さらに原因遺伝子が特定され、疾患の全貌が明らかになってくると予測されます。
<リファレンス>
骨形成不全症の診療ガイドライン 日本小児科学会雑誌 第110巻 第10号