咽頭結膜熱|疾患情報【おうち病院】
記事要約
咽頭結膜熱とは、主に子供に見られる感染症で、アデノウイルスというウイルスによって引き起こされるウイルス感染症です。主な症状は、発熱と咽頭という名前通り喉の痛み、結膜という名前の通り目のかゆみや充血などが特徴的な所見です。
咽頭結膜熱とは
咽頭結膜熱とは、主に子供に見られる感染症で、アデノウイルスというウイルスによって引き起こされるウイルス感染症です1)。主な症状は、発熱と咽頭という名前通り喉の痛み、結膜という名前の通り目のかゆみや充血などが特徴的な所見です。
咽頭結膜熱は夏に多く発生し、プールを介して流行することが多いのでプール熱と呼ばれることもあります。プール熱として夏に流行しますが、冬期にも小規模な感染が見られることがあります。小さな地域で発生し流行する場合もあれば、散発的に感染が起こることもあります。
咽頭結膜熱の原因
原因はアデノウイルスという2本鎖のDNAウイルスによる感染症です。ウイルスは脂肪やタンパク質、糖タンパク質からできているエンベロープという構造を持っているウイルスと持っていないウイルスに分けられますが、アデノウイルスはエンベロープを持たないウイルスに分類されます。
エンベロープがある場合にはエタノールなどの消毒剤で膜が破壊されることで消毒効果がありますが、アデノウイルスの場合には通常の手指消毒用のエタノールによる消毒効果が弱く予防効果が低いことが知られています。
アデノウイルスには現在全部で67種類以上の血清型が知られており、咽頭炎、扁桃炎、肺炎などの呼吸器弛緩、咽頭結膜熱、流行性角結膜炎などの眼疾患、胃腸炎などの消化器疾患、出血性膀胱炎などの泌尿器疾患、肝炎や膵炎、脳炎など、さまざまな症状を起こすウイルス群です。
咽頭結膜熱を起こすものは多くは3型ですが、1型、2型、3型、4型、5型、6型、7型、11型など他の型による流行もみられることがあります。アデノウイルス自体はインフルエンザウイルスのように季節特異性が少なく、年間を通じて分離されます。検査で血清型のアデノウイルスが検出されても、必ずしも咽頭結膜熱の症状を起こすわけではありません。
咽頭結膜熱の疫学的整理
咽頭結膜熱は夏場など季節性の流行がみられる場合には、5歳以下の患者が約6割を占めます。感染症発生動向調査では、1987年以降では2006年が最も多くで観測され、アデノウイルスによる咽頭結膜熱は、夏の流行に加えて、 2003年以降は冬にも明らかなピークがみられるようになりました。
年間では約10万人の人がかかる感染症であり、頻度としてはよくあるウイルス感染症の一種といえます。
ウイルスの感染経路としては飛沫感染、手指を介した接触感染であり、結膜あるいは上気道からの感染です。プールを介した場合には、汚染した水から結膜への直接侵入と考えられています。
咽頭結膜熱の症状
感染してから症状が現れるまでの潜伏期は5-7日です。感染後、最初は発熱で発症します。発熱に伴って、頭痛、食欲不振、全身のだるさと一緒に、咽頭炎による咽頭痛、結膜炎にともなう結膜の充血、眼の痛み、まぶしさ(羞明)、流涙、めやに(眼脂)が出ます。症状は3~5日間ほど継続し、徐々に消失します。首のリンパ節が腫れ、痛みがでることもあります。
眼の症状は一般的に片方から始まり、その後に他方にも出てきます。結膜の炎症は下眼瞼の結膜に強く、上眼瞼結膜には弱いという特徴があります。眼が見えなくなったりするなどの永続的な障害を残すことは通常はありません。
一般的には小児によくある感染症ではありますが、生後14日以内の新生児に感染した場合は全身性感染を起こしやすいことが報告され、重症化する場合があることが報告されています2)。
また、アデノウイルスの血清型によっても若干症状が違ってきます。アデノウイルスの血清型のうち、7型は心肺機能低下、免疫機能低下等の基礎疾患のある人、乳幼児、高齢者では重篤な症状となり、呼吸障害が進行し、さらに細菌の二次感染も併発しやすいことがあるとされています3)。検査所見として特徴的なことは、血清LDH の異常高値、血球減少傾向、ならびに高サイトカイン血症という全身の強い炎症反応を起こし臓器不全に陥ることもあります。
咽頭結膜熱の診断
咽頭結膜熱の確定診断には感染者の鼻水、唾液、喀痰、糞便、拭い液や洗浄液、胸水、髄液などを採取し、それらの検体からウイルス自体を分離するか、あるいはウイルス抗原を検出することで確定診断をすることができます。イムノクロマトキットや酵素抗体(ELISA)法での抗原検出キットが市販され早期診断に使用されていますが、血清型別の判定をすることはできません。PCR 法等による型別(molecular typing)は迅速診断に有用で、簡便かつ迅速な型別判定に用いることができます。
咽頭結膜熱の治療
咽頭結膜熱には残念ながら、特異的な薬や治療法というものはありません。原因がウイルスであるため、抗生物質も効果はありません。症状に対して適宜治療を行う対症療法が中心になります。眼症状が強い場合には、炎症を抑える点眼薬などの眼科的治療が必要になることがあります。発熱や咽頭痛に対しては解熱鎮痛薬で症状を抑えます。
咽頭結膜熱の予防法
流行期には予防が大切です。症状のある感染者との密接な接触を避けること、流行時にうがいや手指の手洗い、消毒を行いましょう。消毒法に関しては、手指に対しては流水と石鹸による手洗い、90%エタノ-ルによる消毒を行いましょう。
家庭内でお子さんが感染した場合、タオルなどを共有すると感染が広がる可能性があります。ものの共有をせず、物品は煮沸消毒や、次亜塩素酸ソーダを用いましょう。消毒用エタノールの消毒効果は弱いため推奨されません。
プールを介しての咽頭結膜熱の流行を防ぐためには、プールの塩素濃度を適正(遊離残留塩素濃度が0.4mg/l以上、1.0mg/l以下)に維持することが必要になります。
咽頭結膜熱にかかった後、症状が改善しても喉から2週間程度、便からは30日間程度ウイルスが排出されるといわれています。
おむつ交換の後にも、しっかり十分な手洗いを行いましょう。目やにも感染源となりますので、ハンカチやタオルでなく、ティッシュなどを用いることでふき取ったあとはすぐに捨てるようにしてください。
咽頭結膜熱の相談の目安
咽頭結膜熱を発症した場合には保育園、幼稚園、学校は休まなくてはいけません。学校保健安全法には、インフルエンザなどと同じ第二種の感染症に分類されています。咽頭結膜熱の症状が完全に消失し、2日経過しないと通学は認められません4)。
上記のように咽頭結膜熱にかかった場合には法律で休業の決まりがありますし、周囲への感染拡大を考えると、疑われる場合には病院に相談していただく必要があります。
その際、いきなり病院を受診してしまうと、やはり感染拡大につながってしまう可能性があります。
受診する前に、かならず病院に事前に電話などで発熱などの症状があることを伝えましょう。流行期などには、発熱外来として診察を受ける必要があるかもしれませんね。
<リファレンス>
2)Ronchi A, Doern C, Brock E, Pugni L, Sánchez PJ. Neonatal adenoviral infection: a seventeen year experience and review of the literature. J Pediatr. 2014 Mar;164(3):529-35.e1-4. doi: 10.1016/j.jpeds.2013.11.009. Epub 2013 Dec 18. PMID: 24359940.