卵巣がん|疾患情報【おうち病院】
記事要約
卵巣がんとは、卵巣の様々な細胞から発生する悪性腫瘍のことです。卵巣がんの原因・治療方法・診断のコツなどを、医師監修の基解説します。
卵巣がんとは
卵巣とは、子宮の左右に一つずつある臓器で通常では2〜3cmぐらいの親指大の大きさです。卵巣の働きは、妊娠・月経に関わるもので、主に成熟した卵子を排卵することと女性ホルモンの分泌です。
卵巣腫瘍は、この卵巣にできる腫瘍のことで、様々な種類があります。卵巣のどこの組織に発生するかによって上皮性腫瘍、性索間質性腫瘍、胚細胞腫瘍などに大別され、それぞれに、良性腫瘍、境界悪性腫瘍、悪性腫瘍があります。
卵巣がんの90%近くが卵巣の表面を覆う上皮にできる上皮性腫瘍です。次いで、胚細胞腫瘍、性索間質性腫瘍が数%、その他胃がんや大腸がんなどからの転移性卵巣腫瘍もあります。
卵巣がんの原因とリスク要因
原因は不明ですが、晩婚化や少産化の影響で一生のうちで排卵回数が増えていることが、卵巣がんの発生に影響していると言われています。また、食生活などのライフスタイルの欧米化も影響していると言われています。
リスク要因として、出産歴がない、婦人科疾患の骨盤内炎症性疾患・多嚢胞性卵巣症候群・子宮内膜症があります。その他、閉経が遅い、肥満、排卵誘発剤の使用、10年以上にわたるホルモン補充療法をしているなども関係していると言われています。
一方で、経口避妊薬の使用は、リスクを低下させると言われています。
卵巣がんで遺伝的関与があるのは約10%で、遺伝性乳癌卵巣癌症候群(Hereditary Breast and Ovarian Cancer Syndrome、HBOC)と呼ばれるものです。近親者に卵巣がんになった人がいる場合は、いない人に比べて発症の確率が高いと言われています。BRCA1遺伝子あるいはBRCA2遺伝子の変異が発症リスクを上げることが知られていて、常染色体優性遺伝の形式をとります。
BRCA1変異のある方が生涯で卵巣がんを発症するリスクは36〜63%、BRCA2変異のある方では10〜27%と報告されています。
卵巣がんの症状
卵巣は骨盤内臓器であるため、卵巣がんが発生しても初期には自覚症状がないことが多いです。腫瘍が大きくなったり、腹水がたまったりしてくると、腹部膨満感(お腹がはって苦しい感じ)、下腹部のしこり、下腹部痛、頻尿、食欲低下、足の浮腫などの症状が出ることがあります。
卵巣がんの相談目安
前述の「卵巣がんの症状」のとおり、初期には自覚症状はありません。腹部膨満感や下腹部痛などの自覚症状がある場合には、早めに婦人科へ相談するようにしてください。
また、現在、卵巣がんは子宮頸がん検診のようにがん検診は行われていません。早期に発見するためには、子宮頸がん検診を受けられるとき、あるいは婦人科へ受診する機会に併せて超音波検査などで卵巣の状態を検査してもらうのも大切です。
卵巣がんの疫学的整理
日本では年間約13000人の方が罹患、約4700人の方が死亡しています。近年、罹患数も死亡数も増加傾向にあり、この20〜30年間で倍増しています。年齢別では、40代から増加していき、50代以降年齢が上がるにつれて死亡率は高くなっています。
一方、若年者にも卵巣がんは見られます。悪性の胚細胞腫瘍は卵巣がん全体の5%に満たない稀な疾患ですが、10〜20代の若年者に好発します。
卵巣がんの診断方法
内診、直腸診、超音波検査(エコー検査)で、卵巣の大きさや腫瘍の性状を確認します。その結果で詳しく調べる必要があると判断された場合には、CT検査やMRI検査などの画像検査を用いて、腫瘍の性状、周囲臓器との関係やリンパ節の腫れがないか等を評価したり、血液検査での腫瘍マーカーの測定を行ったりします。
また、腹水がたまっている場合では、腹水にがん細胞が含まれていないか調べるために皮膚から針を刺して腹水を取り細胞診で検査します。
良性・境界悪性・悪性かどうかの最終判断は、手術で病巣を摘出し、顕微鏡で検査することによって診断が確定します。卵巣腫瘍全体の約10%が悪性と言われています。
卵巣がんの治療
卵巣がんの治療は、進行期や癌の種類によって異なり、主に手術療法と薬物療法(化学療法や分子標的治療薬)を組み合わせて行っていきます。
手術療法の目的は、卵巣がんの確定診断を行い進行期と組織型を調べること、病巣の完全摘出あるいは可及的に最大限の腫瘍減量を行うこと、予後に関わる情報を調べることです。
基本的な術式は、両側付属器(卵巣・卵管)切除術+子宮全摘術+大網切除術で、手術の具体的な方針は進行期や転移の状態、患者の年齢・全身状態によって決まります。
手術前に境界悪性・悪性が疑われる場合や、術前評価や術中評価で良性・境界悪性・悪性の判断が難しい場合には、術中迅速病理検査といって、病巣や組織の一部を採取し手術中に顕微鏡の検査を行い、悪性であれば必要な処置を追加します。手術で完全切除が難しい場合では、残存する腫瘍の大きさが予後に影響を与えると言われており、転移巣も含めてできるだけ多くの病巣を取り除く腫瘍減量術を行います。
手術の合併症として、リンパ節郭清によるリンパ浮腫、閉経前の方であれば両側の卵巣摘出により女性ホルモンの分泌が急激に低下し更年期障害のような症状、子宮を広範囲に切除した場合には排尿障害などが現れることがあります。
薬物療法に関しては、卵巣がんは化学療法が奏功する腫瘍であり、ごく早期癌を除き、手術後の化学療法は必要となります。一般的に、卵巣がんは進行癌で見つかることが多いことから多くの方で手術後に化学療法を行います。また、原発巣が摘出困難である場合には、手術前に化学療法で腫瘍を小さくしてから手術を行うことがあります。
化学療法としては、TC(パクリタキセル+カルボプラチン)療法を用いることが一般的で、パクリタキセルを毎週投与するdose-dense TC療法も標準治療の一つと考えられています。Ⅲ-Ⅳ期の癌では、ベバシズマブという分子標的治療薬を併用/初回化学療法終了後の維持療法に用いることもあります。
一般的な化学療法の副作用には、骨髄抑制による白血球・赤血球・血小板の減少や、吐き気や下痢などの消化器症状、脱毛、手足の痺れ、口内炎などがあります。ベバシズマブの副作用としては高血圧、消化管穿孔などがあります。
卵巣がんの再発については、治療後2年以内の時期に起こることが多く、特にⅢ期とⅣ期の進行がんでは、治療後2年以内に約55%、5年以内に70%以上が再発すると言われています。治療終了した後も定期的な受診と検査を行い、経過観察を行うことが大切です。
検査は問診や内診、エコー検査を行い、医師が必要と判断した場合には、腫瘍マーカーの測定やCT検査などを行います。再発癌の治療は、主に薬物療法となり、放射線治療、手術療法も行われます。薬物療法は、前の治療でプラチナ製剤による治療終了後から再発までの期間により異なります。一般的には、その期間が6ヵ月未満であればプラチナ製剤抵抗性であり初回治療と交差耐性のない単剤化学療法で治療していきます。
6ヵ月以上の場合はプラチナ製剤感受性であり、プラチナ製剤を含む多剤併用療法を選択していきます。化学療法に加えて分子標的治療薬の併用や維持療法を行うこともあります。
放射線治療は、出血や疼痛などの症状緩和を目的として行われ、脳転移の場合では症状緩和と予後改善のために行います。
手術療法は、プラチナ製剤感受性の再発で完全切除可能と考えられる場合に腫瘍減量術が行われます。一方プラチナ製剤抵抗性の再発においては完全切除可能な孤立性の再発の場合や症状緩和を目的とした場合に行われることがあります。
※遺伝性乳癌卵巣癌症候群について※
2020年4月から遺伝性乳癌卵巣癌症候群を発症された方に対する予防的乳房切除術(Risk-Reducing Mastectomy、RRM)・乳房再建術、予防的卵管卵巣摘出術(Risk-Reducing Salpingo-Oophorectomy、RRSO)が保険適応となっています。
<リファレンス>
公益社団法人 日本産科婦人科学会
公益社団法人 日本婦人科腫瘍学会
卵巣がん治療ガイドライン 2020年版
日本産婦人科医会 遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)について
一般社団法人 日本乳癌学会
がん情報サービス 卵巣がん
女性の健康推進室 ヘルスラボ 厚生労働省研究班(東京大学医学部藤井班)監修
アバスチン 中外製薬