酸素療法の種類・効果・副作用|疾患情報【おうち病院】

記事要約

酸素療法とは、低酸素血症に対して吸入気の酸素濃度を高めて、適量の酸素を投与する治療法が酸素療法です。酸素療法の原因・症状、治療方法・改善対策を解説。

酸素療法とは

酸素は生体の正常な機能・生命の維持に不可欠な物質です。その酸素の供給が不十分となり細胞のエネルギー代謝が障害された状態を低酸素血症といいます。低酸素血症に対して吸入気の酸素濃度を高めて、適量の酸素を投与する治療法が酸素療法です。酸素療法の適応や酸素濃度と酸素流量、酸素投与法などを決める指標として動脈血酸素分圧(PaO2)が用いられます。酸素療法とは酸素投与によりPaO2を正常に戻し、生体・精神機能を維持させることを目的としています。

酸素飽和度

肺から取り込まれた酸素の大部分は血液中のヘモグロビンと結合し、ごく一部が血漿中に溶解して末梢組織まで運ばれます。ヘモグロビン1分子は4分子の酸素と結合しますが、ヘモグロビンの何%に酸素が結合しているのかを示すのが動脈血酸素飽和度(SaO2)です。

経皮的酸素飽和度

光学的技術の進歩によりSaO2を簡便に体外から測定することが可能となり、この方式をパルスオキシメトリーとよび、パルスオキシメトリーを利用したモニターがパルスオキシメータです。パルスオキシメータで求めた酸素飽和度は経皮的酸素飽和度といい、動脈血採血により求めた酸素飽和度SaO2と区別するためにSpO2と表記します。

パルスオキシメーターとは

皮膚を通して動脈血酸素飽和度(SpO2)と脈拍数を測定するための装置です。赤い光の出る装置(プローブ)を指にはさむことで測定します。プローブにある受光部センサーが、拍動する動脈の血流を検知し、光の吸収値からSpO2を計算し表示します。非侵襲的かつ連続的に酸素飽和度および心拍数が測定できるので、病院の内外を問わず広く普及しています。

パルスオキシメーターの利用法

酸素飽和度(SpO2)は肺や心臓の病気で酸素を体内に取り込む力が落ちてくると下がります。主に病院や在宅治療の患者さんで、必要に応じて測定します。睡眠時無呼吸症候群の簡易診断にも利用します。加齢によってもある程度低下し、労作時にも変動します。

一般的に96~99%が標準値とされ、90%以下の場合は呼吸不全になっている可能性があるため、適切な対応が必要です。慢性に肺や心臓の病気のある患者さんでは、息苦しさや喘鳴などの症状が強くなり、SpO2が普段の値から3~4%低下した場合は、かかりつけ医に連絡するか受診をしてください。

操作自体は簡単で、家庭での購入も可能ですが、測定値のもつ意味はその人の状態やかかっている病気によっても異なるため、測定値の判断は主治医など医療専門の方の指導を仰ぐことをお勧めします。

パルスオキシメーター利用時の注意

測定結果に誤差を与える要因がいくつかあります。体動によって発光部と受光部がずれる場合や、指先の冷えなどで測定部に血流が十分にない場合、マニキュアなどで光の透過が邪魔される場合などに、正しく測定されないことがあります。SpO2は一定時間、あるいは一定の脈拍毎に得られた値を平均して表示していますので、装着直後ではなく、脈拍が安定する20~30秒後に数値を読んでください。

呼吸不全とは

呼吸不全は「呼吸機能障害のため動脈血ガスが異常値を示し、そのために正常な機能を営めない状態であり、室内空気呼吸時の動脈血酸素分圧(PaO2)が60 Torr以下となる呼吸器系の障害、またはそれに相当する状態」と定義されます。

呼吸不全は、病態の経過による分類と、成因による分類の2つに大別されます。病態の経過による分類では、呼吸不全の状態が少なくとも1か月以上続いた場合に慢性呼吸不全と定義されます。動脈血炭酸ガス分圧(PaCO2)が45 Torr以下はI型呼吸不全、45 Torrを越えるものはII型呼吸不全に分類されます。

呼吸不全の臨床症状、身体所見

低酸素血症の臨床症状として、PaO2が60 Torr以下では頻脈、動悸、高血圧、頻呼吸、失見当識、40 Torr以下ではチアノーゼ、不整脈、重度の呼吸困難、不穏、興奮、低血圧、乏尿、30 Torr以下では傾眠、徐脈、チェーン・ストークス呼吸、ショック状態、心停止などが認められます。

急性呼吸不全に対する酸素療法

一般的に室内気にてPaO2が60 Torr未満あるいはSaO2 90%以下の急性呼吸不全が酸素療法の適応となります。一般的な目標はPaO2 60 Torr以上あるいはSpO2 90%以上です。導入時の酸素流量はパルスオキシメータがあれば、SpO2 90%以上に設定します。

酸素吸入の実際

酸素吸入方法は、低流量システム、高流量システム、リザーバーシステムに分類されます。

 <低流量システム>

患者の一回換気量以下の酸素ガスを供給する方式です。不足分は鼻腔周囲の室内気を吸入することで補います。

鼻カニュラや簡易酸素マスクがこの方式です。

患者の1回換気量により吸入する室内空気の量が異なるので、吸入酸素濃度も変化します。つまり、吸気時間が同じであっても1回換気量が大きいほど、また、1回換気量が同じであっても早い呼吸ほど吸入酸素濃度は低くなります。

鼻カニュラ

両側あるいは片側の鼻腔から酸素を供給する器具です。安易で簡便であり、酸素を吸入しながら会話や食事ができるため広く使われています。低濃度酸素吸入に適しています。

注意点は以下の通りです。

  1. 吸入酸素濃度は患者の一回換気量に依存します。
  2. 常時口呼吸の患者には推奨できません。
  3. 酸素流量6l/minを超える使用は、酸素ガスが鼻粘膜に直接ぶつかり刺激すること、それ以上の酸素吸入濃度の上昇はあかまり期待できないことより、勧められません。

 簡易酸素マスク

吸入酸素濃度を調節できないマスクで、鼻カニュラと同様に我が国で広く使用されています。低濃度酸素吸入には適しません。PaCO2上昇の心配のない患者に使用します。

注意点は以下の通りです。

  1. マスク内に貯まった呼気ガスを再呼吸しないように酸素流量は通常5l/min以上にする。そのため、吸入酸素濃度は40%以上になり、低濃度酸素吸入には適しません。
  2. やむを得ず酸素流量5l/min以下で使用する場合、患者のPaCO2が上昇する危険性に留意します。

 <高流量システム>

患者の1回換気量以上の酸素ガスを供給する方式です。

患者の呼吸パターンに関係なく設定した濃度の酸素を吸入させることができます。

ベンチュリマスクやネブライザー付き酸素吸入装置(インスピロンネブライザー®、アクアパックネブライザー®)がこの方式です。

ベンチュリマスク

患者の1回換気量に左右されず、吸入酸素濃度が24~50%の安定した酸素を吸入することができます。そのため、吸入酸素濃度調整が必要なII型呼吸不全患者に適しています。

酸素と吸気の混合比の調整には、酸素の流出口の大きさを調整する方式と空気取り込み口の大きさを調整する方式があります。

設定酸素濃度ごとに推奨酸素流量が決められています。

 <リザーバーシステム>

呼息相(呼気時)の酸素をリザーバーバッグ内に貯め、次の吸息相(吸気時)に貯まった酸素を吸い込む方式です。高濃度の酸素を投与することになるので、酸素障害やCO2ナルコーシスなどを引き起こす危険性があるので注意が必要です。

リザーバー付き酸素マスクがこの方式です。

 リザーバー付き酸素マスク

高濃度酸素吸入(60%以上)に使われます。

リザーバーバッグとマスクの接合部、マスクの側方にそれぞれ一方向弁がついており、呼息相(呼気時)にリザーバーに酸素を蓄え(容量600ml)、吸息相(吸気時)にリザーバーに貯まった酸素、チューブから出てくる酸素、そしてマスク内に貯まった呼気ガスを吸入します。

マスク内に貯まった呼気ガスの再呼吸を防止するため酸素流量は6l/min以上にし、かつ、リザーバーバッグが空にならないよう酸素流量を調節します。

注意点は以下の通りです。

  1. 二酸化炭素の貯蓄を防止するためと、リザーバーバッグ内に十分な酸素を貯めるために、酸素流量は6l/min以上に設定します。
  2. 高濃度酸素を吸入させるので、患者の状態を常に観察します。
  3. 1回呼気量の多くが配管からの酸素(乾燥酸素)であるため、酸素加湿が必要です。
  4. 長期間の使用には適しません。

<リファレンス>

1)酸素療法ガイドライン 

日本呼吸器学会 肺生理専門委員会 日本呼吸管理学会 酸素療法ガイドライン作成委員会 編

2)呼吸器専門医テキスト 南江堂

3)日本呼吸器学会ホームページ

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