肥厚性皮膚骨膜症|疾患情報【おうち病院】
記事要約
肥厚性皮膚骨膜症とは太鼓ばち指、長管骨を主とする骨膜性骨肥厚、皮膚肥厚(脳回転状頭皮を含む)を3主徴とする比較的稀な病気です。肥厚性皮膚骨膜症の原因・治療方法・診断のコツなどを、医師監修の基解説します。
肥厚性皮膚骨膜症とは
以下の3つの特徴をもつ比較的稀な病気です。
- (手足の指先が広くなる)太鼓ばち指
- 長管骨(腕や脚の部分の細長い骨)の骨膜性骨肥厚(レントゲン撮影でみられる)
- 皮膚肥厚性変化(脳回転状頭皮を含む)
多くは思春期前後に発症し、症状が徐々に進行して5-20年の経過で症状が固定します。男女比は5-9:1で男性に多く、約30%に家族内発症があり、主に常染色体優性遺伝とされますが、常染色体劣性あるいは伴性遺伝との報告もあります。
SLCO2A1やHPGDと呼ばれる遺伝子の異常によって、「プロスタグランジンE2」と呼ばれる物質が体内に多く蓄積することで病気が発症すると考えられています。肥厚性皮膚骨膜症は難病指定を受けている病気のひとつで、肥厚性皮膚骨膜症に対して根本的な治療方法は存在せず、症状に応じた対症療法が中心となります。
肥厚性皮膚骨膜症の原因
肥厚性皮膚骨膜症は、SLCO2A1やHPGDと呼ばれる遺伝子に異常が生じることによって発症します。
どちらの遺伝子もプロスタグランジンE2の代謝にかかわるタンパク質をつくっており、どちらの遺伝子異常であっても同様にプロスタグランジンE2が体内で蓄積する結果に至ります。プロスタグランジンE2は、健康な体であっても存在する物質ではありますが、過剰に存在することで病気を発症すると考えられています。
肥厚性皮膚骨膜症は、「常染色体劣性遺伝」といった遺伝形式をとります。人の細胞の中にSLCO2A1やHPGD遺伝子はそれぞれ2組、父親と母親からそれぞれひとつずつ受け継いでいます。ひとつの遺伝子(たとえばHPGD遺伝子)に異常が存在する場合、残りのひとつが正常な酵素機能を代償することができるため、病気を発症することはありません。一方、両親ともがひとつずつ異常なHPGD遺伝子を持っている場合、理論的に25%の確率でお子さんが異常なHPGD遺伝子を2つ持つことになり、結果として病気を発症します。そして、50%の確率でお子さんが病気の保因者になります。
肥厚性皮膚骨膜症の疫学的整理
非常にまれな病気です。推定ですが全国で100人未満と考えられています。
男女比は5-9:1で男性に多く、10代発症が多く年齢の幅は広く未成年から高齢者までおられます。約30%に家族内発症があり、主に常染色体優性遺伝とされますが、常染色体劣性あるいは伴性遺伝との報告もあります。
肥厚性皮膚骨膜症の症状
主症状には3つあり、また3つの病型に分類されています。
(1)3主症状
1.皮膚肥厚
皮膚が厚くなりしわが深くなります。
主に額、頭皮の皮膚が厚く、脳のようなシワができた状態を脳回転状頭皮と呼びます。
2.ばち状指
爪と骨が結合する部分の皮膚組織が増えて、指先がふくらみ、爪の付け根の角度がなくなった状態です。
3.骨膜性骨肥厚
おもに長管骨(腕や脚の部分の細長い骨)の外側の硬い部分(骨皮質)が厚くなってしまった状態です。
(2)3病型
思春期頃から、顔面や頭皮に脳回転状皮膚肥厚を呈し、進行すると獅子様顔貌に至ることもあります。また、同部位に脂漏性皮膚炎症状を併発することもあります。
両手足の撥指や骨膜性骨肥厚は重要な症状であり、その程度によってTouraineによる分類があります。
1)完全型:脳回転状皮膚肥厚、撥指、骨膜性骨肥厚の全てを認める
2)不完全型:ばち指、骨膜性骨肥厚を認めるが、脳回転状皮膚肥厚を認めない
3)初期型:骨変化が欠如あるいは軽度で、脳回転状皮膚肥厚を認める
最終型が完全型であり、1人の患者さんの経過で病型がはっきり区別できるわけではありません。
男性患者さんではおおむね10代前半からばち指がはじまります。初期型は気づかないことが多く、思春期を経て20歳までにたいてい不全型か完全型になる場合がほとんどです。不全型の期間には個人差があり、その原因のひとつは遺伝子変異の種類です(症状の進行が比較的遅い遺伝子変異があります)。
(3)その他の症状
皮膚症状:脂漏・油性光沢(69%)、ざ瘡(65.5%)、多汗症(34,5%)、脂漏性湿疹(16.7%)
関節症状:関節痛(51.7%)[運動時関節痛(30.3%)、安静時関節痛(9.1%)]、関節腫脹(42.4%)、関節水腫(24.2%)、関節の熱感(9.1%)、骨折歴(6.3%)
その他:貧血(18.2%)、発熱(15.6%)、胃・十二指腸潰瘍(9.4%)、低カリウム血症(9.1%)、自律神経症状(9.1%)、疲れやすい(6.1%)
などを合併することがあります。
肥厚性皮膚骨膜症の診断
(1)診断基準
A 症状
1.太鼓ばち状指(ばち指)
2. 皮膚肥厚
B 検査所見
1.長管骨を主とする骨膜性骨肥厚(単純レントゲン撮影)
2.頭部脳回転状皮膚(頭部MRI撮影が望ましいが視診でも診断可能)
C 遺伝学的検査等
HPGD, SLCO2A1遺伝子の変異
D 鑑別診断
以下の疾患を鑑別する。
① 2次性肥大性骨関節症(secondary hypertrophic osteoarthropathy):疾患リストは表1を参照
②成長ホルモン過剰症および先端肥大症
③骨系統疾患
③-1高アルカリフォスファターゼ血症
③-2骨幹異形成症(Camurati-Engelmann病)
E-1 確実例
完全型:A2項目、B2項目すべてを満たすもの
不全型:A2項目とB1がみられ、D①に該当する基礎疾患を除外したもの
初期型:A2項目を満たしDの鑑別すべき疾患を除外し、Cを満たすもの
E-2 疑い例
A1、B1を満たしDの鑑別すべき疾患を除外したもの
肥厚性皮膚骨膜症の治療
肥厚性皮膚骨膜症に対しての根本的な治療方法は存在しません。肥厚性皮膚骨膜症では骨の代謝が異常を受けている状況であることから、骨に働きかけるビスホスホネートと呼ばれる薬剤を使用することがあります。また、関節の痛みが問題になることも多く、コルヒチンという薬剤が使用されることもあります。
顔面を中心とした皮膚肥厚が強くなると、眼瞼下垂などの機能的な障害や美容的な影響も生じるようになります。こうしたことに対応するために、形成外科的な手術療法が行われることもあります。そのほか、汗が多いという症状に対して、神経切除という手術的な方法が選択されることもあります。
膝関節痛が内服薬で軽快しない場合は、関節鏡下滑膜切除なども行われることがあります。ばち指に対しては、ほとんどが治療せず経過観察することが多いです。
日常注意すべき点についても明らかではありません。プロスタグランジンE2が過剰に産生されるような状況をなるべく避けることが望ましいと考えられます。現在プロスタグランジンE2が産生するきっかけとなるからだの変化として知られているのは、日光(紫外線)曝露、感冒罹患などです。
<リファレンス>
肥厚性皮膚骨膜症 難病情報センター 165
肥厚性皮膚骨膜症 小児慢性特定疾病情報センター 12
肥厚性皮膚骨膜症 メディカルノート