ファイファー症候群|疾患情報【おうち病院】

記事要約

ファイファー症候群とは、遺伝子異常による疾患で、早期に頭蓋骨、顔面骨の縫合線が閉鎖してしまう症候性頭蓋縫合早期癒合症の一つです。ファイファー症候群の原因・治療方法・診断のコツなどを医師監修の基解説します。

1.ファイファー症候群の症状

 ファイファー症候群は遺伝子異常による疾患で、早期に頭蓋骨、顔面骨の縫合線※1が閉鎖してしまう症候性頭蓋縫合早期癒合症※2の一つです。縫合線の早期閉鎖のため、成長による頭蓋骨の拡大が起こらず頭蓋内圧が亢進し、脳の発達に影響を与えます。また顔面骨の低形成も認めます。

 本症はその臨床症状から3つの病型に分けられており、眼球突出、呼吸障害、上顎骨の低形成、それによる噛み合わせ不良(受け口)、耳介低位などを様々な程度で生じます。その他、幅広で短く外反した母指、手足の指の癒合、肘関節の拘縮、精神発達遅滞などを伴うこともあります。

 本症は常染色体優性遺伝の形式をとるため、次世代へ50%の確率で遺伝します。
本症の根本的な治療法はなく、各症状に対し外科的治療を主とした対症療法を行います。

 軽症例は適切な時期に適切な手術を受けることで予後は良好です。重症例は呼吸障害を合併し、予後が悪いこともあります。

※1 頭蓋骨縫合線:赤ちゃんの頭蓋骨は7つのピースに分かれておりそれぞれの骨片のつなぎ目を縫合線といいます。

縫合線が開大していることで、脳の成長に合わせて頭蓋骨も拡大することができます。赤ちゃんの脳は2歳までに約4倍の大きさに成長するとされていますので、この急激な成長に対応するために頭蓋骨縫合線は重要な役割を持っています。

※2 症候性頭蓋縫合早期癒合症にはファイファー症候群の他に、クルーゾン症候群(指定難病181)、アペール症候群(指定難病182)、アントレー・ビクスラー症候群(指定難病184)があります。

2.ファイファー症候群の原因

 ファイファー症候群は線維芽細胞増殖因子受容体2(FGFR2)遺伝子の異常(時にFGFR1遺伝子)によって引き起こされます。FGFRは骨細胞の増殖や分化をコントロールする役割を担っており、この異常により発症するものと考えられますが、詳しい病態の発症メカニズムはわかっていません。

 1型はFGFR1遺伝子またはFGFR2遺伝子の異常、2型および3型はFGFR2遺伝子の異常が関係します。FGFR1遺伝子の異常を認めるのは1型のごく一部とされています。

 遺伝形式は常染色体優性遺伝であるため、次世代へ50%の確率で遺伝します。重症型の2型、3型に関しては、遺伝子の突然変異による孤発例が多く見られます。

3.疫学

 ファイファー症候群は非常にまれな疾患で、10万出生に1人程度の頻度と考えられています。本邦での発症数は年間6例程度と推定されています。

4.ファイファー症候群の症状

  1. ファイファー症候群 1型(軽症)
    ・ゆがんだ頭蓋骨、短頭症
    ・顔面中部の低形成
      目立つ額、眼間乖離(左右の目の間が広い)、上顎の低形成、不正咬合
    ・母指、母趾の変形
      幅広で短く、外反した母指
      大きな母趾
    ・知能は正常
    ・その他、難聴や水頭症の合併 
  2. ファイファー症候群 2型(重症)
    ・クローバーリーフ頭蓋
      正面ないし後方から見た時に、頭蓋が三葉構造に見える状態
    ・顔面中部の低形成
      高度な眼球突出、くちばし状の鼻
      目立つ額、眼間乖離(左右の目の間が広い)、上顎の低形成、不正咬合 
    ・耳介低位
    ・手の変形
      手指の癒合
      幅広で短く、外反した母指
    ・肘関節の拘縮
    ・精神発達遅滞を伴うことが多い
    ・その他、水頭症、けいれん、後鼻腔の狭窄・閉塞、呼吸障害、難聴
  3. ファイファー症候群 3型(重症)
    ・顔面中部の低形成
      高度な眼球突出、くちばし状の鼻
      目立つ額、眼間乖離(左右の目の間が広い)、上顎の低形成、不正咬合 
    ・耳介低位
    ・手の変形
      手指の癒合
      幅広で短く、外反した母指
    ・肘関節の拘縮
    ・精神発達遅滞を伴うことが多い
    ・その他、水頭症、けいれん、後鼻腔の狭窄・閉塞、呼吸障害、難聴
    難聴の多くは伝音性難聴で、本症の約92%に聴覚障害が合併するという報告があります。

5.ファイファー症候群の診断方法

 ファイファー症候群を含む症候性頭蓋縫合早期癒合症は、その特徴的な頭部形態や顔貌からほとんどの場合、身体診察で容易に疑うことができます。

 本症を疑えば、頭部のレントゲンやCT検査を行い確認します。またMRIで水頭症やその他の脳の異常、頚椎・頚髄の異常を確認することができます。同時に呼吸状態の確認、目や耳の検査など、本症に合併する可能性がある疾患を精査します。
本症は原因遺伝子がわかっているため、遺伝子検査を行うこともあります。

6.ファイファー症候群の治療

 本症は遺伝子異常による疾患であるため、根本的な治療法はありません。治療はそれぞれの症状に対する対症療法で、主に外科的治療となります。

  1. 頭蓋拡大形成術
    手術の目的は、頭蓋骨が成長に伴って拡大しないことにより起こる脳の圧迫を取り除くこと、変形した頭蓋の形を整えることです。手術時期は、脳の発育を考慮して、通常では生後1歳以下で行われます。

近年では、術式として骨延長法が実施されることが多くなっています。骨延長法では、広げたい骨の部分を骨切りし、そこに延長装置を取り付ける手術を行います。

術後に、延長装置を操作し、1日に約1mmずつ骨切りした部分を広げていくことで骨を延長し頭蓋を拡大するという方法です。この方法は従来法に比べ、出血などの侵襲が少なく、効率的に頭蓋を拡大させることができるといわれています

  1. 顔面形成術
    本症では、中顔面骨の発育が不十分なため、それによる眼球突出や不正咬合、上気道の閉塞による呼吸障害、睡眠時無呼吸などの問題が生じます。これらの問題を解消するために、顔面骨移動術や骨延長術などの手術を行います。まぶたが閉じられないほどの重症例や上気道閉塞により呼吸障害が強い例では早期に手術が考慮されます。
    また乳歯が永久歯に生え変わる10歳前後から、歯並びを整える歯科矯正手術が加わります。
    通常、顔面骨の成長は10代後半まで続きます。したがって、その成長に合わせて複数回の再手術が必要になることがあります。最近では手術回数をより少なくするために、術式の工夫がなされ普及し始めています。
  2. シャント手術
    水頭症に対し行われます。脳室に溜まり脳を圧迫する原因となっている停滞した脳脊髄液を他の場所へ逃してやる手術です。腹腔へ逃してやる脳室 - 腹腔シャント (V-Pシャント) が一般的です。
  3. 分離手術
    全身症状や発達段階などを考慮しながら、1歳以降に癒合した指を1本1本分離する手術を行います。
  4. その他
    呼吸障害に対する気管切開術。
    拘縮し固まった肘関節に対しては、機能的改善が望める場合は肘関節の角度を変える手術を行うことがあります。機能的改善とは、例えば、肘の角度を変えることで、手を口に持っていくことができ、自力で摂食できるようになることなどが挙げられます。

7.ファイファー症候群の経過、予後

 軽症例は、適切な時期に適切な手術を受けることで予後は良好であるとされます。重症例は、手術の回数が多くなるだけでなく、呼吸障害や水頭症、けいれんを合併し予後が悪いこともあります。

8.ファイファー症候群で注意すべき点

 頭蓋内圧亢進による症状(頭痛、嘔吐、意識状態など)や呼吸状態、睡眠時の無呼吸には常に注意を払う必要があります。また本症は、年齢や症状、成長に合わせて適宜適切な治療を行っていく必要がある疾患です。したがって定期的に専門機関を受診し、症状の変化を把握しながら、適切な時期に適切な治療が行えるようにしていくことが大切です。

<リファレンス>

難病情報センター ファイファー症候群(指定難病183)
難病情報センター ファイファー症候群(指定難病183)
小児慢性特定疾病情報センター ファイファー(Pfeiffer) 症候群
神奈川県立こども医療センター
視覚聴覚二重障害の医療 〜盲ろう医療支援情報ネット〜 ファイファー症候群
日本形成外科学会 頭蓋縫合早期癒合症
日本頭蓋顎顔面外科学会
GeneReviews Japan FGFR関連頭蓋骨縫合早期癒合症

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